古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第765話

 ペリーヌ様の占いの件について皆と情報共有をしたが、ユエ殿の事は僕が対処するので話題を変える。一旦気持ちを切り替える為に、紅茶と焼き菓子を新しく用意させる。

 オリビアが来てくれたのは意外だ。てっきり情報収集にと、イーリンかセシリアが来ると思った。まぁ食べ物関係では、オリビアが一番だからな。特に含む事も無いからか、彼女の態度は普通。

 探るような仕草も無いし、不安な感じもしない。逆に、ザスキア公爵に水臭いわね!と言われてしまった。だが彼女と女神ルナは相性が悪い気がするんだよな……

 暫し紅茶と焼き菓子を楽しむ。今回のジンジャークッキーは、オリビアの手作りで僕の好み通りだ。どうやら我が屋敷のコックに僕の好みを確認しているらしい。

 多分だが僕の為に内緒で努力しているから、イルメラが好ましく思い全面協力をしているのだろう。オリビアとイルメラは相性が良さそうだし。

「今回のロジスト様の考えですが……アウレール王と直接交渉が出来る事で満足していました。ヴェーラ王女と養子縁組みをすれば、彼女の王位継承権が下がる。不名誉を刻んだ男の孫娘が王宮から居なくなり、地方の領地に引き取られるならデメリットなど無い。

その辺りを交渉の材料として有利に進める条件として話し合いに望むつもりみたいです。自分の手元に置いて、大切に育てたい。その気持ちだけで、彼女を使い何かを企むつもりは全く無さそうです。ただ引き取る理由が彼女が不憫だから……それだけしか偽りの理由を考えていません」

「ギフトによる悪影響ですかね?正常な思考じゃないと、最悪は邪推されて御破算になりそうですね。そして拒否されたら、何を仕出かすか分からない恐怖が有る。普通じゃないから、余計に怖い」

「確かにそうね。善意だと信じるには根拠も薄いし、ロジスト様の親族の反発を抑えられるかも疑問よ。遺産相続の取り分が減るとなれば、愚かな事を平気で仕出かすお馬鹿さん達は大勢居るでしょう」

 金に絡む欲望は、人間を簡単に狂わせる。最悪な行動を平気でするのだが、人により用意周到だったり衝動的だったりと方法は多岐に渡る。

 王族で領地持ち、資産は膨大だ。ヴェーラ王女に直接の相続権は無いが、彼女の旦那にはチャンスが有る。後継者として能力を認められれば、養子の旦那でも家督を継げる。

 ヴェーラ王女の血筋は良い。半分は国王の実子だから片方が不名誉を刻み没落したとしても、彼女自身はエムデン王国は継げないが相応の配慮はされる。

 まぁ普通なら政略結婚の駒か家臣に嫁がせて結束を強めさせるか、何不自由なく飼い殺しという軟禁か。確かに余り良い未来は無いが、それが王族の責務でも有る。

 彼女の幸せだけ考えれば、ロジスト様の養子となり彼が認めた男に嫁ぐ事だな。旦那がロジスト様の跡を継がなくても、それなりの資産は相続出来るだろうし……

 ん?じっと僕を見詰めていた、リゼルと視線が合う。そのニタリとした粘着質な黒い笑みを止めろ!あれ?今の僕の思考に、彼女が黒化する事が有ったのか?

「ロジスト様は、リーンハルト様をヴェーラ王女の婿として候補の最上位に繰り上げました。当初は胡散臭い怪しい殿方だと警戒し敬遠していましたが、所詮は地方に流れる噂話での判断。実際に王都に来て、王宮内で調べれば詳細な真実を知る事が出来ます。

多少の不安は有りますが、伊達に二位以下に圧倒的に差を付けて『淑女が選ぶ今年の結婚したい殿方ランキング堂々の一位』では有りません。女官や侍女、近衛騎士団員達に聞き込み調査をした結果を受け入れたのでしょう」

 何それ?僕に幼女を娶れと?いや、然るべき年齢に達した後にだろうが、それは不可能。アウレール王も絶対に認めない。エムデン王国の王位継承権の参加資格を得てしまうから、絶対に認められない。

 絶対に邪推されるし警戒される。下手をすれば王位継承権二十位以内も可能だ。僕かヴェーラ王女との間に生まれた子供か、どちらも可能性が生まれる。僕は実績で、生まれた子供は血筋で。

 国が割れる。アウレール王亡き後、権力と功績と血筋を考えたら、僕やヴェーラ王女にその意志が全く無くても周りが騒ぎ出す。結果、国が割れてエムデン王国は弱体する。

 周辺諸国から攻められ、エムデン王国は滅亡する。大陸一の強大国でも権力争いで国が割れれば、簡単に滅ぶ。戦争とは国家が一丸となり挑まねば勝てない。それは、我が祖国ルトライン帝国が実証しただろう。

 そして王女を娶るとなれば、ジゼル嬢と代わって本妻にしろと周囲が騒ぎ出す。アウレール王は僕との約束を守る為に強行に反対し、ロジスト様との関係が取り返しのつかない程に悪化するだろう。

 これは最悪の予想で、その前に幾つか打つ手は有るとは思う。だがロジスト様の願いが叶う事は無く、ギフトで狂った感情が仕出かす行動は予測不可能。モンテローザ嬢め、本当に余計な事をしてくれたな!

「不幸な事は、我が主様は出来が良かった。そう言う事ですわ」

「普通は出来が悪いから諦めろ!だろ?止めてくれ、前にも同じような事が有ったような?」

 コレって大事だ。アウレール王が凱旋帰国する前に、親書で伺いをたてて事前に対応し準備と根回しをしないと本当に不味い。グーデリアル殿下やロンメール殿下にも話を通さないと、誤解で関係悪化とか嫌過ぎるぞ。

 僕は立場を臣下と定めて国王への争奪戦には参加しない、する訳がない。孤高の国王になれば、イルメラ達との関係も微妙になる。そんな事は認められない!最悪は引退や隠遁してでも、中央からの関係を断つ。

 この予想に辿り着いた時点で、やる事が理解出来た。根回しする、ロジスト様の意志など関係無く確実に間違い無く僕とヴェーラ王女の婚姻は潰す。有り得ない、そこに僕達の幸せは無い。

「アウレール王に相談事が増えましたね。この件は僕が草案を出しますので、レジスラル女官長とザスキア公爵が添削して下さい。僕は王位継承権争いには参加しない、する訳が無い。

ヴェーラ王女を娶ったりもしない、する訳が無い。この事をアウレール王にリズリット王妃、グーデリアル殿下にロンメール殿下にも伝えます。余計な誤解や心配をさせない為にです」

 嗚呼、感情が抑えられず変な表情になってる。笑みを浮かべているつもりだが、表情筋が強張って思い通りの表情にならない。拳も爪が食い込む位に力が入っている、モンテローザ嬢への悪感情が止まらない。

 リゼルが僕を見て固まっている。モンテローザ嬢への深い憎悪をギフトで読んでしまったか?大丈夫、僕の未来計画に君とザスキア公爵の幸せは入っている。側室にはしないが、幸せは守ってみせるから。

 アヒム侯爵も余計な事を仕出かしてくれたな。微妙に邪魔をするのを様子見したのが駄目だった。弱気はマイナス、強気で攻めるか?ラミュール殿の視察の時も小細工してくれたし……ヤルか!

「り、リーンハルト様?目が据わってますわ。少し怖いです……勿論ですが、賛成します」

「誤解の無いように根回しするのは賛成よ。私の未来計画に、王族と親族関係になるなんて事は無いのよ」

「ロジスト様にヴェーラ王女の希望は極力叶えたいのですが、流石に今回の件は捨て置けません。リーンハルト卿の意見に賛同します」

 見回せば、全員が同意してくれた。そうだ。僕の幸せ未来計画に、ヴェーラ王女の入る隙間など無い。邪魔をするなら何をしても潰す、何としても潰す。

 ロジスト様?アヒム侯爵?モンテローザ嬢?僕の幸せの邪魔をするなら、表舞台から退場して貰うしかないな。裏で隠れて小細工し敵対行動をしたなら、反撃も飲み込んでくれ。

 侯爵七家の下位三家は取り潰し、トップが安泰だなんて幻想だよ。くだらない勢力争いの前に、国家に役立つ事をしろ。出来なければ、相応の罰を受けてくれ。それが貴族としての役割だよ。

「ええ、皆さんの意見が統一されましたので安心しました。今後も方針を替えずに、お願い致します」

 深々と頭を下げる。これで協力者達との意志統一が出来たので安心だ。後は……

◇◇◇◇◇◇

 何とも言えない笑みを浮かべた、リーンハルト様が退室するのを見送ったわ。何かを決めて、その為には何も躊躇わない意志の強さを感じたのだけれど……

 基本的に善人であり他人を気遣い、何かをするにしても建て前を用意し己のイメージを取り繕う用心深さが成りを潜めてしまったわ。笑顔の仮面の下で下した判断は、相当苛烈な事も建て前を用意して実行する。

 リーンハルト様の未来計画は、ジゼルさんを本妻に迎えてイルメラさん達を側室に迎える。此処で完結し、残りは彼女達と幸せに暮らすだけ。私やリゼルが食い込む余地は十分に有るから焦らなかったけれど……

「リゼルさん?リーンハルト様の思考を読んだのでしょ?」

「………はい、ギフトを使いました」

 微妙に怯えを含んでいる。つまり彼の思考を読んで怯える要素が有った、敵対者に対する対処方法についてだと予測したわ。普段の優しい態度に騙されるけれど、彼は敵には大量殺戮も悩まず迷わず実行出来るのよ。

 敵対者達は普段の温和な態度に騙されて、リーンハルト様を甘く見ている。何か有っても謝れば許してくれる、だって善人だから。そんな訳が無いのに、何故軽い判断で敵対するの?彼に敵対した者の末路を知ってるのに?

 リゼルさんが何度か深呼吸をして気持ちを落ち着けている。気丈な彼女が怯え動揺したのだから、話す内容は相当ね。覚悟を決めなければ駄目よ。私とリーンハルト様が結ばれる為にもね。

 彼の暗黒面よりも私の暗黒面の方が、より深く澱み濁ってドロドロしているわ。それを飲み込んでも、リーンハルト様は私を嫌わない、私も彼を愛しているの。私達は一蓮托生、呉越同舟、一心同体なの。もう離れない、離れたくないの。

 真っ黒に染まった私の全てを知って尚、嫌わない強さを持つ殿方を逃がす訳にはいかないの。

「その、モンテローザ嬢の件ですが早めに対処……いえ、潰した方が良いと思います。リーンハルト様は彼女が全ての元凶だと定めたので、任されてはいますが急いだ方が良いです。

リーンハルト様は、モンテローザ嬢を今後のエムデン王国の繁栄には不要だと判断しました。国が割れる原因であり、仲間に引き込む事は無いから。自分達の未来の、幸せの為にも……因みにですが、その未来の幸せに、私とザスキア公爵は入っています」

 あら?因みにとか言いながら嬉しそうね。先程迄は少し怯えていたのに、今は凄く嬉しそうだわ。でも温厚な彼が国の為に不要と判断した、確かに彼女一人でもギフトを乱用すれば国は傾くのよ。

 その危険性に気付いたのね。私も賛成、敵対する女を生かしておく意味は無いのよ。レジスラル女官長も巻き込んで処分しましょう。その為には、アレが危険で排除しか方法は無いと誘導しましょうね。

 アヒム侯爵家も没落して貰いましょう。アウレール王に父娘が結託し自分達の利益の為だけに、国を割る程の悪意有る謀略を仕掛けていると言えば良い。証拠を揃えて、ニーレンス公爵達も巻き込んで……

「なる程ね。確かに元凶はモンテローザさんだから、ギフトの効果を考えても放置など出来ない。改心したなど信用出来ないから、今後も不安の種を残してしまうわね。

彼女は危険よ、中途半端に有能だから自分達の利益の為に工作し成果を出してしまう。その結果、エムデン王国が衰退する事迄は考えが回らない。それでも自らの利益の為に自重しない、そしてギフトだけに証拠を揃えての表立って非難は無理なのよね」

「洗脳系ギフト、使い勝手が悪いから味方に引き込む意味が薄いです。なまじ味方にして欠片程の好意を抱いてしまったら、ギフトを使われて操られてしまいます。確かに危険な芽は早めに摘むに限ります」

 そう、今迄の経緯からすれば危険で放置も出来ず手綱も引けないと思うでしょう。自分の感情を操作されるとか、不快でしかない。レジスラル女官長が協力してくれるなら、何とかなるわね。

 罪のでっち上げ、噂を操作し周囲の好感度を下げて国賊として同情心を無くす。貴女のギフトは確かに嵌まれば強力だけど、ネタが分かれば対処は出来る。要は好感度を上げさせなければ良いのよ。

 自分で動いて好感度を自由に操作出来なければ意味は無い。宝の持ち腐れ、気付かず使ってしまえば敵対者を量産するだけ。上辺笑いの貴族の仮面の下に秘めた感情を貴女は理解し操れるかしら?

 表面上は友好的でも内心は敵対心を募らせているように仕向ける事はね、私にとっては簡単な事。貴女の味方は居ないの、貴族社会で爪弾きになりなさい。私とリーンハルト様と、序でに他の女達との幸せの為に……

 私達の関係を再確認させてくれた貴女に、この言葉を贈るわ。『有り難う。私とリーンハルト様の幸せの踏み台になってくれて……そしてさようなら、もう会う事も無いでしょう』

 




本日から来年1/3(金)迄の五日間、連続投稿をさせて頂きます。
宜しくお願いします。
日刊ランキング十三位、有難う御座います。

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