古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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何時も誤字脱字報告有難う御座います。凄く助かっています。


第668話

 宮廷魔術師団員、僕の配下の土属性魔術師達の鍛錬の成果を模擬戦と言う形で確認した。異形のゴーレムを好む連中が、画一化された人型ゴーレムを運用し戦った。

 短期間の成果としては十分過ぎる、良くやったと手放しで褒めるレベルだが色々と問題も発覚した。何度かゴーレムによる集団模擬戦は行っていたが、殆どが瞬殺だった。

 今回初めてショートソードとモーニングスターの頭部だけの武装のゴーレム達と、実際に切り結んでみたが……基本スペックはレベル20相当だが、武器の扱いが拙い。

 突撃のグレイトホーン、蟹爪で挟むか叩き斬るのデスキャンサー、一応大振りのナイフを使っているカースベビー。カブトムシキングは……角を鈍器に見立てたか?異形のゴーレムを多用していた彼等に、人の武器は慣れてない。

 戦士としての技量も低い、これではダメージ無視を生かした雑な戦いしか出来無い。破壊こそされないが、簡単にあしらわれて終わり。こんな状態では火属性魔術師を前線に送る鉄製の盾の時と変わらない。

 これじゃ駄目なんだ、これでは前と変わらない。土属性魔術師の戦場での活躍、人型ゴーレムの大量運用による新しい集団戦法は最初の壁にブチ当たった。トライ&エラー、最初から上手くはいかないよな。

「全滅、良い所無しで僅かな時間で全滅。百二十体で挑んで四十体に負けた」

 両手を握り締めて、震えながら下を向いている。

「同じ強さのゴーレムを使っての惨敗、何故だ?何故なんだ?」

 上を見上げて呆けている。時々手を振り回すのは何故だ?

「我々の努力が……全く通じないって何だよ!」

 しゃがんで地面を殴りつけるな!拳が傷付くし、危ないから止めるんだ。皆が色々な行動をして負けた事を悔やんでいるのだが……

 む、不味い。意気消沈と言うか自信を無くしてないか?頑張った、君達は頑張ったぞ!その場に座り込んだり、両手を地面に打ち付けたりするな!

 デスキャンサー君、何を涙ぐんでいる?男泣きは時と場所を選んで!今回は情けなさとか泣き虫的な意見が出てるよ。観客席に居る見学の侍女や女官達からの君の評価が……

 ん?後から聞こえて来た彼女達の会話が変だ。そそりますとか、興奮しますね、とか淑女の会話じゃない。ドエス?ドエスが混じって居るのか?

「自棄になるな、訓練を始めて二ヶ月程度なら十分に合格だよ。僕もゴーレムの集団運用を始めて半年位は同じ様なモノだった。だから悲観的になるな、これからだよ。大丈夫、大丈夫だからな」

 まぁ同じ程度は嘘だけど、今は自信を取り戻す事が大事だし、実際に集団運用としては及第点ではある。異形のゴーレムに拘っていた彼等が、人型ゴーレムの集団運用に挑んで結果を出したんだ。

 制御が難しい事を鎧兜のパーツ数を減らす事で対応したり、前衛・中衛・後衛と分けて逐次投入し一度に全てのゴーレムを操らなくて良い様に工夫したり……

 彼等なりに良く考えている。だが戦士としての武器を扱う技量の低さを考えると、騎士クラスだと倒しきれない。逆に接近されて倒される確率が高い。

「しかし、リーンハルト殿。我等は惨敗です、情け無い位に全滅しましたぞ」

「リーンハルト様のゴーレムは無傷、しかも三分の一のゴーレムしか使ってない。同じ強さで、この圧倒的な差は何なんですか?」

「流石はゴーレムマスター!我等とのレベル差を痛感しました。ははは、もう勝てるとは思えない。僕等は足元にも及ばない」

 効果無し、褒めたのに効果無し。困ったな、僕の言葉じゃ彼等には通じないのか?力の差って言われても、僕は秘密だが古代魔術師。

 現代に生きる彼等とは絶対的に違う存在なのだが、そんな事は今は関係無い。沈んだ男を再び浮上させるのは、女の仕事だ。

 そして此処には、彼等に関係の有る一人の淑女が居る。つまり、カーム殿に視線を向ける。何とかしてくれ!君の大切な、セイン殿が自信喪失で困ってます!

「ふぅ、全く男共ときたら……情けないわね」

 溜め息を吐かれたし首も左右に振られた。カームさん、その男共の中には僕も入っているのでしょうか?

 彼等を撃沈させた原因は、確かに僕に有るけどさ。幾らなんでも、宮廷魔術師第二席ゴーレムマスターの僕が配下に負ける訳は無いぞ。

 負けて当たり前、胸を借りる位の意気込みで挑んで来てだな。負けたら落ち込むとか、何とかして欲しい。

「セインさん!それに他の皆さんも聞きなさい。確かにリーンハルト様は大人気なさ過ぎですが、成果は認めてくれました。万の軍勢に喧嘩を売れる、常識の枠外の異常者に認めて貰えたのです。落ち込まずに誇りなさい!貴方達は普通なのですから、これが普通の結果なのですよ」

 え?もしかしなくても非難されてる?言葉は歪曲だけど、間違い無く非難されたよね?セイン達も選ばれし宮廷魔術師団員なのに、普通と連呼されてるんだぞ!

 普段は選ばれし魔術師達の頂点とか言ってるのに、今は普通だから大丈夫とか変じゃない?それで自信が戻るなら良いけど、普通で本当に良いのか?

「カーム、有り難う。そうだった、相手は規格外の異常者の化け物だったんだ。負けて当たり前、その負け方を問題にするべきだったんだ」

 跪いてカーム殿の両手を握り締めて涙を流すセイン。ぱっと見は感動の様子だけど、話の内容は宜しく無い。流石に負けて当たり前で原因を追求するのは良いが、皆さん僕を人外の異常者認定してない?

 僕は未だ義父達みたいに人間は止めてない、間違い無く人の範疇に居ますので止めて下さい。アレと同じに扱われると、心が痛いのです。魔力や扱う魔法は特別だが、肉体的には人間の範疇で多少鍛えた程度なんだぞ。

 なのに立ち上がり隣の奴と肩を叩き合って普通で良かったとか納得して頷いたりしてるけど……それって宮廷魔術師団員としてどうなの?

「そうだよ。僕等は保ったほうだ!相手は国家に単独で喧嘩を売って勝てる化け物魔術師だった、僕等は普通なんだし問題無いじゃん」

「ははは、普通に同列に考えちゃ駄目な相手だった。言われてみれば納得だ、そうだよ僕等は普通なんだよ。あんなのと比べちゃ駄目だったよ」

「比べる事自体が烏滸がましい。僕等は間違っていた、そうだよ問題は無いんだよ!」

 おぃ、お前!あんなのって言ったな。駄目だぞ、その流された思考は駄目だ。確かに隔絶した力量差を理解したのは良いが、負けて当たり前の気持ちは駄目だ。

 あれ?負けて当たり前だから落ち込むなって考えてたのに、実際に持ち直すと慌てる僕って何だ?増長し過ぎてる?ヤバいのは僕だった、反省。

 未だ配下の育成とか手探り状態で難しい。昔の連中は、マリエッタが上手く執り成してくれていたから手が掛からなかった。いや、任せきりだった。漸く今、一から学んで育てているんだな。

「未だゴーレムの集団運用の入口だから、今は負けても構わない。だが次はもっと粘り、僕に一矢報いる位の気概を持ってくれ。さて、次の課題は、ゴーレムにロングボゥを装備しての遠距離攻撃だ」

 接近戦は未だ危険だ。技量の高い騎士クラスだと、ゴーレム達を振り切って直接攻撃される危険性が高い。

 彼等では未だ敵との距離は100m以上は欲しい。じゃないと接近戦に持ち込まれて蹂躙される。それは不味い、だから遠距離攻撃を覚えさせる。

 ゴーレムの制御範囲+ロングボゥの射程距離を足せば、少なくとも100mから150mにはなる。先ずはロングボゥの攻撃で数を減らし、接近されたらショートソードで迎え撃つ。

 数を減らし怪我を負わせれば、拙い技量でも十分に渡り合える。ゴーレム達を足止めにして、攻撃魔法を撃ち込んでも良い。

 戦術を広げる為にも、先ずはロングボゥの扱いを習得。次は攻撃力を高める為に投げ槍。投げ槍なら完全装備の騎士にも、ダメージを与えられる。

 百二十体のゴーレム達による一斉攻撃、ロングボゥでも投げ槍でもコンスタントにダメージを与えられる筈だ。本人達にロングボゥを扱わせるのは無理だ、上達も難しい。

 ロングボゥは騎士達の必須の武器だが、強い肉体が必須。弓を引く力が強い程、威力が増すし命中率は鍛錬しないと上がらない。

 だがゴーレムは鍛えた人間の何倍も力強い。だから強力な弓も引ける、疲れを知らないから短時間で何回でも引ける。

 命中率は手数で補える、だから無理矢理でも覚えさせる。槍・弓・剣、この三種類を使えれば大抵の事態には対処出来るんだ。

「君達のゴーレムに合わせて武装を変えたゴーレムを錬金した。先ずはロングボゥ装備、左手首から弓と一体化させて簡略化したが、右手は矢をつがえる関係で最低でも二本の指が必要だ」

 五本の指を制御する事は難しいが、弓矢をつがえるだけなら極端に言えば二本の指でも大丈夫だ。格好良さより制御と機能に重きを置くのも有りだな。

 僕は弓矢をその都度用途に合わせて錬金するが、最初に何本も矢筒に入れておくのも良いし種類も一種類に絞るのも良いかな。

 矢尻は貫通力を重視した射抜くタイプにしよう。鉄製の盾なら防御は出来るが、ゴーレムの力で射れば強い衝撃を与えられるから威嚇にも牽制にもなるだろう。

「左手首と弓が一体化している。弓本体は鉄製、弦も鉄線か?」

「ゴーレムに弓を使わせるのか。リーンハルト様の操るゴーレムを見た事は有るけど、僕等が扱えるのかな?」

「先に弓と矢だけを錬金して覚えた方が良くないか?弓本体も鉄製、弦も鉄線。矢も全て鉄製、難しいぞ」

「そうだな。しかしロングボゥなんて錬金した事も無いけど、的に当てられるのか?」

 見本の為に錬金した三体の簡易弓兵ゴーレムに群がり確認している。知的好奇心は高い、確かに先に弓と矢を錬金させて慣れさせるのも良い考えだな。

 いきなりゴーレムに付けても、操る本人が理解してなければ扱うのは無理だ。自分の身体で動きを理解しなければ、ゴーレムを操る事など出来無い。

 それはショートソードを扱うのも同じだけど、彼等は実際にショートソードを使ったのかな?まぁ剣の類は見る機会も有るし何となく分かるが、ロングボゥは中々無いよな。

 もしショートソードを使って自分で身体を動かして訓練をしてアレなら、接近戦は雑兵にしか挑めない。騎士か熟練の兵士だと、簡単に接近されて殺される。

 常時展開型魔法障壁を使えない魔術師など、雑兵でも二十人位で囲まれれば倒される。魔術師は接近されると弱い、だから僕は接近戦も学んだ。

 一撃か二撃を避ければ良い程度の技量しか無いが、それで時間を稼げば反撃も逃走も出来る。その自信が心に余裕を与え、慌てず冷静に敵に対処出来るんだ。

「先ずは弓と矢を人数分錬金するから、良く見て触って調べてくれ。暫くはゴーレムを弓兵にして集団で攻撃する訓練だ。敵との距離は100m、ゴーレムも自分から30mは離して制御する。それで敵との距離は130m、80mを切ったら投げ槍に切り替えて攻撃。そして最後にショートソードによる接近戦の三段構えでいくからな」

「「「はい!リーンハルト様」」」

 元気良く返事をしてくれたのは、僕に負けた事を切り替えられたって事だ。新しい課題に目標も与えたから大丈夫だろう。

 実際には三段構えの最後の接近戦は、自分達が逃げ出す時の時間稼ぎだ。弓矢に投げ槍の攻撃を避けられる連中に、拙い剣技は通用しない。

 有る程度の数を減らし騎士か正規兵にバトンタッチだな。最初に一撃入れて数を減らし連携を崩して、騎士や歩兵に切り替えて戦う。効果は高い、だが殲滅させるには未だ足りない。

「見本は一時間位で魔素に還るから、良く調べて自分達なりに錬金してくれ。来週途中経過を確認するから、頑張ってくれ!」

 これで良い。カーム殿も頷いているから大丈夫だな。彼女も恋を知った為か、お淑やかになり頼り甲斐も出来てきた。

 ジョシー副団長とメディア嬢にも確認して、問題が無いなら結婚の話を進めよう。同じ魔術師だし派閥も敵対してないし家柄も釣り合う、属性違いも大した問題じゃない。

 最初は半分本気じゃなかったが、何時の間にか仲良くなっているとは……男女の仲とは不思議なモノだな。

 円陣を組んで見本の弓矢を手に盛んに意見交換を始めた。それで良い、知識の吸収には他者の話を聞いて考えて答えを返す事も有効だ。

 特に君達は集団で行動する事が最大の効果を発揮する。一人で大量にゴーレムを運用する僕と違い、君達のゴーレム運用にはチームワークが必須だよ。

 輪の中にさり気なく、カーム殿が混じって檄を飛ばしているけれど……彼女は自分の属性仲間の所に居なくても大丈夫なのかな?

 


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