古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第950話

 ニーレンス公爵の屋敷で滞在している、レティシア達と歓談しメディア嬢の不満も解消出来たと思う。根本的な解決には至って無いので、出仕するといってレティシア達とは別れた。

 

 このまま王宮に出仕する前に、ニーレンス公爵とメディア嬢に口止めを行う必要が有るので在宅か聞けば居るそうだ。メディア嬢から話が行って拗れるよりは、自分から話した方が良い。

 

 憶測は自分の都合の良い方に向かったり最悪を想定されたりと、僕に悪い報告に向かうと思う。特に身分上位者のニーレンス公爵に対しては、それは違うとか言い辛い。

 

 

 

 故に直接説明する機会を求めた。

 

 

 

「朝から押し掛けて申し訳有りません」

 

 

 

 レティシア達とは別の応接室に通されて、ニーレンス公爵を待っていたらメディア嬢とリザネクス様を伴って来た。ソファーから立上り貴族の礼節に則った挨拶をして一礼する。

 

 

 

「いやいや逆に忙しい朝に、メディアがリーンハルト殿を呼んでしまったのだ。迷惑を掛けてしまったのは此方なので、申し訳なく思うぞ。まぁ楽にして欲しい」

 

 

 

 身分下位者に対する言葉使いではないので、気を遣われているのが分かる。困惑気味な表情は短い時間で、先程の会話の内容が伝わっているのだろう。正直、どうして良いか分からないとか?

 

 三人と対面する様に座るのかと思えば、僕の隣にメディア嬢が座った。つまり二人で事情聴取を受ける感じだろうか?リザネスク様と会うのは久し振りなのだが、全然年齢を感じない。

 

 流石にネクタルを飲んで若返ったりはしないのだろうか?ザスキア公爵から一定数はニーレンス公爵家に渡っているのは聞いている。主にニーレンス公爵夫人が使っているのだろう。

 

 

 

「レティシア殿達の滞在でご迷惑をお掛けしているみたいで恐縮しています」

 

 

 

 主にメディア嬢の疲労困憊具合から、相応の苦労を掛けた事を最初に詫びる。最上級の持て成しを受けて、責任放棄は出来ないし、するつもりもない。

 

 

 

「いや、我が家はゼロリックスの森のエルフ族と『古の盟約』を結んでいるのだ。他の貴族の家に逗留されて困るのは我が家なので、レティシア殿を送って貰った事は逆に感謝している」

 

 

 

 やはり、レティシアを自分の屋敷に招かなくて正解だった。やんわりと釘を刺されたのだろう。それ程、エルフ族との関係は重要な意味が有る。バーリンゲン王国の馬鹿共は、理解してなかったのだろうな。

 

 謎の肥大した自信が、エルフに対しても上から目線で行動できる。いや、してしまった結果がコレだよ。国土ごとバーリンゲン王国という国が地図上から消失し記録だけの存在に成り果てる。

 

 僕としてもエムデン王国としても迷惑しか掛けられてない『困った隣人』だったから、縁が切れるのは最高なので諸手を挙げて受け入れます。

 

 

 

 人道的でない?いやいやいや、自業自得って事ですから、受け入れて貰います。

 

 

 

「レティシア殿はエルフ族でも古参なので、色々な情報を気軽に教えてくれるのですが……人間には過剰な内容の事も有ります。まぁ僕の魔法関連の向上も彼女達のお陰なので、有難い事です」

 

 

 

 あくまでも、レティシア達が色々と教えてくれているという形にしておく。僕が三百年前の知識を持っている事は秘密だから、他に周囲が納得する理由が必要だったので利用させて貰う。

 

 これで、僕の異常な魔法関連のアレコレはエルフから教えて貰ったからで殆どの連中は納得するだろう。それ程、エルフ族の魔法は人間からすれば脅威なのだ。あと精霊魔法の件は絶対に秘密です。

 

 これについては、うっかり属性が有りそうなレティシア達には厳重にお願いをしている。流石に教えて貰っただけで人間が『精霊魔法』を使える訳がない。有る意味、偶然の産物だったし……

 

 

 

「成る程のう。レティシア殿もそうだが、模擬戦を行ったファティ殿やマジックアイテムの売買で関係を持った、ディーズ殿。王命で交渉を行った、クロレス殿と立て続けに友好関係を結ぶ手腕は流石としか言えぬな」

 

 

 

 目を薄く開いた、リザネクス殿がエルフ族と立て続けに友好関係を築く事に不安を感じているのだろうか?自分達がエムデン王国でエルフ族との関係を独占していたのだから、ポッと出の僕が友好関係を結んだ事に危機感を感じた?

 

 いや、値踏みをしている視線でもないし排除や嫌悪感も無いと思う。自分に向けられた視線の意味が分からずに困惑する。近いと思えるのは羨望か呆れか?まぁ悪くは思ってない?

 

 メディア嬢を横目で見れば、此方は分かり易く呆れた視線を向けている。『全く何をやっているのですか?』っていう母親か姉目線の呆れ方だな。思わず微笑んでしまう。

 

 

 

 僕等の関係も最初から比べると格段に良好になったものだ。

 

 

 

「そうですね。ファティ殿は模擬戦を善戦した事で認められたのでしょうか?ディース殿は、正直分かりません。クロレス殿については、バーリンゲン王国に肩入れしなかった事と彼等が酷すぎたので相対的に僕の評価が盛られたのでしょう」

 

 

 

 レティシアは転生前からの関係、ファティ殿とディーズ殿は正直分からないのだが、レティシアが仲を取り持ってくれたと思う。クロレス殿は、正直お互い気が合ったと思う。

 

 エルフの古老達のやらかしが、僕がバーリンゲン王国に迷惑と苦労を掛けさせられている事と同じ様なものだったからお互い被害者意識が重なって分かり合える事が出来たと思う。

 

 あとは趣味嗜好が近いのもそうだし、何だかんだでお互い尊重し合える関係に近付いたとか?今後の事も有るし、関係強化は必須。友人と思ってくれるのは嬉しいが、それを交渉のネタにするのは駄目だ。

 

 

 

 ふふふ、本当に『縁は奇なり』だな。

 

 

 

「フルフの街の秘密の古代地下都市だが、噂は本当だった。リーンハルト殿も滞在時に調査し地下空間の存在を確認している。フルフの街の住人を退去させたら、リーンハルト殿が主体で調べる事になるだろう」

 

 

 

「そこに私達の配下の土属性魔術師達も組み込んで下さいね。古代の地下都市とか浪漫が有りますわ。まぁアスカロン砦と言っていましたので、古代都市でなく秘密基地なのでしょうけれど……」

 

 

 

 ニーレンス公爵の話の通りに、フルフの街の住人は早めに退去させる必要が有る。そこは、バニシード公爵の手腕次第だが既に森の拡張の件やエルフの古老達の謎ゴーレムの話は広まっている。

 

 その情報はフルフの街には未だ入っていないと思うが、時間の問題だろう。噂話でも情報が流れ込む前に、街から出した方が良い。だが、バニシード公爵の手段は何だろうか?

 

 移転先を用意しての移住か?強制退去か?私財の扱いは?没収か?持ち出せる分だけ許可するのか?優しくすればつけあがるし、厳しくすれば反発し暴走する。扱い辛い連中だぞ。

 

 

 

 強権発動から暴動を誘発しての鎮圧が、最も効果的だと思う。彼等の謎理論を展開させる暇を与えないで問答無用で追い出すのが正解なのだが、一悶着有ると思う。

 

 今も駐留しているエムデン王国軍に対して、色々と要求を突き付けてるらしいし仮に移転先や補償を払うと言っても無駄だろうな。更なる保障と謝罪と賠償を求めてくるだろう。

 

 良かった。この嫌な任務をバニシード公爵に押し付ける事が出来て、苦労が大分減って本当に良かった。その分、周辺の整備とか魔牛族やカシンチ族連合の移転先の整備とか……

 

 

 

 本来なら手出しは控える様に言われている仕事を率先して行う事になったけどね。この件が片付いたら、少し仕事を抑えないと駄目だ。長期休暇とか取って、新婚旅行を兼ねた領地巡りでもするかな。

 

 

 

「その件は優遇しましょう。ですが、先にフルフの街の住人の退去が必要ですね。バニシード公爵の手腕に期待しましょう。あとは安全確保の為に、レティシア殿が助力して貰えるので助かります。

 

フルフの街の地下の秘密については、魔牛族のミルフィナ殿も知っていました。もしかしなくとも長寿種の連中にとっては、秘密でも何でもなかったのでしょうか?軍事基地らしいので、安全確保が必須です。

 

無謀に入り込んで調査隊が全滅とか笑えませんし、先にレティシア殿と二人で先行調査を行うべきかな。二人なら何が有っても、どうとでもなりますし。その辺は少し考えます」

 

 

 

「奴等の退去か……今も駐留部隊と揉めているらしいぞ。素直に言う事など聞かないだろうし、強制退去しかあるまい。バニシードも苦労するだろうが、王命だし必死で何とかするだろうよ」

 

 

 

 うわぁ悪どい顔で、リザネクス殿と共に邪悪に笑ったよ。メディア嬢も公爵令嬢が浮かべて良い笑みじゃないぞ。政敵だから、追い込む事は当然だし苦労させるのも楽しいだろう。

 

 

 

「そうですね。僕も短期ですが滞在した時に色々と聞きました。周辺の治安維持の為の野盗の退治とか、本来ならばバーリンゲン王国や領主が対応する事を平然と要求してくるんです。

 

仮にも宗主国の殿下や将軍にですよ。クーデターを起こして属国の立場から独立したのですから、本来ならば敵国な筈なのに何を考えているのか理解が出来ません」

 

 

 

 そう言ってやれやれ的に両手を上げて首を振る。タマル殿に教えて貰った通り彼等は『逆恨みを捏造して真実と思い込める連中』なので、何を言っても無駄だろう。

 

 理解する事が無意味なんだ。強制退去の流れになると思うんだが、クロレス殿の話では一年の猶予は有る。慌てて今追い出されると、カシンチ族連合とバッティングすると面倒だな。

 

 移民軍団と守備兵込みの住人達との接触、無事に不干渉で擦れ違う可能性は少ない。双方に敵意が有り戦う理由が有る。まぁ対処しなくてもフルフの街を通り抜ける時に一悶着有るか?

 

 

 

「フルフの街に大使館を用意する事になるが、それは此方で行うし大使館要員も用意しよう。それ位はさせて欲しい。リーンハルト殿は自分の屋敷の準備をして欲しい」

 

 

 

「実際は大使館員だけが、クロレス殿というかエルフ族との交渉のテーブルに着く事はマイナスでしかないじゃろ?だが資料集めや大使館の維持管理、その他の雑務は行わせる。それを嫌がる奴など使わないぞ」

 

 

 

 ニーレンス公爵とリザネクス殿から説明が有ったが、僕の懸念事項も把握済みって事で良いのかな?最悪の場合、自分の構える屋敷を大使館と兼任にしようと思った。

 

 国家が相手でなく、ケルトウッドの森のエルフ族ならば、こじんまりとしている方が良いかもと思ったし。だが、それは思い上がりの越権行為だった。そういう考えだった。

 

 勿論だが、ニーレンス公爵もリザネクス殿も、エルフ族との交渉について関わらない事が無い為の布石であり配慮でもあるのは理解している。

 

 

 

 隠居中のリザネクス殿が出張って来たのも、その辺の意味合いが大きいと思う。要は勝手にするな、主導権は譲るが手伝わせろって事を僕との関係性を考えてマイルドに言ってくれたんだ。

 

 

 

「そうですね。細かい所は今後の擦り合わせが必要ですが、大使館建設の件はお任せしても宜しいでしょうか?」

 

 

 

 先方を立てる伺い方をすれば、正解だったのだろう。メディア嬢が満足そうな笑みを浮かべたし、ニーレンス公爵も小さいが安堵の息を吐いた。

 

 

 

「勿論だとも。先任のバニシードとの調整も必要だし、奴の尻を叩いて住人の退去も急がせねばなるまい。猶予は一年だが、相応の大使館を建てて人員を配置するのには半年から八ヶ月程度は掛かろう」

 

 

 

「場所の選定、既存の建物の撤去処分。更地にして新築と考えれば八ヶ月でも足りるでしょうか?」

 

 

 

 少なくとも川に挟まれた岩山と、その上の構築物はそのままだろう。だが川の周辺に出来た街は全て撤去になるのかな?お世辞にも綺麗な建物ばかりじゃないし、明け渡すならば更地だろうか?

 

 それを考えると、バニシード公爵はそろそろ準備を進めないと時間的に間に合わなくなるんじゃない?エムデン王国軍の工兵部隊の派遣要請の書類は了承の印を押して回覧したが、結構ギリギリじゃないか?

 

 モレロフの街やスメタナの街は住民の退去だけ間に合えば良い。そしてこの二つの街の住人の退去もバニシード公爵の仕事の領分、相当の苦労が有るな。

 

 

 

「厳しいじゃろうな。故に、ニーレンス公爵家で抱えている土属性魔術師達を派遣するつもりじゃよ」

 

 

 

 ニーレンス公爵家のお抱え土属性魔術師?確かに腕は良いだろうけど、嗚呼そうか!助力して発言権の強化とか?マウント取合戦が始まるのだろうか?

 

 有能な部隊の派遣は、それだけで有利な条件を引き出せるのだろう。食えない婆様だな。僕に彼等の面倒を見させる気か?まぁ面倒を見るのは構わないけどね。

 

 王都の魔術師ギルド本部の土属性魔術師達も参加させた方が良いのかな?次の課題も決まってないし、能力UPの腕輪の増産も戦争が終わったから需要が少なくなるし……

 

 

 

 うーん。この辺の事も、ニーレンス公爵と下話を進めておいた方が良いかな?僕は姿勢を正して、ニーレンス公爵に向き合った。

 

 

 


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