Infinite possibility world ~ ver Servant of zero 旧版   作:花極四季

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第三話

 オールド・オスマンから解放された私達は、コルベール先生を除き皆が私の部屋に集結している。

 戻る過程、ヴァルディが終始無言だったことに気がかりを覚えはしたが、恐らくはこれからの身の振り方について思案しているのだろう。

 ただでさえ畏れられるエルフという存在。

 オールド・オスマンに頂いたマジックアイテムがある為、学院外で彼の素性がバレることはないだろう。

 しかし、学院内は別だ。

 サモン・サーヴァントに参加していた生徒は誰しもが彼をエルフと認知し、瞬く間にその事実は波紋となり拡がった。

 オールド・オスマンの部屋へと向かう際にも、生徒以外の人間が彼を目撃していたのを私は記憶している。

 これで、彼らの言葉が虚言で終わることはなくなった筈。

 ほぼ間違いなく、彼の存在は学院内で認知されたといっていいだろう。

 

 何とも言えない沈黙が部屋内を包む。

 普段はうざったいくらいに喋るキュルケも、黙して語らずを貫いている。

 確かそっちの青髪の―――タバサだったっけ。彼女は座りつつも杖を抱えたまま、ヴァルディを警戒している。

 無理もない。召還した私が言うのも何だけど、彼は危険人物として警戒されても不思議ではないのだから。

 耳が痛くなる程の静寂を破らんと、意を決して口火を切る。

 

「………ヴァルディ。貴方に使い魔としての役割を説明するわ」

 

 ヴァルディは無言で頷く。

 形を変えることのない表情からは、考えを読むことができない。

 だけど、悪い人ではない―――筈。

 

「使い魔は主人の目となり耳となる存在よ。………でも、無理みたい」

 

 恐らく、イレギュラーな召還による弊害だろう。

 人の形をした生物には対応していないのかもしれない。

 

「他には、秘薬の材料を採集することなんだけど………できる?」

 

「材料に対しての知識が無い。だが、君が望むのであれば学ぶことも吝かではないが」

 

「じ、じゃあ暇なときでいいからお願いするわ。あと、これが一番重要なんだけど―――主である私の身を護ること」

 

「それなら問題はあるまい。慢心するつもりはないが、少なくとも採集作業よりは自信がある」

 

「ふぅん。こうして見るとエルフも私達と大差ないように見えるわね。その剣も、マジックアイテムとかでもない、ただの剣のようだし」

 

「だからそうだと言っているだろう。種族単位で畏れられるというのは、得てしてその種族間で生まれた英雄が悪魔的活躍をしたからこそ、畏怖の感情が種族全体に拡がったというのが常だ。確かに種族による個人差が脅威となるかもしれないが、君達人間にだって他とは一線を画した特徴がある筈だ。畏れるのならば、いずれ君達が乗り越えればいい」

 

淡々と語るヴァルディから、嘘を吐いている様子は感じられない。

彼は本気で、エルフと人間は対等だと言っているのか。

信じたい。けど、エルフは恐ろしい存在だという常識と一緒に育ってきた弊害か、その言葉を素直に信じることができないでいる。

 

「でも、貴方の言葉通りなら、ヴァリエールの召還も結局はハズレってことになるのかしら?剣なんて平民でも扱えるんだし」

 

「そ、そんなことない!彼はエルフの中でだって強いわよ!」

 

「それなら、やっぱり証拠が欲しいわよね?タバサだってそうでしょ?」

 

無言で頷くタバサ。

さっきまでエルフというだけで警戒心を露わにしていた癖に、ヴァルディが弁明した途端この態度。

はっきり言ってむかついた。

 

「ふむ………。主よ、この一帯に人目を憚らない場所はあるか?」

 

そんな挑発も意に介した様子もなく、そう私に問いかける。

キュルケが僅かに不機嫌そうな表情を見せる。ざまあみろ。

 

「えっと、少し遠出することになるけど、学院から最寄りの森があるわ」

 

「案内して欲しい。久しぶりに剣を振るうからな、勘を取り戻したい」

 

「………でもこんな時間に行くのは無理よ。それに明日も授業があるし―――」

 

「私の使い魔」

 

 突如、無言を貫いていたタバサがそんなことを言い出す。

 

「私の使い魔、シルフィード」

 

「ああ、そういえばタバサは風竜を召還したんだったわね。この子の協力があれば、馬なんかよりもっと早く着けるわよ」

 

「そ、それにしたって遅くなるのは確定じゃない!」

 

「明日、朝早くに連れて行けばいい」

 

「朝って、授業が―――」

 

「ねぇ、もしかして貴方彼を授業に連れて行くの?」

 

「そんなの、決まっているじゃない」

 

「学院内でエルフだという事実が広まってしまった以上、彼が下手に公の場に出るようなことになれば、授業なんてまともに機能しなくなるわよ」

 

 キュルケの弁に、口を紡ぐ。

 悔しいが、コイツの言うとおりだった。

 今はまだ学院内という範疇に収まっているが、もし学院内の誰かが外に情報を漏らすことがあったら―――

 最初は虚言と受け取られるだろう。

 しかし、もし不幸にも証拠を探ろうと外部の人間が派遣されるようならば、一介の学生でしかない私は破滅だ。

 それに、この場にいる者以外は、エルフの真実を知らない。

 仮に広めたところで、信用されるかは別問題。

 それと同時に、ヴァルディから情報を搾り取ろうと各国が躍起になる可能性も高い。

 その為にも、必要以上に不安を煽るような選択は取るべきではない。

 

「でも、そうしたらいつまで経っても彼の要望が―――」

 

「私がついていく。使い魔のシルフィードを使うのだから、当然」

 

「そ、それだったら私だって―――」

 

「ヴァリエール。貴方がいなくなっても不安を煽る要素になることは変わらないのよ?少なくとも、魔法を扱えないアンタがいなくなるより、トライアングルメイジのタバサがいなくなる方が刺激する要素は少ないと私は思うんだけど、どうかしら?」

 

「ぐっ―――」

 

「はい、決まりね。私も彼の実力には興味があるけど、いつか機会はあるでしょ」

 

 キュルケの意見は確かに悪くはない。

 だけど、トライアングルメイジとはいえ、第三者のタバサにいきなり使い魔を任せること自体おかしいと思う。

 タバサも妙に積極的だし、一体彼女は何を考えているの?

 思考が目まぐるしく動き続け、ついには解決することなく会談はお開きとなった。

 私の中に、言いようのないもどかしさを残して。

 

 

 

 

 

 不思議な青年だと、そう思った。

 ルイズに召還された彼は、私にはまるで雲のように映った。

 あまりにも自然体で、我を崩さない。並大抵のことでは形を変えることはないその様子は、私のそれと違いとても自然に映る。

 杖を向けられても一切の動揺も見せないどころか、本来は事故であろう召喚にさえも、彼は予め予知していたのではないかと思うほどであった。

 自分の意志でここに来たという言葉は、いつでも逃げられたという意味ではなく、召喚そのものに望んで応じたという意味だったのだろう。

 深紅の双眸と崩れることのない表情が印象的で、その在り様にどこか既視感を感じずにはいられない。

 ………そう、母の心を壊され、名を捨て復讐鬼へと成り下がったシャルロット・エレーヌ・オルレアン―――私のよう。

 故に、興味を持つのは必然だった。

 理由は分からないが、彼は主であるルイズに対し、契約前から従順な印象を受けた。

 彼は待っていたのだろうか?自らを召還する主を。傅くべきパートナーを。

 彼の口から聞かなければ真意はわからないまま。

 だから、彼の要望が口から出たときは、チャンスだと思った。

 友人のキュルケが、予想外にも彼とルイズを引き離してくれたので、より好都合だった。

 ………母の心を壊したのは、エルフの作った薬らしい。

 同じ種族である彼と繋がりを持つことが出来れば、母の病を治す手段を教えてもらえるかもしれない。

 その為にも、まずは彼が敵と成り得るかどうかを判断しなくてはならない。

 そして、彼が私の目的遂行に利用できるかどうかも。

 

 

 

 

 

 気が付くと、そこはルイズさんの部屋だった。

 オスマンさんとの話を終え、ひとまず拠点となる場所に案内されたということだ。

 個室にしては広い。まぁ、ゲームでもよくある屋内の無駄スペースだろう、と勝手に納得する。

 

「………ヴァルディ。貴方に使い魔としての役割を説明するわ」

 

 ルイズさんがそう切り出してきたので、頷いておく。

 彼女のパートナーとして、そしてこのゲーム内での僕の役割を知る機会がやっと来た訳だ。

 内容を要約すると、だ。

 使い魔は五感を共有できる―――彼女は目と耳としか言ってないけど―――らしいが、どうやらできないっぽい。

 まぁ、ゲーム内とはいえプライベートが常に共有されるってのは問題あるしね。

 そこらへんは自分がイレギュラーだという事実を上手いこと利用したに違いない。

 次に、秘薬を作る為の材料採集。

 これでも色々なオンゲーで鍛冶、裁縫、調理、錬金術といったスキルは一通りこなしてきた身だ。

 必須項目である材料採集の重要さは嫌と言うほど理解しているつもりだ。

 僕にも出来るのかな、秘薬作り。

 秘薬ってポーションとか毒消しのことだろうから、錬金術系なのかな?

 前衛だから回復アイテムを自作出来るようになれば、色々と楽なんだけどなぁ。

 ともかく、ルイズさんにはゲーム内の素材がどんなものかがわからないので、覚えてからならいけるとだけ説明しておいた。

 最後に、使い魔となった僕の主、ルイズさんを護ること。

 これは任せろと言わんばかりである。

 前衛が後衛を護るのは、おきまりのパターン。

 なんだけど、実は前のゲームでは後衛をやっていたせいで、前衛の感覚は鈍っていたりする。

 その旨を説明して、勘を取り戻したいと告げる。

 あと、誰にも見られない場所があるかも聞く。

 スキルイメージアウトの出来も試したいし、いきなり厨二真っ盛りのものが再現されたら恥ずかしいから、出来る限り人目は避けたいんだ。

 ルイズさんは授業があるからとか、キュルケさんはゲームでのエルフの立場上授業をさぼると目を付けられんだとか、色々意見が交錯していたけど、タバサちゃんの使い魔が朝いちで森に送ってくれるとか。

 ここで僕はひとつの結論を見出す。

 恐らく、タバサちゃんはNPCだ。

 だって、PCのルイズちゃんが授業に出なかったら怒られるのに、タバサちゃんは 問題ないってことは、つまりそういうことだ。

 成る程確かに、PCで無口キャラはVRRPGではかなり問題あるしね。

 ありっちゃあありなんだけど、不便だもんね。仕方ないね。

 さーて、明日が楽しみだよ。


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