地下3階、4階と、徐々にモンスターは強くなってくる。幸い、呪文に対してはスカイが封じ込めてくれるのだが、全く無傷でというわけにも行かなくなり、5階に差し掛かったところで小休憩を取った。
「今、何時なんだろう」
この世界にも時計はある。アバン先生が懐中時計を持っていたのだ。毒を使用するのであれば、綿密な時間を測定する必要があるので、欲しいとは思っていた。
携帯食料の、薬草と大豆をすり潰して焼いたクッキーの味はそこそこだけれども、体力の回復は出来た。スカイにも、水でふやけさせたものを与える。
器具がそろえば、薬草の成分を抽出し、もっと回復効果を高めるものが作れそうだ。終盤のフェザーまで、回復アイテムが薬草のみというのは、心許ない。
「よし、スカイ、いこうか!!」
「アーウ」
地下5階のバブルスライムには苦戦した。毒が効かないのだ。というかこっちが毒でやられそうになった。何とか倒し、毒消し草をゲットする。
先生の教えでは身につかなかったスカラも、地下5階で無事習得する事が出来た。自分とスカイに使用すると、思った以上に防御力が上がり、地下6階はほぼ無傷で第一のミッションであるレミラーマを契約するに至った。
「おお!!うろこの盾発見!!」
レミラーマを唱えると、薄暗い洞窟に、青い光が現れるのだ。光源に向かうと、うろこの盾が落ちていたという次第である。
盾は、邪魔だったので、スカイの背中に括りつけた。
「アウウ…」
スカイも不満げだ。洞窟を出たら、棍棒やひのきの棒と一緒に売ろう。
地下7階にアイテムは落ちておらず、収穫は宝箱の聖水と、モンスターから奪った棍棒だけ。いい加減持ちきれなくなってきた。こちらも覚え損ねていたルカニを契約し、ラストの地下8階へ向かう。
先生から言われた植物は、見てすぐに分かった。
1メートルほど、まっすぐ伸びた茎の先端に、ぷっくらと丸い実。私がいた世界にも、似た植物はあった。悪名高い芥子の実。阿片の原料で、生産は厳重に管理されている。
もちろん、先生の目的は麻薬の密造ではない。まず、この世界で麻薬は禁止されていない。そもそも麻薬の概念がなく、せいぜい煙草くらいしか存在しないのだ。
芥子は鎮痛剤の材料にもなる。
この世界にも鎮痛剤はある。例えば、瓜に似た果実を搾り、煮詰めたものをお湯に溶かして飲めば、リュウマチに効くらしい。ただ、余り量が取れないので、富裕層しか手に入れることが出来ず、効果も薄い。
民間療法の域を外れていないレベルだ。
もちろん民間療法も馬鹿に出来たものではないが、私にはあの世界の知識と技術がある。それを使って、より高度な薬を作ることで、何かの役に立てるかもしれないのだ。
鎮痛剤が出来れば、例えば再起不能となった不死身の剣士の助けになるかもしれない。
そう思い、先生に聞いたところ、痛みを和らげるといわれている植物の話をしてくれた。分布地域の限られている、その植物の特徴を聞いて、私はピンと来た。是非とも手に入れたいと言ったところ、先生が破邪の洞窟の地下8階に咲いていた事を思い出し、今回の課題に取り入れられたのだ。
さて、皮袋一杯に実を積めば、ミッションは終了。ついでにレミラーマでブレスネットを見つけた。
以前ここを通った冒険者が落としたのか。それとも、冒険者から奪ったモンスターが、飽きて放置したのだろうか。
「アーウ」
「何、欲しいの? 」
「アウアウアウ!!」
「あうあう――ん、ぴったり」
ところどころ青い宝石のちりばめられたシルバーのブレスネットは、確かにスカイによく似合った。首輪代わりに付けてあげると、満足そうにその場でくるくる回る。
人食い草を倒し、いくつか薬草を拾って、フローミを習得する。ゲームではいまひとつ意味の分からない呪文だが、自分の足でフィールドを歩く上では、かなり役に立ちそうな呪文だ。
実際攻略本なしで洞窟探索をすると、階層が分からなくなりそうになる。契約しておいて損はない。
「じゃあ、戻ろうか」
「アーウ」
意外にも、さっくりとミッションは終了した。もちろん、アバン先生が私に見合った課題を課したということもある。しかし、モンスターとの戦いで、短剣の腕の上達を実感した。
「さすが、アバンの使徒の先生…」
よく分からない感心をしながら、私は地上を目指す。