古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第975話

 謎の挨拶を言って訪ねてきた、エルフの御姉様方だが真面目な話が有ったらしい。まぁ近況報告の範疇らしいが……謎の挨拶はエルフジョークとして流したが、特に文句も言われなかったので放置した。

 

 長寿種族と短命種族の感性の差だろうし、そこには歩み寄りは難しいのでお互い不干渉が正解だと思う。僕も転生で二回目の人生を生きているが、エルフ族の寿命には敵わない。

 

 接待用に大量購入している、エムデン王国王都の有名菓子店、パティスリーワイズの焼き菓子をアインが配っている。全種族の女性の共通点、それは甘味だと思うし正解だ。

 

 

 

 美味しそうに、焼き菓子を食べる女性陣が満足するまで見詰める。本当に造形が神懸かっている種族だよな。人間にも美男美女は多いが、全体の割合で言えば少ない方か……

 

 エルフ族は老若男女問わず、性格の良し悪しも含めて殆どが美形。そして長寿で魔力も多いとは、神様の依怙贔屓と言われても反論は難しいだろう。

 

 美男美女の定義ってなんだろう?顔全体のバランスが整っている?顔立ちがはっきりしている?鼻筋が通っている?眉毛が整っているとか肌が綺麗とか?

 

 

 

 昔、顔の黄金律がどうとか言っていた王族が居たな。側室を決める選定基準がどうだとか言って、条件にしていた。側室は見た目じゃなく家と家の関係性の強化・向上なのにね。

 

 見た目で選ぶなら愛情も希薄だろうに。確か何だっけ?結構流行っていたので、僕も何度か聞かされて辟易していたのだが王族として話題を振られたら答える為に覚えたんだよ。

 

 『顔の幅が目の横幅の五倍』『髪の毛の生え際から眉頭の下:眉頭から鼻の下:鼻の下から顎の下が1:1:1』『顔の横幅と縦幅の比率が1:1.46』だったかな?

 

 

 

 馬鹿みたいに顔の寸法を測って、あーだこーだ盛り上がっていたが、女性からしたら酷い扱いだったな。これは男性にも適用されるらしいが、発案した本人は対象外だったらしい。

 

 焼き菓子を上品に食べる、彼女達の顔を見ると何となく黄金律も間違いでは無いと思うが造形だけでなく内面から溢れるモノも影響していると思う。知性とか品性とか、見た目が全てではない。

 

 まぁ自分も黄金律からは外れていると思うが、そこまで壊滅的に酷くはない筈だよね?まぁ見た目だけじゃ無いって事で、紳士として外見だけを気にするのも間違いだって断言出来る。

 

 

 

 焼き菓子を二回お替りして、漸く満足したみたいだ。エルフ族的には人間の食に対する拘りが偏執的で悪魔的だとか言っていたのを思い出した。

 

 

 

 豊かな食生活って重要だと思います。

 

 

 

「そうそう、我々エルフの動きだが、長老達のゴーレムは順調に目的地に進んでいる。途中でちょっかいを掛けてくる連中も大分減ったらしい。辺境に入ってからは皆無だそうだ」

 

 

 

 ディーズ殿が教えてくれたが、長老達が送り込んだ植物ゴーレムは既に辺境の地区に入り込んでいるらしい。不眠不休で行動出来る筈だが、予想よりも遅い気がする。

 

 カシンチ族連合に合流しなかった部族の連中が辺境に追いやられて未だに生活しているが、植物ゴーレムに戦いを挑んだりしない観察力は有るのだな。

 

 だが徐々に植物の生態系が変化し始めるし、生まれる森に生活圏を脅かされ始める。徐々に辺境から此方に移動を始めるだろう。

 

 

 

 バーリンゲン王国の連中は、順当に植物ゴーレムの核の偽宝石に釣られて戦いを挑み数を減らしているのだろう。辺境の連中が押し寄せてきた場合、排除するだけの戦力が残っているのかな?

 

 植物ゴーレム達は基本的に襲って来た連中に対して、逃げ出した場合も含めて殲滅している。僕も実際に見たが、逃げ出した連中も追いかけて殺していた。

 

 エルフ族の方針は、バーリンゲン王国の連中は基本的に滅するなのだろう。同情出来る要素は何一つ無いし、そもそも核の偽宝石を奪う為に襲い掛かっているのだから倒されても自業自得だよね。

 

 

 

 普通はエルフ族謹製らしきゴーレムの集団に襲い掛かるとか考えないだろう。それが自分達の領地を横断しているが、特に領民達や家畜とかに危害を加えている訳でもないのだから。

 

 まぁ貴族的に未確認の武装勢力が領地を移動して居たら、対処するのは普通だろう。そして情報収集を行い、エルフ族絡みだろうと予想したらさ。遠巻きに観察して、何か危害を加えるなら対処する。

 

 それを体内に大きな宝石が有るからと、倒して奪おうって発想が凄い。自分達の力が、エルフ族にも負けないって考えも凄い。もし万が一にも植物ゴーレムを倒して核を奪えたとしよう。

 

 

 

 その後は、どうなる?

 

 

 

 エルフ族に遺憾の意でも伝えて、お得意の『謝罪と賠償と補償を要求する!』とか?それを行えば種族間戦争に突入するが、一方的に負ける結果は分かり切っている。

 

 まぁ謎の思考で何とかなって自分達が有利な状況になってハッピーエンドとか本気で思っているのだろう。じゃなければ、エルフ族に対して『子種を提供するから感謝しろ』とは言えない。

 

 迷惑な隣人は今回の件で地上から消えて欲しいのだが、モア教の介入で厳しい状況となった。全滅から選別して保護に方向転換を行う事になり、選別方法が中々思い浮かばない。

 

 

 

「辺境の部族の殆どは、カシンチ族連合に加盟してモレロフの街に居ますからね。殆ど無人の筈ですから、長老達の好きな植生に生まれ変わり始めるのか……」

 

 

 

 植生の内容は何となくしか聞いてはいないが、現状の気候に合わないそうなので大規模な魔改造を行うのだろうな。まぁ暖かい地域の方が、彼等が好む果実は育つ。

 

 僕は密かに食に拘る為の植生だと思っている。無理を可能に出来るのが、魔法特化種族たるエルフ族の強みなのだろう。だが快適な生活環境かと思うと、そうでもない。

 

 亜熱帯が過ごし易いかと言えば、人それぞれとは思うが大多数は暑くて嫌だと言うだろう。クロレス殿の反発は、自分達が果実を食べたいからって他人の生活圏を荒らすなって事だぞ。

 

 

 

「フルフの街の周辺にも、クロレス殿が手を加えるそうだな。コウ川は流れが急だし水質も悪く土色に澱んでいる。我々は清流を好むので改良は必須だぞ」

 

 

 

 住み易い様に大地を弄る事は、長老達と何が違うのかと言われても……そもそもコウ川の澱みって、バーリンゲン王国の連中が山林を無計画に伐採して植樹を怠ったからだと思う。

 

 本来は雨が降ると大地に吸収されて地下水となり、その地下水が地上に溢れ、それらが集まり一本となり川となる。だが無計画に樹木を伐採すれば大地の吸水率が下がる。

 

 その結果、地表に降った雨水が大地に吸収されず表層の泥を巻き込み低地に集まり澱んだ川となる。僕は、そう考えるのだが他にも理由は有りそうだな。

 

 

 

「ええ、僕にも理解出来る方法らしく、見学の許可も頂きましたので楽しみにしています」

 

 

 

「本当に、リーンハルトは魔法馬鹿だな。さて、精霊魔法についてだな」

 

 

 

 此処で、レティシアが話に乱入して精霊魔法の講義が始まった。僕ば未だ、飛魚(ひぎょ)と空鼬(からいたち)しか扱えないのです。

 

 それに此処は一応は与えられた屋敷ですが、防諜的には弱いので精霊魔法の講義とか周囲に知られると大問題になりますので御配慮をお願いします。

 

 え?防諜対策は万全ですか?今日は急ぎの予定も無いし、久し振りに魔法関連を学べると思えば息抜きにもなるかな。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 そう言えば、ロンメール殿下達をエムデン王国の王都に護衛して帰る時に入れ替わりで来た公爵四家の合同部隊だが、エムデン王国正規兵と入れ替わりで帰国していた。

 

 ローラン公爵の派閥構成貴族に移籍した、ベッケラン子爵に取り纏めをお願いしていたが問題無く任期を終えたみたいだ。だが、ハイモ男爵は残っていた。

 

 一旦帰国して再度フルフの街に来たのではなく、居残りしていたらしい。偶然街中で見付けて話し掛けると、内心嫌そうだったが教えてくれた。

 

 

 

 まぁ周囲に居た兵士達の圧に負けたのだろう。今、バニシード公爵の派閥構成貴族達は針の筵状態だし余計な事をしたり言ったりしたら大変な事になりそうだし。

 

 ハイモ男爵は領地経営を家臣に任せて、新たな手柄を立てる為に居残りを決めたそうだが巡回部隊には配属されず、彼等が捕縛した連中の取り調べを主に担当しているらしい。

 

 これは含みが有る任務だぞ。正規軍に任せず、自分の派閥構成貴族に取り調べをやらせれば……没収した財貨の目録や管理を独占出来るって事だから。

 

 

 

 バニシード公爵としては自分の利益にもなるし、信じられる者に任せたつもりにもなる。だが、ハイモ男爵は目に見える手柄を欲しているのだから尋問担当は裏方で評価は……

 

 低くは無いが、どうしても捕縛部隊の方が派手な成果を上げられる。この辺の対応が、人を束ねる当主の能力なのだろう。ニーレンス公爵達との違いだろうな。

 

 形だけの敬礼をして去っていく、ハイモ男爵の後ろ姿を見て思う。彼も暴発する危険性を秘めている。あの目や態度は、周囲への不満を隠し切れてない。

 

 

 

 なまじ戦士としてレベル30程度の力を持っているので、自分の能力が正当に評価されず生かされてないとか考えているんだろうな。

 

 脳筋の扱いは武闘派の当主連中、義父達やローラン公爵の方が長けている。一応、バニシード公爵も武闘派寄りの筈なのだが戦士の心の機微をイマイチ理解していないのかも知れないな。

 

 リゼルにそれとなく、ハイモ男爵の動向を探らせるか?いや、バニシード公爵に報告するだけに留めておくか?何方もメリットとデメリットが有るんだよな。

 

 

 

 前者はバニシード公爵の派閥構成貴族に、リゼルを近付ける必要があり余計な不信感を与えてしまう。只でさえ、リゼルはバニシード公爵やアルドリック殿に警戒されている。

 

 後者はバニシード公爵の面子を潰す事になりかねない。既に配下の派閥構成貴族がやらかした後で、他にも暴発しそうな奴が居るとか言われたら……管理能力不足と指摘されたと思うだろうな。

 

 逆に何もしない場合、王命に支障をきたす程の事をするほど愚か者ではないと思う。思いたいので、何か仕出かしてもバニシード公爵とアルドリック殿が対処すれば良い。

 

 

 

 その仕出かしの相手が、僕の関係者じゃなければ実害は少ないか?

 

 

 

「リーンハルト様、ハイモ男爵ですが対応が悪くは有りませんか?不敬とまでは言いませんが、最近愚物共の処理をしたばかりなのに、あの様に不遜な態度をとるとは……」

 

 

 

 彼に圧を掛けていた正規兵達が僕を気遣って意見してくれたが、ダッヘル達を愚物とか言ってるよ。未だに怒りがおさまっていないって事か?更迭して貴族院の沙汰待ちでは弱かったの?

 

 ここで対応を間違えると鎮火どころか再炎上しそうな雰囲気だけど、彼等にとっては既にバニシード公爵達は敵認定というか信用出来なくなっていないかな?

 

 うーん、先任だし王命の区分も明確にしているので脱落されるとお互いに困るのだが、変に彼等を持ち上げても余計に拗れるだけだと思うし。どうしたら良いんだ?

 

 

 

「王命の最中ですから不満はあれども不正はしないと思いたいですが、一応警戒を怠らず監視とまでは言いませんが様子は伺っておきましょう。何か有れば、直接報告をお願いします」

 

 

 

「はっ!お任せください。全部隊にて共有し、不心得者共の監視を行います」

 

 

 

 うん?監視じゃないよ、様子見だよ。あと不心得者共って断定は、未だ何もしていないから駄目だよ。それと全部隊って情報が向こうに漏れたら余計に拗れるからね。

 

 

 

「此方が探っている事は気付かれない様に細心の注意をして行動して下さい」

 

 

 

 横一列に整列し、見事な敬礼で応えてくれた正規兵達に返礼する。軍属だし規律も行き届いている連中だが、僕を神聖視し過ぎてはいないだろうか?

 

 リゼルに彼等の心の中も少し調べて貰う必要がありそうだ。行き過ぎた信仰というか何と言うか、心のアレは暴走の引き金を軽くする。物事の判断のハードルが悪い方に低くなる。

 

 善意しかないし、悪意が一欠片も無いのは理解している。だが僕に敵対していると言うだけで悪認定からの断罪はアウト、アウト寄りのアウトだぞ。

 

 

 

 彼等から気持ち早足で離れながら、リゼルさんの所に向かう。報告・連絡・相談は重要、今後の事を相談しないと危険だと不安が心の中に溢れています。

 

 

 


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