古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第885話

 魔牛族との交渉について、漸く進展と言うか本題に入れそうな雰囲気となった。三人の幼女をけしかけた『ちゃんとした理由があるのです』とは何だろうか?ハニートラップ?まさかな?

 敵意が無い事の確認だけでも十分な理由にはなると思うのだが、それ以上の理由が有るといった。取り込みや懐柔とかの簡単な事では無いと理解している。でもそれ以外の事って?

 因みに三人の幼女の名前だが、エアレーとクユーサー、それとナンディーと言うらしい。可愛く自己紹介されたので、此方も正式な長ったらしい名前で貴族的な礼儀に則って名乗ったよ。

 

 彼女達は、ラーラム氏族の子供達だけではないそうで、各氏族からの代表というか選抜らしい。元々一族の中での婚姻を繰り返しているので、複数の氏族と血縁が複雑に絡み合っているそうだ。

 少数種族特有の『血が濃くなる』問題だな。兄妹間というか血の濃い関係での婚姻は不可だが、従妹は条件によっては大丈夫という。大まかには二親等までは駄目で三親等は良いということかな?

 色々と複雑らしく、直系血族・傍系血族・直系姻族・傍系姻族とか、あと尊属や卑属とか自分より前の世代、後の世代とか色々と婚姻を結べるには条件が有るとか。細かくは聞かない、人間の貴族も同じ様なモノだし。

 

 ざっくり教えてもらったのだが、その辺は人間の貴族間でも有るので理解は出来る。人間も遺産の相続に関して貰える貰えない、爵位の場合も継げる継げないで大体揉めるから。順調な遺産相続の方が珍しい位だし。

 その点で言えば、魔牛族は婚姻の条件は厳しいが遺産の相続については単純らしい。故人の遺産は配偶者と子供が半々、何方かが居なければ残った方が全部受け取る。

 配偶者も子供も居ない場合は少し変わっている。人間ならば一番近しい血族、祖父母とか兄弟姉妹で協議なのだが魔牛族は違う。故人と一番親しい者達で話し合い分配する事になる。

 

 勿論だが、血族が親しければ相続出来る。だが血が繋がっていても疎遠だったり仲違いしている場合は遺産は貰えない。血の繋がりよりも友好度に重きを置いているのかな?

 仕切り直しと言う訳ではないが、着席している全員にワインと軽食が配られて他の連中は部屋から出て行った。子供達も親らしき大人に連れられて行ったが、僕から離される時に大分抵抗したよ。

 もぅ何故にそんなにも、僕に懐いたのって不思議な感じだった。いや、僕も性的な意味ではなく子供は好きだよ。次代を担うのは子供達であり、大切に育むべき存在だからだよ。

 

 実子だったら、もっと愛情が深くなるのだろうか?転生前は子宝に恵まれなかったので、実際に子供が出来ないと分からないが……

 一通りワインが行き渡り、ミルフィナ殿が乾杯の音頭を取って軽く懇親会の流れみたいだ。堅苦しくない緩い歓待だが、それはそれで良い。今夜はこの館の客間に泊めて貰う流れなのだろう。

 妖狼族もそうだが、魔牛族も酒には強いみたいでガンガン注いでくれるのだが……殆どが見目麗しい淑女なのに大酒飲みってどうなの?こっちが酔い潰される勢いなのだが?

 

 側近の二人が左右に座り順番に注いでくれるけどさ。交渉事の前に酔い潰して前後不覚にして提案の快諾を求めている訳じゃないよね?残念だけれど伊達じゃないんだ、エムデン王国一番の酒豪って渾名はさ。

 魔法で酒精を飛ばすというズル込みの称号だから、僕に大酒を飲ませても殆ど素面ですよ。同じ位に勧めているから参加者も全員同じ位に酔ってるよね?全員お酒が好きなのか?僕に勧めた以上に仲間にも勧めて飲んでない?

 あれ?これって不味くない?僕は魔牛族の上層部の女性陣を次々と酔い潰してない?酒の上の過ちに直行してない?

 

「その、そろそろお酒は控えた方が良くないでしょうか?」

 

 酔っぱらいは全員そうだ。酔ってない、未だ飲めると言い張る。上半身が左右に揺れて呂律も回らない状態で、何故に意地を張る。酔ったら酔ったと認めれば良いじゃないか。酒に勝ちも負けも無いよね?美味しく楽しく飲んだかどうかだよね?

 飲み比べ勝負をしている訳でもないのに、意地を張るなよ諦めろよ。無理って言えば良いのに何故に頑張る?しかも女性がワインのフルボトルを片手に意地を張らなくても良くない?

 見渡すと半数以上が同じ状態だけど、もう懇親会として成り立ってなくない?知り合いとの飲み比べと同レベルまで落ちたよね?ミルフィナ殿も意地を張らずにお開きにしようよ。

 

「未だです。私は未だ全然大丈夫です」

 

 いえ、全然大丈夫じゃないから言ってます。この万国共通の酔っぱらい共がっ!

 

「未だ飲めます。魔牛族はお酒に強いのが自慢なのに、一族全員で掛かって潰せないって何でですか?」

 

 魔法でズルをしています。でも魔法も僕の力だし、貴女方も魔牛族の特性として酒に強いのだから同じです。そもそも、お酒が原因の過ちが嫌だから魔法でズルをしています。

 酔っぱらって前後不覚になるなんて、無防備以外の何者でもないし下手したら殺されるし。貴女方だって、酔っぱらってお持ち帰りされたらどうするんです?そういう目的の連中が多かった筈で嫌がってましたよね?

 結局、懇親会は全員が飲みつぶれるまで続いた。ワインを何本飲まされたか分からないのだが、前後不覚に陥った大量の美女をどうすれば良いのか分からないです。

 

 呆然としても何も始まらないし終わらない。仕方無く部屋の外に出て大声で『誰かいますか?』と叫んだら、素面の男性陣が出て来て酔っぱらい共を回収してくれた。

 彼等は酔っぱらいの伴侶や親族らしく、魔牛族は酒に大変強いのだが飲み負ける事は恥と迄は言わないが情けないと思われるらしい。なので大事な交渉の前哨戦として飲み比べをするそうだがいい迷惑だ。そもそもバーリンゲン王国の連中相手に歓待はしないので、人間では僕が初めてらしいが嬉しくは……少ししかない。

 知らなかったし、知っていたら適当な所で負けても良かったな。事前情報で『エムデン王国で一番の酒豪』って事を知っていて負けず嫌いが発動したのだろう。

 

 因みにだが、呑み勝っても特に何も賞罰は無い。只、酒に強い事は誉(ほまれ)らしく勝てば一目は置かれる。交渉の前哨戦で完勝したのだから、その後の交渉事は有利に運ぶらしい。

 

「母性の象徴の様な女性なのに大酒飲みの酔っぱらいってさ。どうなんだろう?」

 

 ギャップ萌え?いや、そうじゃないそうじゃないんだ。もっと、こう……有るだろ、女性に求める事って普通にさ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 魔牛族の男性陣達と一緒に懇親会場の片付けをしながら、色々と情報を仕入れた。普通はしないし駄目な行動だろう。国家を代表して来た交渉役が、使用人みたいな片付けを手伝うとかさ。

 まぁ人間の常識に照らし合わせるとって事で、女性優位な種族ならば男性が家庭の事を仕切るのが普通で常識。それを手伝えば好意的に受け入れてくれるし、普通は知らない情報も教えてくれる。

 因みに男性陣にも立派な角が生えていて肉体は筋骨隆々というか骨太というか逞しいです。性格は温厚、だが戦いの時は武器を持って前線で直接攻撃を担い、女性陣は魔法を多用するそうだ。

 

 色狂いの人間ばかり見ていたので、女性を酔い潰しても何もしない事に大変驚いたそうだ。結婚していると言ったら納得された。彼等は一夫一婦制で貞操観念はとても強いそうだ。

 伴侶が居るなら浮気などしないだろうと……すみません。僕は結婚していますが側室を一人迎えただけで、今後は本妻と他に二人側室を迎えるのです。とは言えなかったよ。

 でも同性愛者なのかと疑われていたそうだ。ミルフィナ殿からは幼女愛好を疑われたし、酷い性癖の風評被害だよ。本当にバーリンゲン王国の連中は困り者だよ……同列だと思わないで欲しい。

 

 後片付けを終えて、男性陣だけで簡単な夜食を御馳走になり客室に案内された。呑み過ぎた胃に優しい野菜と塩のみで煮込んだスープは身体に沁みて美味しかったです。

 因みに襲撃者対策の監視は男性陣が交代で行っており、もし襲撃が有れば最優先で知らせてくれると言われた。本当に警戒しなければ駄目なのは僕の方なのにさ。お手数をお掛けします。

 魔牛族の男性陣とは仲良くなれた気がする。余談だが彼等の戦闘スタイルは全身鎧を着こんでの集団戦。武器は両手持ちの打撃系を好むので、基本的に盾は使わないそうだ。

 

 見せて貰ったが、僕の身長と変わらないバトルアックスやウォーハンマーを軽々と扱っていたよ。普通に強い、これに後方で女性陣が魔法の攻撃や補助を行うならば早々負けはしないだろうな。

 因みに『剛力の腕輪』の効力で持たせて貰ったメイスを片手で振り回した事に驚かれた。彼等が扱う武器としては軽い方だが、全金属製で重量は20kg以上は有るからだろうか。

 妙な事で意気投合して、空間創造の中に死蔵していた『ひたすら丈夫で自己再生能力しか付加してない』打撃武器を大量に渡したら喜ばれた。物凄く喜ばれた。その場で胴上げされる位に……

 

「で?私の兄や一族の男性陣を篭絡してどうするのですか?」

 

「女性陣を酔い潰して放置、男性陣と友好を深めるとか……リーンハルト殿は女性よりも男性が好きなのですか?」

 

 朝食を食べる席で、側近二人に酷い誤解を受けた。別に普通に会話していただけですけど?確かに男性陣に囲まれていますが、大酒飲みの女性陣に囲まれるより気が楽ですけど。

 種族独自の料理を希望してみた。朝食のメニューは羊の肉をミンチにして練った小麦粉で包んで油で揚げたホーショル、野菜と骨付き肉を塩で煮込んだチャンサンハマというスープ。乾燥させたチーズと簡素だが美味しい料理だ。

 男女共に良く食べるみたいで人間の五割増し位の量を出された。女性陣は二日酔いかと思われたが普通に回復している。酒に強い種族って話は本当みたいだな。

 

「いえ、僕は健全な異性好きですよ。既に側室を迎えてますし、妖しい性癖など有りません」

 

 また性癖に誤解を生じる様な話をされた。朝っぱらから人間は異常性欲者って偏見は止めて下さい。本当に心が萎えますから。

 

「いやいや、リーンハルト殿は中々の御仁ですよ。私達の扱う武器を同じように扱えるし、魔法の腕も確かというし。レティシア様達が贔屓にしているのも分かりますよ」

 

「本当に彼等と同じ種族とは思えない。ファティ様が特別な人間と言った意味も今は理解出来ます。前後不覚になるまで酔った異性を伴侶が居るからと興味も寄せない貞操観念も素晴らしい」

 

「妹よ。酒呑みで負けるとは、魔牛族の女性としてどうなのだ?リーンハルト殿に娶って貰ってはどうだ?我等と違い人間の貴族は、一夫多妻も受け入れるそうだぞ」

 

 いやいやいや、皆さん何を言ってるのかな?そして『それは私の役目では無い』って思わず零して口を塞いだのは何故かな?ミルフィナ殿もしまった的な顔をしたよね?

 僕は未だ彼等と話し合う必要が有りそうだな。時間は少ない、馬鹿共が攻めてきたら対応に追われて有耶無耶にされそうだ。上辺だけの笑顔を向ければ、引き攣った顔のミルフィナ殿が目を逸らした。

 大変分かり易い行動ですね。キリキリ全てを吐いて貰いましょう。僕は妖狼族の面倒を見るだけでも大変なのです。何と言っても女神ルナの御神託とか色々と胃にクる事も多いのです。

 

 そこに魔牛族まで絡んで来るとか、正直勘弁して欲しいのです。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 朝食時の失言に対して、言い訳を聞こうと笑顔で問い詰めたら応接室に押し込まれた。どうやら、ミルフィナ殿と二人きりでの話し合いになるみたいだ。

 一族の失言に困った顔をしたが、何故に異種族の僕に嫁ぐとか娶られるとかの話が出たのか?思わず言ってしまった感じの『それは私の役目では無い』とは?

 バーリンゲン王国の愚か者共が襲ってくる前に確認しておかないと駄目だ。事が終わったら有耶無耶にされそうで怖いし、ミルフィナ殿の魔牛族の思惑を知っておく必要が有る。

 

 悪巧みではないだろう。それをすれば、エルフ族というかレティシアを刺激する。魔牛族の立場として、エルフに悪感情を持たれる事などしないだろう。困るのはエルフ達も同意してる場合だが……

 

「それで?なにやら僕に内緒の思惑が有りそうですが?」

 

 直球で問い質す。しょんぼりしている女性に対する言動ではないが、ここで明らかにしておかないと必ず後で後悔する。実体験で学んでいるから間違いない。

 しかも、ミルフィナ殿の態度が怪し過ぎる。目が泳いでいる、手を忙しなく動かす。オマケに貧乏揺すりまで始めた。相当困った問題なのか?もう少し誤魔化す努力はしなくて良いの?

 一族の代表として交渉役として、もう少し取り繕うとか色々あるでしょ?バーリンゲン王国の失礼な連中とも渡り合って来たんだよね?そうだよね?

 

「話せば長いのですが、エルフの方々が決定した事なのですが……バーリンゲン王国と呼ばれている地域は、森に埋まって無くなる事になります。自然に還ると言えば良いのでしょうか?」

 

「森に、埋まる?」

 

 森に埋まる。森が浸食する?自然に還る?自然とは?原初の深い森の事か?そもそも何だそれは?何故それをミルフィナ殿が教えて貰っている?エルフが大地を自然に還す。

 

 それって……

 

 


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