古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第952話

 

 王都に数日滞在し政務と言う名の根回しを行い、自分達に有利な内容を盛り込んだ提案を承認して貰った。王命と言う名の強制力を持った区分をバニシード公爵に突き付ける事が出来る。

 

 公爵三家と協力した事も大きいが、バニシード公爵が王都に不在な事が決定的だった。命令書を貰い後で裏の事情を知ったら、バニシード公爵は発狂する位に怒るだろう。

 

 まぁ王命を達成すれば、アウレール王から正当に評価されるのだから逆に良かったと思う。落ち目の現状を巻き返す事も可能なのだから、上手くやれば……やれればだけどね。

 

 

 

 国難だし不必要な足の引っ張り合いはしないと思うが、相手の失敗の傷口を最大限に広げてからフォローして功績を奪う事など普通なのが魑魅魍魎溢れる王宮の日常らしいし?

 

 僕を囲った公爵三家は、僕に秘密で色々と動く事が有る。それは、僕に対しては不利益は無く逆に有利な事が多いのだが倫理的にはマイナス判定。

 

 良心など自分と大切な人達の為になら、心の中の棚に放り投げる事も許容するから極端に言えば『どうでも良い』かな。自分勝手なのは理解しているし、その分は他で善行を積んでいる。

 

 

 

 差し引きゼロか僅かにプラス?

 

 

 

 そんな心の葛藤を大切な人達の体臭と添い寝で癒して貰った。うん、素晴らしきかな『体臭教』ですね。積極的に布教はしないし、同志も募らない。

 

 密かな自分だけの楽しみ、それで良い。密教?いや、微妙に違うと思います。エムデン王国はモア教を国教と定めているが、モア教は他の宗教に対しては大らかだ。

 

 信徒達が不幸にならなければ、受け入れる。そういう懐の深い部分が気に入っている。仰々しく考えているが、要は個人で楽しむ性癖で他人に迷惑を掛けない。

 

 

 

 これが大切なのです!

 

 

 

 明朝、フルフの街に向かい出発するので仕事の引継ぎを終えて馬車で自分の屋敷に帰る途中だが座っているだけだと色々と考えてしまう。執務室で読み切れなかった報告書の束も持ち帰りだし。

 

 流石に今日は早上がりして、イルメラ達と出発前の触れ合いを十分に行わないと駄目だ。そうじゃないと長期の単身赴任は一ヶ月が限度で駄目になる。

 

 後々、彼女達もフルフの街に来て貰うが、自分の屋敷の準備が整った後になるだろう。だから、早めに領民の強制退去を行って欲しい。

 

 

 

「まぁフルフの街迄の安全を確保しないと駄目で、強制退去した連中が潜伏している可能性も低くないんだよな」

 

 

 

 窓の外をみれば、安全で平和な何時も通りの風景。エムデン王国では当たり前だが、バーリンゲン王国領内は麻の如く乱れて不安全で混沌と混乱の真っただ中だ。

 

 何処にも安全で平和な場所など無く、街単位や村単位で結束して野盗の集団となり少なくなってきた物資の奪い合いを始めている。自分達で増産するって考えには至らないのか?

 

 足りなければ奪うじゃなく生産する方が健全で確実だと思わないのが凄いよな。奪った方が楽で速いとか?連中なら十分、考えられる。想像が辛くなってきたので頭を左右に振って嫌な考えを弾き飛ばす。

 

 

 

 手持ち無沙汰なので、何となく持って帰って来た報告書に目を通す。

 

 

 

 バーリンゲン王国内の動向について、ザスキア公爵の諜報部隊の他に先行で、ニーレンス公爵とローラン公爵の諜報部隊も投入されているので連携して調査し精度の高い報告書が定期的に届いている。

 

 僕等が調整した王命による『命令書』は、既にバニシード公爵に届けられている。領民の退去は順調に進んでいるし、王国軍による侵入防止の防衛線の構築は微妙。カシンチ族連合にサポートさせる段取りだ。

 

 フルフの街の領民の強制退去は防衛線がスメタナの街まで張れた段階で始めると、バニシード公爵より報告が有った。彼も作戦の進捗を事細かく、アウレール王に報告している。

 

 

 

 後方に前線の状況を把握させて増援や援助を受け易くする為だろうし、順調に進んでいるというアピールもあるのだろう。多分だが、アルドリック殿の助言かな?

 

 参謀連中も相当数、フルフの街に投入されているし、彼等も此処で活躍しないと無能の烙印を押されかねない状況だ。聖戦でイマイチ活躍しなかったし、フレイナル殿を陥れたりと評価は下降気味。

 

 バニシード公爵が失脚すれば、一蓮托生で降格処分だからな。ザスキア公爵の諜報部隊によれば、バニシード公爵とアルドリック殿は行動を共にしている事も多く連携して亡命者の対応をおこなっている。

 

 

 

 バーリンゲン王国の貴族連中が、受け入れられる事が前提で好待遇されるのも当然と考えて上から目線で亡命してくるそうだ。相当のストレスだろう。

 

 

 

 よく短気で怒りっぽい、バニシード公爵が我慢していると感心している。僕の知る彼ならば、もしも元属国で現敵国の身分下位者の連中に偉そうに言われたら血管がブチ切れるほど怒り狂っただろう。

 

 だが良く耐えていて、相手に反論を許さず的確に対応しているらしい。エムデン王国の貴族の縁者を騙って騙そうとしても、頑として受け入れない。そして言い負かした後で拘束し、持っていた資産は没収。

 

 武器や防具も取り上げて、丸腰で遠くに捨てて来るそうだ。反抗すれば、その場で返り討ち。報告書の目録を見ても、結構な資産が国庫に納められる事になるだろう。まぁ対策費で考えれば赤字だが、補填はプラス査定だ。

 

 

 

 野盗じゃないから、没収しても自分のモノにはならない。だが不正や横領はしていないし、配下にも徹底しているらしい。

 

 

 

「しかし、亡命貴族の多い事だな。バーリンゲン王国の貴族がどれだけ居るかは分からないし、結婚式や戦勝祝いの宴に招かれた時の参加者を考えれば爵位持ちが……」

 

 

 

 公爵から男爵までの世襲貴族が約七百人、彼等は爵位を名乗れる。その他に家族や騎士達。これが何人居るか全く分からないのだが十倍は居るんじゃないかな?

 

 爵位持ち当主一人に対して、家族と親類縁者。お抱えの家付きの騎士も一代限りとはいえ貴族を名乗れる。そうすると二十倍くらいか?貴族が一万四千人?いやもっといるのか?

 

 貴族と平民の比率で考えると、バーリンゲン王国は健全じゃない国家運営をしている。国民に対して貴族という特権階級者が異常に多い。

 

 

 

 エムデン王国は2%程度だと思った。まぁ分母となる国民の総数が全然違うから単純な比較も難しいけど、10%以上は居そうだな。

 

 

 

 極東の島国にサムライという特権階級の者達がいるのだが、彼等は全てがソードマスターという力を持つ連中で戦いの時には率先して参加する武装集団だ。彼等の国のサムライと平民の割合が1対9、つまり10%だな。

 

 戦士職として機能していたので問題は少ないが、バーリンゲン王国の場合は養われるだけの連中が特権を持って猛威を振るっているらしいので、遅かれ早かれ自滅しただろうな。

 

 国が貧しいのに特権階級の連中が多いとは、平民としては暮らし辛かっただろう。その愚かな特権階級の連中が仕出かした事で共に滅ぶとは、やり切れないかもしれないけど諦めて下さい。

 

 

 

 まぁ平民連中もアレな感じだから、仕方無いね。

 

 

 

 つらつらと考え事をしていたら、自分の屋敷に到着した。門番達に軽く手を挙げて挨拶して中に入る。我が屋敷は門から屋敷の距離は短い、故に先に馬車止めに見慣れた馬車が停まっている。

 

 はて?今日は、ジゼル嬢が来る日だったかな?いや今日来るとは聞いていないが何か有ったかな?明日出発する事は伝えてあるから、出発前の添い寝に参加しに来たのだろうか?

 

 それなら嬉しいな。イルメラが一番だが、ジゼル嬢の匂いも大好物だし。流石に結婚前なので、何か身に着けている物が欲しいとかも言えないから匂いを嗅ぎ溜めだな。

 

 

 

 そんな男の夢の事を考えていたら正面玄関前に馬車が停まったので、ニールが扉を開けてくれたので馬車から降りる。

 

 

 

「おかえりなさいませ。リーンハルト様。本妻様が来られてます」

 

 

 

 うん。未だ結婚してないから、本妻様呼びは間違いだよ。何度言っても最初の擦り込みが原因なのか、ニールはジゼル嬢の事を本妻様と呼ぶんだ。最初の出会いのインパクトが大きかったのだろうな。

 

 

 

「うん。ただいま、ニール」

 

 

 

 玄関が開いて、ジゼル嬢とアーシャ、その後ろにイルメラが出迎えてくれた時に、全員が笑顔で出迎えてくれる事に細やかな幸せを感じる。

 

 今日も無事に仕事を終えて、帰れば愛する家族が出迎えてくれる。こういう普通の幸せに憧れていたし、渇望もしていた。それが今、叶った。

 

 ジゼル嬢とアーシャの腰に手を回して軽く抱き締めながら、屋敷の中に入る。本妻予定と唯一の側室、共にデオドラ男爵の娘だからと影で色々と言う連中も少なからず居る。

 

 

 

 未だ反抗的な連中も多い訳だが、徐々に排除している。リゼルを責任者として、ウルティマ嬢と配下の諜報部員に調べさせている。

 

 彼等をバーリンゲン王国領に派遣するのは、少し躊躇した。既に公爵三家の諜報部隊が展開中だし、新参の諜報部隊を送り込む事で生じる軋轢を嫌ったんだ。

 

 あと、ウルティマ嬢がザスキア公爵に取り込まれる事も懸念して別行動にさせている。どちらにしても足元である王都を手薄に出来ないので、人員を配置しておく必要は有ったから。

 

 

 

 さて、難しい話は此処まで。これからは家族の団欒と、僕の幸福を満たす時間だ。添い寝、何度体験しても素晴らしい経験だよ……

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 幸福な全員との添い寝、めくるめく素晴らしい一夜を過ごせた。四方から身体が拘束されて全く動けないが、それが何だと言うのだろうか?そんな事は些細な事でしかない。いや、それが良いのだ。

 

 昨夜の配置は右腕にジゼル嬢と唯一の側室のアーシャ。左腕にイルメラ。右足がウィンディアで左足はニールだった。前回はユエ殿が居たが今回は不在、クリスは護衛なので別室を用意したが知らない内に近くの床で毛布に包まって寝ていた。

 

 流石は元暗殺者というか影の護衛と言うか僕でも殺意無く近付かれると感知出来ない。恐るべき気配を無くす技術だろうか?何度注意しても『護衛は対象者から付かず離れずです!』と言われれば文句も言えない。

 

 

 

 何時かベッドに潜り込んできそうな気がする。または、イルメラさんが許可すれば添い寝メンバーに参加してくるだろう。僕は彼女の望みは極力叶えてあげたいので、それならば受け入れるつもりです。

 

 毎回、エレさんから苦情を貰うが駄目なものは駄目です。彼女は大切な仲間ですが、そういう対象ではないので屋敷内に有る自室で就寝しています。盗賊だけに部屋の扉を施錠していても簡単に開けてしまう技術は持っている。

 

 だが本気で怒る、イルメラさんには敵わないので一度だけ侵入を試みたが今は大人しくしている。前にベリトリアさんがふざけて突撃して来たけれど、イルメラさんが問答無用で弾き飛ばしたのを知っているから余計にかな。

 

 

 

 彼女の悪ふざけだけは何時もの事だけど、イルメラさんの許容する範囲を越えないギリギリを攻めてくる。そして加減を間違えて、イルメラさんに折檻されるのがパターンとなっている。

 

 最近出番が少ないと文句を言われても困ります。護衛に出番が無い事は良い事です。護衛が忙しいとか暇じゃないって事は、頻繁に襲撃されてるって事ですからね。

 

 流石に王都の僕の屋敷を襲撃する程の連中は居ないし、メルカッツ殿の私兵の他にゴーレム防衛網も構築している。多分だけど王宮よりも堅牢ですよ、我が屋敷は!

 

 

 

「素晴らしき空間、ここは天国なのかもしれない。いや地上の楽園だろうか?」

 

 

 

 この屋敷で最大の広さを誇る寝室だが七人も寝ていれば、身綺麗にしていてもそれなりに体臭が籠る素晴らしい浮世の天国空間にと変貌する。僕の寝室は楽園、僕の性癖の為だけの楽園。大切だから二回考えました。

 

 そう言えば、女神ルナ様もこの屋敷を神域化しているって言っていたけど神域に楽園が生まれているとは思うまい。不敬じゃないですよ。ここは僕の屋敷ですから……

 

 

 

 後日、女神ルナ様が降臨する際に立ち会いましたが『お盛ん過ぎます』と、やんわりと文句を言われました。

 

 


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