千冬達が旅館へと戻って行くなか、バルバトスは1人空を眺めていた。
「ほう……」
いや、“空を”というより“何か”を見ていると言った方が正しいのかもしれない。
常人では見える筈がない遥か遠くにいるナニカがバルバトスには見えているのだろうか……
バルバトスならしょうがない。
バルバトスは溢れ出る闘気を抑えず、静かに歩き出す。
「あんなに嬉しそうな師匠は初めてだ……!!」
岩陰からラウラが歩き去っていくバルバトスの後ろ姿を見てそう言った。
いたのか、ラウラ。
―――――――――――
「二時間前、ハワイ沖で試験稼動にあったアメリカ・イスラエル共同開発の第三世代型の軍用IS【銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)】が制御下を離れて暴走、監視空域より離脱したとの連絡があった」
旅館に作られた対策室にて、千冬が一夏達、専用機組(ラウラ不在)に事の次第を伝える。
ちなみに、箒の症状は千冬が例のアレで治した。
「その後、衛星による追跡の結果、福音はここから二キロ先の空域を通過することがわかった。
時間にして50分後、学園上層部からの通達により、我々がこの事態に対処することとなった」
一夏達は真剣に千冬の話を聞く。
「教員は学園の訓練機を使用して空域および海域の封鎖を行う。
よって、本作戦の要は専用機持ちに担当してもらう……のだが」
千冬は部屋にいるメンバーを見回す。
「? どうしたんだ? 千冬姉?」
「ゲーティアがここにいない時点でお前達の出番はないかもしれんな」
「ええと、それはつまり、今現在ゲーティアさんはそのISの場所に向かっている、と言う事なのですか?」
セシリアが千冬に聞く。
「可能性はある、というよりほぼ確実にそうだろうな」
「じゃあ、バルバトスに任せて俺達はのんびりしてるか」
千冬の言葉を聞き一夏はそんな事をのたまった。
ズバン!!
「戯けた事を言うな、馬鹿者」
「痛ぅ~……! で、でも、バルバトスが戦うなら俺達は何をすればいいんだ? ハッキリ言って共闘とか絶対に無理だぜ?」
出席簿アタックを受けた頭をさすりながら、一夏が言う。
「そうだな……」
顎に手を当て、千冬は考える。
その時。
「束さんにいい考えがあるよ!!」
ガコンッ!と束が天井から顔を出す。
「また出た……」
突然現れた束に一夏が呟く。
「とうっ! ちーちゃん、ちーちゃん! 聞いて聞いて!」
「帰れ」
天井から飛び降り、千冬に迫る束。
そんな束に間髪いれずに答える千冬。
「そんな事言わずに聞いてよー!
あのねあのね、ここは紅椿の出番だよ!」
「ほう、それで?」
「それで、ISと戦ってるアイツの背後から奇襲するんだよ!!」
この束さん、録な事を言わない。
「ねっ! 箒ちゃん! さっきの仕返ししよう!!」
束が振り向き箒に満面の笑顔で言う。
そんな束の顔を見た箒は
「ハァ……」
と、冷たい目でため息を吐いた。
「ちぃちゃぁぁぁん!!!! 箒ちゃんが、箒ちゃんがすっごく冷たい目で私をみてるぅぅぅ!!」
「辛うじて保っていたお前が姉という事実を完全に否定したような目だな
まぁ、自業自得だ我慢しろ」
泣きつく束に冷静に言う千冬。
部屋の中はある意味混沌としていた。
……………………………
「あ、あの! 織斑先生!」
「何だ? オルコット」
ふえーんふえーん、言ってる束をチラ見しながらセシリアが千冬に質問する。
「目標ISのスペックを一応知って起きたいのですが……」
「うむ、だが分かってると思うが決して口外はするな、情報が漏洩した場合、諸君には査問委員会による裁判と最低でも二年の監視がつけられる」
抱き付く束を無理やり引き剥がしながら千冬が言う。
「了解しました」
モニターに目標ISのスペックが公開される。
「広域殲滅を目的とした特殊射撃型……私のISと同じオールレンジ攻撃を行えるようですわね……」
「攻撃と機動の両方を特化した機体ね、厄介だわ」
「俺達にとってはな」
「この特殊武装がくせ者って感じはするね、連続しての防御は難しい気がするよ」
「まぁ、俺達にとってはな」
セシリア、鈴、シャルロットの視線が一夏に注がれる。
「一夏、私達も分かってる、分かってるから!」
「少し黙っててください!!」
「一夏、もう少し気合い入れとこうよ……」
「す、すまん……」
三人から口撃され、視線をさまよわせながら謝る一夏。
「そういえば、今気付いたのだが……
ラウラはどうした?」
箒が本来ラウラが座るべき場所であろう位置を見つつ尋ねる。
「そ、そう言えばいつの間にかいなくなってますわね……?」
「も、もしかして、ラウラの奴、バルバトスについて行ったんじゃないのか……?」
「「「「ありえる」」」」
皆が満場一致で頷く。
「仕方のない奴だな……
ゲーティアがいるから大丈夫だとは思うが……
あとで反省文だな」
額に手を当て千冬がため息を吐く。
ちなみに未だしがみついている束を引き剥がすのは諦めたらしい。
「いいか、お前達、有り得ないかも知れんが“もしも”という事もある
作戦はしっかりと立てるぞ」
『『はいっ!』』
千冬の言葉に皆が返事をし、銀の福音への作戦を立て始めた。