古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第533話

 バーリンゲン王国の大臣と警備責任者との打合せの後、ロンメール様に報告に行ったが、早速仕掛けて来ていた。パゥルム王女が直々に正式に僕にお茶会へのお誘いを打診してきたんだ。

 僕が打合せで居ない時を見計らい、先にロンメール様とキュラリス様と懇親をした後で、不在だった僕を誘ってきた。ロンメール様も断る事が難しかったのか受けてしまった。

 仕えし国の王族が受けたんだ、僕に断る選択肢は無い。この後は昼食に招かれているが、他にも参加者は多い。

 

 なので昼食後のお茶会に誘われた、相手は少数だろう。パゥルム王女にミッテルト王女、護衛にフローラ殿か?他国の王女に誘いを受けた今回の来賓客連中は居るかな?居ないだろうな。

 対外的に噂は広がる、バーリンゲン王国内では王女達が僕と言うかエムデン王国に接触した。国外ではエムデン王国とバーリンゲン王国は何かしらの密約を交わした、または交わそうとしている。

 お茶会と言う事実に色々と偽情報を混ぜ込んで広めるのだろう、全く謀略好きな連中は困る。味方のザスキア公爵の有り難さを痛感するよ……

 

 どうせ僕とミッテルト王女との婚姻外交の打診とかだよ、打診中とかなら嘘にはならない。此方にも断る権利が有る、だが周囲は色々と考えさせられるし勘違いも誘発出来る。

 小国とはいえ一国の王女、オルフェイス王女を贄にウルム王国と旧コトプス帝国の仲間に入れて貰った連中だからな。色々と小賢しい事をしてくるだろう。

 これは早々に喧嘩を仕掛けて此方の立場を明確にした方が良いかな?変な噂話は消し飛ぶだろう、何たって明らかに戦争を仕掛けようとしているんだ。

 

 この状況なら王女と婚姻外交なんて有り得ない、逆に戦争を回避する為に王女を差し出すと思われるかな……あれ?これだとエムデン王国が、いや僕が悪役かな?

 まぁ良いか。その悪役の状況を少しでも緩和する為に動くのが僕の役目だ、相手から挑発されて仕方無くの流れが良いか?

 それとも此方から相手の隙を突いて仕掛けるか、こじつけになるが何とか周囲が納得出来る理由が有れば良いんだ。

 

「理想は相手から突っ掛かって来てもらい対処する、そして無礼だと言って報復だな……」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 昼食会を終えて客室で少しの間でも休憩する事にした、食後に直ぐ横になるのは悪い事だが精神的な疲労回復には寝る事が一番だと思うんだ。

 イーリンとセシリアには苦言を呈された、だが結構な疲労感が有ったのも事実だ。今回参加する連中は、僕と接触し何かしらの情報を引き出す役目が有るのだろう。

 だが好みの女性や欲しい物とか教えたら大変困る事態になっただろう、だから好みの女性は婚約者。欲しい物は古代の魔法関連の珍しい品物と答えておいた、対処に困るだろうね。

 

 色々な思惑が絡んだ緊張感の有る昼食会を無難に終えた、各国の国賓が一堂に会した会場は腹の探り合いばかりで辛い。だが流石はロンメール様だ、優雅に相手を煙に巻く話術は凄い。

 相手も芸術関連に話を振られたら、相当造詣が深くないと話が続かない。愛想笑いで何とか凌ぐしか出来無い、それでは会話の主導など取れない。

 僕の場合は魔法か錬金か、後はゴーレム関連だが……これは相手が一番知りたい情報だ、だから深くは話せないので苦労する。現役王族と元王族の差は大きい、流石はロンメール様だと感心する。

 

 各国の主賓の護衛として必ず宮廷魔術師が同行している、何故か火属性魔術師と土属性魔術師がセットで来ている。

 これは本命の護衛は火属性魔術師、僕から情報を引き出す相手が土属性魔術師の役割分担だな。未だ火属性魔術師達は、僕等土属性魔術師を見下している感じがする。

 それが四属性最弱にまで落ち込んだ土属性魔術師の悲しい現実、それを何とか回復させる事も僕の望みでもある。土属性魔術師達との会話は楽しかった、彼等も僕に好意的だ。

 

 敵対国家じゃないし同じ土属性魔術師が活躍しているんだ、好意的にもなろう。年配の同性ばかりだが何人かと私的な親書の遣り取りをする事になった。

 勿論だが、双方共に親書とはいえ所属国家のチェックが入り国から国へ親書と言う形で送られる。故に深い内容にはならないが、これも国家間交流だ。特に旧コトプス帝国領と隣接している、バルト王国とデンバー帝国とは良好な関係が望ましい。

 楽しい事も面倒事も有った昼食会を終えて、悩ましいお茶会に向かう事にする。この後の夕食会で、お茶会の事が色々と話題になるのだろう……ああ、胃が痛くなる。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 パゥルム王女主催のお茶会に僕だけ呼ばれた、事前に根回ししてロンメール様に許可を取っているので何度も思うが拒否権は無い。

 迎えの上級侍女か女官の案内に従い王宮内部を歩く、大体の地理的な感覚は分かる。真っ直ぐに中央部というか中心部に向かっているよ、完全に王族の生活区画だな。

 王宮はエムデン王国と同じ石積だが産地が違うのか薄い茶色で明るい感じだ、固定化の魔法は掛かっていないが積み方は均等で隙間も少ない。だが擦れ違う連中からは敵意を感じる、特に警備の兵士から……

 案内の淑女に気付かれない様に溜め息を吐く、王宮の中心近くに他国の臣下を招くとは最初から食らい付いてくる。もう少し周囲に気を配って欲しい、僕の立場が微妙になるんだぞ。

 

「此方のお部屋になります。少々お待ち下さいませ」

 

 最初から密室かよっ!

 

 深々と頭を下げる淑女は無表情だが、普通に他国の賓客を王女と密室で引き合わせるのって外交上の失点だと思う。一応は仕えしロンメール様の許可を貰っているが、後で詳細な報告は必要だな。

 案内役の淑女が入室の許可を取ってくれたので身嗜みの最終チェックをしてから室内に入る、かなり広い応接室の中央に円卓が据えられている。広いのは防諜対策かな?

 相手は二人、多分だが年上の方が第三王女のパゥルム様。第四王女のミッテルト様は一度会っているが、無かった事にしている。その後ろには三人の侍女が控えている、魔力反応が有る事から考えて護衛だな。

 

 毛足の長い絨毯の上を歩いて近付く、小国とはいえ相手は王女。僕は大国の侯爵待遇の宮廷魔術師第二席。一般的な序列で言えば向こうが上だが、国力を上乗せすると僅かに僕が勝るかな?

 三歩手前で立ち止まり、ゆっくりと頭を下げる。僅かな時間で確認したが、パゥルム王女は外見的には優しそうな方だ、だが国政に携わっている才媛には間違い無い。

 ミッテルト王女は普通に嬉しそうな感じを出しているが、設定上は二人共に初顔合わせとなる。あと本性は冷酷非情だ……

 

「お招き頂き、有り難う御座います。エムデン王国宮廷魔術師第二席、リーンハルト・ローゼンクロス・フォン・バーレイと申します。お二方とは初めてお会いしますね」

 

 顔を上げて正式な挨拶をする、最後に僕等は初対面ですねと念を押す。あの夜の出来事は双方に負い目が有る、彼女達は僕等を襲撃したのが自国の連中だと思っている。

 僕は自作自演だった事の負い目かな、第三者の目から見れば一方的にバーリンゲン王国側に落ち度が有ると判断するだろう。

 捕まる事など有り得ないのだが、未だ犯人は捕まっていない。これで偽者をでっち上げて処刑でもすれば、僅かに有る好意がマイナスになるだろう。

 

「堅苦しいお話はお止めになって下さいませ、リーンハルト様。私はパゥルム、彼女は妹のミッテルトですわ」

 

「お初にお目にかかります、ミッテルトと申します」

 

 姉であるパゥルム王女はソファーに座りながらだが優し気に微笑んで、妹のミッテルト王女は立ち上がり見事なカテーシーで挨拶をしてくれた。

 ミッテルト王女が座った後に僕も座る、二人共に笑顔で黙っているのは僕から話題を振れって事だろう。何故お茶会に呼んだのか聞けば、実はお願いが有りましてって流れになる。

 侍女達が紅茶と焼き菓子を用意し終わったら話題を振らなければならない、さて何を話すか悩むぞ。幾つかのネタは仕込んではいるけど……よし、決めた。

 

「バーリンゲン王国には獣人族の方々が居るそうですね?エムデン王国にはエルフの村やドワーフの工房は有るのですが、獣人族の方々は住んでないので興味が有ります」

 

 妖狼族の襲撃のネタは掴んでいるので敢えて話題を振って様子を見たが、流石に動揺しないな。僅かな表情の変化も無い、交渉事に必須なポーカーフェイスは習得済みか。

 後ろの護衛三人も不動だが、侍女は仕えし主の会話は聞こえても聞かない事が出来るし来客との会話にも反応しない訓練を受けている。

 ましてや王宮内で王族の世話をする彼女達なら当然だな、ミッテルト王女が僕の暗殺計画を知っているのかは分からずか。

 

「既に妖狼族の代表達は来ていますわ、魔牛族の代表達は当日に来ます。彼女達は人間との付き合い方に一定の距離を置いてますから」

 

「見目麗しい方々が多いので、我が国の若い貴族の殿方達が騒ぎ出すのですわ。全く落ち着きが無い殿方は困りますわね」

 

 パゥルム王女は困った感じで、ミッテルト王女は少し呆れたか怒っている感じだな。魔牛族については予想通りだ、事前に人間とは距離を置いていると教えて貰ったから。

 だが、その理由が彼女達の美貌目当ての色欲の強い貴族男性の所為だとは知らなかった。その連中と一緒に僕も詰(なじ)られた気がする、ミッテルト王女は男性に対して思う所が有りそうだぞ。

 少し乱暴にスプーンを使う様子を見ても分かる、芝居じゃなく本当に多情な男性と何かしら有ったのか?男女間の秘め事については、王女には縁が薄いと思うのだが?

 

「ミッテルトは、魔牛族のミルフィナ殿と仲良くしたいのですが……兄様達が必要以上にミルフィナ殿に絡むので、困っているのですわ」

 

「本当に婚姻外交って嫌よね、本当に嫌だわ」

 

 妹姫のオルフェイス王女の件も絡んでいるのだろう。政略結婚を嫌うって事は、オルフェイス王女はレンジュ様との婚姻には賛成していないが王族の義務として結婚を受け入れたんだな。

 モア教は未成年の婚姻を認めていないから相当揉めたのだろう、何にでも特例は有るし婚姻外交は国家の事情を優先するから一概に決め付けられないし詳しい情報までは確認していない。国の為に婚姻外交の駒になる、悲しいが王族の権利に対する義務だろう。

 

「リーンハルト様は恋愛結婚だと聞きましたわ」

 

「とても珍しい事ですわ、本当に珍しいわ」

 

 所謂恋バナ、恋愛関係の話題は国を問わず女性の大好きな話題だよね。目がキラキラして先程迄の不愉快さが無くなっているし、後ろに控える侍女達も何となく楽しそうだ。

 僕は自分の恋愛体験とか語る趣味は無いのだが、誤魔化す事も今となっては難しいだろう。仕方無いか……気持ちを切り替える為に紅茶を一口飲む、ああ緊張していたのか砂糖もミルクも入れずに飲んでいたのか。

 

「僕の場合は特殊です。元々は廃嫡される予定だった新貴族男爵の息子でしたから、貴族の柵(しがらみ)は少なかったのです。半年程度の間で色々有って今の地位を手に入れた、しかも半分は王都を離れた単独行動でしたから……

僕を取り込むには時間が少なく接点も無く、落ち着いた時には格下とは言えなくなっていた。僕に政略結婚を押し付けられる相手は少ない、故に恋愛結婚が出来た。それに僕は政略結婚は否定派なんですよ、まぁ義父には叱られましたけどね」

 

 半分は事実、もう半分は嘘だ。だが二人は真実を話す相手じゃない、壮大な自慢話と惚気話だったが妙に二人のテンションが上がってる。

 特にパゥルム王女は捉えどころのなかった曖昧な笑顔が消えている、キラキラした笑顔を向けられるのは恥ずかしい。

 最後のオチの部分を話している時に表情が劇的に変わったんだ、笑いを取る為にだが失敗だったかな?

 

 何かもう一言でも言えば追撃されそうだな、苦笑を浮かべて紅茶を飲む。恋愛など無関係な王女だからこそ、他人の恋愛事情は気になるし面白いのだろう。

 パゥルム王女は結婚適齢期、だが周辺諸国からの婚姻外交の申し込みは無いらしい。王女の相手は国内だと公爵クラス、降嫁という形で家臣と王家の絆をより深める。

 現状のバーリンゲン王国は泥船だ、敢えて泥船に乗る周辺諸国はいないと考えて良い。臣下達と縁を深める?パッとした有力な家臣は居ない。故にパゥルム王女の嫁ぎ先を探す事は難しいだろう。

 

「見事なマナーですわね」

 

「本当に洗練されてますわ。ダンスも素晴らしいと聞いております、是非とも舞踏会でお相手をお願いしたいですわ。女性から申し込むのは恥ずべき行為ですが……」

 

 おっと?ダンスのお誘いだが、バーリンゲン王国のローカルルールの適用を考えているのかな?確か結婚式の後の舞踏会でのダンスは伴侶か結婚の約束をした相手だけ。

 逆にダンスを踊る事は結婚する相手だと公言する事と同じ、承諾すればシチュエーション的に僕からミッテルト王女にダンスを誘う。

 つまりは僕とミッテルト王女が結婚するって、僕自身が認めた事になる。最悪の婚姻外交パターン、ローカルルールを知らなければ危なかったぞ。

 

「駄目でしょうか?」

 

 物凄い不安そうな顔で見詰めてきた。可愛いが、あざといぞ。コレって……む?コレって人物鑑定のギフトだぞ!誰だ?

 心の中に防壁を作り上げるイメージを行い思考を読まれない対策をする。危なかった、コレっての後に罠だぞって思う所だった。

 対策を施して仕掛けた相手を見詰める、護衛と思われる三人の侍女の真ん中の女性だな。目が合った時に酷く動揺した、状況証拠は整ったぞ。

 

「リーンハルト様、紅茶のお代わりはどうでしょうか?」

 

「有り難う御座います、頂きます」

 

 無言の間を有耶無耶にする為か、パゥルム王女が話題を振ってきた。右側の侍女がティーポットを持って近付いてくる、真ん中の侍女は額に薄く汗を滲ませている。

 

「リーンハルト様のマナーは見事ですわね、まるで教本のお手本の様な所作ですわ」

 

 ふむ?パゥルム王女からのお世辞が続くけど、もしかして人物鑑定のギフトを使った事が僕にバレた事が分かったのか?

 追求するタイミングを外された感じがする、だがお世辞と分かっていても返事は返さないと駄目だな。

 ミッテルト王女が残念そうなのは、ダンスの誘いに対して返事が無いからか?無視されて気分を害したのだろうか?この王女は自分が気に入らない相手には、結構冷酷な対応をするんだ。

 

「完全な付け焼き刃です。出世をした時に、レジスラル女官長やモリエスティ侯爵夫人から直々に指導を受けました。他国との外交に王族の護衛として同行する、国家に恥をかかせない為にとスパルタでしたから……大変でした」

 

 モリエスティ侯爵夫人は対外的な理由として許可を取っている、レジスラル女官長も同様にだ。付け焼き刃とは言え、サロンの主催者に王族の方々にマナー教育を施す現役女官長の個人指導だ。

 理屈に合わない僕のマナーにも一定の説得力は有る、まぁ実際に結構ギリギリだけどね。何時ボロが出ても可笑しく無い、もう一杯一杯だぞ。

 だが疲労混じりの表情をしたから、王女達は凄いスパルタ教育で大変だったんだなと勝手に思ってくれたみたいだ。表情に同情の色が見えるよ。

 

 さて、そろそろ潮時かな。一時間位は会話したし、お茶会参加の義理は十分に果たしただろう。

 

「僕も余り思考を読まれるのは嬉しくないので、そろそろ終わりにしましょう。そこの真ん中の君、人物鑑定のギフトだと思うけどさ。高位魔術師ならバレるから気を付けるんだ、下手したら敵対行動だよ」

 

「は、はい。申し訳有りませんでした」

 

 何時叱責されるか内心ビクビクしていたのだろう、漸く責められた事を安堵しつつも他国の重鎮に無礼を働いた事に脅えている。

 だが貴重なレアギフト持ちを罰する事など双方の国がしないだろう、特に人物鑑定のギフトは交渉事に必須だ。

 惜しむらくは交渉する本人が持ってないと情報伝達にタイムラグが発生する、一々別室で聞いていたら相手が不信に思う。自分で決められない交渉相手など伝書鳩と変わらない。

 

「気を付けた方が良いよ。僕みたいに甘い対応をする相手は稀だ、読まれたのが大した内容じゃないからだけど……重要な事だった場合は、分かるよね?では失礼します」

 

 軽い脅しを掛けておく、ギフト持ちの彼女じゃなく二人の王女にだ。危なかった、エムデン王国に協力して欲しいって言われた時だったら……

 表情は迷う振りをして言葉も濁したが、心の中では明確に拒絶だった。今は王女二人と明確な敵対はデメリットが大きい、最適ではないが保留にしたい。

 それと……ギフト持ちの彼女は欲しい。是非とも引き抜きたい、敵対勢力に居させるには危険過ぎる。顔は覚えた、王族付きの侍女なら会う機会も有るだろう。

 

 悪いが君は逃がさない、絶対にね!

 


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