古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第155話

 ニーレンス公爵家からの接触はメディア嬢のお茶会への招待だった、後日正式な使者が自宅まで招待状を届けてくれる丁寧な対応だ。

 バルバドス師に宮廷魔術師への推薦辞退のお願いは逆に力を付けねば駄目だと叱られた、あの人なりに僕の事を気に掛けてくれているのは正直嬉しい。

 

 エムデン王国は先の大戦の傷が癒えたので、取り逃がした首謀者たる旧コトプス帝国の残党狩りを本格的に行う、最悪ウルム王国と戦争の可能性が出て来た。

 

 ザルツ地方で異常繁殖したオークの討伐遠征については凱旋した聖騎士団の活躍と、敵の首謀者を捕縛したデオドラ男爵を国王が称え、尚且つオークの異常繁殖について旧コトプス帝国の残党達が関わっている事を突き止めたと公言した。

 これはバルバドス師の掴んだ情報と予想の通りにウルム王国への追及を厳しくするだろう、政治的解決か戦争による解決か……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 世界は戦争に向かっていても冒険者の僕達にはやる事が有る、僕はランクCに上がったが他のパーティメンバーはランクD、冒険者ギルドの依頼を請けるには僕個人ではランクCまで、ブレイクフリーではランクDまでとなる。

 先ずは魔法迷宮バンクの攻略を優先し、稼げる時に稼ぎ、その後で冒険者ギルドの依頼を請ける。

 成功報酬は少なくても短期にギルドポイントが貰える依頼だけを請けるつもりだ、多分だが冒険者ギルド本部から僕かブレイクフリーに指名依頼が入るから……

 

 一日経っても王都はお祭り騒ぎが続いている、人々が集まればライル団長やデオドラ男爵を称える話で盛り上がり、夜の酒場は祝い酒を飲む連中で満員御礼。

 ネーデさんとシーアさんの居る酒場『火の鳥』も混んでいるだろう、また来て欲しいと言われたが一人で行く事はないだろう。

 

 王都全体がお祭り騒ぎな中でも魔法迷宮バンクを攻略する冒険者パーティは少なからず居る。

 聖騎士団の管理小屋で記帳したが今日は『マップス』と『ザルツの銀狐』が既に迷宮に入ってるみたいだ。

 

 管理小屋の騎士団員は知らない若い人だった、未だ二十歳前だと思うが上の人達は中央広場の警備に集められたらしい。

 今日はワイバーンやトロールの素材の競売らしく昨日以上に盛り上がるみたいだ。

 騎士団員曰く競り落とした金額が愛国心の現れらしい、所定の金額で買い取って貰った僕としてはオークションで値段が上がる事に微妙な気持ちになる。

 だが買取値は色が付いていてワイバーンは一匹金貨四百枚、トロールは一匹金貨百五十枚、合計で金貨千六百五十枚だった。

 デオドラ男爵からもアーシャ嬢のアクセサリー製作の代金が金貨一千枚と金銭感覚が狂うぞ。

 

 迷宮に入る前にゴーレムポーンを十体錬成する、前衛六体に後衛四体、装備はロングソードにラウンドシールド。

 

「ウィンディア、補助魔法を頼む」

 

「うん、分かった。風の護りよ、我等を包み込みたまえ……」

 

 ウィンディアの詠唱と共に身体が軽くなる感覚が有り、筋力・敏捷性・反射神経とかがアップした。

 

「エレさんはゴーレムポーンの後ろで警戒を頼む、イルメラは何時でも防御魔法を使える様に準備してくれ。じゃ今日はバンク五階層を攻略するよ!」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 三階層迄はモンスターはポップしなかった、四階層に降りる階段の前でゴーレムポーンの武装を両手持ちアックスに変える。

 この階層から最下級アンデットモンスターのゾンビが現れるが、奴等は頭部に大ダメージを与えないと倒れない。

 両手持ちアックスなら一撃で潰す事が出来る。

 

 エレさんの案内で廊下を歩く、扉が多く小部屋の中にはモンスターが待ち伏せしてる事もあるので警戒は必要だ。

 そして魔法迷宮で必要な物は大抵がモンスターがドロップする、ゾンビなら毒消しポーションとか……

 

「エレさん、今日もマップス来てるけど君の幼馴染み達は未だ三階層で資金稼ぎ中かな?」

 

 気になったので脇を歩くエレさんに話し掛ける、彼女の幼馴染みが二人パーティに参加している筈だ。

 そのパーティ名通りに魔法迷宮バンクを一階層からマッピングしていて、前回会った時は三階層までマッピングが終了したがレベル上げと資金稼ぎの最中だった。

 

「ヘラとマーサの事?未だ三階層でコボルド狩りしてる」

 

「そうか、堅実だね」

 

 確か全員レベルは20以下だったから三階層が丁度良いかな、彼等は五人で残りは戦士職だが四階層のゾンビの場合、一撃が弱いスピアやロングソードでは辛い。

 僕のゴーレムと違い武器を変える事は複数の武器を使い慣れていないと攻撃力が落ちるからな。

 四階層から五階層へと降りる、四階層と同じ日乾しレンガの壁と黴臭い空気、深夜の墓場と同じ雰囲気だ……

 

「五階層にポップするモンスターはゾンビの他に、ゴブリンゾンビにコボルドゾンビ……ゾンビだけ」

 

 ゾンビはベースが人間っぽい、ゴブリンゾンビとコボルドゾンビは言葉通りモンスターがゾンビ化したモノだ。

 動きは鈍くなるが頭を潰さないと倒せないので実質的に耐久力が上がる、そして牙や爪には毒が有る。

 何故か三種類共にドロップするアイテムは同じ、ノーマルが毒消しポーションでレアがハイポーションと倒し辛さの割りには実入りは少ない。

 

「五階層には二階層と同じく武器庫が有る、中に現れるコボルドを倒せばロングソードや鎖帷子程度は見付かるそうだ。

まぁ混むから行かない、エレさんボス部屋に向かうから案内を頼むね」

 

「ん、分かった」

 

 僕はドロップアイテムの恩恵は受けたが宝箱の中身については運が悪い、大抵がダガーなんだ。

 途中で一組のパーティと擦れ違った、男ばかり六人の戦士オンリーだが全員が両手持ちアックスを装備していた、ゾンビ達とは相性が良いだろう。

 気さくに挨拶をしてくれた見た目と違い好印象な人達だった。

 五階層のボス部屋は階段から近い、逆に武器庫はフロアの端に位置している。

 

「着いたな、中から音もしないし待ちの冒険者パーティも居ない。やはりボスと戦うのはイベントなのだろうか?」

 

「五階層のボス、リザードマンはレッドリボンを落とすのよ。

ボス部屋の先にエレベーターが使える様になるわ、九階層まで各階に止まる便利だけど危険な装置よ」

 

 ウィンディアはデクスター騎士団時代に一度だけ使って死にそうになったからな、トラウマを抱えているのかもしれない。

 

「大丈夫だ、ウィンディア。僕等は地道に各階のボスを狩りながらバンクを攻略する、無理はしない」

 

 彼女の肩に手を置いて励ます、その手に手を重ねられた。

 

「有り難う、私は大丈夫だから……」

 

 扉を開けると30m四方の正方形の部屋だ、魔法の灯りを八個壁際に浮かべて配置させて照明を確保する。

 全員で中に入るが未だ扉は閉めない、先ずはゴーレムの編成だ。

 五階層のボスはリザードマンが固定で必ず六匹現れる、ドロップアイテムはノーマルが鱗の盾、レアが鋼鉄の槍。

 買取価格は前者が金貨一枚、後者が金貨三枚、五階層のボスのドロップアイテムとしては安い気がする。

 だが鋼鉄の槍には稀に魔力付加の付いた物も有るらしく王都の冒険者ギルド本部に持ち込んで鑑定が必要、パウエルさんでも鑑定出来ない理由は通常の鑑定技術では分からない稀にレア効果の有る物が有るらしい。

 過去の例だと『体力UP効果:中』とか『筋力UP効果:中』とか『物理抵抗力UP効果:小』等とバンクでも最下層に近いドロップアイテムの効果が付加されているらしい。

 付加内容により金額は跳ね上がり冒険者ギルドは固定化等を掛けてからオークションで売り出す。

 だがドロップ率が3%のレアアイテムの中の更に低確率だからリザードマン狩りをする連中は居なかっただろう。

 五階層と中間地点のボスだけあり、リザードマンは硬い鱗に守られた強靱な肉体を持つ身長2m程の強力なモンスターだ。

 

「さて、ゴーレムポーンの編成だが前回同様にロングボゥ装備で行くよ」

 

 十体三列合計三十体のゴーレムをロングボゥ装備で錬成する、弓矢は貫通力を高めた「射通す用」を使う。

 堅い鱗で全身を覆っていようとも通常の弓矢でもダメージが与えられるので強度を増したゴーレム専用のロングボゥなら大丈夫、仮に弓矢を弾かれたら三十体全てを突撃させて時間を稼ぎゴーレムナイトを召喚して戦わせる。

 

「リーンハルト様、私達にもクロスボゥを使わせて下さい」

 

「そうだね、もっと慣れなくちゃ駄目だもん」

 

「リザードマンは首や腹まわりの鱗は弱い、狙い射つ!」

 

 イルメラ達にもクロスボゥを渡して準備完了。

 

「エレさん、扉を閉めて」

 

「ん、分かった」

 

 パタンと閉まる扉、部屋の中央付近に集まる魔素、いよいよリザードマン狩りの開始だ!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 部屋の中央にポップしたリザードマンは六匹、両手で槍を構える四匹とロングソードとラウンドシールドを持っている二匹、此方に気付いて威嚇の雄叫びを上げた!

 

「くっ?ゴーレムポーンよ射て!」

 

 リザードマン一匹に対してゴーレムポーンは五体を割り振り、頭と首と胴体を狙わせて射つ!

 近距離の為に放物線でなく直線で放たれた矢はリザードマンに向かって……突き刺さった。仕留め損なったのが二匹もいる、咄嗟に手に持つ盾で防いだのか。

 

「二射目、放て!」

 

 それでも無傷ではなかった二匹に対して三十本の弓矢が放たれる。

 

「グギャ、グギャギャ!」

 

 断末魔の悲鳴を上げるリザードマン、直径50㎝のラウンドシールドでは急所全ては防げないしラウンドシールドを貫通してる矢も有る。

 

 ロングボゥ編成でも十分に対応出来るな。

 

 魔素に還るリザードマン、残されたのは一対の槍と盾、ノーマルとレアが同時にドロップしたな。

 だけど普通の冒険者達は嵩張る武器や防具がドロップした場合の持ち歩きは大変だったな、前に擦れ違った連中は紐で背中に鎧を括り付けてたし……

 

「はい、リーンハルト君」

 

「有り難う、これが鋼鉄の槍か……」

 

 初めて見る鋼鉄の槍は柄が木製で先端に直刃が付いている、全体の長さは150㎝で刃の部分は30㎝、初級から中級成り立て冒険者が使うグレードだな。

 試しに鑑定してみたが魔法付加は無さそうだ。

 

「エレさんも試しに鑑定してくれる?」

 

 鋼鉄の槍を渡すが身長140㎝位の彼女に持たせるとアンバランスだな。

 

「ん……普通、特に魔法付加は無い」

 

 やはりか、僕のレアギフトはドロップ率UPだから魔法付加は関係無いみたいだな。

 

「あれ?レッドリボン無いよね?」

 

 確か初回チャレンジのみレッドリボンがドロップするって聞いたけど……周りを見渡しても、それらしきアイテムは落ちていない。

 

「リーンハルト君、ごめんなさい。私がレッドリボン持ってるの……」

 

 ああ、良かった。重複所持は出来ないって言ってたな、取り損ねないで安心した。

 

「そうか、なら良いや。エレさん外を確認してくれる?」

 

「うん、外には……誰も居ない」

 

 頷いて扉を閉める様にお願いする、扉が閉まると同時に部屋の中央に魔素が集まりだした、今回も出現場所は固定かな?

 魔素のモヤモヤが六つに分かれて人型を成していく、常に六体と分かっていればゴーレムポーン達に割り振り命令を行うのは容易い。

 

「よし、射て!」

 

 実体化と同時に一斉に矢を放つ、今回はラウンドシールド装備が三匹居たが一匹は頭部に当たって即死、残り二匹は致命傷に至らなかったか。

 

「なっ?」

 

 ゴーレムポーンが二射目を射つ前にエレさんが生き残りのリザードマンの眉間をクロスボゥの矢で貫いた。

 慌てて残り一匹に狙いを定めて一斉に矢を放つ。

 

「リザードマンはコボルド達と違い盾も丈夫で扱いも上手くて自身の鱗も固い。

私達はゴーレム達の一射目で仕留め損なった奴等を狙う事でゴーレム達の二射目迄の時間稼ぎをする方が効率的」

 

「そうだね、その方が助かるよ」

 

 エレさんの提案に思わず頭を撫でてしまった、サラサラの黒髪は凄く手に馴染む。

 

「嬉しいけど子供扱いみたいで嫌かな」

 

「うっ、申し訳ない」

 

 彼女もレディ、子供扱いは嫌だったか。

 




メリークリスマス、連休明けでクリスマス、更に財布が寂しい今日この頃です。
今年のクリスマスイブは横浜赤レンガ倉庫周辺に出没しています。

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