古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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投稿予約時間を間違えてました。申し訳ないです。


第935話

 カシンチ族連合の移動について、問題も少なそうなので別行動を取る事にした。魔牛族の里の様子をみて、防衛施設の件をミルフィナ殿に確認。

 

 場合によってはケルトウッドの森に寄って、クロレス殿に報告する事にする。流石にエルフ族謹製のマジックアイテムの放置は駄目だろうし、融通して貰って放置は不味い。

 

 彼等にしたら価値は低いのかもしれないが、僕等にしたら未知の技術の塊だ。放っておけば森に埋まって使用出来なくなるとはいえ、それはそれで別問題だろう。

 

 

 

 クギューは未だ(腰痛が治らず)寝込んでいて、ルスが見送ってくれたが見送り要員に彼女の妹達が居たがスルーさせて貰いました。

 

 

 

 前回は風の下級精霊である一体の空鼬(からいたち)が道案内をしてくれたが、凡その地理は掴んでいるので今回は単独でも迷わずに魔牛族の里に来る事が出来た。

 

 魔牛族の里はなだらかな起伏や小山の続く地形、丘陵地帯なので遠目からでも状況は分かる。今回は防衛機能を起動されない様に少し手前から徒歩で近付く。

 

 此方からは伺えないが見張りが居る筈なので、ゆっくりと近付けば僕の存在は把握してくれている筈だ。最初は問答無用で防御機能を働かされたが特に問題は無かった。

 

 

 

 里の境界線と思われる木製の柵の手前まで近付いて暫く待つ。そろそろ出迎えで誰かが来てくれる筈なのだが……

 

 

 

「リーンハルトさまぁー」

 

 

 

「おひさしぶりでございますぅー」

 

 

 

「わぁーい!」

 

 

 

 大人の出迎えを待っていたら、幼女達が高速で突撃して出迎えてくれた。確か、エアレーとクユーサー、それにナンディーだったかな。

 

 幼くとも淑女が気軽に異性に抱き着くとかは駄目なので離れて下さい。僕は遠征続きだし、カシンチ族連合と一緒に移動する時は風呂に入っていないのです。

 

 身体を濡らしたタオルで拭く位しか出来なかったので最低限の身嗜みしか整えていませんので、密着は御遠慮願いたいです。確か魔牛族は嗅覚が優れているので余計にです。

 

 

 

 両手と首に抱き着いて来たので、その場でクルクルと回れば楽しそうにはしゃぎだした。『剛力の腕輪』の効果で重くは無いが危ないので放してくれないでしょうか?

 

 

 

「ミルフィナ殿?見ていないで何とかして下さい」

 

 

 

 少し離れて腕を組んで見ている同性愛嗜好の変質者に声を掛ける。この危険な時期に子供達だけで里の境界線ギリギリまで迎えに来させるのは不用心過ぎませんか?

 

 

 

「仲の良い兄妹みたいで微笑ましいですわよ」

 

 

 

 確かに端から見れば微笑ましい光景かも知れませんが、一応僕は大陸最大国家の重鎮なので、少しは気を遣ってくれると助かります。

 

 最近は異種族だけでなく女神とも交渉する機会に恵まれてしまい困っています。まさか自分の屋敷が女神様御用達の御降臨地とか笑えません。何の冗談なのだろうか?

 

 ひとしきり楽しんだからだろうか?首や腕に抱き着いていた幼女達が手を握って里の中へと引っ張り出した。歓迎してくれるのは嬉しいのですが……

 

 

 

 これじゃ久し振りに親戚の家に遊びに来た従弟の兄ちゃんみたいだよね?

 

 

 

 幼女達に手を引かれながら里の中を歩けば、引っ越しの準備で大忙し。家財道具を纏めて馬車に積み込んでいる様子は、カシンチ族連合とは違い余裕が伺える。

 

 向こうはエルフ族の長老達が送り込んで来る植物ゴーレムが来る前に何とか移動しようと四苦八苦していたが、此方は引っ越しする迄はエルフ族も森林化しないので慌ててはいない。

 

 しかも移動手段にエルフ族謹製のウッドゴーレムも貸し与えられたみたいで、無駄に装飾に凝ったウッドゴーレム達が荷物の積込まで手伝っている。此方も自律行動型ゴーレムかぁ……

 

 

 

 樹呪童(きじゅわらし)もそうだが、エルフ族の扱うゴーレムは人間が編み出した錬金製のゴーレムとは何かが違う。非常に興味深いのだが、調べると色々と面倒事に巻き込まれそうなんだよな。

 

 特に、ファティ殿とかがさ。ハッスルしそうで怖い。今だって彼女に精霊魔法を学んでいるが、ファティ殿が一番力を入れて教えてくれるのだが感覚の人らしく教える事は上手くはない。

 

 擬音交じりだと伝えたい事の半分以上が分からない。レティシアは天才タイプらしく理路騒然としているが要求されるレベルが高くて苦労する。因みに一番教えるのが上手なのが、ディーズ殿。

 

 

 

 彼女は自分が劣等生だと思っていたらしく、口伝で教えられる事を自分なりにノートに纏めて反芻して覚えてきた。故に他人が躓く所も何となく分かるらしく、我慢強く噛み砕いて教えてくれる。

 

 タイプの違う三人の教師役に教わっている為なのだろうか?最近は水の下級精霊の飛魚(ひぎょ)だけでなく風の下級精霊である空鼬(からいたち)とも意思の疎通が出来る様になった。

 

 これは凄く異常事態らしく、他のエルフ達にも驚かれた。そろそろ火の下級精霊の熱蛇(ねつへび)や土の下級精霊の亀岩(きがん)にも引き合わせるとか、レティシア達が盛り上がっていた。

 

 

 

 この辺の情報がエルフ族の王にまで伝わり、僕が人間の亜種か異端認定されている原因だろうな。特別な人間って言われても、それは普通の人間じゃないって事だからね。未だ義父達みたいに人外認定は早いです。

 

 

 

「リーンハルトさまの匂いを覚えたから、すっごく遠くでも分かるんだよ」

 

 

 

「そうそう。お父さまみたいに落ち着く匂いなの」

 

 

 

「不思議だよね。わたしたちと種族がちがうのに、なんとなく分かるの」

 

 

 

 え?何が分かるの?すっごく遠くからでも分かるの?魔牛族の成人は8km位遠くのモノの匂いを嗅ぎ分けられるらしいが、暫く入浴していない僕の匂いは10km位遠くても分かったりしたの?

 

 体臭教の敬虔な信徒としては喜ばしいのか恥ずかしいのか困るのだが、自分は嗅ぐ事が良くて他人は駄目とは言えない。それはフェアじゃないのだが、幼女達が抱き着いてきてお腹周りの匂いを嗅がれると困る。

 

 どうにも困る。君達も幼くても淑女なのだから、異性の体臭を全力で深呼吸する程に嗅ぐのは業が深いというか何と言うか……そこの不審者!笑って見てないで止めてくれ!

 

 

 

「淑女はね?幼くとも異性に気軽に抱き着いて、あまつさえ匂いとか嗅ぐ事は控えた方が良いからね。嫌とかじゃなくて一般常識だからね」

 

 

 

 控えた方が良いと言った時に、両目に涙を溜めて上目使いで見られたら降参するしかないじゃないか。嫌じゃないで機嫌が治り一般常識で首を傾げたのは、まさか魔牛族の中では普通の行為なの?

 

 

 

「ミルフィナさん?」

 

 

 

 ジロリと彼女を睨めば、年頃の淑女がしては駄目な笑顔を浮かべていた。何と言えば良いのか?粘着質で音に例えれば『にちゃぁ』って感じの笑みを浮かべていた。

 

 

 

「エアレー達は最近になってから、花嫁修業を始めたのですわ」

 

 

 

 花嫁修業ですか?それと僕に何の関係が有るのですか?彼女達を側室に迎える案はきっぱりと断った筈ですよね?再燃はしません。鎮火したのでこれで御終いです。

 

 

 

「そうですか?良い事ですが、未だ少し早くは無いですかね?」

 

 

 

 花嫁修業の正確な開始時期など分からないし知らないが、貴族の場合は旦那となる者の身分に合わせた所作が出来る様にする事で平民の場合は家事の方が重要らしい。

 

 共通なのは家計簿を付ける事だろうか?旦那の稼ぎに見合った生活の維持と収支の管理、お金の事を旦那に任せると色々と失敗も多く苦労もするので財産管理は覚えた方が良いとされる。

 

 中には収入を全て自分が管理して好き勝手に使う奴も居るが、そういう連中は大抵が破産して没落する。貴族の場合は本妻や側室、妾とか複数娶る場合が多いが対象となるのは本妻だけだ。

 

 

 

「いえ、成果を見てあげて下さいな。どうせ貴方の事ですから、カシンチ族連合との件は済ませてきたのでしょう?私達の様子を見て、途中まで同行するか先行するか、移動準備次第で行動を変更する。違いますか?」

 

 

 

 悔しいが予想通りだな。少し違うのは里の防衛機能の設備をどうするかの確認も有ったのだが、その辺は既に相談済みで解決していた。

 

 まぁそうだよね。魔牛族はエルフ族を信奉していたのだから、彼等から齎された技術を放置などしないよね。これで心配事の一つは減ったが、新しい心配事が増えた気がするぞ。

 

 

 

「まぁ僕の行動は予想通りですが、彼女達の花嫁修業の成果を見るとは?それは未来の旦那の……うわっ?」

 

 

 

 幼女三人が抱き着いて来た。その勢いに思わず半歩ほど下がってしまう。幼女とはいえ、流石は魔牛族と言う事か凄く力が強いな。何とか踏ん張って受け止める。

 

 

 

「リーンハルトさまは、わたし達がきらいなの?」

 

 

 

「わたし達が近くにいるの嫌なの?」

 

 

 

「ツノが生えてる女の子は普通じゃないからダメなの?」

 

 

 

 うわぁ涙目幼女とか、ヘルカンプ殿下なら感激モノだろうけどさ。僕は困惑というか困ったって感情しか湧かない。嫌じゃないけど、それは情欲じゃなくて友愛か兄妹愛の方だな。

 

 泣きそうな子達の頭を交互に撫でる。勿論だが、不用意に種族の象徴たる角には極力触れない様に細心の注意を払う。角が嫌でも嫌いでもない、それが普通と受け入れるだけだ。

 

 何を思ったのか、彼女達が僕の手を掴んで自分の角に触らせた。これは角が嫌なのかどうか知る為の行動だろうか?嫌ではないので普通に触ると、幼女達が物凄く喜んだが……

 

 

 

 魔牛族の身体的特徴を受け入れてくれたのが嬉しいとか?ひんやりとしてスベスベしている。幼くとも女性だからか、角の先端に黄金の装飾品が付いている。

 

 

 

「一応伝えておきますが、魔牛族に古くから伝わる言い伝えとかで異性の角に触ったら結婚とか責任取れとかは無しですからね。それじゃバーリンゲン王国と変わりませんよ」

 

 

 

 特定の舞踏会で未婚の女性にダンスを申し込んで踊ったら結婚しなくてはならない!って何だよ。何も知らされずに義理でダンスに誘って踊ったら結婚とか、悪辣な罠以外の何物でもない。

 

 どうせ禄でもない連中の悪知恵だと思うんだ。意中の女性と結婚したいから『しきたり』を理由に断れない状況を意図的に作り出して追い込む。

 

 女性は知らないのに義理でダンスを踊ったら、好きでもない男と強制的に結婚させられる。僕やミルフィナ殿も知らなければ危険だったし、姑息な手段好きな連中だから想像に難しくない。

 

 

 

「ああ、あのダンスを申し込んで来た時の事ですね。勿論ですが、そういう強制的な話では有りませんわ」

 

 

 

 言質を取ったからね。後から実は……って重たい話をされても対応しませんからね。魔牛族のしきたりとか言い伝えとか知らないのだから、そういう事だったとしても無効ですからね!

 

 幼女の角を順番に触っているという不思議な行動をしているが、集まって来た他の魔牛族の連中が見ても特に驚いたり嫌悪感を浮かべたりしてないから本当に大した事ではないのだろう。

 

 これが怒ってたりしていたら彼等にとって不都合なことで、喜んでいたら都合の良い事だろう。一夫一婦制で貞操観念が高い種族だから、余計に行動一つとっても迂闊な事は出来ないんだ。

 

 

 

「それなら良いです。参考までに聞きたいのですが、どういう意味が有る行為なんですか?」

 

 

 

 単純に仲良くなった証とか?

 

 

 

「いえ、普通に心を許しているという意味ですけど。魔牛族の女性は生涯で家族以外に角を触らせるのは……」

 

 

 

「ストップ!もういいです。それ以上は話さなくて結構ですからっ!」

 

 

 

 ちょっと待て!その先は言わせないぞ。家族以外に角を触らせるには伴侶だけとかってオチは要らないです。それを聞いてしまったら色々と不味い事になりそうだから結構です。

 

 エアレー達が不思議そうな顔をして見上げているが、彼女達にとっては其処まで重たい話では無いのだろうか?気に入った親族のお兄ちゃん程度?

 

 幼女が不純な目的で自分の角を触らせる事などしないし、子供のする微笑ましい事くらいの感覚か?これが結婚適齢期の女性とかだったら大騒ぎな案件だぞ。

 

 

 

「そうですか?彼女達が望んだ事なので、私達は何も言わずに見守るだけです」

 

 

 

 まぁ適齢期の娘達じゃないし、そこまで重く考えなくても良いって事だね。友好的に接しますので、私達も妖狼族と同じように良い待遇にして欲しいって事なら歓迎です。

 

 他に行かれる位ならば、エムデン王国で囲ってしまった方が良いしお互いに安全だし利益も有る。エルフ族からも頼まれているので邪険にする事など出来ない。

 

 最初の内は少し揉める事も有るかもしれないが、僕の管轄下でならば妖狼族の前例も有るので多分大丈夫だろう。

 

 

 

「親戚のお兄ちゃん位の感覚って事ですね。好意は有っても重い話では無い、幼い時の心温まるエピソードです。良い話だなぁ」

 

 

 

 それはそれで違うと思いますとかの声は聞こえない。最近だが義妹が増えている気がする。ダーダナス殿の孫娘達とか、見た目だけならユエ殿とかもだな。

 

 幼女愛好家のレッテルを貼られないか心配になって来たぞ。只でさえネクタルの安定供給をしているんだ。物理的に『永遠の幼女』が可能なのは、僕だけなんだよなぁ。

 

 この情報が洩れれば、王国中の幼女愛好家達から接触が有ると思うのだが、そんな状況になればザスキア公爵率いる淑女連合が黙っていないと思うし……

 

 

 

 嗚呼、何故か胃が痛くなってきたよ。

 

 


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