Infinite possibility world ~ ver Servant of zero 旧版   作:花極四季

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第六話

 昼食を終えたはいいけど、困った。

 どこでルイズさんを待っていればいいんだろう。

 最初は食堂前で待機してたんだけど、明らかに僕のせいで食堂から出入りできなさそうな雰囲気だったので、しぶしぶ退散。

 取り敢えず、僕が召還された広場に足を運んだ。

 食堂には使い魔は入れないという制約のせいだろうか。広場にはたくさんの使い魔と思わしき生物が集合していた。

 アニメやゲームで引っ張りだこなメジャーな種族もいれば、見たことないのも一杯。

 マイナーまで手を着けるとは、やるな制作者。

 暇つぶしに観察していると、見知ったものを発見する。

 そう、先程乗ってきたばかりの竜、シルフィードである。

 

「また会ったな」

 

 最初と同様、喉を撫でると相変わらず嬉しそうに反応してくれる。

 気のせいか、それ以上に懐いているような………。

 まぁ、嫌われるより何万倍もマシなので、気にしないでおく。

 

「―――騒がしいな」

 

 シルフィードと戯れていると、学院内から妙に騒がしさを感じる。

 なんだなんだ、イベントでも起こっているのか?

 騒ぎのした方向へと向かうと、そこは食堂へ続く道であった。

 モーゼよろしく、集まっていた人が割れて道が出来る。

 嬉しいけど、なんか複雑。

 食道内部を覗くと、そこにはルイズさんとさっきの美人メイドさんとコテコテな三枚目キャラっぽい少年が言い争いの中心となっていた。

 

「どうした、主」

 

「なんだね君は―――って、主だと?まさか、」

 

「ヴァルディ!」

 

「ヴァルディさん!」

 

 少年は驚き、女性陣は僕の名を叫ぶ。

 

「ふ、ふん!ヴァルディだったか?使い魔はアルヴィーズの食堂に入ってはいけないという規則を知らないのかね?」

 

「その点については理解しているし、謝罪もしよう。しかし、今回は何やら主が揉め事の中心となっている様子だったこともあり、不測の事態と判断した」

 

「そうか。ならば説明しておこう、そこのメイドはね、僕が落としていた香水の瓶を拾ったのだよ、空気も読まずにね」

 

「それが何故この様な自体を招く?」

 

「僕はね、わざと無視していたんだよ。それをあろうことか、彼女は拾ってしまった。そのせいで僕はケティとモンモランシーを傷つけてしまう羽目になってしまった。僕がそのメイドに説教をしていたところに、君の主が干渉してきたのさ」

 

「それは、アンタが二股していたからでしょう!女の敵が、何を偉そうに!」

 

 そうだそうだー、と男達の魂の叫びが飛ぶ。

 

「そもそも、君には何の関係もないだろう?邪魔をしないでくれたまえよ」

 

「―――このメイドには借りがあるのよ。だから干渉した。関係ならあるわ」

 

「メイドに借り?ははっ、流石はゼロのルイズってところか。平民に借りを作るとはどこまでもメイジの恥さらしだ」

 

 怒りと悔しさが混じった表情で、少年を睨み付けるルイズさん。

 ―――あー、なんというか、物凄い踏み台ポジションだな、少年よ。

 取り敢えず冷静に考察してみよう。

 これは恐らく、能動型のクエストだ。

 PCが香水の瓶を拾うか、NPCが香水を拾い発生した問題に干渉することが条件なんだろう。

 達成条件は何かは知らないけど、ルイズさんをフォローしないと。使い魔ってこ ともだけど、ゲームのことなのに感情移入し過ぎてやらかしそうで怖い。

 VRRPGは初心者なんだろう。そこは経験者の僕が導いてやらないと。

 

「ふむ、果たして恥さらしとはどちらかな」

 

「何?」

 

「君の言い分は一方的だ。自分本位で自意識過剰と言ってもいい。都合の良い理論武装で論破したつもりだろうが、その会話を聞いていた者は総じて君の発言に正当性を見出せなかっただろう」

 

「………言ってくれるね。どこがどう間違っているのか、答えてもらおう」

 

 うーん、キャラ付けとはいえ、これはひどい。

 アホの子というより、ただの残念キャラじゃないか。

 説明ねぇ。徹頭徹尾間違いしかないことを説明しろって、逆に難しいよね。

 

「前提として、君の都合など知るか、ということだ。わざと無視していた?そんな事情を呑めというのは、君の思考が常に第三者に垂れ流されているぐらいの荒唐無稽な事実でもない限り不可能だ。そんな馬鹿げた話を前に、彼女の善意を踏みにじったのは、度し難い行為といえる」

 

 うっ、と少年が怯む。

 そこから畳み掛けるように言葉を続ける。

 

「そもそも、君がそのケティとモンモランシーとやらを傷つける原因を作ったのは、先程主が言ったように他ならない君が二股をしていたからだろう。自業自得と思って、せいぜい許してもらえるよう努力するんだな」

 

 少年は、まさにぐぬぬと言った表情でこちらを睨み付けている。

 ていうか、このクエストの達成条件ってなんぞ。

 取り敢えず言葉で彼をフルボッコにしてみたはいいけど、でもそれって根本的な解決にはなりませんよね?って言われたら凹む。

 

「いくぞ主、そしてメイドの君」

 

「あ―――うん」

 

 二人の背を食堂の出口に向けて押す。

 ルイズさんが頷いたってことは、これでいいんだろうか。

 

「―――決闘だ!君に決闘を申し込む!」

 

 振り返ると、薔薇をこちらに突きつけ、そんなことを言い出した少年の姿があった。

 ―――あー、そういうことですか。

 

 

 

 

 

 希望から絶望に相転移した瞬間だった。

 

「ふぅ………君の取った軽率な行動のおかげで、二人のレディの名誉が傷ついた。どうしてくれるんだね」

 

 私はただ、善意で行動しただけだった。

 その結果が、これ。

 理不尽とか不条理を超越した、究極的なまでに自分勝手な理論で、私の善意は否定されてしまった。

 

「そ、それは………」

 

 叫びたい。

 私は悪くない。ただ善意で香水を拾っただけなのだと。

 しかし、平民である私が下手に反抗すれば、あっという間にちっぽけな命は刈り取られてしまう。

 平民とメイジは、それ程までに力の差がある関係なのだ。

 抵抗する権利すら、人として最低限の権利も、力の前には無意味。

 魔法至上主義のトリステインでは、こんな状況はザラなのだ。

 味方である平民達も、助け船を出すことはない。

 誰だって我が身は大事だから。それを否定するつもりはない。

 多分、間が悪かっただけなんだ。そう、たったそれだけ。

 でも、たったそれだけで人生が左右される平民の人生に、果たして価値はあるんだろうか。

 

 ふと、ヴァルディさんの姿が脳裏に浮かぶ。

 メイジに畏れられる存在ながらも、礼節を弁えており、常識も兼ね備え、決して奢ることなく謙虚な姿勢を貫く。

 当たり前のことが当たり前にできない人間が多いのに、亜人である彼はそれが出来ている。

 その事実も踏まえると、なんて情けないんだろうと思わずにはいられない。

 もう、貴族に対し一寸の希望も持てな―――

 

「待ちなさいよ!」

 

 突如、食堂内に響く声。

 声がした方へと振り返ると、そこにはヴァルディさんを召還したメイジ、ミス・ヴァリエールが立っていた。

 

「おや、ゼロのルイズ。いきなり何かね?僕はこのメイドに用があるんだが」

 

「その用について言いたいことがあるのよ。アンタ、さっきから聞いてればどんだけ傍若無人なのよ。一人の女として意見を言わせてもらえば、何でアンタみたいな奴がモテるのか心底理解できないわ」

 

 音を立てながらこちらに歩み寄ってくるミス・ヴァリエール。

 一瞬、視線が交差する。

 願望かも知れないけど、心配するなと瞳が告げていた気がした。

 

「ふっ、ゼロのルイズは美的感覚さえもゼロだったってことか。この僕の魅力に気が付かないとは

 

「外面だけ見て男の良さを判断するほど安直じゃないのよ、私は。アンタは表面だけ美味しそうに見えるけど、中を割れば腐っているリンゴを食べたいって思う?そういうことよ」

 

 二方の言い争いを静かに見守る。

 ………ミス・ヴァリエールは私を庇ってくれたのでしょうか。

 一連の流れでは真意は測れない。

 だけど、あの心優しいエルフを召還した主なら、もしかしたらと期待してしまっている自分が居た。

 

「まさか、僕がそのリンゴだっていうのかい?」

 

「そうだといったのよ、張りぼて」

 

 ただひとつ確信して言えること―――それは、彼女が彼のメイジに対し怒りの感情を抱いているということだ。

 それはつまり、あの理不尽に怒りを覚える貴族がいるということに他ならない。

 私の中で潰えそうだった希望が、僅かに光を取り戻していた。

 そして―――希望は連続する。

 

「どうした、主」

 

 喧噪の中、透き通るように響く声。

 厨房の入り口には、私達に救いをもたらした聖人、ヴァルディさんの姿があった。

 

 

 

 

 

 思えば、この出会いが僕の人生の岐路だったんだろう。

 

 最初は、運悪く拾われてしまった香水だった。

 メイドが拾った香水が騒動の波紋を拡げていく。

 ケティにもモンモランシーにも二股を掛けていたことがバレ、きつい一撃をお見舞いされてしまった。

 それも当然だ。僕は二人を悲しませてしまった。そういう行為をしていたのだから、その罪は甘んじて受け入れるべきだったんだ。

 しかし、あの頃の僕は貴族のプライドを捨てきれず、善意で香水を拾ってくれたメイドに当たり散らしてしまった。

 ある意味では、それは貴族と平民の関係としては当然の行為だった。

 どんな理不尽も、不条理も、圧倒的力の前では通る。

 故に、錯覚してしまう。

 自分は神のようなものだと。

 そんな矮小な世界で井の中の蛙を演じ、愉悦に浸っていたところに現れたのは、魔法の使えないメイジ、ミス・ヴァリエールだった。

 彼女は、メイジの家系に生まれながらもあらゆる魔法が爆発に変換されてしまう、いわゆる落ち溢れだった。

 他のメイジからの評価も、平民と似たり寄ったりのものだった。

 見下していたのは認めよう。彼女を見る度に、自分は特別なんだと悦に浸る為の道具として利用していたことも、否定しない。

 その後直ぐにお鉢が回ってきたんだ、これもまた自業自得だ。

 

「どうした、主」

 

 それは、僕達の言い争いの中でも確かに響いた。

 そこにいたのは、ミス・ヴァリエールが召還したエルフが立っていた。

 髪で隠れて多少わかりにくいが、特徴的な尖った耳は僕達のものと変わりないものになっている。

 だけど、そこで自分の目が節穴だったという逃げはしなかった。

 確かに僕は見た。ヴェストリの広場に現れたエルフの姿を。

 情けない話だが、あの時最初に叫んだのは僕だったりする。

 故に、あの光景が錯覚だと言うのであれば、それは現実逃避をしているだけに過ぎない。

 

 そこからは、彼の独壇場だった。

 彼に対して恐怖を抱きながらも、不遜な態度を崩さないあの頃の自分の行動は、まさに蛮勇と呼ぶに相応しいものだった。

 それでも彼は淡々と僕に対しての批判だけを続ける。

 そこには個人の感情は含まれていない。ただ客観的事実を述べるだけ。

 主が謂われのない罪を着せられようとしているのに、中立の姿勢を崩すことはない。

 感情的に批判されていれば、まだ付けいる隙はあったかもしれない。

 でも、冷静さを微塵も崩すことなく出てくる言葉の羅列は、感情的に批判されるよりも遙かに心に響いた。

 

「いくぞ主、そしてメイドの君」

 

 事実をすべて言い終えた彼は、主とメイドの背を押し、この場を立ち去ろうとする。

 あの時の僕は頭がひたすらに混乱していた。

 反論できない悔しさ、事実を受け止められない情けなさといったマイナスの感情がぐるぐると脳内をかき乱す。

 そして―――とんでもない暴挙に出てしまった。

 

「―――決闘だ!君に決闘を申し込む!」

 


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