古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第967話

 初っ端から調整会議は難航している。幸いなのは、バニシード公爵とアルドリック殿は反発せずに協調路線をとってくれる事が確認出来た事。

 

 最悪なのは、バニシード公爵が連れて来た派閥構成貴族の連中の中に問題児が紛れ込んでいる事。王命の遂行よりも自分の感情を優先する愚か者が居る事が確定した。

 

 しかも既に問題をおこしている。王都に報告が上がって来てはいなかったが、現地で握り潰したか処理したのだろう。その処罰の方法次第によっては、問題を先送りにしただけかもしれないが……

 

 

 

 まぁ詳細は後々調べるとしよう。兵士達と交流は可能だから、緘口令が敷かれていても条件付きで教えて貰えるだろう。

 

 そういう意味では、軍属に人気が有る事がプラスになる。英雄という看板は重いし苦労も多いのだが、利用出来る事は利用する。

 

 私的な事でなく、彼等の待遇の改善の為だから遠慮なく英雄という看板を利用させて貰う。正規兵達は、バニシード公爵の指揮下にはあるが僕への協力は惜しまないだろう。

 

 

 

「その不心得者共ですが、再犯の可能性は?」

 

 

 

 目を逸らしたぞ。これは良くない状況なのを言葉だけじゃなく分かり易く伝えていると思うのは穿ち過ぎだろうか?貴族で参謀ならば、これ位の腹芸は出来るだろうし。

 

 暫く考え込む仕草を見せるのは、心の中で葛藤していますって事だろうか?少しも考えずに話す事は、会話のテンポは良いが信憑性というか真実味が薄い気がする。

 

 僕も割と考えながら発言するし、会話の途中で思考の海に沈む事も多々あるし……

 

 

 

「無い、と言えないのが辛い所です。本来ならば強制的に王都に帰せば良いのですが、バニシード公爵は謹慎を言い渡して与えた屋敷に閉じ込めて放置しています」

 

 

 

 ああ、最悪の対応だな。つまり未だ此処に居て、不満を募らせている訳だ。本当に最悪の状況に近い、そういう連中に暇を与えるって事は余計な事を考える時間を与えるのと同じ事。

 

 つまり碌でもない行動を起こすだろうな。対象は、僕かリゼルの可能性が高い。または僕等の成果物にダメージを与えるとか?行動に伴う結果の先を考えられれば良いけど、無理か?

 

 嫌々押し付けられた農作業に反発して衝動的に、畑を焼き払う位はしそうだな。又は毒を混入して兵士達に被害を与えて、僕に責任を押し付けてきたりとか?

 

 

 

 被害に合うのは兵士達で、王命の進捗に多大な影響が出るだろうな。そもそも王命と自分の置かれた立場を理解して居たら、そんな事など出来ないのだが……

 

 

 

「彼等の監視は?」

 

 

 

 流石に野放しはないと思いたい。僅かにプラスの材料は住人が退去済みだから一般市民への被害は無い事だな。こういう連中の暴挙って、大抵が立場の弱い女性に対してだし。

 

 五十人程度の女性兵士は居るのだが、流石に彼女達は自衛手段があり身分を笠に迫っても露見すれば王命妨害で物理的に首が飛ぶ。バーリンゲン王国級の愚か者じゃなければしない。しないよね?

 

 逆に、リゼルが一番危険かもしれないが、ツヴァイを護衛に付けるし襲って来れば問答無用で殲滅する。仮にバニシード公爵との関係が悪化しても今更だから、困る事など無い。

 

 

 

 厳罰に処さないと、此方が甘くみられる。手を出せば潰すと毎回行動と結果で示しているのだが、未だに手を出して来る連中が絶えないのは……未だ甘く見られているのか?

 

 本当に嫌になる。多大な功績に敵対した連中の屍の山を築いているのに?僕みたいな危険人物など、そうそう居ないのに?爵位も役職も権力も財力も有るのに?

 

 何故、自分はチョッカイを掛けても何も報復されないと考えられる?モア教の敬虔な信徒だから、同胞には危害を加えないとか考えてるの?

 

 

 

 まさか、そんな事は無いよね?やられたら倍以上返しをするよ。

 

 

 

「我々、参謀達の連れて来た私兵達を使い交代で監視はしていますが……本職ではありませんし確実とは言えません。強制的に止める権限も有りませんし、やれば揉めるだけです」

 

 

 

 つまり、参謀という役職についた爵位持ちの者の意見すら聞かない連中と言う訳か。バニシード公爵の派閥の上位連中の子弟で、箔付け位の軽い考えで参加してるのか?

 

 僕に敵対している公爵は一人だが、侯爵級も数人は居る。だが彼等はバニシード公爵に与していないし、共闘関係とも聞かない。

 

 それ以下の伯爵級だと……思い当たる連中は結構居るな。彼等がバニシード公爵を神輿と担いで協力し、派閥内で相応の影響力を持っているのかな?

 

 

 

 エムデン王国の貴族は、近衛騎士団や聖騎士団を中心に抑えたが、地方領主や旧ウルム王国から新しく組み込まれた連中は微妙だな。

 

 旧ウルム王国関連は、ハイゼルン砦の防衛戦で貴族・平民を問わずに倒している。遺族からすれば、僕は殺したい程憎い相手だろう。

 

 戦争だから、此方から攻めたから、そういう理由は通用しない。人の感情の部分だから、相手が悪いとか自分が悪いからとかは関係ない。簡単に割り切れない。

 

 

 

 その辺は後で、リゼルと答え合わせをしよう。アルドリック殿をガン見しているから、腹の中の事は全て読んでいるだろうしね。彼は額に汗を滲ませているから、相当な重圧を感じている。

 

 

 

「本音として派閥内でのイザコザは見えない所で自分達だけで、やってほしいのですが……」

 

 

 

 同じ派閥の構成貴族の私兵間だと、何方が上とか下とか揉めるので難しいだろうな。派閥への貢献度も考えれば、爵位の上下だけでは収まらないかもしれない。

 

 この辺は、バニシード公爵の考え方次第。謹慎だけで追い返してないのは、逆に言えば追い返せない理由が有るって事だ。予想の通りか、他に理由が有るのか。

 

 単純に人手不足程度なら良いけど、派閥当主でも配慮しないと駄目な貴族の令息とかだと難しい。この状況で配慮を強いる相手か、どんな理由があるのだろう?

 

 

 

 不謹慎だが、少し楽しくもある。戦争も政争も、負けるつもりは全く無いんだ。

 

 

 

「バニシード公爵へ再度意見して下さい。可能であれば王都に帰還させるのが理想、物理的に追い出した方が確実です。問題を起こせば、問答無用で排除します」

 

 

 

 この言葉に、アルドリック殿は苦虫を纏めて噛み潰した様な顔をした。彼の立場でも、バニシード公爵に意見を通すのは難しい。それが自身の派閥構成貴族に対する処罰に関する事だし。

 

 少し前ならは『干渉は無用にして貰おうか!』くらい激怒して言われそうだったが、今の感じならば嫌味を言われる程度で納まるとは思う。だが対処をしてくれるかは分からない。

 

 派閥の当主だから配下を率いる為には相応の権力と利益を示さないと駄目だし、それが弱ければ命令を聞かないで暴発する可能性が高くなる。

 

 

 

 要は当主であっても落ち目だからと、舐められている。

 

 

 

「確かに伝えますが、其方側でも自衛と言うか警戒をして下さい。後から来る連中に対してもです。腐っても貴族、後続の連中の中には平民も居るでしょう。馬鹿は抑え付けても馬鹿ですぞ」

 

 

 

 物資搬入は僕の御用商人のライラック商会、大使館の整備はニーレンス公爵の手配した者達。何方に手を出しても火傷じゃ済まないのですよ。ですが……

 

 

 

「馬鹿は抑え付けても馬鹿か……至言ですね」

 

 

 

 行動の結果を考えられないから馬鹿と言われる訳で、アルドリック殿から見てもそういう連中という評価なのか。この問題は直ぐには解決しないだろうし、今後も要検討だな。

 

 

 

「問題児達を嗾(けしか)けて、纏めて処分とかは無しでお願いします。監督責任は発生しますし追求します」

 

 

 

 リゼルさん、先程までは無表情でしたが見惚れる様な笑顔で結構辛辣な念押しをしましたね。まぁ当然の事ですが、逃げ道を塞ぐと言うか言質を取るって事ですね。

 

 

 

「ももも、勿論です。責任者である、バニシード公爵に確実に伝えます。御自分で連れて来た者達ですので、その辺はしっかりと考えている筈ですから」

 

 

 

 動揺したのは、ワンチャン返り討ちに有って消滅しろ!くらいの事は考えていたのかな?だが責任はバニシード公爵が取りますって回答でもあるのは、そこまで一蓮托生ではないのか?

 

 この件については、参謀として献策か助言をしますが責任は有りませんって事だろうか?貴族だし保身の手段は多い程良いし、正規兵じゃなくて私兵達だし責任範囲外ですって事か……

 

 これは自分は関係ありません。中立寄りな立場を取りますので、何か重要な情報があれば隠さずに此方に流しますのでって事を暗に伝えていると思って良いのかな?

 

 

 

 どっちつかずみたいな対応だが、情報を秘匿されたり偽情報を掴まされたりするより万倍マシだね。

 

 

 

「そうでした!フルフの街の地下に巨大な空間が有り、その調査を王都の魔術師ギルド本部と盗賊ギルド本部と共同で調査するので、彼等の受け入れ準備も進めたいです」

 

 

 

 まだ有るのですか?みたいな顔をされたが、事前に伝えている事の確認です。

 

 

 

「王都の有力ギルドの構成員を街の外に滞在させるという訳には行きませんね。何人が、どれ位の期間滞在するのでしょうか?」

 

 

 

 お腹の辺りを抑えながら、絞り出す様に聞いて来たが……調査自体は既に終えている。体裁を整える為に調査という形にするだけだから、半月位だろうか?人数は各々十人位?

 

 何方も副代表位は送り込んで来るだろう。特に魔術師ギルド本部の方は、代表であるレニコーン殿が来たがるだろう。少なくとも、リネージュ殿は来るな。

 

 盗賊ギルド本部の方は分からない。前代表オバル殿との約束だったが、新しい代表の……誰だったっけ?ああ、ビーツ殿だ。彼は自分は来ないで配下の誰かに任せる感じがする。

 

 

 

「合計で二十人以内に抑えて、期間は半月位かな」

 

 

 

 ん?アルドリック殿が不思議そうな顔をしたが、もっと大人数で来ると思ったのか?まぁ古代迷宮の調査だから結構な人数が来ると思ったのだろうか?

 

 だが色々なパターンの調査隊の事は調べたけど、護衛抜きで純粋な調査を行う者達は同じ位だったぞ。未開の地は支配地域以外の場所に赴く時は倍以上の護衛部隊と荷駄隊が同行する。

 

 フルフの街は、エムデン王国の支配地域であり安全は確保されて物資の搬入路も何とかなる。それに調査達の連中は武力も兼ね備えた連中が来る。

 

 

 

 古代遺跡の調査など、魔法迷宮の探索と変わらないと思っているだろう。実際は全て調査済みだから、危険なんて何も無いけどね。

 

 

 

「半月で、古代迷宮の調査が終わるのですか?」

 

 

 

 期間の方か!短すぎたのか?

 

 

 

「まぁ狭い範囲ですし、ゼロからの捜索でなくて有ると分かっている場所の捜索です。調査隊が来る前に予備調査も行いますが、出入口を特定までしておいて合流してから内部調査かな」

 

 

 

「そうなのですか?まぁ土属性魔術師の第一人者である、リーンハルト卿が言うならばそうなのでしょう」

 

 

 

 凄い疑わしそうな眼を向けられたが、此方も余り時間を掛けられないので半月程度で終わらせたい。受け入れも半月後くらいを目安にしよう。

 

 先ずは自分達の生活基盤を整えてから、その後で地下迷宮の調査を行う。下調べと細工も半月あれば可能だし、両ギルド本部にも受入準備が整ったら連絡する事になっている。

 

 可能ならば、問題児共の対応を終わらせてから迎え入れたいが……それは自分が主導ではないので厳しいか?バニシード公爵とアルドリック殿の頑張り次第か?

 

 

 

「取り急ぎ、決めれる事は話し合えたので終わりにしましょう。アルドリック殿とは連絡を密にしますので、お互い何か有りましたら遠慮は無しでお願いします」

 

 

 

「そうですね。お互いつまらない者に足を引っ張られないようにしましょう」

 

 

 

 立上り机越しに握手を交わす。一時は敵対というか敵視されていたが、目に見える危機を前に一致団結出来た事は喜ばしい。同じ軍属だし参謀連中と縁を深くするのは良い。

 

 お互いに失敗は出来ない王命の最中なのだから、協力するのは当たり前なのだが……バニシード公爵と派閥構成貴族の連中については、なんとも言えない。

 

 ザスキア公爵とニーレンス公爵、ローラン公爵にも報告を入れておこう。特にニーレンス公爵は大使館の整備を行うので無関係ではいられない。

 

 

 

 受入れ先に問題が有るとなれば、送り込む連中にも事前に注意喚起して欲しい。それに対応可能な人材を寄越して欲しい。つまり爵位と役職の高い者を送って欲しい。

 

 僕には敵意を向けて敵対行動を取るかもしれない連中だが、当主と同格の公爵の配下にも同じ事が出来るかと言えば……出来ないし、やらないんだよね。

 

 ポッと出の僕は元は新貴族男爵の長子、短期間の出世にやっかみの感情が高い。だが歴史ある今は公爵四家筆頭の、ニーレンス公爵家の関係者には手は出さない。

 

 

 

 本当に、つまらない連中だよね。

 

 

 




日刊ランキング23位、有り難う御座います。

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