古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第871話

 幸せな日常、バーリンゲン王国が非常にキナ臭い状況だが、エムデン王国の王都は落ち着いている。国民達も困った隣国の事だが、特に実害がないので静観というか殆ど気にしていないのが現状だろう。興味が薄いというか、無いというか……

 属国になったといえども特に政治や経済関連で交流が頻繁に有る訳でもなく、文化や特産品が流入する事も無い。まぁ自国の劣化コピー商品みたいな物とかが輸入コストの関係で同額程度で入ってきても誰も買わないよな。

 アウレール王も特に交易を推奨していないし、逆に出入国審査を厳しくしている位だから余計に情報も入ってこないので無関心なのだろう。これは情報封鎖の前段階で、エムデン王国の国民をバーリンゲン王国に行かせない措置だな。

 

 既に敵国認定しているし、ソレスト平原に戦力を集めているが公式には軍事演習となっている。バーリンゲン王国の首脳陣が反エムデン王国勢力を抑えられずにいるので、万が一の為に国境線に戦力を集めているとしている。

 パゥルム女王の政権が脆弱だと言っているに等しいが、自国内から特に反発も不満も出ていない。かの国の色々な駄目な情報を流しているので、殆ど事実として納得しているみたいだ。公式に駄目国家扱いだな。

 この事は、パゥルム女王達の耳にも入っているかと言えば微妙だな。情報封鎖もそうだが、使節団を偽った暗殺集団の件で国交が必要最低限に抑えられている為だろうな。

 

 諜報員など送り込む余裕はないし、最低限の人材しか行き来できない状況で他国に広まる噂話を集められるかって言えば無理だ。かの国から来る連中には護衛兼監視を付けているから自由に情報を集める事など出来ない。

 地理的にも大陸の突端だし、エムデン王国を経由しないと他国にも行けない。まぁ陸路でなく海路を利用すれば可能かもしれないが、あの国の海運力は平均以下だから近海での漁業が精一杯だよ。

 遠方に人や物を運ぶ事など難しいというか自殺行為だな。実はエムデン王国も海運力は平均程度で強くは無いから、海路での移動は防ぎ切れないし全てを把握出来ないのが現状なんだ。まぁ海には未確認の海洋大型モンスターも多いので、各国も同じ様な感じかな。

 

 比較的に自由な時間が取れる時に次の行動の仕込みを行う。先ずは妖狼族の精鋭部隊を編制し、何時でも隣国に派兵出来る準備を行った。精鋭五百人の装備に移動手段、物資の確保も万全だ。

 僕も伯爵として私兵を動員する必要が有るのだが、当主本人が多数のゴーレムを率いて参戦するので人間の兵士は最低限でも構わないそうだ。その分、国内の治安活動を優先して欲しい。そういう命令を受けてしまった。

 前に王都の巡回警備を行ったが好評だったので、その規模を広くしたって事だな。王都在住の貴族の私兵を動員して巡回警備を行ったが、今回は『正規軍の再編計画』の情報を生かして対応しろって事かな?

 

 あとは僕だけが戦争関連で勲功を稼ぎ過ぎないようにする事も理由かな?効率を求めすぎても周囲から不満が募るし、そもそも軍属として存在する意義にまで言及する奴等も居る。

 要は軍事費を減らせ、予算を他に回せ。理由は軍縮で目的は間違いでは無いのだが、国力の弱体化は本末転倒。軍縮とは総戦力の低下を抑えつつ維持費を下げる事で、闇雲に減らせばよい訳じゃない。

 まぁ国家の中枢に食い込んで分かる国費の使用状況を知れば、採算性の皆無な軍事費や戦費など抑えたいって気持ちは分かるが国が滅ぼされたら意味が無い。その辺の事を理解しているの?僕が居れば低予算で国防は賄えるとか違うから勘違いも甚だしいから!

 

「リーンハルト様?頭を抱え込んでどうされました?体調不良でしたら、お休みになられた方が宜しいのでは?」

 

 最近は政務中に、ラビエル子爵達から心配される事が多くなった気がする。確かに上司が書類に塗れて頭を抱えていれば心配にもなるか。最近は、ザスキア公爵がリゼルも伴って王宮内で何かしている事が多いから執務室に居ない事が多い。

 その分、アインとツヴァイが手伝ってくれるんだ。最近は専用の机まで用意されている。可笑しいな?君達には政務能力など与えていないし、ドライまで姉達の手伝いを始めたが周囲の誰もが疑問に思っていない。

 何故、ゴーレムが政務関連で指示を出しても疑わない。何故、関係各所にゴーレムが書類を届けても不審に思わない。逆に何故、此処に届けるべき書類を自分で届けずにゴーレムに渡す?

 

「いや、何となく仕事でなく私的な悩みが頭の中に浮かんでさ。自分と周囲との認識の齟齬?それってどうやって改善すれば良いか分かる?」

 

 今も視界の隅で、アインが無言で書類を指さし何かを指示しているのが見える。それを理解したらしく『ああ、成る程。そうですね』とか返答してるけど、意思の疎通って可能なの?国籍や人種どころか、種すら超えてるよ?

 ドライが皆を労わる為に紅茶を用意して、それをロイス殿が率先して手伝っているけどさ。確かに彼女は貞淑で無駄遣いなど一切せず仕事も手伝う有能さだけど、熱い目で見ても伴侶にはならないしさせないしあげないよ。

 ホワイトな職場なのだが、他部署から見たら異常な部署と思われてない?いやいやいや、深く考えるのは止めよう。僕のゴーレムクィーン達の、我が愛娘達の進化を喜ぶのが父親(製作者)として必要な心構えだろう。

 

 王都の鍛冶ギルド本部のジーモン代表とレジーナ殿とも親書の遣り取りを始めたのだが、ゴーレムの自律行動の範囲って何処迄ですか?って鍛冶と関係ない部分まで質問が来るんだ。

 それって本来ならば魔術師ギルド本部からの問い合わせだと思うんだけどさ。レニコーン代表もリネージュさんも、僕のゴーレム技術に対しては達観したみたいな感じになってるんだ。

 そろそろ魔術師ギルド本部にも顔を出して、鍛冶ギルド本部と連携して生産品に固定化の魔法を掛けてから流通させる下話もしたい。王立錬金術研究所の新しい課題も考えないと駄目だし、比較的に自由の利く今しか動けないな。

 

「リーンハルト様の視点で我々との認識の齟齬については仕方ないのでは?視線の高さが違い過ぎて発生する齟齬の擦り合わせは難しいと思います」

 

「真面目な顔で何を言っているのかな?」

 

 見回せば今の会話が聞こえたのだろうか?全員が僕を見て頷いている。視線の違いって、僕が特別に異常って事?僕は魔法関連以外は常識の範疇だぞ。ああでも認識の齟齬ってゴーレムだから魔法関連か。それって仕方が無い事なのか?

 タイミング良く、ドライが紅茶と乾燥させたフルーツを用意してくれたので休憩する事にした。仕事中の甘味って良いよね。疲れが取れるっていうか、リラックス出来るっていうかさ。

 ロイス殿?熱心にドライに話し掛けていますが、彼女に何を求めているのですか?ドライも満更でもなく頷いたり手を動かしたりして対応してるけど、僕は君を嫁に出す事は永遠に無いからね。

 

「アレに関しては、僕の方が常識的だと思う」

 

「は?何がでしょうか?」

 

 何って、貴殿の息子が無機物のゴーレムクィーンに対して熱烈にアピールしている件ですよ。不思議そうにしないで下さい。貴族として直系が絶えて家が無くなる程の暴挙ですけど!

 愛に形は無いとか愛の形は色々とか言わないで下さい。生産性の無い関係に許可は出せませんから、早くリストから見合い候補を選出して日程を組まないと駄目だ。僕の王都滞在中に婚約まで進めるからな。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 日常に疲れを感じたが概ね上手く回っている。今日は王都の貴族街の巡回を名目に招かれた、ダーダナス殿の屋敷のお茶会に向かう事にした。実際は自称『本妻様の下部組織』とか『側室予備軍』なる構成員達と、定期的な会合に参加する為の方便だ。

 実際は有能な淑女を家臣団に迎え入れる為の顔見せ的な会合で、既にウルティマ嬢とレイニース嬢の二人と雇用契約を結んでいる。前者は本人と一族の諜報能力を見込んで。後者は『真実の目』のギフトを見込んで。

 レイニース嬢については、親族と少し揉めたが、ターニャ夫人の執り成しもあって円満に解決。我が屋敷に通いで働きに来ている。ジゼル嬢とリゼルを気に入ったみたいで、姉様と慕っているが……二人とも彼女の心を読んで油断ならない女だと警戒を促された。

 

 曰くウルティマ嬢は純粋に正面から実力を認めて貰い側室に迎えて欲しいとの事だが、レイニース嬢は裏に表に工作してでも側室に潜り込みたい強かさが有るそうだ。なので僕は直接的に関わらず、ジゼル嬢に一任した。幼くても有能な淑女には違いないらしい。

 あと何故か、ウルティマ嬢はジゼル嬢のお気に入りらしく僕の屋敷じゃなくて彼女の実家である、デオドラ男爵の屋敷にも招いて色々と手解きをしているそうだ。腹黒淑女として、着々と教育されているという事なのか? 

 何度目かの訪問、既に連絡は入れているので警備の連中も僕の家紋を確認しただけでノーチェックで門を素通りさせるし、もしかしなくても少し警戒が緩くないでしょうか?

 

「「「ようこそいらっしゃいました。リーンハルト卿」」」

 

 左右に整列し一斉に声を揃えて歓迎されたので、窓から顔を出して労う。

 

「警備、ご苦労様です」

 

 玄関には、ターニャ夫人と恒例となった孫娘二人の出迎えを受ける。その後ろに控える様に、彼女達の母親が並んでいる。苦笑いを浮かべているのは、自分の愛娘の行動に対してだろうか?

 本人達は僕の事を血の繋がった『叔父』と思っているし、ダーダナス殿もターニャ夫人も誤解を受けない範囲で家族的な関係だと認めてるし。自惚れじゃなく我が子と僕を重ねていると思う。

 享年も近いし同じ名前だし、英雄と呼ばれる者と英雄に憧れた者。共通点も多いし断る事でもない。まぁ幼女愛好家のレッテルを貼られる事だけは許さないけどね。

 

「ようこそいらっしゃいました。リーンハルト様。わたしたち、いい子にしてましたわ」

 

「わーい、リーンハルトさま!おひさしぶりです。ちゃんとおとなしくまってましたわ」

 

 駆け寄る二人を左右の腕で抱き上げる。『剛力の腕輪』の効果で幼女二人位の重さなら余裕だ。軽く上下にゆすってあやす。子供の扱いみたいだが、本人達もご満悦みたいでキャッキャと笑って喜んでいる。

 これも家族サービス?いや違うか。暫く相手をすれば、タイミングを見計らい二人の母親が受け取ってくれる。母親達も娘達が満足するのを見計らっているし、そろそろ満足してくれるかな?

 

「もっとウチにかえってきてください。わたしたちも、もっといっしょにあそびたいです」

 

「きょうはウチにとまっていけるのでしょうか?いっしょにおフロにはいって、いっしょにねたいです」

 

 思わず上下に動かしていた腕を止めてしまう。いやいやいや、幼いといっても淑女が口に出して良い内容じゃないですよ。いや実の父親なら年齢的にもOKだし不思議ではないと思うけれど、僕は本当は血の繋がりの無い他人だから。

 混浴とか同衾とか駄目だから。意識し過ぎと笑われるかもしれないけど、絶対に駄目だから。思わず周囲も固まり言葉も出なかったが、何とか回復して幼い淑女達を諭さなければならない。

 彼女達は純粋に叔父に甘えているだけで、血の繋がりがあれば可笑しな行動でもない筈だ。だが僕が他家の御嬢様と混浴とか同衾とかすれば思惑や年齢差と関係無く騒ぎ出す連中が未だ一定数はいる。困った事だけれどもね。

 

「そ、それは駄目だと思うんだ。嫌じゃないけれど、君達も貴族の令嬢として淑女としての行動を心掛けなければいけないよ」

 

 男女七歳にして同衾せず!という極東の諺(ことわざ)が有るという。彼女達は七歳以下だが僕は倍以上だから駄目です。ターニャ夫人はアラアラって慌てた振りをしているが目が笑っていない。

 逆に母親達が慌てて愛娘達を諫めようとするが逆効果、血の繋がった叔父に甘えてはいけないの?家族じゃないの?とか言われたら反論出来ないだろうし。

 

「どうしてだめなの?」

 

「リーンハルトさまは、わたしたちがきらいなの?」

 

 こう言われてしまえば家族同様に扱って貰っている関係上、子供達に何も言えなくなってしまう。実は血の繋がった叔父は既に故人で、僕とは別人ですなんて冷たい現実を突き付ける訳にはいかない。

 この事実が後年、彼女達にどう影響するか?真っ赤になって否定する黒歴史になるのは間違いではないだろう。貞淑を重んじるエムデン王国の貴族子女としては、幼子とはいえ物凄く恥ずかしい事を言っている訳だし。

 だが涙を浮かべる幼女二人を更に突き放してどうするって事だよな。大丈夫、僕も少しは淑女の扱い方を学んでるし恋愛経験もほんの少しだが積んだんでレベルは上がった筈なんだ。もう少し前の坊やな僕じゃないぞ。

 

「ごめんね。仕事が忙しくて今回も泊まれないんだ」

 

 そう言うと両目に溜まった涙が決壊しそうになる。

 

「でもお昼寝の時に本を読んであげるよ。君達が眠るまで、それで御機嫌を回復して欲しいんだ」

 

 お昼寝時に側で本を読むだけなら同衾でもないし添い寝でもない。母親達かメイドを同席させれば完璧、疚しい事など何も無い健全なお昼寝を見守る年長者でしかない。

 喜んで左右から抱き着く彼女達の背中をポンポンと軽く叩けば完璧、血の繋がらない叔父として最上の対応だと自画自賛したいね。後ろで私達も一緒に寝かし付けて貰えるのかしら?

 とかふざけた事を言う母親達は無視、立ち合いは祖母である、ターニャ夫人とメイド長を指名するか。未だ朝だし、お茶会を午前中で切り上げて昼食を頂き、少し休んでお昼寝させれば良いかな。

 

 こう見えても絵本の読み聞かせは、イルメラと孤児院に慰問に行った時に何度も経験しているんだ。勿論だが、イルメラの読み聞かせを孤児達と一緒に聞いていただけだけどさ。

 

 


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