Infinite possibility world ~ ver Servant of zero 旧版   作:花極四季

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第四話

 いえーい、ようやく朝だぜ!

 まさか体感リアルタイムで朝を待つとは思わなかった。

 起きっぱなしはゲーム内とはいえ無理ゲーなので、ルイズちゃんに毛布をもらって藁で寝ることに。

 本来、動物系の使い魔が出る予定だったものだから、ベッドは無いと申し訳なさそうに言われた。

 勿論、そこは問題ないことを伝えたさ。

 実際藁は寝心地良かったというか、暖かったし。

 別のゲームでは野宿とかザラだったし、全然恵まれているぐらいだ。

 

「うう………」

 

「もう、まだ引きずっているの?タバサに任せておけば何の問題もないわ」

 

「そもそも、私は彼女のことを全然知らないんだから、安心して任せられる訳ないじゃない!」

 

「あら、私のお墨付きじゃ不安?」

 

「むしろ更に不安が加速したわよ」

 

 ルイズちゃんが僕を心配してくれているらしい。

 せっかくパートナーになったばかりなのに、いきなり離ればなれなのだ、無理もない。

 前衛なき後衛なんて、失礼だがあまり役に立てはしない。

 防御低いから被ダメ半端ないし、ダメで詠唱中断されるしで、ソロは無謀としか言えないのだ。

 中衛と呼べるどちらもそつなくこなすジョブもあるが、やはり本職には劣る為、可能ならば前衛と後衛で仕事を分担するのが理想なのだ。

 

「心配するな主。君は気兼ねなく学舎で学を修めるといい」

 

 魔法のスキルを鍛えるのは大事だからね。

 普通のゲームだったら実戦形式が当たり前なんだけど、VRRPGだと単純に魔法が使えたからといって勝てるかどうかは別問題なんだよね。

 剣振ったりしてるだけでダメージ与えられる前衛と違って、後衛は未知の現象である魔法で戦わないといけない。

 だから、下積み練習ができる場というのが前衛より充実していたりする。

 彼女もその段階なんだろう。だからこそ、疎かにしてはいけないのだ。

 

「うぅ、ヴァルディが言うなら………」

 

「彼の言うことは素直に聞くのね。ほんと、陶酔してるんじゃないかってぐらい」

 

「う、うるさいうるさい!」

 

 微笑ましいなぁ、このやり取り。

 

「そろそろ行く」

 

「ああ。頼む」

 

 タバサちゃんの使い魔を見る。

 うーん、でかい。とどこぞの変身ヒーローの中の人のような感想を抱く。

 ドラゴンはファンタジー世界ではごく当たり前の存在だけど、基本的に立ち位置は敵と決まっていた。

 だけど、今回は乗り物として扱える。

 その事実はとても僕を興奮させた。

 リアル追求をしているとはいえ、乗り物系はテクスチャの問題上、リアルに再現するのが困難なのだ。

 ただの置物ではなく、動く物体でありながら質量は膨大。

 ドラゴン好きな人が多い昨今、リアリティさを欠くのはNGだし、細かな動きにも気を配らなければいけない。

 戦闘中ならともかく、乗り物として扱う場合、じっくり見る時間がある以上粗探しする余裕も生まれる。

 結果としてVRROGでドラゴンがPCの道具となるケースは少ないという現実があった。

 しかし、このゲームではここまでリアルでありながら、素晴らしいまでのドラゴン再現!

 おもわず喉元を撫でてしまったぐらいだ。

 

「きゅるる~」

 

 お、喜んでくれてるっぽい?

 おーよしよし、いい子だー。

 

「………………」

 

 気が付くとタバサちゃんが、ジッとこちらを見つめていた。

 おっと、楽しすぎて没頭してしまった。

 無口キャラの無言の圧力はげに恐ろしや。タバサに続きドラゴンの背に乗る。

 

「早く帰ってくるのよ!いいわね!」

 

「ああ」

 

 力強い羽ばたきと共に、空を舞う。

 普通は味わえないであろう、生身での空中遊泳を噛み締めながら、森へと向かった。

 

 

…………移動中…………

 

 

 さて、到着である。

 流石ドラゴン。地形を無視し、なおかつ素晴らしい推進力であっという間である。

 まぁそれでも三十分は乗ってたんだけどね。全然気にならなかったよ。

 ルイズさんに森と紹介されていたけど、どちらかというと林だろうか。

 森と言うには木の生え様が甘い。そのお陰で、剣を振り回しても問題なさそうだからいいんだけどね。

 剣を抜き、刃を袈裟に構える。

 武器の構え方は色々試してきたけど、やはり基本は両手持ちだよね。

 この初期装備はとても軽いから、片手でもいけるだろうけど、基礎は肝心だもんね。

 ………って、手の甲に刻まれたルーン?だったかが光ってる。

 それに、頭の中に武器の説明っぽいのが浮かんでくる。

 まぁ、ただのロングソードだからD値ぐらいしか見所ないんだけどね。

 武器を握ってから光った気がするし、もしかしたら契約によって何かしらの補正が得られたのかも知れない。

 試しに適当に剣を振ってみる。

 ………おおう。なんぞこれ。

 振っている自分にすら見えないレベルの剣速。

 今までやってきたゲームでもこんな状態にはならなかった。

 せいぜい古今東西のオリンピックプロ選手の身体能力をかき集めた程度のスペックで留まっていたのに、これは最早超人レベルである。

 しかしこれなら、夢にまで見たあれやこれやの動きを再現できるのではないか?

 そう思ったが吉日。取り敢えずまずはスキルイメージアウトの出来の程を試してみよう。

 

「―――空○斬!」

 

 地面を切り上げると共に、衝撃波が疾走する。

 射線上の地面と木々を破壊していく様は、俺の知っている~じゃないってネタを 彷彿とさせる光景だった。

 ゲームだと貫通しないけど、これ絶対するだろ。

 しかし、これならまだ序の口。今の内にとことんやってやる。

 

「デッドト○イアングル!」

 

「ケイオ○ソード!」

 

「ヴァー○ィカル・エアレイド!」

 

 取り敢えず某会社のゲームの剣技を試してみたが、全部イメージ通りに反映してくれた、凄い。

 見た目だけではなく、きちんとダメージ判定も残っているのも素晴らしい。お陰で周囲はボロボロだけど。

 一息吐き、タバサちゃんへと向き直る。

 ―――何故か杖をこちらに突きつけられていた。

 

「何のつもりだ?」

 

「………貴方の実力が知りたい」

 

 ああ、なるほど。

 これはあれだ、戦闘のチュートリアルだ。

 だけど、初戦闘が魔法使いってどうなんだろう。

 あ、でもこのゲームの世界観だと魔法使いが主流らしいし、経験は積んでおくに超したことはないのか。

 

「良かろう。ならば、来い」

 

「―――ッ、ウィンディ・アイシクル!」

 

 瞬間、弾丸のように無数の氷柱が発射される。

 避けるには厳しい。ならば、

 

「吼○破!!」

 

 正直、出来る自信はなかった。

 だって、これ一応剣技なのか自信ないし。剣振ってるキャラが使ってるってだけだし。

 ―――でも、そんな僕の不安を余所に、三頭の竜の幻影が出現した。

 ………自分でやっといてなんだけど、うっそ~ん。

 どこまでフリーダムなんだ、スキルイメージアウト。

 これ、下手したら戦士なのに魔法使えるじゃないか?ってレベルである。

 竜が吐くブレスは、氷柱を余すことなく溶かし切る。

 NPCなのにめっちゃ驚いてるタバサちゃん。いや、VRRPGならではか。

 

「まだ、やるか?」

 

 NPCとはいえ、女の子は斬りたくない。別に男ならいいや。

 フェミニストって訳じゃないけど、やっぱり嫌悪感は捨てきれないのは事実。

 

「もう、いい」

 

「そうか」

 

 良かった~、これで断られてたらどうしようかと。

 

「そろそろ戻ろう。これ以上は君に迷惑を掛ける」

 

「わかった」

 

 簡潔な返答を終え、僕達は再び学園へと戻る。

 あ~、風が気持ちいい~。

 

 

 

 

 

 私達は今、人気のない森の奥に着陸した。

 彼は手頃な開けた場所を探している。

 私はその後ろ姿を見逃さんと、必至に食らいつく。

 彼から一瞬でも目を離したら、その隙に何かをする可能性がある。

 その何かとは、それは私にもわからない。

 有益なものであれ不利益なものであれ、それを見逃す通りはない。

 私は、彼を見定めに来ているのだから。

 

 おもむろに彼は剣を構える。

 瞬間、ルーンが力強く光を放つ。

 それと同時に、彼の纏う雰囲気が洗練されていくのを肌で感じる。

 張り詰めた空気。彼を視覚に入れているだけで、微かに身体が震える。

 私は―――彼を恐れている?

 

 彼が言葉と共に地面を切り上げる。

 そこから地面を這うように直線を走る衝撃波のようなものは、遮るものを等しく薙ぎ倒していく。

 あれは、風の魔法?

 いや、違う。違うが、あんな攻撃を剣一本で行使するなんて、不可能。

 だったら、先住魔法?

 それなら、剣を使う意味がわからない。そんなことをしなくても、私達を圧倒するのは容易いのだから。

 それに、先住魔法は自然の力を操る魔法。

 彼の放つそれは、私達の魔法とも、先住魔法とのどちらにも該当しない、独立した力。そんな感じがする。

 その後、彼の放つ攻撃は熾烈さを増していった。

 片や分身したのかと錯覚するほどの速度での一撃、形容しがたい禍々しい力を剣に宿し、跳躍し地面を深々と抉る衝撃波による一撃。

 その光景は、私の中にある常識を粉々に砕くには充分なものだった。

 

 私は自分でも気が付かない内に、彼に杖を向けていた。

 彼をこの場で排除しなければいけない。

 利用できるなんて、甘い考えだった。

 並のメイジでは、徒党を組んだところで彼には敵わないだろう。

 それこそ、スクウェアメイジでも彼に勝てるのかと疑わずにはいられない光景だった。

 メイジ殺し、という言葉がある。

 それは文字通り、メイジを殺す技量、知識、経験を持つ者の称号。

 基本的に魔法を使えない者に与えられる名誉であり、恐れを込めた言葉である  が、その名を受け取った者は総じて彼のような剣術を持ち合わせてはいない。

 あくまで彼らが行ってきたのは対策であり、メイジを上回る能力を得たからではない。

 それこそ、魔法の届かない範囲から弓を射るといった、ゲリラ戦法が当たり前。 真正面から挑んで勝つなんて、普通は考えられないことだ。

 しかし、目の前の彼は違う。

 剣一本でメイジを圧倒できる地力を持ち合わせている。

 故に、私は恐怖した。

 彼は私がどうこう出来る存在ではないと、確信した。

 

 ―――待て、落ち着けタバサ。

 確かに彼は私では御しきれないかもしれない。

 だからといって、彼と敵対するのはあまりにも下策。

 ルイズの使い魔として従順な姿勢を見せている現状で、彼に杖を向けるメリットは限りなく少ない。

 利用は出来ずとも、敵対は避けられる可能性は高い。

 だからお願い、私の腕。

 どうか、彼が気付く前にその杖を―――

 

「―――――――」

 

 ―――瞬間、望みが絶たれる。

 振り向き様に漆黒の双眸が私の視線を射貫く。

 バレてしまった。いや、最初から気付かれていた可能性さえある。

 

「何のつもりだ?」

 

 杖を向けている私に対し、眉一つ動かさず疑問をぶつけてくる。

 淡々とした言葉から漏れる静かな圧力が、根源に潜む原始的恐怖を揺さぶる。

 しかし、歯を食いしばり震えを抑制する。

 肉体に恐怖を植え付けてしまったら、心は二度と立ち直れなくなる。

 私は母様を解放するまで、絶対に倒れる訳にはいかないのだ。

 

「………貴方の実力が知りたい」

 

 この言葉も、どこまで信用されるものか。

 いや、最初から理解した上で問いを投げかけたと考えた方がしっくり来る。

 最早退路はない。

 あの速さだ、フライを唱える間も与えてくれないだろう。

 それ以前に、彼相手に空を飛ぶという行為がどれだけアドバンテージを得られる要素となるのかすら疑問だ。

 僅かな唇の振動で、詠唱をする。

 それに気が付いたのか、彼は口元を僅かに吊り上げる。

 

「良かろう。ならば、来い」

 

「―――ッ、ウィンディ・アイシクル!」

 

 挑発に応じ、得意の魔法を一片の容赦なく放つ。

 それに対し、彼は腰を僅かに落とし、武器を握っていない左手を前に突き出す。

 ―――瞬間、私は戦慄する。

 彼の足下から黒い竜のようなものが三頭首を伸ばす。

 召還魔法!?にしては詠唱もなければ、肝心の竜はどこか質量を感じさせない。

 竜は眼前に迫るウィンディ・アイシクルに向け、漆黒のブレスを吐き出す。

 すると、飴細工を火で炙るよりも早く氷柱は溶けていった。

 ………勝てるわけがない。

 理解不能の力を前に、私の思考は停止寸前。

 そして、私の心は折れる一歩手前まで迫っていた。

 

「まだ、やるか?」

 

 それは、最終勧告。

 彼にとって私は、路頭の石ころに等しい。

 それでも声を掛けてくれたのは、慈悲なのか、斬ることすら億劫だと感じたからなのか。

 

「もう、いい」

 

「そうか」

 

 本当にあっさりと、彼は剣を鞘に収めた。

 ………助かった、のだろう。

 しかし、未だに動悸は収まりそうにない。

 

「そろそろ戻ろう。これ以上は君に迷惑を掛ける」

 

「………わかった」

 

 明らかに本心から来るものではない台詞に、私はただただ返すことしかできなかった。

 シルフィードに乗り、魔法学院へと帰路を取る。

 その過程で落ち着きを取り戻した私は、意を決して彼に問いかける。

 

「何故、私を攻撃しなかったの?」

 

 これだけが気に掛かっていた。

 彼の真意が測れるとは思っていないが、万が一にでも真実に辿り着けたならば儲けものだ。

 ………そもそも、その真意の是非を決定するのが私である以上、この問答に意味などないのかもしれないけれど。

 

「君が降参したからだが」

 

「違う。貴方の実力なら問答する間でもなく私を倒すことが出来た。なのに何故、杖を向けた相手にまともな反撃をひとつもしなかったの?」

 

「………女性を斬るのは性ではない。それだけだ」

 

「―――そう」

 

 それ以降、沈黙は帰還するまで続いた。

 結局、わからないことだらけだった。

 だけど、彼の言を信用するなら、これ以上彼に敵対行動を取らない限りは、襲われる要素はない筈。

 ―――本当は、洗いざらい手紙に書くつもりだった。

 私は母様を人質に取られ、その実行犯であるガリア王・ジョゼフに留学生として学院内に侵入、スパイとして活動している。

 手紙で定期的に報告をしている内容の中に、彼のことも書くつもりだった、が―――それは悪戯に彼を刺激する要因にしかならない。

 私は母様を救うまで、死ねない。

 幸いにも、彼がエルフだという最重要案件は外に漏れていない。

 ならば、彼の存在は如何様にも捏造出来る。

 

「タバサ、ようやく帰ってきたのね」

 

「ヴァルディ、遅いわよ!」

 

 二人に迎えられ、少しだけ胸が温かくなる。

 それは安心感から来るものだろう。別段特別なものではない。

 だけど―――そんな他愛ないことが、今の私にとってはとても尊いものに感じた。

 

 


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