古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第884話

 魔牛族のラーラム氏族の館に招かれた。氏族の重鎮達以外にも子供達とかも集まっている。完全に見世物みたいになっているのは、午後からの僕の行動を見られていたから。

 ラーラム氏族以外の者は集まってはいない。それは明日になるそうだ。一応だがラーラム氏族の代表が魔牛族の里の代表という事らしく、今は若いミルフィナ殿が代表で重鎮達がフォローしている現状。

 若い二人の魔牛族は側近候補で教育中、基本的に対外的な交渉は三人で赴くらしい。女性が優位な種族らしく、男性は家向きの事を主にしているので交渉事とかには参加しないとか。

 

 妖狼族も女性優位だったか?婚姻の最終的な判断は女性側だったっけ?異種族も強ければOKらしく、身体的な強者でなく魔法力が強い僕にまで夜這いに来る連中が居る位だし。

 エルフ族は特に男女平等だったと思う。まぁ彼等は年齢と魔力の多寡で順位が決まってそうな感じだが、そこまで詳しく無いので余計な詮索はしない。彼等は思考を読むし、何がタブーだか分からないし。

 『触らぬ神に祟り無し』という有難い言葉も有るので、それを心掛けて常日頃から実践しています。

 

「今回の件は事前にケルトウッドの森のエルフ族から知らせが届いていましたので警戒はしていましたが、リーンハルト殿が一人で訪ねて来ると知って驚きましたわ」

 

「人間とは数の多さが力の根源、単独で敵対している国内を移動して来るとは驚かされました。ですが貴方は他の人間とは違うのだとも教えて貰いましたので理解は出来ませんが納得はしました」

 

 側近の二人から状況の説明をして貰った。予想通りに事前に連絡が行っていた訳だよ。風の下級精霊の空鼬(からいたち)の案内よりも先にって事は、僕がエルフの里を訪れる前にって事だな。

 レティシアの性急な対応とかも、僕の知らない内に状況を把握して間に合うように調整してくれたのか。彼女に対しての借りが積み重なる。ファティ殿もディース殿も協力してくれたのだろうな。

 魔牛族の方々は、自分達が崇めるエルフ族が此処まで配慮をする相手に対して、嫉妬心とか対抗心とかは抱かなかったのだろうか?穏やかな種族とは聞いているが、少しだけ不思議に思う。

 

「今回の件は、同一視も一緒くたにもされたくはありませんが……同じ人間族の仕出かした事に対する後始末として来ました。既にご存じだとは思いますが、愚かな者共が此処を襲撃する。

その対処をクロレス殿から一任されました。襲撃に対する用意は済ませているとは思いますが、今回は僕に任せて頂きたい。我が王も今回の件で、この国を一度浄化する事に決めましたので今後は少しは改善する事になるでしょう」

 

 そう言って頭を下げる。僕の予想よりも魔牛族の里の防衛機能は強固とみた。あの鉄柱の効果は敵意ある者に対して発狂する程の精神攻撃を仕掛ける。

 それなりのリスクと言うか対価というか、常時作動させていない理由が有るのだろう。多分だが作動させるには相応の魔力が必要とか何かを消費している筈で、それは有限で有ると思う。

 多分だが、あの鉄柱の設置にはエルフ族が絡んでいる。そうなれば魔法特化種族ならば、魔力の消費による作動だろう。考えるのも億劫になる膨大な魔力を持つ連中のマジックアイテムなど、普通なら直ぐに魔力が枯渇して使用不可だ。

 

 魔牛族の連中は人間よりは保有魔力は多いがエルフと比べられる訳ではない。その辺の事を製作する彼等は考慮しないんだよな。自分達が魔法種族の頂点と自負しているなら、下々の者達でも使える細工をしろよ。

 僕なら一時的に魔力を溜める機能を組み込む。魔力球とかフルフの街の軍事拠点、昔はアスカロン砦と呼ばれていた。転生前の僕が造り上げた軍事拠点、管理は制御装置としての魔力球に自分の魔力を貯めて作動させていた。

 改良をしてあげたいと言っても聞き入れられないだろう。エルフ謹製と思われるマジックアイテムだし里の防衛の要だし、他人に見せられるものでもないだろう。僕自身、興味が有るが残念だが諦めよう。これは交渉のネタにすらならない。

 

「それは構いません。クロレス様からも、リーンハルト殿に任せる様に言われています」

 

「ファティ様からも条件付きとはいえ、自分と引き分ける程の腕前なので安心して任せてしまえ!と言われています」

 

 側近二名が説明してくれたのだが、ミルフィナ殿は何故か分からないが少し不機嫌そうにしている事が分からない。逆に側近二人は既にエルフから指示が出ているので、僕に任せる事に不満はなさそうだ。

 エルフの御姉様方が、人間の僕の行動にここまで配慮して手を回してくれる事が驚きだ。魔牛族の連中も、その驚きを同じく感じているのだろう。だから僕は拒絶されずに受け入れてくれた。

 普通なら難航する問題も殆どお互いの確認程度で済むって凄い。これ異種族間の交渉なのだが、同じ人間同士の交渉の方が何倍も苦労するって何だよ。

 

「レティシア姉様からも何度も言われてますので今更反対はしません。ですが本来ならば、あの無法者共は私達が磨り潰したかったのです。本当に失礼極まりない連中です」

 

 そう言って差し出して来たのは親書の束か?蝋封は……多分だが元宮廷魔術師筆頭のマドックス殿のじゃないかな?一応、引退したとはいえ宮廷魔術師筆頭だったし関連の名家の家紋位は叩き込まれている。

 あの爺さん、後継者が処刑された事で心が折れて引退した筈だと思ったが、何故に魔牛族に親書を大量に送っているんだ?読めって事だと思うので包みを解いて中身を確認するが、あまりの内容に頭が痛くなって来た。

 左手でコメカミを揉む。この国の連中って須らく殲滅させる必要が有る事を再確認させられた。丁寧に折り畳み元通りに包み直して、ミルフィナ殿に渡す。最初の一通だけで胸焼けしそうな位にムカムカしてます。

 

「老いらくの恋と言いますか、何と言いますか。内容は失礼極まりないと思いますので、僕の方で念入りに磨り潰しておきますので安心して下さい」

 

 熱烈で下品極まりない恋文と言う名の脅迫文というか妄想文というか、いい歳なんだから欲望駄々洩れってどうなの?僕からすれば祖父みたいな年齢差で、ミルフィナ殿からしても実年齢は年下だが見た目は祖父と孫だぞ。

 そんな相手に対して、自分の欲望を綴ったモノを送るとかさ。だから人間は異常性欲者とか言われるんだよ。風評被害も甚だしい、物凄く迷惑極まりない。普通に同性であっても気持ち悪い。

 こんな下劣な恋文を大量に送られたならば、自分で対処したいと思うのが普通だ。拒否という意味で思い知らせたいのだろう。その拒絶と仕返しのチャンスを潰された事に対する不満か?結構根に持つタイプか?

 

「私達も種族的特性として母性に溢れている事は理解していますし、時にはその特性を使い有利に事を運ぶ場合も有りますが……」

 

「見つけ次第、滅しますので安心して下さい。詳細は言わなくても大丈夫ですし、聞きたくも有りません。正直な事を言えば老人の妄想に付き合う必要も感じません。言葉にするのも嫌でしょ?」

 

 あの爺、性癖がマゾだったのか。良い意味でいえば「尽くされるより尽くしたい」とか「追いかけられるより追いたい」とか思いやり精神に溢れているとも言える人も居る。

 だがこの爺、自分の性的嗜好を相手に強引に押し付けて来る駄目なタイプの方だ。変態性被虐趣味とでも言えば良いのか?ミルフィナ殿に虐められたい。しかも彼女の服装から台詞まで細かく指示している。

 こんな親書を送られた、ミルフィナ殿の心情を慮ると何とも言えない気分になる。これが人間という種族のスタンダードだとは思われたくない。この国は異常者の博覧会か、最後まで気持ちを萎えさせてくれる。

 

「まぁそうです。そういう目で見られ慣れてはいますが、嫌なモノは嫌なのです」

 

 気まずい沈黙、子供も参加している話し合いに出す話題では無いよな。何となく子供達に視線を送れば、驚く事に僕の直ぐ近くに居た。まただ、また察知出来ずに接近を許してしまっている。

 側近達だけでなく子供達まで、この移動術を使えるというのか?やはり種族的な特性か?野生の牛にそのような隠密移動が可能な特技は無いから、やはり魔牛族ならば全員使えると思った方が良い。

 ぎこちなくない笑顔を浮かべる。一族の子供達を近付けても良い位には信用されていると判断して良いと思う。いや一族の未来を担う子供達を近付けるって、相当の信用度だと思うぞ。 

 

 魔牛族の中での、僕の立ち位置って何なんだろう?

 

「えっと、何かな?」

 

 好奇心だろうか?物珍しさだろうか?キラキラした目で見詰められているのだが、どう対応したら良いのか難しい。何がタブーか分からないから触れる事も避けねばならない。

 だが邪険にする事はマイナスでしか無いし、頭を撫でるとかも角に触れる事が良いか悪いかも分からないから難しい。故に優しく微笑むしかないのだが、満面の笑みを浮かべるだけで何か話し掛ける事も無い。

 困ったので、ミルフィナ殿を見るが嬉しそうに笑っているだけで何も言ってくれないし側近二人も同じだ。ここで迂闊に頭を撫でたりはしない。女性に不用意に触れる事は駄目なんだ。

 

「リーンハルト殿は本当に異種族に偏見や害意を持っていないのですね。私達、魔牛族は敵意や欲望を敏感に感じ取れます。幾ら隠しても表面上は取り繕っても分かります。そして幼少期は特に悪意に敏感なのです。

その子達が無警戒に笑顔すら浮かべて近付くなど、里の者達と同じかそれ以上なのです。僅かながら幼女愛好の性癖が有るのかと疑いましたが、その疑いも晴れました」

 

 嗚呼、そういう意味だったのか。確かに種族的特性って言われれば納得するしかないな。野生の動物も、他の者の感情を読み取る事が出来るっていうし。これも危機感知能力なのだろうか?

 あと僕は幼女愛好には否定的なので誤解の無いようにお願いします。何故、結構な頻度で疑いを掛けられるのだが……何かしらの原因でも有るのだろうか?いや、全く無いぞ。周囲には多いが、僕は潔白だ。

 後で確認しよう。何かしらの理由が有り、それを改善しないと必ず問題になる。経験則に基づいて女性問題は甘く見ない。正直、浮気してないのに女性問題は山積みなんだよ。側室予備軍とか、リゼルとかリゼルとかリゼルとか……

 

「いや、何故幼女愛好家のレッテルを貼られていたのですか?地味に傷付いていますので、あとで何故そう思ったか理由を教えて下さい」

 

 そう言うと子供達が抱き着いてきた。一人は膝の上に乗って来るし、一応独立国家の代表として交渉に来てる相手に纏わり着くとかどうなの?ヘルカンプ殿下なら歓喜で泣き出しそうなシチュエーションだけど、僕は困惑しかない。

 もしかしなくても、僕には幼女に懐かれる特殊な何かが有るのか?ユエ殿とかダーダナス殿の孫娘達にも懐かれたし、転生による不思議な能力が……有る訳無いだろうし、有ったら困るし。

 不用意に触らない様に両手を上げて降参する。幼女三人に抱き着かれる状況に、周囲の連中も嬉しそうにしているけどさ。仮にも子供だとしても異性に抱き着くとか慎みを持たせた方が良いと思うんですよ。

 

「嫌ではないが、そろそろ離れてくれるかな?あとミルフィナ殿は黙ってないで助けてくれると嬉しいです」

 

 幼女との戯れは、もうそろそろ限界で一杯一杯です。

 

「貴女達、リーンハルト殿が困っていますから今は離れなさい」

 

「「「はーい!」」」

 

 いや『今は』じゃなくてですね。出来れば今後ともにです。あと初めて喋ってくれましたが元気が良いのは大変宜しいのですが、手を放したり膝の上から降りてくれたのは良いのです。

 でも何故に未だ近くに居るのかな?もっと離れてくれても良いと思うんだけど、駄目ですか?そうですか?

 視線を向けたらにっこり笑って、また触れようとしなくても良いです。危害を加えない、害意は無い事が分かってもですね。べったりくっ付かなくても良いと思うのです。

 

「そう困った顔をしないで下さい。ちゃんとした理由が有るのです」

 

 む?顔に出ていたのか?交渉役としての仮面が外れていたのか?それは大失態、相手に不快な感情を抱かせてしまったのなら謝罪しなければならない。

 でも理由?幼女をけしかける理由?そんなモノが有るのだろうか?ヘルカンプ殿基準じゃないよね?そんな事をされても要求は快諾しませんよ。

 だが周囲の連中も真剣な表情で頷いた事を考えれば、交渉はもう少し続くみたいだな。

 

 いや、これからが本題か?

 

 




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