古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第986話

 アーシャ達がフルフの街に到着し、自分の屋敷に迎えた。特に歓迎式典とかもないのだが、正規兵達が有志で街中での護衛を行ってくれたのが地味に嬉しかった。

 

 途中で巡回の部隊も合流しフルフの街まで護衛をしてくれたので、感謝の気持ちを込めて差し入れをする様にライラック商会に適当なワインと甘味を頼んでおいた。

 

 実は、アーシャの人気は高い。理由は良く分からないのだが、僕の唯一の側室として迎えられた事が凄いと言う事と、妻は旦那の癒しという事で貢献が凄いらしい?

 

 

 

 要は唯一の側室として、僕のメンタル面のケアを一人で行っていると対外的に思われているらしい。

 

 

 

 実際は、イルメラさんやウィンディアも居るのだが、彼女達はエレさんも含めてブレイクフリーのパーティメンバーとして捉えられている。身分が平民なので、家臣か配下の扱いなのだろうか?

 

 早く側室に迎えたいのだが、順番なのでもう暫く待たせる事になる。だが王都の冒険者パーティで断トツの一位、最上級の冒険者パーティのメンバーとして彼女達も別の意味で人気が高い。高レベルの冒険者が人気なのは理解出来る。

 

 魔法迷宮バンクの最下層を攻略していると言う、憧れも含んでいると思う。実力も確かで高収入だし、冒険者として分かり易い成功者だからだね。

 

 

 

 アーシャ達が来た事で、僕の周辺の環境もガラリと変わった。良い意味でも悪い意味でも……まぁそれは仕方が無い事だよな。自分だけ任地に家族を呼び入れるとかさ。

 

 

 

「おはようございます。アーリーモーニングティーをお持ちしましたわ」

 

 

 

 実は少し前に目覚めていたが優しく身体を揺すって目覚めを促してくれる、アーシャに気遣い眠気を追い払う様に瞼を擦る仕草をして今起きました感を出す。

 

 窓から差し込む太陽の光は優しいので今日はかな?開いた目に飛び込んで来たのは、満面の笑みのアーシャだ。暫く離れて生活していた所為か、何時もより距離が近い。

 

 顔も近いのは、のし掛かる様に身体を揺すっていたからだ。現状、愛すべき唯一の側室。そして肉体関係を持っているのも彼女だけ。故に体力的に無理をさせている自覚は有る。

 

 

 

 僕は彼女に対して『おサルさん』になる事が多い。どうしようもない駄目な旦那だと自覚はしている。そういう意味では唯一の癒し枠なのは確かだな。

 

 

 

「おはよう、アーシャ」

 

 

 

 僕は基本的に寝室に一人で寝ている。アーシャと同衾する事も有るし、イルメラさん達と一緒に複数で寝る事も有るが基本は一人寝だ。

 

 異性三人と同衾すると謎のバフが掛かり行動が制限されるので、添い寝する時は二人か四人以上にしている。変に全能感に溢れて高揚したり、冷静沈着になるが喋る事が出来ないとか……

 

 扱い辛いので、基本的には異性三人との添い寝はしない。今回呼んだのは、アーシャにイルメラにウィンディアなので危険なのだが、護衛のクリスも参加して貰い効果を帳消しにしている。

 

 

 

 この謎の加護なのか祝福なのか何なのか分からない効果を調べないと不味い気がするのだが、中々機会が無い。

 

 

 

 調べるにしても組合せにより効果が変わるので、添い寝相手を何人も用意してとっかえひっかえしなければ検証出来ないので困っている。

 

 手を出さない添い寝でも対外的には同衾だから、検証に参加してくれた女性は僕と肉体関係が有ると思われてしまうので余計に困ってしまう。

 

 流石にそれを行ってしまえば、色漁家とか女っ誑しとか最低な評価を受けてしまう。そもそも関係を持った(と思われる)女性が沢山居るとか相続絡みの問題も発生する。

 

 

 

 余計な火種は、新生バーレイ伯爵家にとっては、マイナスでしかない。なので検証出来ず困っている。検証しない方が良い気がするんだよな、勘と言うか何と言うか……

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 フルフの街の案内という体で、アーシャ達と馬車で移動する。徒歩で回る方が効果的なのだが、貴族令嬢を制御下に置いている街とはいえ歩かせる事は難しい。だが屋敷に籠り切りも気が滅入る。

 

 自分の屋敷と大使館、他に滞在している貴族達の宿舎や兵士達の詰所等の場所を何となくでも把握しておいた方が良い。勿論だが地図は渡して確認して貰った上での移動だ。

 

 万が一という最悪の場合、彼女達が街中で単独ないし複数で取り残される場合も想定し何処に何が有り緊急時には何処に行けば良いかの確認だね。

 

 

 

 そんな事は有り得ないと言って何の備えもしないのは驕りでしかなく、何が有っても対応出来る手段を持たせるのが普通だよ。

 

 

 

「リーンハルト様、殆ど無人の街というのは何だか物寂しくて心細くなりますわね」

 

 

 

 窓から外を眺める、アーシャがポツリと呟いた。確かに家々は戸を閉めて通りには偶に擦れ違う見回りの兵士しか居ない。殆ど無人、ゴーストタウンというか破棄された街や村みたいな感じか?

 

 荒廃していないだけで、人の気配が無くなった街というのは、確かに物寂しくて心細くというか不安になるのかな?いずれ、エルフ族に引き渡すので人を住まわせるのも問題が発生する。

 

 人が生活すれば汚れるし痛むし、どの程度の品質で引き渡せばよいかの最終案も詰めていない。まぁエルフ族が人が住んでいた住居をそのままで住むとも思えないので、大改装になると思う。

 

 

 

「いずれエルフ族に引き渡す街だから、余り手を入れる訳にもいかないんだ。現状の維持管理だけの最小人員だけで運営しているからね」

 

 

 

 兵士達や娼婦達が生活する区画は、それなりに賑やかだけどね。そこは撤収時には更地に戻す予定なんだ。植物の栽培に拘りが有りそうだから、畑も更地に戻す。

 

 『立つ鳥跡を濁さず』という東方の諺(ことわざ)にもあるが、撤収時に痕跡を残す事は残置物や炊事の跡とかから軍隊の構成や規模を知られる恐れが有る。

 

 そういう情報を秘匿する為の格言なのだろう。あと娼婦達の居る歓楽街の区画は全て更地にする。そもそもエルフ族の逆鱗に触れたのが、人口減少対策として協力するというふざけた理由だった。

 

 

 

 それを想像されるような娼館の痕跡などを残しておいたら、エルフ族達がどんな反応をするか分からないけど好意的な反応など有り得ないだろう。だから全てを無くす。

 

 まぁ僕の屋敷や大使館で働く人達は残るので、彼等の生活する区画はそのままなんだけどね。

 

 

 

「住んでいた街の人達は……いえ、何でも有りませんわ」 

 

 

 

 優しい彼女だから追い出された者達の事を憐れんだのだろうが、彼女達には実情を教えている。知っていると知らないでは感情や対応が真逆とは言わないが同情よりに傾くから。

 

 国家の方針だからと口には出さないが、納得するかしないかは別問題だ。だから悲劇の元となる愚かな行動も教えた。滅ぶべき国だったんだよ、バーリンゲン王国はさ。

 

 未来に遺恨を残さない為にも、安っぽい同情などしてはならない。嘘を吐き続ければ真実になると思っている連中だし、責任転嫁など御家芸みたいだし絶対にエムデン王国に責任を押し付ける。

 

 

 

 謝罪だ!補償だ!と騒ぎ出し自分は被害者だと本当に信じ込んてしまう厄介な連中なんだ。だからこそ、今此処で殲滅させる必要が有る。

 

 

 

「合意の上で退去した。敵国民だし接収した街からの退去は普通だよ。資産の持ち出しを認めるだけでも十分な対応だと思うよ」

 

 

 

 窓の外を見続ける、アーシャの様子を伺う彼女の感情を確認する。憐みは浮かんでいるけれど、批判の色は無い。イルメラ達も黙って聞いているが、其方も嫌悪感は浮かべていない。

 

 エムデン王国は、実際に占領した街や村での行動には一定の指針を設けている。そうしないと略奪とかを指揮官の気持ち一つで行ってしまうから。過去にそういう失敗が有り、厳しく定めた。

 

 物資や資産の徴発も、生活の基盤を損なわない程度に抑える事が厳命されている。根こそぎ略奪して生活が成り立たないのは、人道的観点から不可なんだ。

 

 

 

 主にモア教に対しての配慮だろうな。

 

 

 

「そうですわね。属国を良しとせずに独立戦争を起こしたのです。明確に敵として立ち上がったのですから、国の方針に従うのも国民の義務でしょう」

 

 

 

 彼女が漸く目を合わせてくれた。その表情は覚悟が決まった事を感じさせる。敵として無辜(とは言えないだろう)の連中も纏めて殲滅するという、エムデン王国の方針を認めたんだ。

 

 

 

「自分は関係有りません。悪いのは別の誰かです!は通用しない。哀れとは思うが、同情心がエムデン王国の未来を傷つける事になりかねない。そう言う連中だよ」

 

 

 

 自業自得といえば、その四文字で未来が決まってしまった事に同情はする。だが手を差し伸べたりはしない、それを何度も行って失敗して来たのだから……

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 娼館の区画の前まで近付き、場所の確認だけして貰った。此処には絶対に近付かないと言い含める事も忘れない。此処は僕等とは無関係、娼婦達による飲食店の提案は却下した。

 

 主に防諜対策としてなのだが、バニシード公爵は納得していないとアルドリック殿達経由で聞いている。もう一揉めあると覚悟しておこう。

 

 最後に兵士達の宿舎と農地に案内した。自分の屋敷に逃げ込めない場合は此処に保護を求めて来る事になるので、今回の案内では二番目に重要な場所だな。

 

 

 

 因みに一番目は街の中に有る女性兵士達の宿舎だな。男性兵士達の宿舎は街の外にあるので、近ければ良いが街中からなら来るのには時間が掛かる。

 

 女性兵士の宿舎も元は貴族の屋敷だが、ある程度の籠城にも耐えれるだけの防御力も有り、相応の武器や防具、資機材に食料等も備蓄している。セーフハウスとして機能する様に改造した。

 

 三番目は同じ様に籠城にも耐えられる改造はした、ライラック商会関連の連中の宿舎だ。何故三番目かといえば防衛する戦力が少ないから。私兵は居るが、本職の兵士達には敵わない。

 

 

 

 勿論、自分の屋敷が最優先、大使館も候補に挙がるが、それ程の防御力も戦力も詰めていないので籠城するには心許ないかな。

 

 

 

「ずっと馬車に乗っていたから、身体が固くなっちゃうよ」

 

 

 

 ウィンディアが杖を両手に持ちながら左右に動かして身体を解している。確かに狭い馬車での移動は短時間でもストレスを感じるだろう。イルメラがそんな様子を微笑ましく見てる。

 

 アーシャは貴族令嬢として人前で運動など行わないので、日傘を差して隣にいる。そんな様子を事前に伝えておいた所為か、綺麗に整列した兵士達が生暖かい目を僕等に向けている。

 

 まぁ家族を連れて視察に来る上司って、なんだかなぁ?位の感覚なのだろうが、身分差の関係であからさまに呆れる事は憚られるとかだろうか?

 

 

 

「ようこそいらっしゃいました」

 

 

 

 隊長達が代表して迎え入れてくれた。後ろに並ぶ連中も動作を合わせて敬礼してくれたので返礼する。数百人は居るのに見事に動作を合わせている動きは圧巻だな。

 

 練度と士気の高さ。単身赴任で辛い任務を行っているのだが、高いモチベーションを維持している。彼等に報いる為に、本当ならば酒場も開いてあげたいのだが情報漏洩が怖い。

 

 バニシード公爵が費用を出してライラック商会に格安で定期的に嗜好品を配り、適度な休みは与えてはいる。それで全て賄えるかは別問題なのだが、やらないよりはマシだ。

 

 

 

「任務ご苦労様です」

 

 

 

「はっ!バーレイ伯爵の側室殿やブレイクフリーのメンバー殿達と、お会い出来て光栄であります!」

 

 

 

 ん?何故かキラキラした尊敬の籠った目を向けて来るのかと思ったが、僕の想像以上に彼女達は人気が有るのだろう。それは嬉しい様な悔しいような不思議な感情が芽生えた。

 

 

 

 これが独占欲だろうか?心が疼くような嫌じゃないのに嫌な様な、不思議な感覚を覚えた。

 

 

 

 

 


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