フレイザードは私たちを順繰りに睨み付けて――目が合った。
「お前か!?姫を連れ去ったのは――」
「…そうだけど」
「クソ、こんな弱そうな女に、みすみすとッ!! 」
「へっ…その激弱ソウコに一杯食わされてりゃ、世話ねえぜ」
こらポップ、そういう怒らせるようなこと言わないの。フレイザードの標的がこっちに集中したらどうするの!?こういうタイプに恨まれると、めちゃくちゃ面倒なんだから。
しかしフレイザードは攻撃してくる素振りもなく、爆弾岩を退けた。
そして暴魔のメダルを放り投げ。
「…もう、過去の栄光はいらねえ…新たな勝利をつかむために…オレは命をかけるのだあッ!!!」
次の瞬間、フレイザードの体が飛び散る。
「っ――!!みんな、大丈夫!?」
「うん…ひとつひとつの攻撃力は大したこと無い、だけどこの数じゃ――!!」
スクルトのお陰でダメージはほぼ無い。でも、めちゃくちゃウザイ。
小石だけだと思いきや、たまに大きな岩石も混じっていて、とにかくウザイ。
「これがオレの最終闘法…弾丸爆花散だッ!!! 」
ポップがヒャドで応戦しようとする。
「駄目!!」
足元にナイフを投げつけ、それを制止した。
「うわっ――何すんだソウコ!?」
「よく見て、氷も混じっている…下手にヒャドを撃っても、これじゃあ返されるはず…じゃなきゃポップやスカイがいるのにこんな戦法使わないでしょ!?」
「う――ぐっ、じゃあ、どうすればいいんだよ!?」
「それは――きゃ!!」
「ソウコ!!」
大量の岩が集中してこちらに来た。やっぱり、さっきポップが余計なこと言ったせいで怒らせたんだ。大きいのは何とか避けたけれど、小さいのがかなり当たって、結構なダメージだ。
「大丈夫か!?」
「ヒュンケル、こっちは大丈夫――それよりダイを!!」
ダイに向かって大きな氷岩が。間一髪でヒュンケルがそれを塞き止めた。そして、何か話し合っている。
「ふたりとも、避けて!!」
マァムの声。滝のような岩がダイとヒュンケルに襲い掛かる。
「破れるものなら破ってみろよ…! この無数の弾丸の中に潜む、オレの核を砕こうってのか!?そんなこと…人間なんぞにできるかあ――ッ!!! 」
いや、出来る。ダイの目はそれを確信していた。
「ぐ…あ…っ!!」
しかしあれだけの岩。スクルトで強化されたとはいえ、大きなダメージを追ったダイは昏倒。
「ダイ――今回復呪文を!!――わあっ」
駆け寄るマァムに、炎と冷気が殆ど消えたフレイザードが襲い掛かって。
「どうやらお前は上手く避けていたようだな――それに、お前ら思ったほどダメージが少ない。どういうことだ!?」
全員地に手を付いている状態で、一番ダメージの少ないマァムに、フレイザードの意識は集中していた。
「な…なぜ…なぜそこまでして勝とうとするの!?死の危険をおかしてまで!!」
漫画どおりのマァム。だけど、漫画とは違う。私がいる。そしてマァムはそれを知っている。
――ありがとう、マァム。
私は魔弾銃のトリガーに指を掛けた。
魔弾銃の標準は、もちろんダイ。連射した2発とも見事的中。
「何――!?」
ホイミ2発で回復したダイは、立ち上がり、フレイザードに対峙する。
「クソッ――またあの女か!?」
うん、まあね。ていうかフレイザードは私のことを舐めすぎている。致命傷は避けていたし、ポップとこっそり薬草で回復もしていた。
スカイは――ゴメちゃんやバダックさんと上手くクロコダインの陰に隠れていたようだ。バダックさんには薬草を多めに渡しておいたし、ヒュンケルは多分大丈夫。マァムについては言うまでも無い。
「ちっ――しぶとい奴らだ…」
再度先ほどの技を繰り出そうとするフレイザードに、鞘に剣を収めたダイが向き合う。
「フレイザード、おれが相手だ!!」
ダイの言葉、その構えに、フレイザードは一瞬瞠目する。しかし、こけおどしだと高を括って。
「いくぜェッ!!!小僧ッ!!!氷炎爆花散!!」
氷と炎、二種類の岩は、ダイのみに向かってシャワーのように降り注ぐ。しかし、ダイはそれを避けようともせず。
見えている。
ダイにはもう。
勝利への道が――。
「う…うけてみろフレイザード! おれの…オレの先生アバンの最高の奥義を…!!」
足を大きく開く構え。その姿は先生そっくりで。
「アバン流刀殺法」
柄に手をかける。目は一瞬たりとも逸らさない。フレイザードから。フレイザードの総てから。その一点から。
「空裂斬ッ!!! 」
「ウギャアアアアアアア――ッ!!!!」
断末魔と共に、二つに分かれたフレイザードの体。
「ポップ!!スカイ!!」
それを見逃すはずもなく。
「アウウウウウ――!!」
「ベギラマ――ッ!!! 」
スカイのブレスと、ポップの閃熱呪文が襲い掛かる。
「ぐわああああっ!!!」
これでもう終わり――誰もがそう確信した。しかしその次の瞬間。
――ミストバーンが現れた。
消滅しかけていたフレイザードに、ミストバーンが持ちかけた条件。魔炎気を放棄するのであれば最強の鎧を与える――フレイザードはそれを飲み、最強の肉体を手に入れる。
「力が…力がみなぎってくる…信じられないような…すさまじい力だ…! こいつあすごいぜエエエッ!!! 」
新たな力を手に入れたフレイザードが狙いを定めるより早く、ナイフを投げつけた。
「小癪な!!」
鎧はナイフをあっけなく弾き返す。フレイザードの意識がこちらに逸れるを、マァムは見逃さない。
「はああああ――!!」
背後から迫り、飛び膝蹴りが後頭部へ見事に決まる。
「うっ――!!」
バランスを崩したところへ、ポップのヒャダルコとスカイのブレス。鎧はそれらを遮るが、一瞬足止めしたところで、クロコダインとヒュンケルが武器を構え対峙する。取り囲まれたフレイザード。だけど、止めを刺すのは私たちじゃない。
「みんな、離れて!!」
ダイの声に、私たちは下がる。もちろん意識はフレイザードから離さない。
「いい度胸だぜ!!小僧っ!!! 」
暗黒闘気を込めた右腕が、ダイに襲い掛かる。ダイの体は大きく飛んだ。
「ダイ――ッ!!! 」
マァムの声は、勝利を確信したフレイザードの高笑いに掻き消される。
しかしダイは、立ち上がり。
怒りに任せたフレイザードの攻撃をすべて避けている。
そして、とうとう剣を逆手に構えた。
「で…出るぞ…!!」
フレイザードの雄叫び。
この場にいる全員――もしかしてフレイザード自身すら、ダイの勝利を確信する。
先生、アバン先生…とうとうダイが完成させたよ!!先生の最大の奥義を。
その名も――。
「アバンストラッシュだ――っ!!! 」
フレイザードは破れた。
止めを刺したのは、彼に鎧という名のラストチャンスを与えたミストバーン。
「ダイ、凄かったね――空裂斬も、アバンストラッシュも…先生みたいだったよ」
「ありがとう…ソウコの…ううん、みんなの、お陰…だ、よ……」
そのままダイは眠ってしまった。
まあ、ミストバーンもどこかへ行ったし、レオナ姫はとっくに助け出している。今のダイには休息が必要だ。
「あ…そうだ。ねえクロコダイン、これ何か分かる? 」
私が差し出したのは、1冊の薄い本。中には何匹ものモンスターの絵と、見慣れない文字が書いてある。レオナ姫を救出するために忍びこんだ中央塔で偶然見つけたのだ。レミラーマで青く光ったので、何となく持ってきていた。
「ウム…これは配合表だ」
「はいごーひょー? 」
「ああ。強いモンスターを作り出すのには、複数のモンスターを配合する必要がある…これでいうと、例えばヘルコンドルとフレイムを組み合わせれば、更に上位のモンスター、火食い鳥が出来る…その配合の一覧が載っているものだ――」
「ええええ!!なっ、何それ…どういうこと!?どうしてモンスターとモンスターから別のモンスターが出来るの!?それがこれに載っているの!?」
クロコダインにつかみかかる勢いだった。だって、それ、凄くない!?どういうわけ!?モンスターは一世代でそこまでの進化が出来るの!?意味わかんない、なにそれ!?
「…もちろんこれは氷炎魔団のモンスターについて載っているだけだがな――」
「氷炎魔団のってことは――他にもあるの!?これと同じようなものが!?」
「そっ、そのとおり…オレも持っているし――ヒュンケル、配合表はあるか? 」
クロコダインが懐から、薄い冊子を取り出した。ポップと話しをしていたヒュンケルが、何事かとこちらに近付いて。
「ああ、配合表ならここに――これがどうかしたのか? 」
どうかしたのかじゃないし! これ、凄いことだよ!!これがあれば――。
「欲しい! 頂戴!!」
私の言葉に、ヒュンケルとクロコダインは顔を見合わせて。
「構わないが――しかしこれは魔族の文字で書かれている。お前では読めないだろう? 」
「大丈夫! 」
この文字には見覚えがあった。多分だけど。
空裂斬の修行で行った古城。あの主の亡霊を倒した後に出て来た本に載っていた文字と、凄く似ている。多分あれは、魔族文字の辞書。
あの主はまさに学問の神様だったというわけだ。
「ソウコ、盛り上がっているところ悪いけど、そろそろ戻ろうぜ。おれもう限界…ルーラ無理……ソウコやって」
辞書は洞窟に置いてきたけれど、ヒュンケルに見てもらえば分かるはず。
「じゃあ、戻ろうか!!」
私は意気揚々とルーラを唱える。
レオナ姫は救えたし、ヒュンケルとクロコダインは生きていた。ダイのアバンストラッシュは完成して、フレイザードも倒すことが出来た。そして魔弾銃は壊れていない。
だけど、私を一番興奮させたのは、3冊の薄い冊子だった。
フレイザード戦はほぼ原作どおりだし、リアクションと解説くらいしかすることが無いので、エスケープさせようかとも思ったのですが、ダイの空裂斬習得の功労者はソウコなので、流石に見届けてもらいました。
レオナの氷が溶けるシーンは、「最終回!?」と勘違いするほどインパクトがありました。私の中では、ダイの大冒険を象徴する大きなエピソードなので、無くしてしまった事はすっごく心苦しく、今もちょっと半泣きですが、ここが乗り切れたので今後は遠慮なくクラッシュ出来そうです。
この展開に、もし気分を害されたのであれば、今後も原作の名シーンが改変されることは多いにあるので、そっとお気に入りから削除していただいたほうがよろしいかと思います。