古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第873話

 『側室予備軍』や『本妻様の下部組織』を自称する淑女達との定期的な報告会で、新しい淑女を紹介された。モニカ嬢というエムデン王国内では珍しい瞳の色が緑色の女性。

 曲者揃いの淑女達の中でも相当な感じがする。パッと見は良く言えば落ち着いていて冷静沈着、悪く言えば簡単には心を開かない他人に距離を感じさせる。つまり冷淡?

 いや仲間達に足を踏まれたり蹴られたりしてるから全く他人と距離を置いている感じではないのだろう。外見と少し話した感じでの第一印象だから、偏見や決めつけは駄目だろう。

 

 だがユエ殿に近い感じもする。見た目は純真無垢な幼女だが実年齢と満月の晩にしか見せられない妖艶な大人の女性。そして妖狼族を束ねる巫女であり女神ルナの御神託を授かる能力を持つ。

 見た目と中身の違い、幼い外見だが中身では大人顔負けの智謀を巡らせている……はずだよね?最近は少し色ボケしているって、サーフィル達に言われているんだよな。

 まぁ兎に角、曲者で油断がならないって事で良いだろう。本人曰くギフトは『助言』らしい。名前で想像すれば他人に対して適切なアドバイスをくれるって事だけどさ。

 

 それって女神ルナの御神託みたいに神の視線で全てを把握し適切な対応を教えてくれるのとは違うと思うんだ。全く知らない者が何を悩んで何を求めているかなんて分かる訳が無い。

 悩みを打ち明けて助言を貰うとしたら、『占い師』となにが違うんだろう?マリエッタの『星読み』みたいに不特定多数の事象が分かり、その中で自分達に係る事を読み解くものでもなさそうだ。

 此方から質問する迄は何も話しません!みたいに黙って微笑まれても困るのだが?横目でクラリス嬢達を見るが同じく、僕の対応を待っている感じだな。やはり此方から何か言わないと発動しない系のスキルか?

 

「モニカ殿のギフトは、『助言』ですか。それは他者に対しての助言をする。そう理解しても宜しいのでしょうか?」

 

 直球で聞いてみる。どちらにしても報告会に参加したならば、僕に対しての何らかの有利な事が出来るという意味だろうし。助言か、基本的に信頼できる助言者も神託を授けてくれる神様もいるから必要あるかな?

 いや内容を知らない内に必要か不要かを決めつけるのは失礼だよな。この世界でギフトは何の疑問も無く受け入れられているけど全体像は謎だし、僕の知らない凄い能力や効果をもたらすものもあるだろう。

 僕だって全てのギフトを知っている訳でもないしって、返事もせずにジッと見詰められるのは困る。その全てを見透かす様な目は、相手に不敬と取られても文句は言えないし異性を無闇に見詰めるのも淑女としてどうなの?

 

「助言の対象者は自分を含む他人もです。今、自分に対してギフトを使っていますが結果は『半信半疑、実際に自分で確認するまで評価は保留。確かめる方法を提案すべし』と出ています」

 

「それはそれは、使い勝手の良いギフトですね。半信半疑と言うか洗脳効果持ちのギフト所有者に悩まされている最中なので、無暗に信じない事にしています」

 

 自分も対象者に選べるって凄いな。常に最適な助言をしてくれるって事だろ?でも公に彼女の活躍を聞いた事はないのは何故だ?実家の思惑で表に出ない様に隠していた?ならば何故、この段階で僕に接触したんだ?

 外面を取り繕っていた僕の内心が半信半疑と見抜いた事は凄いが、少し周囲の状況を見れる者ならば予測が出来る範疇だが、自分を試せって提案は自信が無ければ中々出来ない。

 それが立場上は相当上の僕に対して、失敗したら反省じゃ済まないのだから。いや、僕は罰とか与えないけれど身分上位者に自分を試せって言われて失敗しましたは不味いだろう。

 

「確かめる提案とは?なにか提示しますか?それとも僕から題目を出した方が宜しいでしょうか?」

 

 表情を変えない慌てない臆さない相手に対してどうするか?何が出来るか言って貰った方が楽なのだが、僕から提案して成し得た方が信用は得られ易いだろう。さて、どうする?

 

「リーンハルト様からの提案を受け入れた方が良い。ギフトの結果は、そう出ています」

 

 速攻で返されたが少し信じても良いと思い始めた。確かに最適な選択をしてくれているが、それを実行に移せるのは自分の能力次第な部分も有る。提案して貰っても出来る事と出来ない事が有りそうだ。

 最適な選択を選んでくれるのは凄い事なのだが、選んだ選択を実行出来るかは別問題の能力次第。成る程、このギフトは最適な事を選べるがギフト対象者の能力までは加味してくれない?

 それを踏まえて試練を与えるとなると何が良いだろうか?重大で深刻な事よりも下らない事の方が分かり易いかも知れないな。目下の事で悩み事と言えば……

 

「幼い娘達に絵本を読み聞かせたいのですが、タイトルは何が良いですかね?」

 

 この提案、一見下らないが効果を判断するのは幼い二人の淑女達で僕ではない。絵本のタイトルと言ったが、そもそも特定するには蔵書のリストが無ければ無理。

 そしてお茶会は午前中で終了、彼女達は昼食には呼ばれないだろうから絵本の読み聞かせの頃には居ない。故に結果を知らせる迄に多少なりとも時間が稼げる。

 他人に言えない秘密を大量に抱え込んでいるので、内面に迫る助言とかは危険な場合が有るから慎重になるしかない。彼女の場合は特に身近に置いて良いか判断に迷う。何故なら腹黒っぽいから……

 

「タイトルと言われましても、私はこの屋敷にある絵本の事は知りません。ですが、そうですわね。彼女達が今年の誕生日に祖父から贈られた絵本が良いと思います」

 

「成る程、そうですか」

 

 淡々と言われたが、何時ギフトが発動したか分からない。だが『彼女達』が『誕生日』に『祖父から』と知らないワードが多く出れば信じるしかない。

 意地悪な問い掛けなのは分かっていたが、それを含めての助言だとすれば本物だろう。これは困ったな。僕が秘密を抱え過ぎていて身近に置きたくないと思っているのがバレたらどうする?

 効果は凄いと思うが、凄く面倒臭いギフトだと思う。いや深く考えるのは止めよう。今日は顔見せだけで直ぐに雇用に直結する考え方は不味いな。人材不足が酷いが思考まで偏っているよ。

 

「ギフトの助言ですが、想像以上に凄いと思います。早速参考にさせて頂きますね」

 

 ニッコリと微笑みながら御礼を言う。試練というか僕の意地悪な御題を疑いようのない回答をした。後は実際に読み聞かせて彼女達の反応を見れば良い。

 でも大好きな祖父からプレゼントされた絵本なら、お気に入りの筈だから喜ぶだろう。このギフトの凄い所は対象の絵本の入手先まで特定した事だな。流石にプレゼントの内容を事前に知る事は不可能だろう。

 笑顔を添えた御礼にも特に反応は薄い。だが御礼に対して同じく微笑みを浮かべながら目礼を返して来た。なまじ外見が良いから困る、無表情からの微笑みとか普通に勘違いするだろうな。

 

 いや、危険な相手に勘違いを誘発するような態度など取らないだろう。それこそギフトを使い回避する事だと思うし、それが有効的な使い方だと思うし。

 

「リーンハルト様は私のギフトについて思う所が有るのですね。深読みせず距離を置く事が吉、そう私のギフトが囁いています」

 

 そう言って深々と頭を下げた彼女の表情は今迄とは違い晴れ晴れとしていた。そうか、彼女のギフトは本物で僕の隠している秘密に辿り着く可能性が高いのか。

 だから多分だが定例会への参加は避けていたのに何かしらの事情で参加せずにいられなかった、その有効性の高いギフトを役立てって事なのだろう。だがそのギフトが、僕に近付く事は危険と判断した。

 本当に顔見せだけのつもりで、僕の側室になりたいとか雇用して欲しいとか……そんな考えなど全く無かったんだな。いや自分ながら恥ずかしい、勘違いも甚だしい。

 

 この定例会に参加した淑女全員が僕の側室になりたいとか雇用して欲しいとか思っていた自分が本当に恥ずかしい。少し自惚れが過ぎるのかもしれないので、気を引き締めないと駄目だな。両手で頬を思いっ切り張る。

 

「あの?いきなり気合を入れられても困るのですが……そんなに頑張られても私はですね」

 

 結構良い音がして、それなりに痛かった。気合が入り過ぎたみたいだが、浮ついた気持ちへの罰も有るので構わない。だが女性陣はいきなりの奇行に引き気味なので反省します。ごめんなさい。

 

「いえ、個人的な気持ちの切り替えなので気にしないで下さい。勿論ですが、貴女の意見を尊重しますし協力が出来ない事について一切の責を負わす事は無いと誓います」

 

「リーンハルト様?それは、そのような事は……」

 

「お互いの事情も有りますし構いません。いえ、僕の方が無理強いしてしまいましたね。申しわけないです。モニカ嬢の御実家の方には勘違いしない様に、僕の方から連絡を入れて置きます」

 

 そういって、クラリス嬢が何か言い掛けたが遮って言葉を被せる。モニカ嬢の実家の思惑が分からないが、わざわざこの定例会に参加させる位だからな。それなりの成果を上げなければ彼女の実家での立場が悪くなるだろう。

 当主の意向に沿ってないとか、気に入られなかった事に対してとか。身分上位者の不興を買ったとか誤解だって正確に伝えないと、今後の彼女の人生にまで影響する問題だよ。全く身分社会って悩ましいし難しい。

 僕もその身分社会の恩恵を受けているのだから、それを乱す訳には行かない。モニカ嬢の事は残念だが、緩やかに距離を置くが彼女に問題は無かったと伝えておこう。

 

 それ位のフォローをするのは当然だから。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 身分下位者に対して過分な対応をして、リーンハルト様は戻られました。この後は朝食会に呼ばれ、幼い子供達に絵本の読み聞かせをするとか?私達もお呼ばれしたいです。モニカを引き合わせたのは失敗でした。本人も乗り気ではなかった理由が、ギフトによる警戒だったとは先に教えて欲しかったです。

 本人は気にした様子も無さそうなのは、この結果もギフトによって事前に知り得たからでしょうか?ただ少し予想外だったのでしょうか?あまり感情を表に出さない娘ですが嬉しそうにしていますわね。

 付き合いの長い私でしか分からないでしょうが、この娘が口元を少し上げ続けている事が珍しい。なまじギフトで最適な行動を取り続ける事の弊害でしょうか?予想外な事に対する感じ方が普通とは少し違うのよね。

 

「散々嫌がっていたのに引っ張り出した事は悪いと思いますが、リーンハルト様に対して少し態度が悪くなくて?」

 

「自分の頬を叩いて気合を入れるという珍しい行動が見れたのは良かったですが、それが貴女に対する勧誘についてとは自惚れではなくて?」

 

 シャルロッテとヤーディが責めますが、問題はソコでは有りませんわ。確かに普段とは違う態度が見れたのは眼福でしたが、常に余裕を崩さない方の熱血な行動とか思いっ切り楽しめましたが……

 

「貴女と実家に対して最大限のフォローをして頂けましたが、何が『深読みせず距離を置く事が吉』なのよ?」

 

 そう、それよ!それは貴女のギフトの助言が、彼に対してか貴女に対してか分からないけれども不利益を生じるって事でしょう?それって、何か悪い事なの?

 チラリと非難を込めた視線を送れば、小さく笑ったわね。そう嗤ったわね。その嘲りというか上から目線の嫌な笑いは止めて下さい不愉快です。自分とリーンハルト様だけが分かっていれば良い。

 そんな感じの嫌な笑み。本当に嫌な女ね。実家の意向で断り切れなかったとはいえ、本人が乗り気じゃなかったのなら断れば良いじゃない。でも参加したって根拠もギフトなのでしょ?

 

「私のギフトによる助言は、リーンハルト様にとって不利益を生じる事が有る。あの方は、それを知る為にわざわざ意味の無い質問をしたの。そこで私自身が知り得ない事をギフトは反映させる事に気付いて距離を置く判断をした。

そういう事よ。元々秘密が多い殿方ですが、深入りする事は私を含めて実家の衰退にも関わるらしいの。だから嫌われる様な仕草をしたのだけれど、その辺もお見通しだったみたい」

 

 逃がした魚は大きかったわ!じゃなくて嫌われた魚は大きかった!の間違いでしょ?貴重な参加枠を浪費して失敗したとか、貴女は満足でも私達は大損よ。呑気に紅茶のお替りとか頼まないでよね。

 そのカップが空なのは少し前から知っていたわよ。貴女も柄にもなく緊張していたのでしょうけれども、今はすっきり晴れやかな感じですか?そうですか?

 

「まぁ良いわ。この失点のフォローはして貰うわよ」

 

「勿論構わないけれど、リーンハルト様絡みは駄目よ。釘を刺された事もそうですが、確かに不味いのよ。あの方はバーリンゲン王国の粛清に大きく関わるわ。それは私達の実家とは余り関わり合いが無い、御自分と少数の者達だけで行う。

でもそれは非常に厳しい事になるわ。私達がではなく、敵対する者達がよ。他種族も関わる大きな動き、いえ凄く大きなうねりとなる」

 

 そう言葉を止めて私達を見回した後で辛うじて聞こえる声量で呟いた『エルフ・精霊魔法・女神の御神託』って不安になる単語は何なの?エルフって何?精霊魔法って?女神って、どの宗派の女神の御神託なの?

 貴女のギフトは貴女の知らない事も含めて教えてくれるのは知っていますが、不穏過ぎる単語ばかりじゃない。その全ての単語に関わるのが、リーンハルト様って事なのね。

 エルフと精霊魔法は何となく分かります。精霊魔法を使えるのはエルフだけですし……でも女神の御神託は分からない。モア教は女神信仰ではないし、女神から御神託など授からない。

 

 つまり今回の件は、異教に関わるって事なの?それはそれで大事だけれども、根拠が貴女のギフトだけでは弱いのよ。

 

「今回は良妻賢母として、どう動いたら良いのかしら?」

 

 

 




2021年も明日で最後ですね。自分も皆様もコロナで大変な一年だったと思います。
この一年は本当に良い事も悪い事も色々有りました。
私生活も仕事もコロナの関係で随分と変わりましたが二年も続けば慣れるし、問題無く乗り越える事が出来ました。これも読者の方々のお陰です。
よくもまぁ自分勝手に書き殴る素人小説に何年もお付き合い下さり有難う御座いました。
誤字脱字も多いですが、毎回修正して頂き感謝で一杯です。有難う御座いました。

毎年最後は来年こそ完結をするする詐欺を行っていますが今年もやります。ええ、またやります。

『来年こそは完結させるぞ!』

この一年、本当に有難う御座いました。自分の好きな時に好きな様に好きなだけ自由に書く。そんな自己満足の塊みたいな作品に付き合って頂ける博愛主義の皆様の幸せを願って。

今年一年間、本当に有難う御座いました。来年も宜しくお願いします。

追伸 別作品の『榎本心霊調査事務所』ですが、明日12月31日と来年1月1日に更新しますので良ければ読んで下さい。本編完結とIFエンド話その1です。
残りは少し時間が掛かると思います。

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