古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第824話

 目の前でドヤ顔を浮かべる公爵二人を見て思う。彼等の奥方達を此方に引き込んだのは正解ね。私と敵対しない様に暗に圧力を掛けてくれたのだろう。

 元々、メラニウスさんもアラリカさんも夫婦仲は悪くなかったけれど、ネクタル効果で若返ってからは、更に(夜の夫婦の)仲が良くなったと聞いているし。

 貴族としては珍しくも無い子供の頃からの婚約から結婚した関係ですが、婚約期間中に順調に愛を育んだのでしょう。正直、羨ましい関係ね。

 

 普通は家と家との事情での政略結婚なのに、あの二人はバニシードさんやバセットさんと違い淑女の扱いが丁寧だったから。駒としてしか見ていなかった連中とは違う、そこは評価しましょう。

 私がリーンハルト様を狙っているのは公然の秘密、彼が噂を真に受けずに擬態として年下好きと勘違いしていたから。最初は困ったけれども今は逆に良かったと思っているわ。

 今の関係に進めたのも男女の関係になる事を極力遠ざけていた、リーンハルト様が無警戒で私と接してくれたから。だから色々と仕掛けて家族の関係まで仲を進められたのよ。

 

 あと少し、そして成功の暁には公に婚姻関係を結びたい。その時の助力を彼等から引き出せた。

 

 未だに敵が多い、リーンハルト様と元々敵が多い私との婚姻に反対する連中は多い筈。その筆頭二人の助力を得られた事は大きい。彼等は黙認程度で大した労力は無いと思っていてもね。

 これで七割近い貴族連中は黙らせられる。残りは損得勘定を働かせずに感情だけで反発する連中と……リズリット王妃と王族の女性陣、それとイルメラさんとジゼルさん達ね。

 彼女達の説得が一番の難関ですが、リーンハルト様を堕としてしまえば問題は少ない。最大の障害である、イルメラさんはリーンハルト様が決めた事ならば反対はしないでしょうから。

 

 ジゼルさんはもっと楽よね。リーンハルト様が本妻にと拘っても貴族的序列がモノを言う世界では頑張っても無理、そこは妥協案とお互いの納得できる範囲を話し合えば良いのよ。

 ウィンディアさんやニールさん、アーシャさんも問題無いわ。アーシャさんは随分と成長しているけれど、未だ私に張り合える事は出来ない。側室予備軍?話にならないわね。

 彼女等は、リーンハルト様の身内認定はギリギリ受けているかもしれない。でも家族認定はされてないし、今後も無理でしょう。なので各々の実家に話を通せば大丈夫、私ならば問題は無いのよ。

 

 獅子身中の虫のリゼルさんが唯一の不安ですが、彼女は側室希望で本妻は望んでいない。イーリンにセシリアさん?後でおこぼれは与えましょう。

 

「くふっ、くふふふ。うふふふふ」

 

 嬉しさのあまり感情が制御出来ず笑いが漏れてしまったわ。その美女の笑いを正面から見れた幸せ者の二人の引き攣った顔は何かしら?失礼過ぎますわよ。

 

「なんだ、気持ち悪い位に笑いおって。また悪巧みか?」

 

「あまり悪逆非道な事をすると、リーンハルト殿に見放されるぞ」

 

 何ですの?ソファーの背もたれに身体を押し付けて、私から少しでも距離を取りたいみたいな行動は?

 

「悪逆非道とは、失礼過ぎて眩暈がしてきたわ」

 

「む、言い過ぎたな。謝罪しよう」

 

「そうだな。悪かった」

 

 真顔で非難する。ですが悪逆非道な行いをしてきた身としてはね?リーンハルト様が嫌がるからもうしないのだけれど、彼等には分からないでしょうから直ぐに謝罪したわね。

 砕けた謝罪ですが、同じ公爵ですし未だ良心的な方かしら。ここで反発すれば敵対はせずとも協力関係に亀裂が入るし、公爵三家の協力体制の維持は国家的にも望ましい。

 わざわざ不和を生じさせる意味は薄い。それを全員が理解している、私達が協力し合えばエムデン王国は五十年は安泰でしょう。有能な国王、強大な力を持つ宮廷魔術師筆頭と第二席。それと貴族を束ねる私達。

 

「まぁ良いわ。貴方達は高みの見物でもしていなさいな、私の手並みをね。敢えて言いますが邪魔はしないで下さいな」

 

「他人の色恋沙汰ほど楽しい見世物は無いからな」

 

「分かっていると思うが巻き込むなよ。色恋沙汰の当事者の関係者など嫌だからな、ふりじゃ無いからな!」

 

 私とリーンハルト様の淡い恋模様に、何故脂ぎった中年を巻き込まなければならないの?それにしても不思議だわ。本来の私達は陰惨な派閥争いを繰り返していた筈なのに、今は馬鹿な事を笑い合える関係になっている。

 お互いに有益な関係だからと理解はしていますが、それでも此処まで砕けた関係になれるとはね。一年前ならば考えられない事、この関係を構築した要は……その要となる殿方を私は手に入れようとしている。

 なのに手出しをせずに静観、成功した暁には関係を認めるとさえ言っている。この二人の本心は何かしら?愛妻さん達に頼まれただけって事はないわね。公爵三家はリーンハルト様を囲んで協力体制、一番効果的なのは?

 

「私の恋愛が成就した暁に、貴方達が求めるものってなにかしら?」

 

「さぁな?今は未だ漠然として考えが纏まらないな」

 

「そうだな。俺も同じだな。今後の経緯の推移を見極めてだな」

 

 狸爺共め!迂闊だったわ。いえ浮かれ過ぎていたのね。惚けても無駄、貴方達の考えは漠然と分かったわ。公爵三家が、リーンハルト様を抱え込む最大の効果的理由。それは婚姻関係を結ぶ事。

 ニーレンス公爵は、メディアさんね。彼女を公爵家の正統跡取りと認めさせるには、リーンハルト様と結ばれて自身の立場を強固なモノとして生まれて来る子供に公爵位を譲る事。

 ローラン公爵は単純に親族を側室に押し込めば良い。ニールさんは褒美に与えた関係だから親族ではないので、関係強化は難しいから。実子でも養子でも構わない、リーンハルト様との間に生まれた子供にも多大な利用価値が有るわね。協力の見返りはコレね?

 

 忌々しい。でも私はリーンハルト様の独占は望んでいない。いえ、本当は独占したい。でもそれでは良好な関係を築けないから妥協は必要、どうせ彼等は対ネクタル対策としてアウレール王に相談するでしょうし……

 

「まぁ良いわ。頼んだわよ」

 

 昔ならともかく。今のメディアさんを仲間に引き込む事は悪くは無い。ローラン公爵の元には私の息が掛かった淑女を送り込んで、リーンハルト様の側室にすれば良い。その候補者選びを餌に有能な淑女を抱え込めば良いの。

 最有力候補は、セシリアさんだけど私側って事で弾かれるかしら?でもローラン公爵が誰を選んでも篭絡させる自信は有るのよ。永遠の若さと美貌、老いない身体。この誘惑に逆らえる者が居るかしら?

 まぁセシリアさんが先に良い思いをすると、イーリンがむくれるわね。その辺りの匙加減を間違えると拗れるから難しい、ハーレムは増やしたくないけれど意味なく拒む事も害悪。独占欲は破滅への引き金にもなり得る、危険な事には変わりない。

 

 本妻とは旦那様の女性関係の管理と調整も必要な事ですし。これも内助の功なのかしら?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 魔女の庵、魔王の居室から、ニーレンスと退散する。交渉は成功、俺達は静観し成功すれば黙認。この事を愛妻殿に説明すれば、今夜も愛溢れる行為を受けられるだろう。残弾は問題無く補給(精力剤)も手配済み。充実した夫婦ライフだな。

 人払い(新しい世界の信奉者共)も時間が過ぎたので女官や侍女達が集まって来ている。異性を全て諜報員として警戒せねば駄目とか、どれだけ難易度が高いんだよフザケルナって叫びたいのを何とか我慢する。今問題行動を起こせば噂は国中に広まる、それは避けたい。

 ニーレンスも分かっているのだろう。黙って目的地に向かう。根回しが得意なのは、ザスキアの専売特許ではない。魑魅魍魎溢れる王宮で生き抜く術は磨いている。これから向かうのは最大の権力者であり、巻き込まねば我らが負けてしまう相手でもある。

 

「で?二人で雁首揃えて、俺に何の用だ?」

 

「はい。ザスキアの奇行について報告が有ります」

 

「我等二人、リーンハルト殿を巻き込み『紳士連合』を発足しましたので、名誉顧問の座にお迎えしたいと存じますれば」

 

 平伏する際に見えましたが、物凄く嫌そうな顔をしましたな。ですがエムデン王国の紳士の頂点に立たれる、御自身の事も理解して頂かなければ困りますぞ。魔王(ザスキア)に対抗する勇者(リーンハルト殿)を支える権力者(国王)は物語的にも必須、嫌でも巻き込みまする。

 声を掛けられる迄は平伏して待つ。無言だが国王が内心で葛藤している事は手に取る様に分かる。『紳士連合』の様な笑い話みたいな集まりの名誉顧問?ふざけているみたいな団体だが所属する効果を考えているのだろう。そして名誉顧問を受けた場合の『淑女連合』との関係。

 出来れは関わりたくはないが、ザスキアや王妃が絡めば強制的に関わってしまう。対岸の火事にはならない、火災現場の最前列に居るのが今の立場ならば受けるしかないが素直に屈したくはない。気持ちは十二分に分かるが申し訳ないが諦めて下さい。

 

「うむ、嫌々だが仕方あるまい。そのふざけた団体の名誉顧問になってやる。本当に嫌々だがな」

 

 護衛の近衛騎士団員を退室させた後、漸く回答を貰えた事に安堵の息を吐く。国王を味方に引き込めた意味は大きい。有り得ない話だが、公爵二人だけでは対応が厳しい。笑えない、エムデン王国で権力を持つ上から四人が結束して漸く対抗出来るとか全く笑えない。

 厄災の火種ネクタル、何とも困った霊薬だが俺達にだって恩恵が有るから苦労している。しかし、アウレール王は王妃を若返させる事はしないのか?「女房と絨毯は新しい方が良い」みたいな市井の諺(ことわざ)も有るがな。まぁ多分に問題を含むので俺の口からは言えない。

 愛する妻は幾つになっても愛おしい。だが外見が若い方が……いや、これを口にすればエムデン王国どころか全ての女性陣から総スカンだな。俺は口が裂けても言わない。だが、アウレール王もザスキアに頼めば可能では?いやメリットとデメリットの天秤がデメリット側に傾いたのか?

 

「予想はしていた。ザスキアの爛れた愛情が昇華し、リーンハルトと添い遂げたいと純粋に思っている事はな。お前達も黙認する事を対価に、ザスキアに何かを要求したのだろ?」

 

「はい。我が愛する妻の永遠の若さを対価に」

 

「魔王に魂を売りそうな愛妻の為に、妥協と協力を申し入れました」

 

 深々と溜息を吐き出しましたな?この忠臣二人に対して、その憐れむ様な目で見た後に長々と溜息を吐き出しましたな。未だ笑い話の範疇に収まっていますが、実際は相当危ういのですぞ。リズリット王妃の危機感は、貴方が若い側室を多数迎え入れた事の一因ですからな。

 十代半ばの美少女の魅力はですな。俺もニーレンスも愛妻を相手にして実感しております。つまり自業自得、故に我等が企みにガッツリ乗って頂きますぞ。未だ外見は若々しくとも肌の張りや艶は加齢による老化を隠せない。リズリット王妃の危機感は相当なモノ。

 それを承知で魔王(ザスキア)はネクタルの供給に条件を付け、夫である貴方は助力を保留にした。エムデン王国は50年は安泰ですが、その僅かな崩壊のトリガーが王妃。笑えませんぞ。

 

「何だ?その顔は!俺だってな、リズリットを若返らせたい。だがザスキアと事を構えてまでは……な?まぁ加齢は神が定めた生きとし生ける者に平等に訪れるモノだ。薬でどうこうするのも問題だ、そうだろ?」

 

 黙って平伏する。それが通用したのはネクタルが入手困難な時で有り、今は安定供給が出来るのです。暗黙の了解で国内外の淑女達は知ってしまった後では、口に出すのも恐ろしい。

 

「ザスキアの欲望の成就の為には、リーンハルトの出世が大前提だ。アイツは黙っていても多大な功績をあげる、時期を見て侯爵に叙するか宰相の任に就かせるか。その両方を成し得た時に貴族院と貴族共を黙らせれば可能だろう。俺も黙認する」

 

 ふむ。アウレール王は最年少侯爵も最年少宰相も問題無いと考えているのか。これは思ったよりも早い時期に爛れた欲望が成就されるか?根回しが忙しくなるが時間が足りるか?その辺はアウレール王を交えて相談だな。流石に当事者(リーンハルト殿)を交えては話せない。

 あの男は一辺も悩まずに辞退するだろう。それを押し付けるには理由が必要、それはアウレール王が考える事。ジゼル嬢の扱いはザスキアが考える事。俺達は直接的にする事は無い。派閥構成貴族に反発しない様に引き締め、貴族院の連中に根回しするだけだ。

 ふむ、そう考えれば気持ちが楽になったな。はははっ、悩み過ぎて毛根と胃に多大なダメージを負う事になるが解決の目途が立った。

 

「そうですな。最大の問題は、ザスキアがリーンハルト殿を篭絡出来るか?あの魔王が恋愛問題で右往左往するのを見て嗤う位は許されましょう」

 

「リーンハルト殿は特定の淑女には異様に執着します。その中に割り込むのですから、どの様な手練手管を用いるのか今から楽しみですな」

 

 愉悦、これが愉悦か。

 

「余裕こいてるがな、ザスキアとリーンハルトが結ばれたらお前達も親族をリーンハルトの側室に送り込むんだぞ。ザスキアの手腕を参考にしてな」

 

 は?いやそれはそうですし考えてはいましたが、改めて言われると超難関ではないか!痛たたたた、胃がシクシクと痛くなって頭皮がモゾモゾしてきたぞ。胃薬と毛生え薬を用意しなければ駄目だ……

 

 


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