古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第217話

 

 最後の指名依頼であるメディア嬢へのアクセサリー製作も終わり、お茶会も済ませた。

 これで抱えていた依頼は無くなり自由に動く事が出来る、次は七階層のポイズンスネーク狩りをして経験値と資金、それとギルドポイントを貯めたい。

 ブレイクフリー全員をランクCまで上げる事、僕は既にランクCで爵位も授かったがイルメラ達は未だランクD。

 彼女達の安全確保の為にも早急にギルドポイントを稼ぎたいのだが、魔力付加防具三点納品で全員に1ポイントの依頼を熟す事が効率的だ。

 

 それとアルノルト子爵とグレース嬢、それと七男のフレデリック殿の動きが気になる。

 彼等は僕の母上を暗殺した前科が有り貧民窟や傭兵団に接触してるとなると……

 

 余り利点が無いのだが、やはり見栄や面子の問題で邪魔な僕を暗殺するつもりだろうか?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 やはりアルノルト子爵の事を考えると僕を暗殺したいとしか思えない、だが過去にも暗殺者は全員返り討ちにした実績が有る。それならば有効な手段として人質が考えられるな……

 

「ジゼル様、お手を宜しいですか?」

 

「え?その、いきなり握るのは、嫌ではないのですが……その、いくら来年結婚するとは言え、未だ少し早いのではないでしょうか?」

 

 彼女の手首には僕の渡した六連の『召喚兵のブレスレット』が輝いている、レベルアップの恩恵で今の僕なら……

 両手でジゼル様の左手首を包み隠し魔力を込めて魔素を集める、デザインはシンプルな銀色の玉だが六連から十八連に増やせる。

 それと十八体のゴーレムポーンを制御する為の指輪も一緒に錬成し人差し指に嵌める、これもシンプルな銀色の指輪だが嵌めている人が喋る命令を聞く事が出来る。

 単純に守れや攻めろとかだが戦略の幅は広がるだろう。

 

「あの、リーンハルト様?」

 

「うん、成功だ。前回よりも数を増やしました、合計十八体だけど六体はジゼル嬢から離れずに守る。

追加の十二体は指輪の効果で簡単な命令を喋るだけで実行します、私を守れとか敵を倒せとかね」

 

 ジゼル嬢の手を放す、最初に何か言っていたが精神を集中してたから分からなかった、問題なら又言うだろう。

 自分の左手首を顔の近くまで持ち上げて新しい『召喚兵のブレスレット』を確認している、細い手首だから三重巻きになってしまったな。

 最後に指輪を確認して少し赤くなった、薬指には嵌めてないから勘違いはしないと思う。

 

「貴方という人は……ゴーレムポーンを私でも操れる、この事実は重いのですよ」

 

「君の安全の為なら多少の危険は飲み込むさ、でもアルノルト子爵の動きには気を付けて下さい。嫌な予感がするんだ……」

 

 明確な悪意は感じないのだが碌な事じゃないのは確定している。

 

「本当に貴方は怖い人ね」

 

 肩に頭を乗せて囁かれた、やはり僕が怖いのか。

 遅くなったのでジゼル嬢を家まで送って直ぐに自分の屋敷に戻る事にする、流石に何度も泊まるのは対外的にも良く無いと思うんだ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 今日も魔法迷宮バンクの攻略をする、変わった事と言えば行きはタイラントが馬車で送ってくれる事になった。

 乗合馬車は密室と同じだから最近は勧誘が凄い、貴族がクラン長をしている所が特にしつこい。

 領地無しの新貴族は手っ取り早く金を稼ぐのに冒険者を選ぶ者が多い、仕事とはいえ平民に雇われるのは嫌なんだろう。

 新人冒険者でも貴族しか居ないクランになら加入しやすく、助け合いで比較的に楽にレベルを上げられる。

 高レベル冒険者とパーティを組めば安全に早く経験値が稼げる、クランの加入人数が多ければ何かを集める依頼も楽だろう。

 

 数の多さはそれだけで脅威となるから……

 だが、それは初心者に限り中堅の僕等には何の恩恵も無く苦労が増えるだけだ。

 

「専用の馬車で魔法迷宮バンクに通えるなんて出世したよね」

 

「帰りも辻馬車を捕まえて帰るし、少し贅沢」

 

「だって勧誘がウザいんだよ、ランクC以上の先輩冒険者の貴族達だから断るのも気を使うしさ」

 

「確かに毎回王都まで延々と勧誘じゃ嫌気も差しますね」

 

 無駄使いとは思わない、収支は黒字だし効率的に経験値とギルドポイントを貯めている。

 レアドロップアイテム確率UPの恩恵は大きい、他のパーティの十倍以上の収入が有りゴーレムによる前衛の為に武器や防具の消耗も無い。

 魔法迷宮バンクに掛かる費用なんて食事代位だから稼ぎが凄い、イルメラ達も既に一人当たり金貨三千枚は貯めている。

 

「武器防具支給、食事無料、治療も僧侶が居て自己負担は三時のオヤツだけ、ヘラとマーサに教えたら怒られた」

 

 まぁ自分達と比較したら怒りたくもなるよな、普通は武器防具の維持費や買い替え、治療費だって馬鹿にならないんだ。

 

「マップスか、元気してるのかな?」

 

 パーティ名通りに自分達でマッピングをしている冒険者達だ、未だ三階層を攻略してなかったかな?

 

「元気、先週から四階層のマッピングを始めてる」

 

「良かった、順調に白地図を埋めてるのか」

 

「盗賊ギルドのオークションにも参加して火属性のロングソードを落札してた」

 

 そうか、金貨百枚近い武器を買えるまで成長したのか。

 普段口数が少ないエレさんと会話する事が出来た、彼女の罠と宝箱の解錠成功率は高いので助かっている。

 それと狙撃については天性の才能が有ったみたいだ、殆ど急所に一撃(ワンショットキル)だ。

 パーティ内の親睦を深めていると馬車は魔法迷宮バンクへと到着した……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 今日もエレベーターを使い七階層まで下りる、使い方にも大分慣れた。

 ジャイアントスパイダーが沢山ポップするのは『無限増殖の毒蜘蛛の巣』って罠のせいだ。

 だがジャイアントスパイダーのレアドロップアイテムの『蜘蛛の糸』は貴重な素材で百個集めれば布系のドレス系防具が作れる。

 

 僧侶と魔術師の彼女達は重たい装備が出来ない、自作の高性能鎧は余り見せられない、高くても普通に手に入る防具を用意したいんだ。

 

「扉が開くよ、注意して!」

 

「出ると同時にゴーレムポーンを錬成するよ、イルメラ達は周りの警戒して。少しジャイアントスパイダーを狩るよ」

 

 エレベーターを出ると大空間に三ヵ所、魔素の光が集まる、初回から最大の三組か……

 

「クリエイトゴーレム!ゴーレムポーンよ、ジャイアントスパイダーを押し潰せ」

 

 六体三組のゴーレムポーンを錬成し突撃させる、人間と違いゴーレムは毒も効かないし粘液の糸も引き裂く事も出来る。問題は他人にレアアイテムが大量にドロップするのを見られる事だ。

 

「毎回作業的に倒すけど実は凄い事だよね」

 

「そうですね、普通ならパーティ四組分の戦力ですからね、ダメージ無視ですし」

 

 大分制御に慣れた、同時に十八体の制御だが敵に対応した動きが出来る、これは複数制御の訓練としては有効だ、最大二百体のゴーレムを制御は理論上は可能だが精度が低くては意味が無い。

 反復訓練を繰り返すしか精度を上げる方法は無い、こればかりは転生して魂は同じでも肉体は鍛練の引き継ぎをしない。

 元々十七年以上鍛練していたのに、今は訓練を始めて二ヶ月弱だ、全然追い付かないのは当たり前だな。

 

「リーンハルト君、エレベーターが動いてる」

 

「分かった、通路側に移動するよ」

 

 ゴーレムポーンで倒しながら徐々に移動する、ジャイアントスパイダーは最大三組しかポップしない。

 三組共に倒さずに数を減らし通路入口に到着してから全滅させドロップアイテムを回収する。今回は合計で八十二匹とは少なかった、未だ蜘蛛の糸は百個には届かない。

 

 ボス部屋に向かう、途中でモンスターがポップする事も無くボス部屋に到着した、他のパーティにも会わないのは武器庫か宝物庫の方が人気か。

 僕等には都合が良いが油断すると締めにボス狩りに来る連中も居る。

 

 七階層のボス部屋の主はポイズンスネーク、必ず三体固定で現れる。

 クネクネした動きは弓矢や投げ槍では当て難くゴーレムナイトを六体三組で対応する、ジャイアントスパイダーを相手にするよりも制御が難しい。

 

「それじゃ十一回目のボス狩りを開始する」

 

 扉を押さえていたエレさんに声を掛ける、頷いて押さえていた手を離すとゆっくりと扉が閉まった。魔素が集まり出した、同時に三ヵ所で微妙に離れている。

 

「最初に槍を投擲、次に接近戦だ」

 

 ゴーレムナイトにショートスピアを投擲、一八本を三分割して狙いを定める。駄目だ半分外した、致命傷に至ってない。

 

「接近戦だ、抜刀!」

 

 ロングソードを抜いて突撃させる、攻撃力の高さは両手持ちアックスだが動きが鈍いので攻撃が当たらない事が有った。

 だから多少攻撃力は落ちるがロングソードに変えた、手数が増える分制御が難しい。

 攻撃も固い鱗を貫く為に体重を掛けた突きや斬撃も刃を押し当てて体重を掛けて切る。

 

「大分戦い方にも慣れた、変則的な動きにも対応出来る」

 

 決められたパターンの行動と目で見て送る命令も違和感無く組み込めている、訓練としても上々だ。

 

「レアドロップアイテムだよ」

 

「スケイルメイルですね、今日は大量ですね」

 

 既に三個、これでギルドポイントが一つか。

 

「よし、エレさん。外を確認してくれ」

 

「分かった」

 

 外を確認して貰い次のボスに備える、今日は丸一日ボス狩りを続けよう。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 スケイルメイルが貯まる、貯まり捲っている、だが冒険者ギルド本部に持って行くと指名依頼の束が待っている、確実に依頼は増えているだろうな。

 

「やっと依頼を熟したのに次々と舞い込むんだよな、今はレベルアップに勤しみたいけど……」

 

 戦争に備えるならばレベルアップは必要不可欠、ゴーレムポーン二百体なら正面から戦うなら雑兵千人以上と渡り合える。だが正規軍や敵魔術師が加わると未だ難しい、もっと力が欲しい。

 ポイズンスネークやジャイアントスパイダーはゴーレム制御技術の向上には最適だが経験値的な旨味は薄い、レベルアップは相当先になるだろう。

 

「リーンハルト様、ドロップアイテムです。あと十回毎のレアアイテムのエリクサーです」

 

「ああ、有り難う。これでエリクサーは合計五個だね、今日は午前中十八回、午後二十二回で合計四十回か……」

 

 イルメラからエリクサーと鱗の盾を受け取る、色んな事を考えながらゴーレム制御が出来る様になった。余裕が出来たらゴーレムを増やして負荷を掛ける、そうして技術を磨くんだ。

 

「次回はゴーレムナイトを八体三組に変更する、二十四体同時制御か、楽しみだ」

 

 下に行く程にボス部屋は広くなるから地下空間でも大量にゴーレムを運用出来るから助かる。

 

「リーンハルト様が楽しそうですと私も嬉しいです」

 

「イルメラさん、それは甘やかし過ぎじゃないかな?」

 

「本当にイルメラさんは筋金入り」

 

 色々と言われたが今日は終了にしようか、今日は誰もレベルアップしなかったが鱗の盾三十一個、スケイルメイルは二十七個、帰ったらスケイルメイルを鑑定し掘り出し物が有ればニールに使わせようかな。

 

 帰りもお馴染みの『無限増殖の毒蜘蛛の巣』の罠に挑戦する、殆ど作業的に倒せるが気を付けるのは他人に見られない事。

 三人に見張りを頼みジャイアントスパイダーを素早く倒す、常に最大三組だから全滅させないと新しいモンスターはポップしない。

 

「リーンハルト君、誰かエレベーターホールに向かってる」

 

 ウィンディアが風属性探索魔法でキャッチした、エレさんのレアギフト『鷹の目』は野外でしか使えないから助かる。

 

「了解、仕上げに入る」

 

 現在ポップしている三組のジャイアントスパイダーを全滅させずに一匹ずつ残し、呼び寄せたエレベーターに乗り込む前に止めを刺して引き上げる。

 エレベーターの扉が閉まる時に通路から大空間に入ってくるパーティが見えた、見た事はないが武器を構えて突撃して来たので慣れているのだろう。

 

 漸く一着分の蜘蛛の糸が集まったが先は長いな。

 


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