古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第216話

 ジゼル嬢とメディア嬢、共に謀略系令嬢だけの事は有り話し合いの内容も物騒だが、今回はメディア嬢の方が有利に話を進めている。

 傍観するだけだが色々と僕の知らない事が知れて楽しくも有り緊張もする、取り敢えず紅茶を一口飲んで気持ちを落ち着かせる。

 

「ジゼル様、その条件で話を受けましょう。

冒険者ギルドを通しての指名依頼なら問題無いでしょう、個人的な依頼は出さないと配慮をしてくれるのですから。

ですが僕はローラン公爵家ともサリアリス様絡みで繋がりが有るし、ヘリウス様にも色々と頼りにされてしまいました、縁を切るのは難しいです。

ですが武闘派のローラン公爵家よりも財務派のニーレンス公爵寄りのスタンスを取ります、これで宜しいですね?」

 

 そろそろジゼル嬢に助け船を出すか、興奮しては冷静な対処も出来ないだろう。

 

「今はそれで構わないわ、公になってはいませんが宮廷魔術師になる事が内定しているリーンハルト様は人気者、有象無象の連中が集まって来るのは明白。ですが私がリーンハルト様を拘束しない理由は……」

 

「ニーレンス公爵は僕の事を信用していない、未だ派閥に抱き込むには抵抗が有る、なにせ僕は非常に胡散臭いですからね」

 

 彼女の言葉を遮って自分の考えを伝える、実際に二ヶ月間の僕の動きは異常だった、後から落ち着いて考えれば分かる。

 

「お父様は躊躇しています、私とレディセンスお兄様からの情報、お父様自身が調べた情報、黒い噂の有るサリアリス様の動き。

手放しで自軍に引き込むには判断する情報が足りないけど、手を拱(こまね)いては出遅れます。

実際にザルツ地方の討伐遠征の内容には驚いてましたわ、お父様はリーンハルト様が自分の手に負えるか心配、いえ恐れているのでしょう」

 

 真面目な顔で真実を教えられた、ニーレンス公爵は僕という異分子を警戒しているのか?

 確かにポッと出の十四歳の餓鬼が出せる成果じゃない、必ずバックに何かしらの勢力が居ると思い、それが有益か有害か分からないんだな。

 

「僕は雇い主に噛み付く野獣では無いですよ」

 

「メディアも内心同じ事を考えていたんじゃない!」

 

 急にジゼル嬢が叫んだ?

 

「え?」

 

「え?」

 

 僕とメディア嬢から思わず同じ言葉が漏れた、確かに僕の事が怖いと言われたが正体不明じゃなくて危害を加えられるレベルで?

 

 暫く三人共に口を開かなかった、カップをソーサーに置く乾いた音だけが響く、そんな重たい雰囲気を破ったのはメディア嬢だった。

 

「一番理解している筈の婚約者が一番理解していなかったとは呆れますわね。

確かにリーンハルト様は胡散臭いですが信頼も信用も出来る殿方です、前にも言いましたがジゼルは深く考え過ぎですわ。

早く結婚して子供を作れば楔となり分かり合えるでしょう、夫婦とはそういう物らしいですよ?」

 

 公爵令嬢がして良い笑みじゃない、口元がニィって吊り上がったぞ。

 でも一概に夫婦と言っても父上とエルナ嬢みたいな相思相愛の熱々夫婦も居れば完全に冷め切った仮面夫婦も居る、子供すら政治の道具として扱う親も居るからな。

 

「だから来年成人後に直ぐに結婚するって言ってるでしょ!」

 

 今回はメディア嬢の勝ちだ、ジゼル嬢は感情的になり過ぎている。

 

「メディア様、その辺で終りにしてあげて下さい。それとコレが依頼品となりますので、御確認をお願い致します」

 

 無理矢理話題を変える、これ以上は話は進展しないだろう、潮時だ。

 桐箱に納めたネックレスをテーブルに置く、ジゼル嬢とアーシャ嬢とは違うデザインのネックレス。

 百合の花が家紋なので地金は金と銀、百合の花と葉と茎を編み込む様にして胸元に行く程太くした、中心には大粒の真珠を配した逸品。

 勿論、固定化の魔法を重ね掛けしたから丈夫だ、人が踏んでも耐えられる。

 

「まぁ!これは素晴らしい出来栄えですわ」

 

「私達のとはデザインが微妙に違いますね、百合をモチーフにしたのですわね」

 

 良かった、女性陣には好評みたいだな。箱から取り出して見詰めるメディア嬢の表情を見れば喜んでくれているのが分かる。

 

「満足頂けましたか?一応ペンダントトップが付く金具も有りますから、ネックレスでもペンダントでも使用出来ますよ」

 

 本体自体に装飾が施されているのがネックレス、中心にペンダントトップが付いているのがペンダント。

 だがペンダントトップは高価な宝石等を付けるのが普通だから依頼品はネックレスにした、これなら錬金細工が主だからだ。

 

「流石はリーンハルト様ですわね、見事な出来栄えです。人気が出て依頼者が殺到しますわよ」

 

 二人で交互に取り合い細かい所まで調べ始めた、だが今後はアクセサリー類の依頼は断ろう。

 自分の作った物を贈り喜ばれるのは嬉しいが商売にはしたくない、僕はゴーレムマスターだから装飾品は副次的な物だ。

 

「今後は断れない場合を除きアクセサリー類は作りません、やはり思い入れの有る相手じゃないと嫌です。それに僕は……」

 

「でも私には今後も作ってくれますわよね?」

 

「私もです、婚約者で未来の妻には作ってくれますわよね?」

 

 ゴーレムマスターが本業だから装飾品類は作らないって続けたかったのだが遮られた、二人共気に入ってくれたのなら嬉しいな。

 

「構いませんがプレゼントとして贈らせて頂きます、それで良いなら作りますよ」

 

 金銭が発生すると贈り物というよりは依頼で仕事って気分になってしまう、身に着けて欲しいのに商売みたいに感じるのは嫌だ。

 

「で、でもこのネックレスは指名依頼をして作って貰ったのです。報酬は払わせて下さい、毎回無報酬では私の気持ちが収まりません」

 

「ええ、有り難う御座います。次は誕生日に何か贈らせて頂きます」

 

 メディア嬢の誕生日は再来月、指輪とネックレス以外の何かを贈ろう。

 

「全く一ヶ月前とは全く違う対応ですわね、初めて会った時の対応の冷たさは酷いモノでしたわ」

 

 ええ、僕もメディア嬢と打ち解ける事になるとは考えてませんでした。

 暫くは三人で雑談をしてお茶会はお開きとなった、ニーレンス公爵家との距離感を確認出来たので有意義だったな。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 メディア嬢とは応接室で別れた、馬車まで見送りに来てくれる立場では無いのが公爵令嬢としての彼女だ。

 執事に案内され馬車の場所まで案内して貰う、分かっていても独りで勝手に移動は出来ない。

 

「む?この感じは」

 

「久し振りだな、リーンハルト」

 

 通路の正面に揺らぎが起こり突然にレティシア殿が現れた、驚いたジゼル嬢が僕の背中に隠れた。

 

「驚かさないで下さい。ジゼル様、彼女はゼロリックスの森のエルフ族のレティシア殿です」

 

「知っています、何度かお会いしてますから……」

 

 会ってる割には僕の服を掴んで後ろに隠れたままだが、過去に何か有ったのか?執事も固まっているし人間とエルフ族って未だ打ち解けてないのか?

 

「いや、脅かすつもりはなかったのだ。私は来週ゼロリックスの森に帰る、後任と入れ替えだ。族長の決めた契約とはいえエルフ族が人間の街に長くは居られない、半年で交代だ」

 

「そうですか、それは淋しくなりますね」

 

 社交辞令を交えて会話を進める、事実は言えないし会話からボロが出ると困る。

 彼女は唯一僕が転生した本来は三百年前の古代魔術師、ルトライン帝国宮廷魔術師筆頭、魔導師団団長ツアイツ・フォン・ハーナウである事を知っているのだから。

 

「ふむ、なら早くゼロリックスの森まで私に会いに来るのだな。少し見ない間に大分強くなったみたいだが、未だ足りないぞ」

 

 珍しいな、彼女が微笑むなど転生前を含めても殆ど見た事が無い。

 

「未だ二割を越えた位ですが八年以内には必ず」

 

 未だ全盛期の二割を少し越えた程度、ゴーレム制御数も二百体を越えるが一千体には程遠い。

 

「そうか、ではな。後任にも伝えておく、適当に鍛えてやれとな」

 

 そう言うと霞みの様に空気に溶け込んで消えた、流石は精霊魔法だけあり全く感知出来ない。

 

「なっ、何かな?」

 

 右腕に抱き着くジゼル嬢、傍目には怯えた感じだが執事に見えない様に腕を抓っている、結構痛い。

 

「馬車の中でお話が有ります、宜しいですね?」

 

「勿論です」

 

 執事の哀れむ瞳が忘れられない、浮気者に裁きをみたいな感じか?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 割と広い車内で向かい合わせじゃなく並んで座る、最近の彼女のスキンシップは抓ると頬を引っ張るだ。

 

「随分とレティシア様と仲が宜しいみたいですね、エルフ族が人間に対して自分に会いに集落へ来いなど初めて聞きました!」

 

 やはり浮気と勘違いしたのか?流石にエルフと人間の恋なんて聞いた事が無い、彼等からすれば人間なんて僅か百年も生きられない種族だぞ。

 

「勝負を挑みます、今は未だ勝てないのですが後八年で何とかなる程度に鍛えるつもりです」

 

「それが未だ二割、つまりレティシア様との実力差なのですね」

 

 浮気じゃないと理解してくれたみたいだ、だが油断は出来ない。何故なら膝に置かれた手に力が入っているのだが……

 

「そもそも何故エルフ族であるレティシア様と勝負する話になるのですか?

普段のリーンハルト様では有り得ない対応です、わざわざ波風立てにエルフ族に挑みに行くなど変ですわね?」

 

 嘘をついてるんじゃないか、って疑われた、確かに普段の僕ならば回避する状況だ。

 

「正確には挑まれた、メディア嬢の護衛を兼ねているから近付く男性陣には警戒する。

僕等も最初は険悪一歩手前だったからね、誤解なのにメディア嬢に近付くなら排除するみたいな?

実際に探索魔法や精神操作系の魔法も掛けられたけど何とかレジストしたんだ、後から誤解が解けて少し話す様になり人間にしては中々の魔力と認められたけど完敗だった。

だからリベンジを申し込んだんだよ、魔導を極めようとする者なら避けては通れない道だよね?」

 

「この魔法ばか!エルフ族と絡むなんて厄介事以外では有り得ないでしょう、しかもニーレンス公爵が契約するゼロリックスの森のエルフ族ですよ。

後任にも話しておくからってエルフ族二人と接点作ってどうするんですか?」

 

 やはり怒られた、いや怒るのが普通か?もう達観してる位の呆れて優しい駄目な子を見守る感じで、更に深い溜め息まで吐かれた。

 

「確かにニーレンス公爵が契約して人間の街に呼んだエルフ族と仲良くするのは問題ですよね、後任の方とは距離を置きます」

 

 それ位しか対処出来ないのだが、これからも色々とメディア嬢とは絡むだろうから護衛としての後任エルフとは直ぐに会う事になる。

 なるべくメディア嬢と会う時はジゼル嬢に同行して貰うしか手は無いな、気が済んだのか膝を掴んでいた手を放してくれた。

 窓から見える景色は高級貴族街、立派な屋敷が多い、維持費が大変だろうな……

 

「コックとメイドの件ですが手配が済みました、来週にも向かわせます。

それとアルノルト子爵とグレース様が不穏な動きをしています、貧民窟に人を差し向けたり傭兵団と接触したり……目標はリーンハルト様の確率が高いので気を付けて下さい」

 

「アルノルト子爵とグレース様が?」

 

 奴等が動くとなれば目標は僕か?今僕を襲っても利益は無い、残せる財産だって屋敷位だが高々金貨七千枚の為に危険を犯すかな?

 それに単身雇えと言って来た男、アルノルト子爵の七男でフレデリックと名乗った男の言葉が気になる。

 

「ジゼル様、アルノルト子爵の七男フレデリックと言う男を知ってますか?」

 

「フレデリック様ですか?詳しくは知りませんが妾腹で最近認知された方だと記憶しております。有能故に認知されたらしいのですが、余り情報が入って来ませんわ。彼が何か?」

 

「突然屋敷に訪ねて来て雇わないと困る事になると言ったんです、その行動の後にアルノルト子爵とグレース様まで不穏な動きをするか……」

 

 二人して暫く考え込む、僕は出る杭は叩かれる的に目障りな僕に何かすると思うのだがフレデリックの動きが分からない。

 父親と妹の悪事を教えるから自分を高待遇で雇えって事なのだろうか?

 


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