古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

458 / 1003
第457話

 王立錬金術研究所の新しい依頼、それは筋力up・敏捷up・耐久upの複合系のマジックアイテムにした。

 この手の魔力付加アイテムは重複装備が出来ない、なので自分の得意分野を延ばすか弱点を補うかだ。

 だが複合系なら同時に三つの効果を得られる、これは戦士職には垂涎のマジックアイテムだろう。

 戦士職の身体機能upは、直接的に攻撃力に影響する。デオドラ男爵達に最大180%upの物を渡したら……手が着けられない怪物になるだろうな。

 今だってギリギリ何とか引き分けているんだ、完全に負ける。だが戦争に向けて形振り構っていられない、勝つ為に遠慮など出来ない使える手は全て使う。

 

 そして、この機会にグンター侯爵の四女にしてアウレール王の側室、コッペリス様の件を相談する事にした。

 

「実は僕の執務室にですね、コッペリス様から親書を頂きまして……」

 

 セラス王女が退席した後にリズリット王妃に相談する、パミュラス様の件も有るし後宮絡みの事は隠せない。

 彼女はコッペリス様の名前が出た時点で苦笑した、思わず言葉を止めたが悪感情は少なそうだ。

 

「アウレール王の後宮からお里下がりになるので、引き取って欲しいと頼まれました」

 

 最後まで言い切る、だが未だ嫌だとは言ってない。微妙な問題だし相手の出方を見る必要が有る、仮にリズリット王妃が賛成だとしても、意志を確認してから断る。

 

「随分と惚気た返事を送ったそうですね、コッペリスから相談されましたわ。

私を側室に迎えて欲しいと頼んだら、僕の周囲には大切な花が咲き乱れていて貴女が割り込む余地は無いから諦めろ。そう返したそうですね」

 

 あれ?リズリット王妃とコッペリス様って、そう言う会話が出来る関係なの?これは前提条件を間違えたかな、僕に正面から敵対して来た訳じゃないのか?

 

「はい、立場的に受けれる話ではなかった。断られるのが確実な親書を送る真意を知りたかったので、敢えて見当違いな惚気話を延々と書いて渡しました」

 

 ふむ、苦笑したけど双方に怒りは感じていないみたいだ。僕はリズリット王妃が後見人にとパミュラス様を推したのに、彼女と同時期に側室になったコッペリス様の申し入れは不快に感じると思った。

 コッペリス様は後宮内では無所属派閥だし、最大派閥のリズリット王妃からすれば不快な話の筈だよな?

 

 でも苦笑はすれども不快感も怒りも感じない、何故だ?

 

「リズリット王妃はどうお考えですか?僕は受けるつもりは全く有りません、迷惑とすら感じています」

 

 腹の探り合いをしても無駄だな、拒否して様子を見よう。もしも側室話に賛成なら説得して来るし、反対なら同意する。

 考える時間を得る為か、リズリット王妃は紅茶を一口飲んで間を開けた。さて、どんな言葉が出るかな?

 

「嫌ですか?」

 

「嫌です」

 

 これは、リズリット王妃は側室話に賛成なのか?コッペリス様を受け入れるメリットってなんだ、僕の不興を買ってまで押し込む意味が有るのか?

 即断は不敬だったかも知れない、此方も気持ちを切り替える為に紅茶を一口……空か、侍女が新しい紅茶を注いでくれるのを見ながら考える。

 僕とザスキア公爵の関係が親密過ぎると警戒し、コッペリス様を押し込んで仲を裂きに来た?

 いや、無駄だ。僕がコッペリス様を完全に外部と断って囲えば、彼女は何も出来ない。今の僕なら可能だ、周囲も文句は言えないだろう。

 グンター侯爵あたりが騒いでも、アウレール王の元寵姫を大切に扱ってますと言えば終わりだ。グンター侯爵は僕との和解が目的だと仮定すれば、波風立てる意味は薄い。

 

 だが実際は、そんな簡単な話では終わらない。

 

「警戒してますね、それに色々な状況を想定して最善手を探している。リーンハルト殿は王宮内での派閥争いに慣れすら感じる安定感が有り、対策を実行する決断力と実力が有ります」

 

「買い被り過ぎです、僕は政争など苦手なのです。ジゼルとザスキア公爵の助力が有って漸く並みの男なのです」

 

 警戒と首輪を嵌めに来たか、少しマジックアイテム関連で力を見せ過ぎたかな。コッペリス様は僕に付ける鈴だな、そしてザスキア公爵との関係に一定の距離を置かせる為の贄(にえ)だ。

 

「笑顔の下で何かを決断しましたね、もし私がリーンハルト殿を脅威に思い枷を嵌めようとしてると考えたなら間違いですよ」

 

「間違い、でしょうか?」

 

 不敬にならない態度と不安な顔、あと疑問系で応える。権力者の危機感は甘くみないぞ、実父に謀殺された過去を教訓にしないでどうする!

 

「コッペリスの件は、ザスキア公爵から我が夫に伝わりました。彼女も最悪の想定はしていたが更に上回ったのでしょう、直ぐに真偽を問われ下手をすれば即日に修道院に幽閉でしたわ。

私が怒り狂った我が夫を宥(なだ)めました、コッペリスも悪気の無い悪戯だったのに本気で潰されそうでしたわ」

 

 あの飄々として掴み所がない娘が泣きそうでしたわって笑いながら教えてくれた、つまりザスキア公爵がアウレール王に報告(直談判)して処分一歩手前まで追い込まれた。

 

 安堵の溜め息を吐く、だが困った厚遇だぞ。アウレール王の大恩を返せるか不安になって来た、自分の寵姫を修道院に幽閉とか大問題だ。

 グンター侯爵だって寵愛を失ったとしても、自分の娘が修道院に幽閉とか受け入れられないだろう。

 

「安心したみたいですね、でも私も安心しました。確かにコッペリスは悪戯心からザスキア公爵に揺さぶりを掛けた、自分を謀略で後宮に押し込んだ事に対する仕返しとして……」

 

 え?あの親書ってザスキア公爵への当て付けに僕を巻き込んだのか、それはそれで敵対する理由になるぞ。

 

「珍しく感情が漏れてますよ、くだらない理由で巻き込まれたので仕方無いとは思います。

コッペリスも相思相愛の婚約者が居たのに、ザスキア公爵の謀略により後宮に押し込まれたのです。その婚約者は直ぐに他の方と結婚してしまったので、余計に恨みが深かったのですわ」

 

「それは御愁傷様で……」

 

 アウレール王の側室になれたのですから逆に良かったですね、とは言えない。僕もアーシャと恋愛結婚して、婚約者のジゼル嬢とも相思相愛だ。

 それも気に食わないから僕を巻き込んで、あの親書を送って来たのか。理由は分かるが納得は出来ない、だが仕返しは無理だな。

 

「ザスキア公爵に敵対する事は、僕とも自動的に敵対する。本来なら損得勘定を働かせるのに、無条件で味方すると言ったそうですね。コッペリスは二人には完敗だと言っていましたよ」

 

 これがリズリット王妃が抱いた危機感か、話を誘導された感が有るが自分よりもザスキア公爵を優先した。敵味方の線引きが厳しい僕が、無条件で味方する相手。

 それが貴(とうと)い血を引く準王家扱いの公爵家当主なら当然だな、ザスキア公爵も相当低いが王家の血を引いているので王位継承権を持つ。

 そんな気持ちは欠片も無いが、最悪の場合は簒奪(さんだつ)の可能性も有ると考えたかな?

 

「色々と御迷惑をお掛けして申し訳有りません」

 

 取り敢えず謝罪する、今はそれしかない。王家に対する忠誠心を行動と成果で示すしかない、幸いだが機会は有る。

 

「私はコッペリスの能力を惜しいと思っていたのです、後宮の篭の鳥で終わらすには余りにも惜しい。お里下がりで実家に帰されても、誰かに嫁がれても惜しい」

 

 ああ、なる程ね。だから自分の息の掛かっていて、それなりの力を持つ自分の側室ならコッペリス様の力を十全に使えると思ったのか。

 別にパミュラス様との仲が悪くなっても、元々が資金援助だけの関係だから関係無いか……

 

「僕の側室に収まれば、その能力を自由に十全に使えると?ですがアウレール王の元寵姫で侯爵令嬢、側室では満足しない親族が居ます」

 

 その可能性を見逃したとは言わさないぞ、本妻と側室なんて特定の条件により入れ替わる。侯爵令嬢と男爵令嬢、この身分差を覆さずにジゼル嬢を本妻に据え続けたら……

 

「断られるのを前提で一回だけのチャンスを与えたのです。勿論ですが、リーンハルト殿が良ければ認める予定でしたわ」

 

 勿論、断ると信じてましたわって上品に口元を隠しながら笑ってるが食えない王妃様だ。僕が圧力に負けてOKしても僕の所為だって事かよ、結果的にザスキア公爵はアウレール王に借りを作った。

 それは重い重い借りだ、リズリット王妃はコッペリス様を使い僕とザスキア公爵に圧力を掛けて……結果的にザスキア公爵が罠に嵌まった。

 

「リーンハルト殿、我が夫が会いたいそうなので移動しましょう」

 

「分かりました、今回の件の謝罪と御礼を言わせて下さい」

 

 最後にアウレール王との謁見か、だがリズリット王妃と違いコッペリス様を遠ざけようとしてくれた。

 これは純粋な善意だ、僕の為に寵姫たる側室に重い刑を与えようとしたのだから……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 リズリット王妃に先導され謁見室に向かう、僕の後ろには女官が二人付いて来る。暫く無言で歩くと近衛騎士団二人に警備された謁見室に到着、僕とリズリット王妃だけ中に入る。

 

「よぅ、ゴーレムマスター。悪いな、迷惑掛けた」

 

 既にアウレール王が居て気軽な態度で謝罪までしてくれた?直ぐにその場で膝をつき頭を下げる、仕えし王に謝罪させる臣下って何だよ!

 

「自分の不徳さ故の過ちです、本来なら自分で対処すべき問題に配慮頂き感謝しています」

 

 更に頭を深く下げる、もしかしなくても僕は女性絡みの問題を何度もアウレール王に助けて貰っている。

 ジゼル嬢を本妻にする事、ドラゴン退治にアーシャとジゼル嬢を同行させる事、今回はお里下がりの元寵姫の事。

 どんだけ女性絡みで、アウレール王に迷惑掛けているんだ、女難なのか?

 

「そう畏まるな、お前は悪くないし常識的な対応だったぞ。あのザスキアが、お前に迷惑を掛けられないと俺に頭を下げに来た。

醜い女の恨みの連鎖に巻き込まれたお前は、無条件でザスキアに味方した。それが耐えられないそうだ、自分の為に男を破滅に導く最低な女にはなりたくないとさ」

 

 豪快に笑っているが、色々と大問題な言葉が多かった。僕が破滅的な行動を取っているだと?

 何故だ、信頼関係を結んだ相手に協力する事が破滅につながるとは理解出来ない。ザスキア公爵とは話し合いが必要だな、お互いの気持ちを確認しておこう。

 もし変な遠慮とかなら正さなければ、僕は彼女を必要としているから失いたくはない。

 

「まぁ座れ、お前達は互いが互いの為に最善と思われる行動をしている。恋愛感情とは違うが、その信頼関係が羨ましく思うぞ」

 

「有り難う御座います」

 

 ザスキア公爵は、共に戦うと言ったのに、二人で協力すれば勝てたのに……アウレール王に嘆願してくれた、僕の為にだ。

 円卓に三人で座る、元々室内に居た警備の近衛騎士団員にも視線で退室を指示した。つまり内緒話か、困った事に色々有り過ぎて考えが纏まらない。

 

「バーリンゲン王国に行った際にだな、なるだけ上品に喧嘩を売れ。品行方正で腹黒いお前なら出来るだろ?」

 

 む、考え込んでいたら結構問題が有りそうな王命を貰った。上品に喧嘩を売れとは難しい、それに僕は腹黒くは……なくないな。

 

「つまり挑発すれば良いのですね、日和見な彼等に現実を突き付ければ良いのでしょうか?」

 

 真面目な顔で他国に喧嘩を売れと言われた、バーリンゲン王国は前大戦時に旧コトプス帝国と繋がっていた。

 今回の婚姻もそうだ、奴等は周辺諸国と連携して戦争を仕掛けて来る。だがバーリンゲン王国は消極的な敵対行動しかしない、あくまでも我々の戦力を裂く事に力を入れて来る。

 そして本当に勝てると思う迄は、のらりくらりと国境線に兵を配置するだけで終わる。

 

「そうだ、折角お前を向かわせるのに国境線で睨み合いじゃ済まさない。必ず仕掛けて来る布石を仕込んで来い」

 

 ふふふ、ウルム王国の連中も呼ばれているし纏めて喧嘩を売っても良いかな。だが即開戦になるのは不味いし、同行者も危険に曝す。

 ああ、それを見込んでの上品な喧嘩か。少し難しいが無理じゃない、転生前も開戦理由を得る為に使った手が有る。

 

「分かりました、ですが同行する方々の安全にも配慮が必要です。ロンメール様とキュラリス様の安全は、レジスラル女官長の協力で何とかなりますが……」

 

「大臣達か、警備の命令は受けないとか騒いだらしいな」

 

 む、心配事を当てたし実情も知っているぞ。表情は少し曇ったが、流石に他国に派遣出来る連中を見捨てる訳にはいかないか。

 

「はい、専属の警備兵を送って御自分達で指示をして貰う予定です。僕も警備責任者として、王族の方々は死守しますが……」

 

「言う事を聞かない連中は自己責任とは、お前って結構酷い奴だな」

 

 ニヤリと笑われたので同じくニヤリと笑った、優先順位は王族の方々であり大臣達はその次だ。

 だが足を引っ張るなら見捨てる事も視野に入れている、勿論だが助けられる命は助ける。変な正義感で全員を危険に曝す事は出来ない、それは自己満足と責任放棄だ。

 

「アイツ等に釘は刺しておく、守って欲しければ言う事を聞けってな」

 

 アウレール王の命令だが、果たして言う事を聞くかな?僕が連中に喧嘩を売る事は内緒の筈だ、通常の親善大使として結婚を祝う為に招かれた程度の認識だよな。

 

「勿論ですが基本的には全員の命を守る為に動きます、ですが優先順位が有り変な正義感は持ち合わせていませんので……

安易に助けて貰えるだろうと我が儘な行動を取れば、切り捨てます」

 

「全く、誰がお前を甘いとか優し過ぎて危険だとか言うんだろうな。王命を達成する為には冷徹にも冷酷にもなれる、敵兵三千人を殺すお前が甘い訳がなかろう。

だから、お前が無条件で味方するザスキアとの関係をリズリットが危険視したんだぞ」

 

 ええ、理解していました。自分の頼みよりもザスキア公爵を優先した、だから首輪を嵌めに動いてザスキア公爵がアウレール王に借りを作ったんだ。

 国王に嘆願し願いを叶えて貰った、大きな大きな借りを作った……

 

「御迷惑をお掛け致しました、ですがアウレール王に向ける忠誠心に一片の曇りも有りません。今回のお詫びとお礼を兼ねて、コレを献上させて頂きます」

 

 国家じゃない、アウレール王個人に忠誠心を向ける。それは仮に謀反が有っても、無条件でアウレール王の下に馳せ参じる事だ。

 空間創造から『召喚兵のブレスレット』を取り出して机の上に置く、アウレール王用に錬金した現状では最高の品だ。

 

「ふむ、男から装飾品を受け取るのは抵抗が有るぞ。性能を説明しろ、お前の事だから驚くべきマジックアイテムなんだろ?」

 

 嬉しそうに笑ったが、男の臣下から装飾品を貰う意味を取り違えて欲しくはない。流石に僕は忠誠心を向ける相手でも、貞操は渡せない。

 

「はい、このブレスレットは僕のゴーレム技術の集大成です。執務室や屋敷に配置した警備用の半自律型ゴーレム、下級魔力石に仕込んだ使い捨てのゴーレム。

その経験と技術の全てを注ぎ込んだ逸品、僕は『召喚兵のブレスレット』と呼んでいます」

 

 男性用に装飾品としては地味に見た目は黒真珠に似せてみた、二十四連のシンプルなデザインだ。

 

「召喚兵、半自律型ゴーレム、使い捨て……ふむ、伝説にある『竜牙兵』を模したのか?」

 

「それは擬似的な命を持つ骸骨兵の筈、それをゴーレムで代用したのですね?」

 

 流石に理解力が高い、アウレール王もリズリット王妃も驚いたのは実物が現存していない幻のマジックアイテムだからだ。

 

「はい、ブレスレットを引きちぎり床にバラ撒けば装備者を中心にレベル50のゴーレムナイトが二重の防御陣を組みます、半日しか持ちませんが壊れても自動的に修復します」

 

 驚いたか?驚いただろうな。転生前でも国宝級の逸品だ、常に命を狙われる者にとっては垂涎の防御用のマジックアイテム。

 

「お前、こんな物を作っておいて無料(ただ)で献上するな!」

 

「更に此方を併用して下さい、レベル50相当の魔法障壁を自動的に展開します。効果は連続で十分程ですが、不意打ちは防げます」

 

 大盤振る舞いだが仕方無い、『魔法障壁のブレスレット』も渡す。

 これでザスキア公爵への貸しを帳消しにして貰えれば良い、だがアウレール王にだけしか渡してない品物だけど需要は有るんだよな。

 複製品は別料金になります、どうしても欲しい場合は割高になるかな……

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。