古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第800話

 王都中央広場には凱旋を祝う国民達が溢れている。周辺諸国の関係者や我が国の貴族連中も規則正しく割り当てられた区画に並んでいる。頭上には国旗や俺の家紋を刻んだ戦旗が謎の力により浮いているが、浮遊盾の応用か?

 場内の警備は、ゴーレムマスターらしく殆どがゴーレムポーンだが一千体近く居ないか?他にも警備隊や応援の貴族の私兵も混じっているが、統一感としたらゴーレムに勝るものは無い。同じ装備品を大量に揃える事も、大国としての見栄だからな。

 各国の大使連中の引きつった顔は、エムデン王国の強大さを否応なしに再確認させられたからだろう。そしてこの大変な現状を作り出した男が、キラキラした目を俺に向けている。お前の無条件の信頼は嬉しいのだが……

「聖戦勝利、おめでとうございます」

 宰相みたいな留守居役が嫌だったのだろう、政治的中枢を一人で担っていた男は完全武装の武人の姿で出迎えてくれた。実戦的で装飾の少ないライトメイルアーマーに真っ黒な魔術師のローブを羽織っていやがる。

 自分は地味にして、黄金甲冑の俺を際立たせるつもりだろう。隣に控える、ザスキアもタイミングを合わせて頭を下げた。どう見ても二十歳か少し下か、懐かしい容貌をまた見られたよ。お前、派閥を超えた淑女連合の盟主に収まったな。

 王妃である筈の、リズリットが泣きついて来たんだぞ。永遠の若さという禁断の実をチラつかされたら、大抵の女は軍門に下る。美貌の持ち主程、衰える我が身に我慢が出来ないからだ。

 エムデン王国内のパワーバランスは危うくなった。特に後宮と王宮に住む女性王族共がな、無茶苦茶な暗躍を始めたぞ。国王たる俺でも抑えるのが厳しい、セラスだけが癒やしとか笑えない。

 王妃が国王のストレスとか笑えない。今は未だ書面での遣り取りだけだったが、今日から対面で要求されるんだぞ。内面を悟られずに表情を引き締める。今は凱旋する有能な王として接しなければならないのだ。

「うむ。留守居役、見事であったぞ。後顧の憂い無しとは、まさに今回の事だ。褒美は期待しろ、嫌でも受け取って貰うからなっ!」

「いえ、大した事はしていません」

 力強く言っても、やはり断るか。お前の働きを評価しなければ、俺は配下に公平な評価を下せない男になるんだぞ。謙遜は時に悪印象になるから気を付けろと何度も言ったぞ。

 それが離反や引き抜きの原因になる事も有るからだ。その辺の機微が、未成年のお前には分かり辛いのだろう。まぁ経験を積まねば分からぬ事だから、仕方無いのだがな。

 ザスキアも良い表情で笑っているが、公爵たるお前がだな。リーンハルトの後ろに控える態度も変だから改めろ。外見年齢が近くなった事を合わせると初々しい男女の関係だな……

 全く若返った者達が偽物や影武者じゃないかと問合わせが凄いんだぞ。公爵本人や公爵夫人には聞けないからって、国王に問合わせてどうするんだ?『新しき世界』の連中は怖いってか?

「では戦勝の演説をするか」

 断らせないぞ。お前はな、ザスキアの抑えに必要な贄だ。選択肢は与えるが、もう公爵三家と親戚関係になるしかないだろう。それが連携としてはベストだし、お前の為だぞ。

 ザスキアとだけ結ばれては、他の二家とのパワーバランスが崩れる。バニシード?知らぬな。巻き返しは不可能だろうが、今後の行動は長い目で見てやるから、期待は裏切らずに盛り返せよな。

 壇上に上がると熱い視線が集まり、良い緊張感が生まれる。俺は今日、大陸最大最強の国家の頂点に立ったのだ。正直嬉しい、誰も成し得なかった偉業だからな。まぁ大陸統一など馬鹿な考えは無い。他国が信じるかは別問題だが……

 先ず正面に集まった民衆をグルリと見回す。皆、期待に満ち満ちた表情だな。エムデン王国の繁栄を確定させた聖戦の勝利だ。モア教絡みだし、未来に希望を持っているのだろう。

 次に周辺諸国の関係者席を見る。心から祝福している顔をしているのは半数以下、もっと表情を作れ。外交官として失格だぞ、無理でも褒め称えて笑え。それが貴様等の仕事だろう。

 最後に我が国の貴族連中を見る。此方は心の底から祝福している、祖国の繁栄だからな。そして多かれ少なかれ活躍したから、恩賞にも期待しているのだろう。

 安心しろ。旧ウルム王国領は監視の目を増やす意味でも、細かく分けて与えてやる。二十年近く暗躍していた連中が居たからには、未だ根は残っている。ソイツ等も必ず探し出して根絶やしにする。

 不安の種は全て刈り取らねばならない。妥協は後々に禍根を残す、残忍とも残虐とも言われても今強行しないと駄目なんだ。不安なのは王族の何人かが未だ潜伏している、残党狩りでも捕まえられなかった。

 高額の賞金も掛けたし、モア教絡みで旧政権に手を貸す連中も少ないからな。まぁ何とかなるだろう……

「聞け、国民達よ。過去に我等に卑劣な罠を仕掛けた旧コトプス帝国の残党共は、今回の聖戦で完膚無きまでに滅ぼした。亡霊に利用されたウルム王国は、俺達が倒した。所詮は亡国の残党に唆された愚か者共よ、我等に敵う訳がない。エムデン王国に刃向かう悪は滅びたのだ!」

 十万人を超える連中が、俺の言葉に耳を傾けている。そして長年に渡り悪意を突き付けてきた、旧コトプス帝国と協力するウルム王国が滅んだ。悪が滅びたと言った時に感情が爆発した。

『『『『『アウレール王万歳!エムデン王国に繁栄あれ!』』』』』

 地響きを思わせる歓声、長年の鬱憤が最高の形で晴れたのだ。その歓声に合わせて、リーンハルトが大量の魔法の光球を降らせる。その演出に更に民衆達が興奮し歓声を上げる。

 演出過多じゃね?周辺諸国の外交官共は蒼白になり茫然自失だぞ。この信じられない光景を祖国に報告しなければ駄目だからな。巨大ゴーレムルーク、一千体以上のゴーレムポーン。

 更に未知なる戦旗を浮かせたり大量の光球を降らせる魔法、もう古代魔法の復活疑い無し。つまりお前の事だぞ、そういうところだぞ、ゴーレムマスター。

『ルトライン帝国宮廷魔術師筆頭、古代の偉大なる魔術師ツアイツ卿の再来。現代のゴーレムマスター、リーンハルト卿』

 この聖戦は、周辺諸国にエムデン王国の威を示した事の他にだな。お前の存在が大陸中に広まった、古代魔法を扱う古代魔術師としてな。

 主役を取られたみたいだが、特に悔しくも妬ましくもない。お前の忠誠心が疑いなきものだから、絶対に裏切らない古代魔術師を臣下にしているから。

 所謂俺もだな、伝説的な国王になれたからか。そろそろ自伝本の準備に取り掛かるか、代々のエムデン王国国王に語り継がせねばならぬからな!

 歴史を繋ぐのは勝利者の権限、敗者の末路は正しく後世に伝えねばならぬのだ。

◇◇◇◇◇◇

 アウレール王の演説が終わった。大盛況だったが、少し恥ずかしそうに演出過多だったぞ!と言われてしまった。特注の黄金甲冑を着込む位ですから、派手好きですよね?好みの演出ですよね?

 暫くの休憩を挟んで、謁見室での報告会となる。僅かな時間だが、この仮の執務室を引っ越す為に荷物の片付けを行う。まぁ空間創造に収納するだけだが、早めに引き上げたい。

 僅かな期間だけだったが、感慨深いものが有るな。国王が帰還してくれたのだから、もう宰相の真似事などしなくて済むんだ。良かった、越権行為みたいで嫌だったんだよ。

「む、入ってくれて構わないぞ」

 扉をノックされたので入室を許可する。もう報告会の時間か?アウレール王も黄金甲冑を脱ぐだけだから、大して時間が掛からなかったのかな?自分で錬金して何だが、流石に黄金甲冑はやり過ぎだったか?日の光を浴びるとギラギラして見難かった。

 イーリンとミズーリはザスキア公爵の手伝いに、セシリアはローラン公爵に報告しに、オリビアは戦勝会のメニューの提言の為に厨房に呼ばれた。リゼルはラビエル子爵と官吏達に用が有ると出て行った。

 つまり仮の執務室には僕しか居ないので取次も省いて、自分で対応するしかない。まぁ偉ぶる訳じゃないから構わない、問題は相手が恐縮する位かな。最近は皆に恐縮される事ばかりで萎えるよ。

「失礼します。アウレール王から臨時執務室を正式に、リーンハルト卿に与えるとの事なので改装と引っ越しの報告に伺いました」

 は?宮廷魔術師の執務室とは、王宮の防衛の為に計算されて配置されてなかったか?僕が移動する事により、防衛に穴が開かないか?

 いやいやいや、違うそうじゃない。此処は宰相の執務室であり、僕は留守居役として仮の主だったんだ。もう無用だから、元の執務室に引っ越すんだ!

 それに改装って何だよ?聞いてないぞ、いやアウレール王の指示なら帰国して直ぐにだよな。伝令の彼に責任は無いのだが、言わねば気が済まない。

「リーンハルト様。正式に次期宮廷魔術師筆頭としての執務室を与えると、アウレール王から言質を取って参りましたわ」

 伝令の後ろから、腹心の配下がニヤリと笑いながら出て来やがった。しかも申し訳なさそうな顔をした、ラビエル子爵やロイス殿に官吏達も居る。もう臨時執務室は解散した筈だろ?

「言質を取った違う、命令を与えられただっ!リゼル、何処に行って何をして来た?ラビエル子爵や官吏達まで引き連れて何をした?」

 絶対に暗躍しやがった。リゼルはギフトを使い、相手の交渉条件の上限ギリギリを攻められる。だが僕は執務室など欲しがって無いぞ。何を考えて何をした?心の中で問い詰めても微笑むだけか?

「いえ、リーンハルト様が懇意にしていた官吏の方々が元の職場には戻りたく無いと申されましたので、アウレール王とニーレンス公爵に内務系の小派閥を作る事の許可を頂いて来ましたわ。

あくまでも内務系の頂点は、ニーレンス公爵です。ですが余りにも惜しい手腕と、現状良い状況で回っている仕事を変える必要は無いとの事です。これで無能で敵対的な官吏共も一掃されますし、下級官吏共も大人しくなりますわ」

 内務系の仕事はだな。留守居役として必要だったからで、任を解かれて只の宮廷魔術師に戻れば不要だぞ。お前、僕が断れない様に根回ししたな。

 王命は断れない、内務系トップも同意するなら更に断れない。ニーレンス公爵の思惑は何となく分かる。軍属の僕は仕事上、ローラン公爵との繋がりが多い。

 内務系を手伝う事は繋がりが出来る。ザスキア公爵とは諜報絡みで繋がりが有るから、自分だけハブられるのを避けた。留守居役で実績作ったし、既得権も奪わないから許可したのか。

「この小派閥の頭には、ラビエル子爵が座ります。リーンハルト様に直接的に仕事が行く事は少ないでしょう。ニーレンス公爵からは、ダニ退治のお礼だからと言付かっています」

 ラビエル子爵とロイス殿が揃って頭を下げた。彼等が最も活躍する立場だから、お願いしますって事だろう。僕にとっても悪くは無いが、多少の苦労は増える。

 だが官僚・官吏の一部でも抑えられれば、僕に隔意有る内務系の連中の抑えにはなる。公爵三家との連携関係を考えれば順当、リゼルの派閥へのバランス感覚は凄いな。

 良し!金銭か品物的な感謝の気持ちを嫌みの如く大量に送ろう。君の暗躍に報いる為に、金貨三万枚位派手に貢いでやるからなっ!勿論だが、周囲には内緒でだ。

 序でに、アウレール王にお願いして功績マシマシで評価して貰ってくれ。良かったな、領地を賜るかも知れないよ?

「分かった。もう根回し済みなら何も言わないが、次は一言断ってから動いてくれ」

「はい、リーンハルト様への親愛故にです!」

 両手を上げて降参のポーズをすると笑顔で切り返してきやがった。対外的には、主を困らせる出来た臣下扱いだよ。僕の配下である、ラビエル子爵が内務系で派閥を作れるメリットは大きいからね。

 だが間違い無くバーリンゲン王国が蝙蝠外交を続けられた理由って、リゼルの存在だよな。居なくなった今は、相当苦労しているだろう。ロンメール殿下達は甘くないから、パゥルム女王達は苦労している。

 そう言えば戦勝祝いに、パゥルム女王の名代としてミッテルト王女と護衛にミーティア嬢が来ているな。彼女はコーマ引き渡しの時にも護衛として、ミッテルト王女と共に居た。

 てっきり王族の影の護衛かと思っていたが、伯爵令嬢であり公式の場にも出席出来る人材だった。ニールと同程度の武力を感じたが、彼の国にも未だ優れた人材は居たのか。

 因みにだが留守居役の権限を使い各国からの参加者の饗応役には、ザスキア公爵が担当している。前回の時よりも若返っていた事で一波乱有ったが、表面上は問題は起こっていない。

 アウレール王からの厳命で、僕はバーリンゲン王国関係者には直接会ってはいけない事になっている。少し心配なのは、モンテローザ嬢がバーリンゲン王国内で暗躍しているんだ。

 女神ルナの神託によれば、あの国で騒動が持ち上がるのは4ヶ月後。妖狼族の関係で、僕はあの国に行かなければならない。だが関わるなって命令されるとなれば、何かしらの手段を用意しておかねば駄目か……

 リゼルに追い出されて早めに謁見室に向かう羽目になった。見させて貰った改装図面だが、立派だった。元々立派だが更に豪華になってしまう。其処まで必要なのか?

 




日刊ランキング十位、有り難う御座いました。

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