古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第595話

 久し振りの全員での添い寝、流石にユエ殿が朝方に全裸幼女形態になっていた時は慌てたが、女性陣に気付かれない内に神獣形態に変化させたので安心した。

 彼女のサラサラな銀髪が鼻に当たって、擽ったくて起きたんだ。未だ早朝だったから良かった、僕が最初に気付いて本当に良かった。

 ユエ殿も油断すると戻っちゃいます!とか可愛い舌を出して謝ってくれたが、テヘペロなんて何処で覚えたんだ?段々と俗っぽくなってるぞ、本来は神秘的な巫女様だろうに……

 いや、そもそもバーリンゲン王国に軟禁されていた時に、うっかり幼女形態になってたら大騒ぎになっていた筈だぞ。

 それは別として眠りが浅い、戦場暮らしの影響で感知力が過敏になっているみたいだ。少しの音でも反応する、イルメラの寝息や、ウィンディアの囁く様な寝言も聞き取れる。

 アーシャは殆ど身動(みじろ)ぎせずに寝れるんだよな、あとユエ殿は寝相が悪い。腹枕が飽きると頭の上に移動したりと、僕の身体の上でやりたい放題だ。

 だけど女性陣の方には行かない、僕の身体の上だけを器用に動き回るのには困るんだ。幼い時に両親と離れて、妖狼族の巫女として修行させられ一族を導いていたから僕に対して甘えん坊なのだろう。

 今は僕が妖狼族を傘下に収めて妖狼族を導くみたいになってるから、肩の荷が降りたし上位者が増えたから甘えられる。その反動で僕に対して甘えた行動をする、僕も父性が刺激される。

 対外的には未成年だが、転生した事により実年齢は中年。しかも転生前は子宝に恵まれなかった、僕もユエ殿に対して我が子代わりに甘えているのかな?

◇◇◇◇◇◇

 素晴らしき状況での目覚め、眠りは浅く何度か起きてしまったが全然疲労感は全く無い。精神的にも魔力も全快だ、肉体も充実している。

 彼女達は僕より少しだけ早く起きて部屋を出て行った、薄暗い室内から扉を開けて明るい廊下に向かう彼女達のシルエットは素晴らしい。

 薄着から透ける均整の取れた素晴らしいプロポーション!僕も何か違う扉を全力で蹴り開けそうだ、新たなる性癖など不要だ。

 メイド服好きの女性の体臭好き、もう病気レベルの自覚有る変態だ。因みに神獣形態のユエ殿は、アーシャが抱いて連れて行った。

 彼女は既にユエ殿にメロメロだ、幼女形態でも神獣形態でも関係無く可愛がっている。現状バーレイ伯爵家の女主人であり、僕の唯一の側室だ。

 その彼女が、ユエ殿を認めたとなれば我が家の使用人は全員が受け入れる。一番影響力の有るアーシャを陥落するとは、流石は妖狼族の巫女ですねって感心するべきなのだろうか?

「旦那様、アーリーモーニングティーを御用意致しましたわ。今朝はアッサムのミルクティーです」

 カートにティーポットとカップを二組乗せて、アーシャが寝室に入って来た。側室である彼女だけが、今は寝室で一緒にアーリーモーニングティーを飲める。

 理由は正式な夫婦だから、彼女が居ない場合は使用人が用意する。その場合は、イルメラが一番多い。

 元々は僕付きの専属メイドだった彼女には、メイド長のサラも配慮する。もう少しすれば、彼女もバーナム伯爵の養女として僕に嫁いでくる。もう少しの我慢だ。

「ありがとう、いただくよ。うん、良い匂いだね、気持ちが落ち着くよ」

 既にミルクは入っており、砂糖だけ二杯入れて貰う。程良い甘さと良い香りに意識が覚醒する、優雅で贅沢な目覚めの儀式だ。

 既に着替えを済ませた、アーシャがベッドの脇に座る。生地は高級だが装飾は華美にならない控え目のデザインだが、素材が良い彼女が着ると映える。

 ヒルデガードがカーテンと窓を開けて空気の入れ替えをしてくれたが、部屋に残る彼女達の体臭が薄くなる……いや落ち着け、一週間は嗅げるんだ。

 未だ初日だ、慌てるな。なるべく自然な風を装い笑顔で紅茶を飲む、半分位飲んだら落ち着いた。微笑み合うだけで特に会話は無いが、幸せを感じる時間だな。

「今日の御予定は?少しはゆっくり出来るのでしょうか?」

「午前中は、エレさんと盗賊ギルド本部に行くよ。バーリンゲン王国攻略には彼等の協力が必要だ、その後は魔術師ギルド本部に冒険者ギルド本部も同じ協力要請に行く。午後はバルバドス様の所に挨拶に行って……」

 指折り数えて予定をあげていく、ギルド本部巡りだけで午前中は潰れる。バルバドス様には既に使いを出している、遅くても構わないからと昼食に呼ばれているんだ。

 その後はバーナム伯爵の屋敷に向かう、ライル団長もデオドラ男爵も待ち構えている。確実に模擬戦となり、その後で助力の相談だ。

 彼等は遊撃隊、その構成メンバーをマジックアイテムで強化する。少数精鋭の強者達だが、僕と距離が有る連中にはマジックアイテムは渡さない。それも駆け引きだ、悪いが全員均等にはしない。

「その後で、バーナム伯爵の屋敷に向かう。模擬戦込みの相談だね、場合によっては泊まる事になるかな?王宮への出仕は任意で良い事になってる、でも親書の処理が山盛りでね……」

 深く深く溜め息を吐く、エムデン王国の全貴族の六割位から親書が送られてくる。しかもバーリンゲン王国の平定の援助物資もだ、僕が空間創造のギフトを持ってなければ屋敷の庭は援助物質で埋もれているだろう。

「無理をし過ぎてませんか?今後の政務のお手伝いとして、リゼルさんが挨拶に来ましたわ。アウレール王直々に旦那様の配下として配属させたとか……少しは政務が楽になると良いですわね」

 え?私も手伝えたら良いのですがって悲しそうな顔をしたけど、流石に親書の代筆は無理って……違う!

 何時の間にか昨夜の内に、リゼルまで我が屋敷に来て女性陣と会話とかしちゃってるの?そんな時間的余裕なんて無かった筈だぞ。

 入れ違いにしても僕がゴタゴタで王宮に引き留められた時間は一時間も無かった筈だ、確かに馬車の手配で少し待たされたけど……

 それを僕よりも先に屋敷に来て彼女達に挨拶をして僕が帰る前に王宮に戻ったのか?一人じゃ段取りは絶対に無理だろ?

「ああ、そうだね。配下として直々に、アウレール王から遣わされたんだ。今回の王命の影の功労者、新貴族女男爵に叙される逸材だよ」

 本当に逸材だ、僕に気付かれずに他国の王宮で馬車の手配や短時間とは言え外出の許可まで取るとは驚いた。

 協力者が居る、イーリンかセシリアか?ザスキア公爵やレジスラル女官長の線も捨てがたい。それなりの地位に居ないと王宮の馬車の優先手配とか不可能なんだよ。

 アーシャが不思議な顔で僕を見ているので、誤魔化す様に微笑み残りの紅茶を飲み干す。彼女も成長しているが、未だ他人の感情を察するのは難しい場合も有る。

 余り醜い政争の裏側は見せたくない、彼女は強くなっているが根本的には優しい女性だ。魑魅魍魎達とのドロドロした駆け引きとかは、知らない方が幸せだよ。

 ジゼル嬢やリゼルは悪いが政争にも付き合わせてしまう、僕の力不足の所為で彼女達の力を借りるしかないからだ。反省は必要だが、ジゼル嬢達も協力する事を嫌ってはいないから甘えてしまう。

 ザスキア公爵にも甘えてしまうが、対価は十分過ぎる程渡している。それに彼女の場合は頼られる事に喜びを感じている、遠慮は逆に怒るだろう。それだけの修羅場を潜った才媛なんだ。

「さて、久し振りに自分の屋敷で朝食を食べれる。ニール達も呼んで賑やかに食べよう」

「分かりました。ユエさんやエレさん達も呼びましょう」

 アーシャの腰を抱きながら食堂に向かう、多忙な一日になるし朝食はしっかりと食べて体力を付けないと駄目だな。

 それに夕食と同じく全員が集まっているだろう、中々一緒に食べる機会が少ないから無駄にはしたくないんだ。一週間後にはバーリンゲン王国に向かう、また一月単位で帰れない。

 バーリンゲン王国の平定さえ終われば、後はエムデン王国の守りとして王都に滞在出来る。戦時中にはなるが、少しは彼女達とゆっくり過ごせるだろう……

◇◇◇◇◇◇

「リーンハルト様と二人だけの外出は、魔法迷宮バンクでのレベル上げ以来だから嬉しい」

「そうだね、久し振りだね」

 バーレイ伯爵家の家紋を付けた馬車に乗って盗賊ギルド本部に向かう、エレさんには悪いが終わったら別行動になる。一人で辻馬車に乗り帰って貰う事になるかな。

 流石に盗賊ギルド本部にイルメラやウィンディアを同行させられない、ジゼル嬢も無理だろう。いや、同行させる意味が無い。相手に余計な負担を掛ける。

 向かい側に座り嬉しそうにしている、エレさんを見て和む。無口だから会話は少ないが、二人切りでも嫌な雰囲気ではない。

「確か盗賊ギルド本部の短期講習とか積極的に受けたんでしょ?」

「うん、主に罠の解除と開錠の技術を学んだ。その分バンクの攻略の参加は少なくて、レベル上げは微妙だけど……」

「レベル上げは僕が帰って来たら行えば良いよ。今はスキルを磨く方が嬉しい、バンク最下層の攻略にはエレさんは欠かせないからね」

 レベル上げは簡単だ、少数でボス狩りをすれば良い。だけど単純なレベルアップではスキルは上達しない。エレさんはそれを理解して短期講習を受けてスキルを磨いたんだ、その気遣いは嬉しい。

 現在ブレイクフリーの最高到達階層は第九階層、未だ第十階層には挑んでいない。それはトラップの解除が不安だったから、最悪パーティ全滅とかも有り得る。

 某デクスター騎士団みたいにテレポートの罠に引っ掛かれば全滅も有り得る、壁の中なら即死だし迷子で野垂れ死にも有る。幾ら強くてもトラップに引っ掛かれば分からない、これが魔法迷宮の怖さだ。

「自信は付いた。後は実践有るのみ、今後はバンク攻略に力を注ぐ。第八階層辺りで腕試し」

「無理はしないでね。アグリッサさん達やベリトリアさんと一緒も良いかな、ニールやコレットも一流の域に達してるよ」

 僕の家臣団は少数精鋭、全員が一流の域に達している。ニールはデオドラ男爵が腕を認めて模擬戦三昧らしいし、コレットのゴーレムも僕のポーンと同等以上だ。

 イルメラやウィンディアも当然一流だが、平均より頭一つ図抜けている。このメンバーで挑めば危険な事にはならないだろう。

 笑顔で頷く彼女を見て心が暖かくなる、ユエ殿みたいな父性じゃなくて妹を思う兄の気持ちだな。邪な思いなど全く無い、家族を思う感情が一番近いかな?

「到着したけど、前とは違って裏口か貴賓用の出入口かな?」

 もう随分と前だと思ってしまうが、ベルベットさんとギルテック……いや、ギルさん達に案内されて来た時は正面入口からだった。

 石造りで窓が殆ど無く蔦が絡まった外観、通路幅は狭く天井も低い。守り易く攻め辛い、侵入も容易でない造りをしている。

 だが流石に来賓用の馬車停めは広く、その先に見える出入口も両開きの扉だ。通行し易いが警備員が二人、前にオークションで会った事が有るな。

 確か、ビーチャ殿とオルロス殿だったか?彼等に断りを入れてオークション会場に入ったんだ。懐かしい、未だ一年も経ってないけどね。

「私もコッチは初めてで来た事はない。多分だけど貴賓客用だと思う」

 出入口の前に誘導されて横付けして停まった、御者が扉を開けてくれたので先に降りる。既に出入口の扉は開けられていて、出迎えが前に並んでいる。

 エレさんが降りたのを確認してから前を向く、エレさんは半歩後ろに控えている。嫌になるが、これも身分差なんだよな。

 本当なら馬車から降りる時に手を差し伸べたかったが、エレさんは平民階級だ。同じ馬車に乗って来た事だって問題にする奴等は居る、身分差って本当に嫌だよ。

「ようこそいらっしゃいました、リーンハルト様。盗賊ギルド本部一同、歓迎致します」

 褐色の肌を持つ妙齢の美女が頭を下げてくれた。その後ろには見知った顔が並ぶ、ベルベットさんにギルテックさん。それにドラゴン討伐の時に一緒に行動した、ティルさんか……

 僕と縁の有る連中を揃えたのか?なら『静寂の鐘』のポーラさんが居ないぞ、冒険者養成学校繋がりで集めた?

 アレ?この褐色の肌の妙齢の美女だけど見覚えが有る。言葉使いが違うけど初めて盗賊ギルド本部に来た時に、地下の食堂で料理を作っていた……

「貴女は確か地下の食堂で料理を振る舞ってくれた、オバちゃんと呼ばれていた」

「はい、覚えていてくれたのですね。私は、オバル・チャンドラー。盗賊ギルド本部の代表をしております」

 オバル・チャンドラー、略してオバチャンか。ニヤリと笑った後に再度頭を下げてくれたが、ベルベットさんにギルテックさんが悪戯が成功したみたいに笑いやがった。

 王都のギルド本部の代表が、まさか食堂でコックも兼任とか驚かされた。確かにオバちゃんと呼ばれてるには若過ぎると思ったんだ、普通は美女をオバちゃんとは呼ばないし。

 基本的に盗賊職の連中は油断大敵な連中だ、真面目で正直者のエレさんは珍しい。悪い人じゃないと思うが、交渉には気を付けないと駄目だ。気を引き締めて取り掛かるか……

 




日刊ランキング三位、有難う御座います。

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