古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

897 / 1004
第891話

 マドックス殿が率いて来た部隊を殲滅した。編成は魔術師と弓兵のみの間接攻撃特化部隊、他種族の里の制圧としては偏った編成だが弓兵は武装を変えれば歩兵だから良いのか?

 そして指揮系統が統一されていなかった。弓兵は独自の命令系統も有ったらしく、マドックス殿の指示は優先するが直属の配下では無い。元とはいえ宮廷魔術師筆頭でも独自の部隊は持ってないだろう。

 つまり有力貴族かクーデターを企てた連中の紐付きって事だと思う。その尋問を行う為に数人を捕らえている。手足を一体化した鉄の塊、錬金による特製の拘束具だ。

 

 解放する鍵も無い、ただ箱形の鉄に手足が埋め込まれているだけ。コレを解除するには僕か、僕の錬金を上回る能力を持つ者が強制的に干渉して外すしかない。

 まぁ気の遠くなるような時間を掛けてゴリゴリと削るとかすれば可能だが、どれだけの手間が掛かるか分からない。実際は不可能、それを理解しているのか拘束した連中は妙に大人しい。

 バーリンゲン王国の連中なら騒ぎ出すとか喚き散らすと思ったが、全員が固まって大人しく座っている。アレか?強い者には逆らわないとか、長い物には巻かれろ的な?

 

 他の倒した連中の剥ぎ取りと埋葬を終えて、尋問に取り掛かる。因みにだが、ミルフィナ殿が嫌がったので埋葬の場所は街道から少し離れた場所に変更した。

 里を離れるのだから問題無いと思うのだが、その辺は女性的な感性って事で納得して希望に応える事にする。僕的には何処に埋葬しても構わないのだが、マドックス殿の首は塩漬けにして首壺に保管した。

 首級という意味も有るが、流石に元宮廷魔術師筆頭殿の遺体を雑兵と一緒に埋葬する訳には行かない。身体は潰れてしまったが、顔は無事だったので本人確認は可能だ。

 

 弓兵達だが殆どの連中が大なり小なりの戦利品を所持していた。つまり移動中に立ち寄った村とかで徴発したのだろう。自国の協力関係を結ぶ異種族の里を襲う為に、自国民から徴発する。

 本当に酷い連中だと思う。バーリンゲン王国の公用金貨で三万枚以上有ったので有難く頂く。どうせ魔牛族の移住で費用が掛かるので、それに当てれば良い。襲ったけど返り討ちになって全てを奪われた。

 戦場では良く有る事で通例としても問題は無い。まぁ徴発された連中は騒ぐかもしれないけど、何処の誰が幾ら奪われたとか分からないし調べようがないからね。

 

「さて、君達はマドックス殿に従っていたと思うが直属の配下では無いだろう?何処の誰の命令で、魔牛族の里を襲う事になったのかな?」

 

 横一列に座っている連中に問い質す。手足を重量級の鉄の塊で拘束しているから、座ると言うか倒れているというか。各々が身体の楽な姿勢を取っている。尋問官なら、この時点で罰を与えるのだろうな。

 鉄の比重は約7.85、30cm四方の正方形で約21kg。それが手足の二ヵ所で合計42kg、逃走抑止としては十分な重量だろう。両足が拘束されたら飛び跳ねて逃げるしか無く、そもそも起き上がる事も困難だし。

 因みにだが捕虜は十名、無傷で生き残った連中は二十人近く居たが逃げ出した者は容赦なく追撃したので降伏した者だけを拘束した。あの状況で逃げる判断は正しいとは思えないが、茫然自失でいるよりはマシだったのか?

 

「俺達は王都守備隊、正規兵なので相応の待遇を求める」

 

「王都守備隊?ああ城壁に配置される弓兵も居ますものね。成る程、兵種や練度については納得しました。それで派兵を指示したのは?何故、マドックス殿が指揮を執っていた?」

 

 背後にゴーレムナイトを並べて威圧しながら尋問する。だが大した情報は得られないだろうな。どう見ても詳細は聞かされてない一般兵みたいだし、多分平民階級だから部隊の指揮に関わっている連中じゃない。

 逃げ出して倒した連中は身なりも良かったし所持品も高価だった。連中は貴族か部隊でも裕福な連中、つまりは下士官とかだった筈だな。逃げ出したから反射的に倒したのが失敗だったな。

 反省して次回に生かそう。今は居るだけの連中から情報を吸い出して推察するしかないか……あとは輜重部隊とか後方に残された連中を捕まえて尋問するか。

 

「命令の詳細は部隊長しか知らされてないし命令書とかの書面も無いと思う。部隊長がマドックス殿には従っていたので、自分達もそれに倣っただけだ」

 

「魔牛族の女性と子供を保護するという命令しか知らされてない。報酬として立ち寄る村での徴発は許されたが、軍紀の範囲での徴発だった。それだけだ」

 

「ミルフィナ殿はマドックス様に引き渡し、残りは王都に連れて行く。途中で手を出す事は駄目だと厳命されていたが、部隊長は数人ならば良いっていって俺達を鼓舞していた」

 

 鼓舞って、命令を無視しての中抜きって事だろ。本当に汚職と不正が大好きな連中だよな。予想通りだが一部が酷かった。まぁ魔牛族の女性を自分達の自由にして良いって言われたら奮起もするか。

 しかし王都守備隊か……精鋭中の精鋭だが、彼等は王都というか王宮の守りの要。クーデターを企てた者は王宮に居る筈だから、自分を守る者達を王都から出すとは思えない。

 権力を維持するには権威とかも必要だが武力も必須で、その力の象徴を自分の元から離すとは思えない。只でさえ少ない正規兵を手元から離す?説明に無理がないか?

 

 だがこの状況で嘘を吐けるとも思えないし、彼等に命令の詳細まで伝えているとも思えない。どうやら弓兵の指揮官は倒してしまったみたいで、残された彼等は訓練された精鋭では有るが兵卒でしかない。

 

「部隊長の次の上位者は?というかお前達の中での最上位の者は誰だ?」

 

 その問いに右から三番目の者に視線が集中した。年齢は三十代前半か、下手したら二十代だな。だがこの中では最年長者みたいだ。容姿に貴族らしさはないが、良く鍛えられた肉体をしている。

 

「お、俺だ。だが一兵卒でしかないぞ。此処に居る捕らえられた連中の中では最古参なだけだ。俺の立場で細かい命令の内容や、それに関わる情報など教えられない。

今回の件も軍の上層部が、魔牛族の女子供を捕らえろって騒いで、魔牛族の女をダシに隠居していたマドックス様を引っ張りだしただけだ」

 

「何故、本国の連中は魔牛族の連中を捕らえたがる?何でも良いから理由となりそうな事を知っていたら教えろ」

 

 捕らえた連中全員に問い質す。捕虜達の中で視線を送り合い、最終的に古参の奴が答える事になったみたいだ。視線で押し付け合うとか、良く連携の取れている連中ではあるな。

 

「多分だが性欲の暴走だと思う。マドックス様もそうだが、バーリンゲン王国の貴族連中は魔牛族に執着しているのは周知の事実。前政権は魔牛族に配慮していたが、新しく実権を握った連中は……」

 

 ここで言葉を止めたのは、多分だが僕の後ろにいるミルフィナ殿に配慮したのだろう。視線が僕の後ろに向けていたし、ミルフィナ殿から滲み出るプレッシャーも徐々に大きくなっていたし。

 新政権に一族が性的に狙われている。しかも女性と子供達だけって事は、最悪は老人や男達は不要って事で始末するつもりだったのだろう。甘すぎる見通しだぞ。

 クーデターを成功させた連中って、もしかしなくても愚か者過ぎない?いやだからこそ、エルフ族は厳しい判断を下したって事なんだな。滅亡待ったなしなのに、それに気付いてないとか滑稽過ぎて逆に困る。

 

「お前達以外の連中、輜重部隊とかは居るのか?増援とかも含めてだ」

 

「いや、それは……その……」

 

 大した情報は持って無さそうだな。残りは補給部隊か増援部隊の情報だけ聞ければ良いか。多分彼等が本隊、これ以上の戦力は無い筈だが二線級の補助部隊は居るかも知れない。

 こいつ等は徴発を許されたと言っていたが現金しか持っていない。徴発という略奪の場合、他にも食料とか品物とか色々な金目の物を奪う筈だ。どこかに隠していると思う。

 根こそぎ奪っていこう。ぶっちゃけ資産は幾ら有っても足りないと思うんだよね。妖狼族の場合もそうだったが、一から里を作るって想像以上にお金が掛かる。湯水のように使っても足りない位にさ。

 

「仲間は売れないってか?だが自分達の命と天秤に掛けてみれば、自ずと理解するだろ?僕は気の長い方だが、状況はのんびりしていられないと思うぞ」

 

 様子見していた、魔牛族の男性陣が武器を構えて集まってきた。尋問の内容もミルフィナ殿が事細かく教えているので、悠長に黙っていたらどんな目に遭うか分からないと思うよ。

 魔牛族からの好感度などマイナスに振り切っているからね。まさか女性と子供達を攫って残りは処分するつもりでしたとかさ、彼等が王都に攻め入るって言いだすかも知れない酷い扱いだぞ。

 クーデターを成功した連中も、モンテローザ嬢の洗脳によって欲望が弾けてしまったのかも知れないな。元々、碌でもない民族が更に理性のタガを外してはっちゃけている状況なのだろう。

 

「リーンハルト殿。捕虜の処遇はどうするのですか?」

 

 男性陣が巨大なウォーハンマーやバトルアックスを構えて近付いてくる。正直、圧が凄い。妖狼族もそうだが彼等も強い。僕が居なくても危険など全く無かっただろうが、クロレス殿の意思に配慮した感じだな。

 捕虜を引き渡せば、どうなるか分からないが逃がす事も出来ない。お任せするしか無いだろう。彼等だって勝てば酷い事をするつもりで来たのだから、負けて捕まったら許して無かった事にしてくれは無理だ。

 捕虜を庇う義理も義務も無いし、どちらにしても殲滅するつもりだったが情報を抜き出す為に捕まえただけだし。他国間じゃなく属国だから、捕虜の取り決めとかも決めてない。

 

 人道?最悪の人権無視の人攫い連中に対して?面白い事を言いますね?

 

 エムデン王国の軍紀に照らし合わせれば、無用な徴発(略奪)は極刑。罪を犯して捕まっただけだ。うん。建前も問題無いしエムデン王国の国内法に照らし合わせても大丈夫だな。

 

「取り敢えず、皆さんに引き渡します。僕は後方に居る輜重部隊を殲滅して物資を貰ってきます。今後、資産って幾ら有っても足りないと思いますから必要になる分は頂かないと……」

 

 この言葉を聞いた捕虜達の表情が絶望に染まる。だが自分達は魔牛族の里を攻め滅ぼしに来た事を忘れないで欲しい。未遂だから無罪とはいかないし、実際にミルフィナ殿に対して防がれても即死級の攻撃を加えたんだ。

 無傷だから無罪、とはならない。被害者の方々に任せるのも人道的ですね。庇う気持ちが皆無なのですが、一応捕虜として捕まえたので自ら手を下す事には多少の抵抗は正直有ります。

 後は魔牛族の感情にも配慮かな。自分達だけでも跳ね返せた連中だし、直接的に迷惑を掛けて来た連中に対して思う所は必ず有るだろうし。無罪放免は有り得ないし、それをすれば僕に悪感情が向かってくる。

 

 正直、勘弁して欲しいしお断りだし。

 

「ならば此方で処理させて頂こう。それと残りの連中を倒すのに、我等の協力は必要ですか?資産の件は確かにそう思うし、貰える物は貰っておくべきだろう。当事者として?」

 

 ニヤリと笑われた。分け前を寄越せって事じゃなく、今後も色々と迷惑を掛けるから手伝わせて下さいって意味だろう。空間創造のギフト持ちの僕には荷物持ちは要らないのだが、普通は手伝いを申し入れるよね。

 有難い事だが、そういう意味でも気を遣ってくれているのだろう。魔牛族の男性陣は、気持ちの良い心を持つ連中だな。女性陣も少しは見習って欲しいです。

 適度な距離間を保ちつつ、常識的な手伝いを申し入れてくれるのだから感謝しかない。これが恩着せがましくとか欲望に漲った手伝う提案は止めて欲しいんだが。

 

 ゴーレムマスターの僕には、手伝いの人出は不要なんだ。

 

「リーンハルト殿は女性よりも男性の方が好きなのですか?私と話している時よりも、兄達と話している時の方が楽しそうですわ」

 

 ミルフィナ殿が拗ねた様に言うが……え?兄達?複数なの?この男性陣って、ミルフィナ殿の御兄妹の方々なの?

 

「妹よ。そう拗ねるでない」

 

「そうだぞ。レティシア様に入れ込んでる、お前が文句を言える訳が無いだろ?それに俺達も生産性の無い不毛な男色の気など無い」

 

 え?貴女の異常性癖が、兄妹にバレてますよ。大丈夫ですか?一応、魔牛族の指導者集団の一員ですよね?ラーラム氏族の代表ですよね?思わず笑ったら、失礼ですねと腕を叩かれた。

 

「レティシア様に向ける感情は崇拝と憧憬ですわ」

 

 憧憬、憧(あこが)れですか?いやもっと俗物的な感情を向けていたと思いますが、また叩かれても困るので黙っていました。思ったよりも兄妹仲は悪くなさそうですね。

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。