古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第971話

 問題児達が早速問題を起こした。まさか簡単に暴発するとは思わなかったのだが、カルロセル子爵とカスタイン殿が武力行使も厭わずという感じだったので取り敢えず先に鎮圧した。

 

 身分上位者への明らかな暴言、不敬案件が適応されるレベルなので正式に貴族院に訴えれば相手の実家を巻き込んだ沙汰を待つ事になる。

 

 色々と状況を整理しないと駄目な事は理解しているのだが、今は殺気だって取り囲んでいる兵士達を落ち着けないと……最悪は暴動というか私刑に発展しそうで怖い。

 

 

 

 問題児達は腹を押さえて呻いているが、数人は此方を睨んでいる。力の差を見せ付けたのだが敵愾心は失っていないって事なんだろうな。毎回、こんな感じの連中が居る。未だ舐められているのか?

 

 

 

 彼等の取り巻き連中は戦闘力を無効化する為に利き腕を叩いたが悪くても単純骨折程度には抑えている。行動が怪しかったけど構わず無力化した。

 

 どの道、主を止めなかった配下の処遇は一蓮托生か、最悪は罪を擦り付けられてトカゲの尻尾切りで処分だ。身分社会の闇なのだが、ならばさっさと止めれば良かっただろう。

 

 彼等の本当の雇用者は問題児達の親であり、その息子の仕出かした事を阻止するのも仕事の内だと思う。本来の任務は護衛、ならば愚行を止めて被害を抑えるのも仕事。

 

 

 

「カルロセル子爵、カスタイン殿。怪我は有りませんか?」

 

 

 

 事前に会話していた為か、兵士達が彼等も問題児の仲間扱いで凄い殺気を向けているので取り敢えず配慮して敵ではないと知らしめる。完全な巻き添えだろう。

 

 彼等は歩み寄りの姿勢を示していたのだが、それが気に入らないで問題児達が噛み付いた感じがする。ならば僕も巻き添えか?

 

 まぁ何かしらの指示を出さないと不味い状況なのは理解している。何故なら兵士達が警笛を吹き鳴らして、未だに周辺から兵士を呼び寄せているから。

 

 

 

 完全に臨戦態勢だし、声を掛け間違えれば……僕でも問題児達の命の保証は出来かねる。

 

 

 

「彼等の武装を解除して拘束、そのまま一ヵ所に纏めて監視してくれ。誰か、バニシード公爵に伝令を頼む。連れて来た派閥構成貴族の連中が王命の明確な妨害を行ったとね!」

 

 

 

 他にも、リゼルを呼ぶ様に近くに居た兵士に声を掛ければ十人単位の伝令が走り出した。いや、街の中だよ。リゼルは分かるがバニシード公爵は居場所を知ってるよね?

 

 何故、一斉に顔を見合わせて走り出すの?そんなに必要か?いや確かに伝令は正確性を求める為に数人ないし数班を出す。敵の妨害や思わぬ障害で情報の伝わらない事を防ぐ為にね。

 

 でも一応支配下に置かれた街の中だから、そこ迄の人数は要らないと思う。捕縛も命じたが、たかが数十人に二百人以上が押し寄せて武器だけでなく防具や所持品も取り上げている。

 

 

 

 最後は両手を身体の後ろで縛り、両足も足首の部分で縛った。猿轡もしたのは、拘束中に不当だとか非常識とか騒ぎ出したからだと思う。

 

 

 

「謀反人の拘束、完了致しました!」

 

 

 

 隊長格の連中が見事な敬礼の後に報告してくれたが、一応不敬罪と不当な武力を行使しようとした事による武装解除と拘束なのだが……謀反を企てた事に格上げされてる。

 

 これには拘束された連中も、呻いたり身体をくねらしたりと反論の意を示しているが当然だ。不敬罪ならば貴族院を通じて和解の可能性も有るが、謀反は問答無用で死罪だ。

 

 状況によっては実家は取り潰し、親族も近しい者は同罪。最悪の罪状なのに、この隊長連中は迷わずに謀反人と呼んだ。怒りの深さは相当だぞ。

 

 

 

 これは対応を誤ると王命に支障が出る程の事態だよ。カルロセル殿も引き攣った顔で固まっている。最悪、止めた自分や派閥の長のバニシード公爵にも罪が及ぶ可能性も有る。

 

 

 

「あっ、ああ。ご苦労様です」

 

 

 

 爽やかな笑顔を浮かべているのは、彼等は日頃から相当疎ましがられていた。堪忍袋の緒が切れたって事だな。問題児達は空き地に集められて囲む様に兵士達が監視している。

 

 少し待てば、バニシード公爵とアルドリック殿が来るので話し合いという擦り合わせを行う必要がある。兵士達の間で公になっているので半端な対応は今後に支障が生まれる。

 

 だが厳罰に処せば、バニシード公爵との関係に最悪の破綻が生じて王命の遂行に大問題が発生する。だからといって甘い対応をすれば、兵士達に不満が募り僕に対する評価も下がる。

 

 

 

 まったく余計な事を仕出かしてくれたものだな。バニシード公爵も手綱は確りと握っていて欲しかった。最初に軟禁とか甘い対応をせずに追い出せば良かったんだ。

 

 何となく、アーバレスト伯爵達の子弟の事を思い出す。あの時もニーレンス公爵が甘い対応をしなければ防げた事だったが『後悔先に立たず』というか未来は誰にも分からないって事か……

 

 なぁなぁで済ませると後で何倍も苦労する典型かな。だからバニシード公爵に配慮してしまうと、後で後悔する事になると確信している。

 

 

 

 だから良く考えて、落し所を考えないと……

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

「伝令!ダッヘル、ボーロ、ヨーグの三名および配下の者共が謀反を企て、カルロセル子爵と武力衝突する所をリーンハルト卿により鎮圧されました」

 

 

 

「その際に不適切な蔑称にて、リーンハルト卿に対して明確な不敬を働きました。現在武装を解除し拘束しています」

 

 

 

 は?謀反だと?カルロセルと武力衝突?謹慎を言い渡したのに、何故に屋敷で大人しくしていないで問題を起こした?いや、問題を起こすとは思っていたが謀反とは?

 

 伝令兵の言った事を理解する事を脳が拒否した。理解が出来ないというか、不敬を働いて貴族院を通じて揉めるかと思えば謀反とか国家に対して反乱を企てた?

 

 馬鹿な、いや馬鹿な連中だとは思っていたが馬鹿過ぎて何を言われたのか、何をやらかしたのか理解が追い付かない。

 

 

 

 カルロセルめ、抑え切れなかったのか?

 

 

 

「謀反人達の当主として現地に来て頂き、弁明をリーンハルト卿に伝えて欲しい。以上!」

 

 

 

 いや待て、お前さ。俺が悪いと決めつけてないか?いや、絶対にダッヘル共が悪いのは分かるが、俺様は公爵で向こうは伯爵。もう少し、こう……何と言うか、手心を加えるとかさ。

 

 公爵に対して現地に行って伯爵に謝れ!はないだろう。封建社会なのだから身分差は絶対だろ?流石に言いたい事を言い放って直立不動で待機って何だよ?

 

 だが状況が不味いどころか最悪を通り越している事は理解した。弁明というか状況確認と今後の擦り合わせが必要、アルドリックも巻き込む必要が有る。

 

 

 

「了解した。アルドリックと共に現地に向かう」

 

 

 

 取り敢えず謀反を企てた事の詳細は知らねばならない。最悪、本当に馬鹿共が謀反を企てたとなれば……俺の首だけでは済まない。

 

 寄り道も不満なのか?少しでも遅れる事は許可出来ないとでも言うのか?いや、言葉にはしていないが態度で分かる。コイツ等にとって、俺は謀反人の親玉だ。

 

 少しでも疑われるよう行動をすれば考えが有る!って意思表示か?兵士程度に甘く見られているとでも言うのか?腹立たしくて我慢が出来ないな。

 

 

 

「案内致しますので、待機させて頂きます。お早めにお願い致します」

 

 

 

 ふん。逃げ出さない様に監視しますって事か?馬鹿が、逃げる訳がないだろう。ここで逃げれば、有りもしない謀反を企てた首謀者になるじゃないか、フザケルナッ!

 

 だが時間との闘いなのは理解しているので、馬車を用意させる。時間は短いが、アルドリックを迎えに行って馬車の中で対策を練るしかない。

 

 やってくれやがったな!これが馬鹿共の親の作戦か?俺を謀反人に仕立て上げて排除する気だったのか?俺は、この程度の事では負けないぞ。負けるものか!

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 アルドリックを迎えに行って強引に馬車に乗せ、簡単に状況を説明する。奴の顔が赤から青に変わると言う珍しい表情の変化を見ても、少しも心が晴れない。

 

 頭を抱えたが、俺だって頭を抱えたい。俺は謹慎してろと明確な指示を出しているのに従わない、ダッヘル達が悪い。そう叫びたいが、叫んでも意味が無いし事態は沈静化しない。

 

 お前は主席参謀だろ?考える事が策を弄する事が本職だろ?ならば最適な行動を示して見せろ。無駄飯食いと言われないだけの仕事をしろ!

 

 

 

「バニシード公爵、私を巻き込まないで貰えませんか?」

 

 

 

 俺を非難するのか?その恨みが籠った目を向けるな。俺だって『絶賛巻き込まれている最中』だっての!流石に謀反を企てたっていうのは誇張のし過ぎではないか?

 

 

 

「お前と俺は一蓮托生だろ?」

 

 

 

 正式に王命には、俺が責任者で、お前が参謀として支える事になっている。その前提で進めて行くしかないのだ。

 

 俺は責任を取る立場で、お前は不祥事の原因を探り再発を防止する。防止出来なければ、原因を考え共に責任を取る。

 

 仮にも大陸一の大国の主席参謀殿なのだから、役職に見合った仕事をして欲しいのだ。俺は王命を受けた公爵に過ぎない。

 

 

 

「謀反って、何をやらかせば謀反人って呼ばれるのですか?」

 

 

 

「さぁな、俺だって知りたいから現地に行くんだ」

 

 

 

 怒鳴り合っても意味は無い。何を仕出かしたかと考えれば、カルロセルと揉めて武力で制圧しようとしたらしいから……この間の会議と同じ様に……

 

 

 

「農民のような仕事をするのかと馬鹿にしたとか?」

 

 

 

 会議でも馬鹿にして揉めていたが、思慮のあるカルロセルが暴発するには弱い。馬鹿共も親と同格か格下のカルロセルには言えても、格上のゴーレムマスターには言えまい。

 

 俺には適当な理由を付けて、奴に対して物言う様に仕向けて来たが……いざという時に自分が言えるかといえば言えない。言えたら大したものだ。

 

 身分上位者、英雄という大量同族殺戮者に対して批判出来る程の胆力も度胸も無い。馬鹿では有るが、その程度の知能は有る筈だ。有るよな?

 

 

 

「カルロセル殿に対してですか?それでは不敬案件にしても、武力に訴えるには弱いです。バーレイ卿に対して行ったとしても不敬罪は成立しますが謀反の嫌疑をかけるのは無理では?」

 

 

 

「まぁ役職も爵位も高い奴に対して、無冠無職の連中が暴言を吐けば不敬罪が成立する。だが謀反とまでは言われないだろう?王命の邪魔にはなるが、妨害行為だろう?」

 

 

 

 御者には馬車を極力ゆっくりと走らせる様に指示はしているが、狭い街の中だ。それ程の時間は稼げない。もう直ぐ野営地に到着してしまう。不味い、何も結論が出ていない。

 

 窓から外を見れば、完全武装した兵士共が馬車と並走している。絶対に逃がしはしないという強い意志を感じる。兵士共からすれば、俺は謀反人共の親玉認定なのだろうな。

 

 俺の視線に気付いた、アルドリックも顔が青くなった。連中が護衛じゃなくて逃がさない為の監視だと分かったのだろう。額から汗が流れて膝の上で握っている手の甲に落ちた。

 

 

 

 ゴクリと生唾を飲み込む音も聞こえた。

 

 

 

「もしかしなくても、公開処刑場に向かっているとかでは?」

 

 

 

 言葉に出すな!それを巷では死亡フラグというらしいぞ。有能で勤勉家な俺は詳しいんだ。

 

 

 

「ははは、面白い事を言う。現実になりそうな事を口走るな、思っても言うな。全てダッヘル共の所為であり、俺達は与り知らぬ。良いな?」

 

 

 

 無言で弱弱しく頷く、アルドリックの肩を力一杯叩く。弱気になるな。責任を押し付ける相手は居るし、そもそも俺達は悪くないし止めてもいる。

 

 それを暴走したのは、ダッヘルの馬鹿共だ。愚かな行為には責任を取らせる必要が有る。奴等の実家にも等しくだ。誤解を解いて正式に馬鹿共に責任を追及、それで手討ちだ。

 

 多少の譲歩は考えているし、最悪は俺自身の謝罪も考えてはいる。軽々しく下げれない頭を下げれば、常識人を装う奴は妥協するだろう。

 

 

 

 俺は実体験で学んだ。尖がっているだけでは駄目な事をな。ふむ、これも俺の成長譚って事になるのだろう。ははは、日々成長している事を実感出来るのはプラスだぞ。

 

 

 

 


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