古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

808 / 1003
第802話

 今後のエムデン王国の方針について、バニシード公爵が要らぬ事を言って、アウレール王とザスキア公爵から責められている。今は国力の回復に専念しつつ、周辺四ヶ国の動向に注意を向けるべきだ。

 そして四ヶ国連合の設立を妨害する為に、どれか一国を優遇し連携を阻害する提案をしたが……何を考えたのか、バルト王国のベアトリクス姫将軍の話題を持ち出した。

 彼の国は四ヶ国で最下位の国力だったが、姫将軍なる独自の軍団構成を取り入れて三位にまで国力を上げている。そして僕にドレスアーマーの錬金を熱望している。

 狙いは良い、僕もバルト王国を優遇すべきだと考えた。理由は一位と二位は野心的で積極的に連合設立を狙うだろうし、最下位を仲間に組み込んでも効果は薄い。勢力急上昇中の三位ならば、他からの助力も欲しいから取り込み易い。

 だが援助の項目に、ベアトリクス姫将軍を出しちゃ駄目なんだ。婚姻外交を匂わせる事を言ったのは、僕に対する嫌がらせだとは思う。裏切りや内通、利敵行為じゃないだろう。ただ政敵の僕への意趣返しと言うか稚拙な嫌がらせに噛み付いたのが……

「どうした?何とか言ったらどうだ?」

「あらあら、本当にバルト王国に買収されてるの?御前会議で意味の無い事を言う程、無能ではないのでしょ?また裏切り者疑惑が再燃かしら?」

 軽い嫌みが大事になってしまった、どうしよう?的だな。裏切りなどは無いが、侯爵が三人も裏切りを働いた後に不用意な事を言うからだぞ。只でさえ、アーシャ襲撃事件の時に疑われたのに、いや疑われる様に仕向けたのに。

 基本的には優秀な部類だが、我慢強くなく自尊心が高いから、政敵に対して子供じみた事を平気で仕出かすんだよ。ハイゼルン砦の時も、同じ失態を犯したのに勉強してないの?学ばなかったの?

 この御前会議の出席者の中に、バニシード公爵の味方は居ない。正確には中立と敵対、故に静観して助け船は出さない。早く何か言わないと、また謁見室を追い出されるよ。

「い、いや申し訳ない。浅はかな見識で、馬鹿な事を言ってしまいました。発言を撤回致す」

 そう言って頭を下げた。素直に謝罪する事は出来るようになったみたいだが、なら最初から余計な事は言うなと注意したい。だが僕が言えば拗れるから言わない。

 アウレール王もザスキア公爵も追撃はしないみたいで、呆れた顔をするだけで終わりみたいだ。まぁ状況的に裏切り行為はしないと思っているからな。折角、裏切り疑惑を晴らしたのに同じ事を繰り返すのか?

 人間の本質は変える事が難しいのかな?謝罪し発言を撤回はしたが、僕を睨み付けるのは止めないのか。今回の失態も僕の所為で自分は悪くないとか思ってます?それなら没落一直線、名前だけの公爵家になりますよ。

「話の腰を折られたが、まぁ良い。さて優遇する国についてだが……ゴーレムマスターはどうだ?どの国が良いと思う?」

 また話を振られたぞ。困ったな、どう言うか?アウレール王のニヤニヤ顔は、もしかしなくても僕を虐めて楽しい?ザスキア公爵も試練の一つですから頑張れ!って顔だし。

 ユリエル殿とラミュール殿は理解してそうだが、アンドレアル殿とフレイナル親子は微妙な顔なのは分からないのか?リッパー殿は我関せず、フローラ殿は最初から僕に無表情な顔を向けている。

 病みが深まっているみたいだ。実はこの後に個別面談の申し込みをされている。忙しさを理由に断りたかったが、内容がウェラー嬢の事だと言われて断れなかった。病み女、苦手なんだよ。

「はい、そうですね。僕も条件的に優遇するのは、バルト王国が最適だと思います」

「ほぅ?バニシードと同じだが、理由が有りそうだな」

 うわぁ!凄い面白そうだな的な顔をした。他の参加者達も息を呑んだのは、バニシード公爵が駄目出しされたのに同じ事を言ったからだ。

 別にバニシード公爵を擁護する訳じゃなく、ちゃんとした理由も有る。四ヶ国の状況を考えれば、一応最適だと思える。ニーレンス公爵やローラン公爵も同意見だな、頷いたし。

 バニシード公爵は驚いた後に、また睨み付けられた。だから貴方を擁護してませんから!サリアリス様は不安そうなのは、単純に僕の身を案じてくれたのかな?しかし他の同僚(宮廷魔術師)達は無言、会議に参加してよ!

「現状、我が国と国境が隣接しているのはバーリンゲン王国を抜いて四ヶ国。国力は順に、デンバー帝国・シグ王国・バルト王国・レネント王国です。戦力を数値化すると、エムデン王国を十とすると順番に六・四・四・三。

二位と三位は僅差です。我が国も旧ウルム王国領を完全に掌握すれば十四にはなりましょう。単純な数字で比較すれば、早い段階で三ヶ国が連合を組めば我が国を上回る戦力になります。

勿論ですが単純に比較は出来ません。動員出来る戦力は連合を組み周辺諸国の警戒を無用にしても最大限振り絞っても七割、悪ければ五割。全軍が真正面から戦えば互角、ですから三方向から攻めてくるでしょう。我が国も戦力を分散しなければならない」

 一旦話すのを止めて皆さんを見る。アウレール王とザスキア公爵は嬉しそうなのは、戦力分析は正解に近いのだろう。バニシード公爵が不機嫌なのは、それ位なら俺だって分かってるだな。

 エルムント団長とライル団長は少し機嫌が悪いのは、自国の戦力を過小評価し過ぎだと思っているのだろう。僕とライル団長、バーナム伯爵とデオドラ男爵が組めば単純に一国分の戦力にはなるし……

 だが守りに回ると単一戦力って活かしきれないし押さえ込まれる事も有る。一人では守れる範囲が限られるから、僕やバーナム伯爵達は攻める側に割り振らねば活かしきれない。能力を発揮出来ないんだ。

「領土の配置もバルト王国は、デンバー帝国とシグ王国にレネント王国の中間に有り三ヶ国を分断する位置に有ります。連合の連携の分断には最適でしょう。

最大戦力のデンバー帝国を孤立させる事が出来る。つまりエムデン王国は大まかに二方面作戦が可能となり……デンバー帝国には、僕が単独侵攻し帝都を目指します。

勿論ですが敵戦力の擦り潰しだけが目的ですから、要塞や砦を破壊し兵士を倒す事だけを行います。デンバー帝国はエムデン王国攻略など止めて引き返すしかないでしょう。仮に優勢でも帝都が落ちれば意味が無くなりますから」

 此処まで説明したが、落ち着いて良く考えれば色々と穴も有るだろう。強引に二方面作戦にして、僕だけで帝都に単独侵攻とか自信過剰と思われても仕方ないし。単騎侵攻は実績が有るけど、バーリンゲン王国と比べるとね。

 だけど守りに回れば一ヶ所しか守れない。複数に分散されたら移動時間を考えれば防げない、敵だって考えるから分かり易い弱点を突いてくる。僕は拠点防御は得意だが、一ヶ所しか守れない。

 だから攻略部隊に志願し先陣切って攻め込むしか無いんだ。この意見に、両騎士団長は御不満みたいだ。アレは無謀だとか責めるのではなく、攻略部隊に自分も混ざりたいだな。役職上駄目です諦めて下さい。

「確かに可能かも知れないが、ゴーレムマスターの負担が大きいだろう。単独侵攻で敵国に深く食い込んだ場合、安全な場所で休めるのか?お前を失う事は、騎士団一つを失うのと同じだぞ」

 過大評価有り難う御座います。騎士団一つは盛り過ぎですから、そんなに影響力など無いですから。

「それは問題無いです。食料や飲料水、治療用のポーションや魔力回復用の上級魔力石は全て空間創造に収納しています。物資で困る事は有りません。そして僕は土属性魔術師、敵地で陣地を組み大量のゴーレムに地上を守らせて地下に潜り休む事も可能です。

半自動制御で迎撃行動を取るゴーレム軍団を倒し、地下深くに隠れている僕を探し出してダメージを与える事など不可能です。その気になれば地下トンネルを掘り360度全ての方向に逃げられるのですから……」

 そう、地中移動という裏技が使える。地下20m以上の場所に居る僕にダメージを与えられる方法は限られる。周囲を固定化の魔法で固めれば、義父達の『爆心』の連続使用にも何回かは耐えられるだろう。

 そんな強者が近付いてくれば分かるし、一撃で埋まらない限りは大丈夫。逃げに徹すれば正確な位置など分からないから攻撃など当たらない。そして地中に居ても『リトルキングダム』は使用可能。

 半自動制御で一方的に攻撃出来る。魔力の回復も、ステファニー嬢のギフトで量産される上級魔力石を増産させて確保している。問題は一人で寂しい事と酸欠対策だな。

 寂しいのは、クリスを同行させれば解決だ。『二人だけでデンバー帝国に喧嘩を売りに行こうぜ!』って言えば、文句無く同行してくれる。酸欠対策は難しい、今は空間創造に巨大な密閉容器を幾つか収納している。

 開けば新鮮な空気が補充出来る。だが精々保っても一時間位だから、その間に新しい換気穴を開けるしかない。水攻めは穴を錬金で塞げるし、毒ガスは無効化出来る。だから何とかなるだろう。

 この地中に隠れる作戦は転生前から多用していたから、各種対策も検討済みだ。流石に百人単位では無理だが、少人数なら問題無い。難点は……何だ?無いよな?

「ははははっ!見た事も聞いた事も無い作戦だな。流石は大陸最強の魔術師、デンバー帝国も一方的に戦力を減らされ帝都に危険が迫るとなれば引き返せざるをえまい。

だがバルト王国を優遇すれば、何れはベアトリクス王女の話が出るぞ。婚姻外交か、ドレスアーマーの錬金依頼か。それはどうするのだ?」

 そう。結果的に長く友好的に付き合えば、最終的に行き着く条件はその二つだろう。だが、その二つの願いを叶えるには相応の条件が必要になる。

 つまり妨害工作を凌ぎ切って、バルト王国以外の三ヶ国が連合を組んだ場合だけだ。その場合は同盟国として参戦して貰う訳だから、姫将軍の戦力強化は必要になる。

 そもそもバルト王国が力を増している理由が、姫将軍を戦力の要として軍団構成をしているからだ。同盟国が弱いと意味が無い、だからドレスアーマーは錬金する。

 出来れば短期貸し出しで、駄目でも魔力付加の期限を設定するとか色々と方法は有る。王族を戦場に出させるのだから、それ位の利益提供は必要だよね。

「ドレスアーマーの要求を叶える。それは最悪の状況で、他の三ヶ国が連合を組み攻めて来たら同盟国として共に戦う時にでしょう。ならば戦力の要となる姫将軍の強化は必須。婚姻外交を希望された場合は……

最初はこの二つの条件を飴としてぶら下げて優遇しつつ、他にも優遇政策を行う。最後の段階でどちらかの要求を呑むとして、婚姻外交を言い出したらドレスアーマーの提供の代案で押し通す。でしょうか?」

「ふむ、優遇政策をしても最終的に望むのはドレスアーマーだろう。婚姻外交は、ゴーレムマスター以外は条件に合わず他の誰かと結婚すればドレスアーマーは手には入らないか……採用だ。詳細は参謀連中に詰めさせるか」

 アウレール王が自分の考えを纏めながら言った事で方針は決まった。そして詳細は参謀達が詰めてくれる、これで僕のノルマは終わり。後は彼等に任せれば良い。

 どの道来月から最大三ヶ月は、旧ウルム王国領の復興支援で不在となる。任されても無理だし、参謀達も留守居役が最終的に宰相みたいな仕事をしていた僕に含む所が有るらしいんだ。

 彼等の仕事の範疇を侵したみたいな感じか?まぁ戦時下の臨時体制だから気にしないで欲しいのだが、仮執務室の改装の件も考えれば……僕の内務系の仕事は無くならない、人手不足だから仕方ない。

 この後、幾つかの大まかな方針を決めて終了。詳細を煮詰めるのは配下の連中の仕事で、担当部署に割り振りお任せになる。しかし我が同僚達は発言一切無しとは……

 我等は魔導の深遠、知識の探求を是とする魔術師なのですから、頭脳労働に向いている筈です。確かに単一最強戦力としての側面は有りますが、もう少し政治にも興味を持って下さい。

 僕も最初は逃げたから人の事は言えませんが、適材適所というか今居る人材で当て填めれば、僕等宮廷魔術師が該当すると思うのです。そう仲間(犠牲者)が欲しいのです。

 この後、個別に公爵三人とアンドレアル殿親子、ユリエル殿親子、フローラ殿と面談が続くし、今夜は晩餐会に出席。明日から三日間連続で祝勝会、そして両騎士団の合同祝勝会か……身体、保つかな?


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。