古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第588話

 バーリンゲン王国から帰国、直行で王宮に向かい直ぐに謁見室に呼ばれた。最初にパミュラス様とコッペリス殿の事件の顛末と結果を聞いた、重い沙汰だった。

 上級貴族の子女と他国からの側室の処分だ、それだけ影響の有る事を仕出かしたのだが、後味の悪い結果になった。その後で、リズリット王妃を退室させての話し合い。

 アウレール王は、リゼルの事はリズリット王妃には教えないつもりらしい。心を読めるギフト、人物鑑定を持つ彼女の事は極力秘密にしたい。

 だがこのメンバーには知られて良いと思った訳だ、王宮と後宮を裏から仕切るレジスラル女官長。諜報に長けたザスキア公爵、宮廷魔術師筆頭サリアリス様。

 まぁ僕はリゼルを連れて来た本人だから問題無い、これでリゼルとの条件面での約束は果たした。彼女は影の功労者であり、アウレール王がバーリンゲン王国に潜入させる程信頼している配下。

 その成果をもってアウレール王の側近として仕える事になった、これで側近として国王の側に控える事に対しての辻褄は合う。

 背後関係が不明なのは潜入要員だったから、偽装された過去を持ち本来の過去は消されたと言っても嘘だと思われない。少し不自然だが、追求されない理由としては有りだ。

 そしてアウレール王はリゼル本人をこの場に呼んだ。顔見せの為でも有る、彼女が人物鑑定のギフト所持者だと知るのは僕等五人だけ。

 ああ、ロンメール様にキュラリス様、イーリンとセシリアもだった。意外に多いが信用の置ける人達だから大丈夫だろう、これで外交戦は一歩も二歩もリードした。

 ジゼル嬢の安全についてもだ、これで彼女が人物鑑定のギフト所持者だとしても誤魔化せる。リゼルには悪いが償いはするから勘弁してくれ。

 これで仕事関連は一段落した、大袈裟な凱旋祝いは戦時中だから出来ない。連続舞踏会も中止、ささやかかは分からないが今夜王家主催の晩餐会に主賓で呼ばれる。

 つまり今日は帰れない、王宮内で監禁状態となる、バセット公爵からの接触は防げる。一週間以内に準備をして、再度バーリンゲン王国に行かねばならない。

 普通に忙しいぞ、バーナム伯爵の派閥の強化の為にマジックアイテムを量産する必要が有る。野獣三人は狂化、いや強化する。手加減無しの遠慮無し、手が着けられない強さになるだろう。

 王立錬金術研究所の成果も確かめなければならないし、冒険者ギルド本部に魔術師ギルド本部、新たに盗賊ギルド本部にも根回しが必要だ。

 ヤバい、殺人的に忙しい。休日返上でも間に合うか?アーシャ達との団欒は夜だけになる、だが夜も親しき人達との懇親会も有る。根回しも兼ねているから疎かには出来ない、結構際どいスケジュールになる。

 自由な時間など無いと割り切らないと駄目だよな、協力体制を敷いている公爵三人との懇親会は必須だ。晩餐会に懇親会で四日、後三日しかないぞ。

 バーナム伯爵の派閥を交えた懇親会という武闘会も必ず招待されるだろう、これで残り二日だが出発前日は予定を入れない。この日は家族で過ごせる、予備日が一日しか無いのか……

 普通なら半月から一ヶ月近く掛かる出兵準備、それを短期間で可能にするゴーレム軍団と少数精鋭部隊。反則気味だが当人は死ぬほど忙しい、だが平定自体は難しくないから未だマシだよな。

◇◇◇◇◇◇

 多忙さに目眩(めまい)がしてきたが深呼吸を繰り返して気持ちを落ち着かせる、まだ問題が残っているんだ。臣下から仕えし国王にお願いとか不敬と取られるかも知れない。

 だが妖狼族の面倒を見ると決めた時から覚悟していた、彼等は僕にとって必要になる存在。月の女神ルナ様の御神託だけでも驚異だが、僕の最大の悩みを解決出来るらしい。

 子種が薄い、家の存続を重視する貴族にとっては死活問題なんだ。未だ若いとは言え、来年成人したら直ぐに子供が欲しい。アーシャとジゼル嬢の立場を固める為にだ。

「まさに神頼みか、笑える」

 小さく呟いてしまったが、周囲には気付かれていないみたいだ。良かった、何を考えているのかと叱られる所だった。

「アウレール王。今回の報酬について、お願いが有ります」

「何だ?珍しいな、言ってみろ。お前には世話になっているからな、極力叶えてやるぞ」

 内容を聞く前に肯定された、国王への願い事を会話だけで済ます事自体が異常だな。それに僕から報酬について個人的なお願いする事も少ないからか、他のメンバーも少し驚いている。

 特にザスキア公爵は僕が個人的な願いをこの場でする事は無いと確信しているのか、驚いた後に不安そうにしている。だが予測している範囲らしく慌ててはいないかな?

 サリアリス様は笑顔で、レジスラル女官長は興味津々とした感じだ。僕の心を読んだリゼルは呆れ顔だな、折角の報酬を自分の為に使わないなんて馬鹿なんですかみたいな?

「今回の王命達成の報酬として、妖狼族を引き取ります。彼等の希望に添った領地が欲しいのです、月の女神ルナを信奉する事にも絡んでいますので無下には扱えないのです」

「ああ、お前ならそう言うと思ったぞ。リゼルの件もだが、お前は甘い。甘いが味方の結束力を高める事は素直に感心する、自分の成果を他人に分ける事は難しい。これだけの偉業を成して自分の為に使わないとはな、我が忠臣ながら呆れた男だ」

 む?左右に首を振った後に溜め息まで吐かれた、だが臣下が報酬として領地を要求したんだぞ。しかも条件まで付けたんだ、十分強欲だろう。

 リゼルの人物鑑定のギフト、妖狼族の戦力を自分の為に使える権利。しかも与えられる領地の領主は僕だから収入も増える、ヤバい位に強欲だな。

 やはり要求し過ぎたか?ローゼンクロス領内から候補地を探すしかないかな?たしか領内に川が流れていたから上流を探せば……

「妖狼族の族長にはエムデン王国の子爵位を与える、領地も与えるが領主はお前だ。リゼルも男爵位と領地を与えるが、其方も領主はお前だ」

 えっと、前にローラン公爵が自分の管理下のエリアル領を爵位付きで与えるのと同じ事かな?あくまでも自分の領地を配下に与えるが、支配権は自分みたいな?

 リゼルの保護に力を貸せって意味だろう、僕の派閥の構成員からアウレール王の側近が生まれた。でもコレってヤバくないかな?

 僕に権力が集中するのを防ぐ為に、リゼルに王命達成と言う成果を与えて確固たる独自の立場を作らせたんだ。それがそのまま僕の配下になったら駄目じゃないか?

「余りに僕に権力が集中するのは駄目だと愚考します、妖狼族の領地だけでも本来なら無理な願いです。それ以上は受けられません」

 深く頭を下げる時に、リゼルの悲しそうな顔を見てしまった。秘密を共有する僕の庇護下に入りたい、そんな思いだろうか?

 いや、違うな。保身に走る事など無い、最初の条件で十分だと考えた筈だ。僕の配下の方が苦労を掛けてしまう、お互いに負担を強いる事を理解してるだろう。

「お前は俺に次は一切の文句を言わず報酬を受け取ると約束したな、それを違えるのか?」

「は?いえ、それは……過剰な報酬は断るのも臣下の務めだと、その……」

 報酬を遠慮したら怒られた、しかしリゼルの危険度が高くなる。協力者と配下では政敵から狙われる危険度が段違いだ、僕の配下は狙われ易い。

 勿論だが守りは過剰な位に準備している、簡単にどうこう出来る様な事は無い。リゼルの安全を考えるならば、アウレール王の管轄下の方が……

「畏れながら言わせていただきます。リーンハルト様のお考えは間違っております、私はリーンハルト様のお世話になるのならばと引き抜きに応じました。我が身可愛さに国王直轄の配下になる位ならば……」

 なる位ならば、なに?次に続く言葉ってなに?それってアウレール王の配下になる位ならば考えが有るって意味だよな?

 マズい胃が痛い、そんなに潔い顔して何を考えているんだ?もしかしなくても、アウレール王を軽く見てる事に受け取れる。

 僕の事を快く思わない連中が聞いたら狂喜乱舞するネタだぞ、不敬なんてレベルで済む話じゃない。だが他の連中は面白そうにニヤニヤ見ているだけだ。

「リゼルの忠誠心は俺に向いていない、妖狼族も同じだな。だがお前の配下ならば俺を裏切る事は無い、何故ならお前は俺を裏切らないからだ。分かるか?」

「はい。妖狼族も私も、リーンハルト様だからエムデン王国に与したのです。リーンハルト様はアウレール王の為にも、私達を支配する必要が有ります」

 え?散々下打ち合わせした結果が土壇場で裏切りか?いや、裏切ってはいないが結果を違える意味では同じか?

 確かに拒絶はしないって言ったよ、待遇や報酬とは別に引き抜きの唯一の条件だ。だけど国王直轄だって拒絶じゃないんだぞ、何故拘る?

「リーンハルト様の負けですわ。リゼルさんの面倒を見る事を決めたのなら、最後まで見なさいな。側室や妾でなく、配下として支えてくれるのです。感謝なさいな」

「そうじゃな。国王にまで意見を通そうと言う覚悟は本物だぞ、諦めて面倒を見る事だ」

「私としては思う所も有りますが……納得は出来ませんが理解は出来ます、リゼルの意志を尊重すべきです」

 え?女性陣が全員認めたぞ、しかもリゼルのドヤ顔は何だよ!アウレール王まで苦笑いだが、それで構わない的な流れになっている。

 結局は僕の覚悟の問題なのだろう。リゼルを自分の幸せの為に引き込んだのなら、最後まで責任を持てって事だな。

 仕方無い、元々僕にはデメリットなんて無いんだ。それならば認めよう、受け入れよう。僕の派閥は少数精鋭だな……

「分かりました、その条件でお願いします」

 アウレール王に向き直り深々と頭を下げる。新たに妖狼族とリゼル、領地持ちの子爵と男爵が仲間になった。

 お祖父様は従来貴族の領地持ち、これで配下に爵位持ちが三人増えたんだ。喜ばしい事だな、一応の陣容だろう。

「妖狼族とリゼルは、リーンハルトが引き込んだ連中だ。爵位も領地も、お前の功績とは別物だ。だから本来の成果に見合った報酬、飛び地になるがローゼンクロスの三倍の領地をやる」

 僕を指差してドヤ顔で言った言葉の内容を噛み砕く、理解が追い付かなかったが漸く理解したけど……

 三倍?ローゼンクロス領の三倍?それって伯爵が持てる領地の規模じゃないぞ。いや、僕は侯爵待遇だけど侯爵七家の上位の領地に匹敵するぞ。

「勲章もやる。良かったな、素直に喜べ。他にも詰め合わせで適当な宝物もやる、良かったな」

 豪快に笑いながらバシバシ肩を叩いてますが、わざわざ立ち上がって近付いて迄やる事ですか!国王の気楽さって言うか砕けた態度って言うか、信頼の証って言うか……

 ついでみたいに報酬が増えてないか?勲章に宝物迄さり気なくっぽく言われたが、もう頷くしかないのか?

 結局教えて貰った領地だけど、本当にローゼンクロス領の三倍だった。広大な穀倉地帯を持つスピノ領、鉄と銅の鉱山を持つアクロカント領、此処には幾つかの泉が湧いていて妖狼族の領地の候補地だ。

 最後のティラは四つの街を抱え最大の人口を誇る、この三つに港町ローゼンクロアの街を含めると……毎月の収入、純利益って幾らになるのか分からない。

 こんな優良な領地だけを貰うとか喜びより驚きと困惑しかない、名実共に侯爵七家に匹敵する勢力になる。不安要素は人材、仲間や配下が圧倒的に足りない。

 領地の代官を残すか変えるか、僕の派閥の配下を送り込むか、悩みが増えたが贅沢な悩みだ。気持ち良さそうに笑っているアウレール王を見て思う、全て国王直轄の領地なのだが大丈夫なのだろうか?

「良かったわね、リーンハルト様。三つ共に王都に近いわ、つまり有事の際に領地から兵力を引き出し易い訳よ」

「アウレール王の直轄地だった領地です、善政を引き継いで下さい」

「広大な穀倉地帯は食料供給基地、鉱山は軍需物資、大きな街は人材の宝庫だろう。俺の感謝の気持ちに、王都の守りの事情も絡めた。足場を固めろ、お前の弱点は急激な出世による人材の少なさだ」

「ありがとうございます。王都の守りと自分に不足するモノの解消、早急に対応させて頂きます」

 もはや断る事など不可能、口を挟む事すら不敬の流れだな。だけど王都の守りを考えるならば、僕の支配地が王都周辺を囲んでいる方が遣りやすい。

 その意味では最良の選択だが発表されたら必ず問題が発生する、これが国内の結束を乱さなければ良いのだが……

 エムデン王国には存在しなかった獣人族、妖狼族を引き込んだ事もそうだ。人間至上主義、多種族排斥主義。そんな奴等も今後は刺激する、また問題が山積みだな。

 


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