Infinite possibility world ~ ver Servant of zero 旧版   作:花極四季

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第十四話

てーれーれーれてってってーん。

ゆうべは おたのしみ でしたね。

んなわけねぇだろぉい!

と、謎のテンションから始まりました。

なんでこんなテンションなのかというと、トリステイン以外の国に初めて来たからです。

ゲームに限らず、新天地というのは心躍るもの。

ル・○ンの庭とか今でも素晴らしい景色だと思うし、初めての感動はひとしおだったよ。

 

「シュペー卿は物好きというか、変わり者と言われているわ。今の地位に落ち着く以前、彼の功績が認められ貴族として名乗ることを認められた際にも、まるで興味がなさげだったらしいわよ。寧ろ作業を邪魔されたことに憤っていたとも言われているわ」

 

「貴族になることに関心がないなんて、おかしな人なのね。トリステインなら有り得ない功績なのに」

 

「価値観なんて人それぞれだしな。シュペー卿にとって、武器作り以外のことは些末事だったというだけだ」

 

「うーん、やっぱり私には理解できないわ」

 

まぁたしかに、お金持ちになれる機会をフイにするってのは普通は考えられないよね。

余程面倒なことに巻き込まれるフラグでもない限り誰だってそうする。僕だってそうする。

 

「え………っと、ほら、ここよここ」

 

キュルケさんが指さす先には、お世辞にも貴族が経営しているとは思えないほど堅実で厳かな店があった。

他の店と違うところと言えば、その規模。

ブルドンネ街の武器屋と比較して、面積は優に二倍以上。

取り敢えず立ち止まっていても始まらないので、入ることにする。

 

店内は、重苦しい雰囲気を醸し出している。

なんというか、店なのに人を受け入れていないような、そんな感じ。

カウンターには店番らしき姿はない。

周囲を見渡すと、シュペー卿が作ったであろう武器が所狭しと並んでいる。

 

「凄い………トリステインの武器屋とは比べものにならない」

 

「技術力の差は仕方ないでしょ。何に重きを置いているかというだけだし、そもそもシュペー卿ぐらいよ、貴族で店も工房も同時経営している物好きなんて」

 

「職人気質故、他の武器屋で売るということが許せないのかもな」

 

自分が丹誠込めて作ったものを、他人が制作者の主観を無視して評価して、本来の価値を貶める結果になれば、そりゃあ怒る人だっているだろう。

売り手側からすれば、高く売れるに超したことはないだろうしね。

………だけど、あのイベントアイテムの剣が高値で売られていると知ったら、やっぱり嘆くのだろうか。

まぁ、彼があれに対しどのような価値観を見出したのかは知らないけど。

 

「………なんだお前達は」

 

重く低い声がした先には、シュワちゃんみたいなイケメンがいました。

タンクトップに褐色肌と、仕事をしていたのか身体は汗で濡れている。

鋭い眼光は客さえも萎縮させるであろう。

これでタクティカル装備を着こなして迷彩化粧のようなものをしてたら、どこのコマンドーだよと。

 

「貴方がシュペー卿か」

 

「そうだ」

 

「用件だが、これを見てくれればわかる」

 

掌からRA○Eをシュワ………じゃない、シュペー卿に見せると、明らかに表情が強ばった。

 

「………ついてこい。後ろの奴らも事情を知っているのなら、一緒に来い」

 

静かにそれだけを告げ、自分だけ店の奥へと進んでいく。

 

「何よ、偉そうにしちゃって!」

 

プンプンと怒るルイズ。

シュワちゃんの見た目に圧倒されたのか、どこか退け腰になっている。

 

「偉そうにするだけの功績があるからいいのよ。ヴァリエールこそ、功績なんて家柄だけでしょう?どんなにそれが凄くったって、そんな運次第で得られる功績と比較するのは間違いってものよ」

 

「そんなの、わかってるわよ(昔の私なら、ここで言い返していたでしょうね。これもヴァルディのお陰ね)」

 

相変わらず、二人は仲いいなぁ。

 

「早く行かないと」

 

タバサちゃんの言葉で、シュペー卿の後へと急いで続く。

すると、そこには地下室への階段を開けて待機している彼の姿があった。

こちらの姿を確認したかと思うと、無言で地下へ潜っていく。

 

「無愛想な人。でも、そんなとこもいいわね」

 

「さっきまでヴァルディに色目使ってた癖に、こいつは………」

 

「着いたぞ」

 

地下の最下層に到達すると、部屋に明かりが灯る。

部屋の中は、先程の武器などとは比べものにならない質のものばかりが揃えられている。

―――そしてその中の大半の武器は、僕が見たことのあるものばかりだった。

そんな気はしていたけど、彼はやはり―――

 

「同類、か」

 

「………そうだ」

 

そう、彼は武器オタクだ!それもアニメやゲーム限定の。

スキルイメージアウトの力と鍛冶スキルをふんだんに使い、こうして他社のゲームの武器を再現しているんだ。

出会う人みんなが僕のようなスキルイメージアウトの使い方をしていないから、僕が世界観をぶち壊しまくっているのでは?と思っていたけど、ここにも同志がいた。

それだけでホッとした。

 

「え、どういうこと?彼もエルフってこと?」

 

「俺はエルフじゃない」

 

「あっ―――いや、違うの!彼はエルフじゃなくて、その」

 

「慌てなくていい。俺にとってこの男は敬うべき客だ。人間かエルフかなど、どうでもいい」

 

何かを探しながら、ルイズさんの失言を意にも介した様子もなく答える。

まぁ、お互いにプレイヤーだってことは通じているし、キャラメイクでによるエルフにこの世界観と同等の価値がないことは周知の事実だ。

ルイズさんの心配は杞憂という訳だ。

彼女がシュペー卿が実はプレイヤーだって見分けがついているかどうかも怪しいし、この反応も仕方ないんだけどね。

 

「お前が欲しかったのはこれだろう」

 

そう言って差し出されたのは、RA○Eを装着することが出来る武器、テンコマンドメンツとRA○Eの知識を使用者に植え付ける玉、知識のレイヴ。

剣はわかるけど、玉の方はなんでくれるんだろう。

これが何なのかわかっているからこそここにいる以上、知識は必要ないと彼も理解してそうなものだけど。

 

「解せないといった表情だな。知識のレイヴは、もしお前がこの剣一式を託すに値する者が現れた時の為に持っておけ。お前なら、この武器にこだわる必要もないだろうしな」

 

「―――すまない、感謝する」

 

「代金はいらん。どうせ今はお前しか扱えん」

 

「それは、どういう―――」

 

「あ、シュペー卿!これは何ですの?」

 

意味深な言葉を呟いたシュペー卿に問いかけるも、キュルケさんの興奮した声に遮られる。

キュルケさんが手に取っていたのは、紅い宝石が先端にこしらえてある長い杖だった。

 

「あれは―――属性杖か」

 

「知っていたか」

 

「こちらの台詞だ、と言わせていただこう」

 

「ねぇ、属性杖って?」

 

「杖の先端に、各属性の魔法性能を底上げするための宝石がついている杖のことだ。赤は火、青は水、風は緑、土は黄といった感じだな」

 

FF○1では実装当初から重宝されている。

ガチ勢じゃない黒魔とかは、これのHQを未だに使用しているし、それでも問題ないというのがその性能を顕著に表している。

そこ、最近の黒は弱点突きばかりとか言うな。

そんな人生に疲れた黒は、コリ○リにメテオ撃ってなさい。

 

「それって凄いじゃない!………でも、実際どれぐらい違いが出るの?」

 

「試してみればいいだろう。構わないか、シュペー卿」

 

「いいだろう。試し用の部屋があるから、そこを使え。並大抵のことでは壊れないように造られているから、気が済むまで試せばいい」

 

「そう。じゃあタバサもこれ試してみなさいよ。あの杖壊れたまんまだし、もしかしたら代わりになるかもしれないわよ?」

 

強引に風属性の杖をタバサちゃんに押しつけ、お試し部屋へと進んでいく。

 

「主は行かないのか?」

 

「うん、いい」

 

本人がそれで良いと言うのなら、僕がとやかく言う訳にもいかない。

 

「それでシュペー郷。これは幾らだ?流石にタダという訳にもいくまい」

 

「いや、タダでいい。どうせこれは非売品だ」

 

「非売品?だから地下に保管しているのか?」

 

「そういうことだ。ここにあるもの全部、若気の至りの名残でしかない」

 

「なら何故私には譲るような真似を」

 

「自分で言っただろう。俺とお前は同類だと」

 

つまり、同じオタク趣味同士、仲良くしようぜってことでいいのかな?

多分彼はオタク趣味をひけらかせる同志を見つけることが出来ず、一人悶々と武器だけ造っていた。

お店に出すにも、恐らく恥ずかしさが勝ったのだろう。アバターに似合わず、かなりの小心者なのかな。

でも、友人が欲しかったことを諦めきれず、RA○Eだけを唯一外に出した。

そうすることでそれを見つけ、理解した人が自らの下へ来るようになる。

消極的過ぎる気もするけど、こういう趣味はおおっぴらにできない風潮があるからね。気持ちはわかる。

 

「なら、有り難く受け取ろう」

 

「あの娘が杖を買うというのなら、そっちも持っていけ。―――だが、ひとつだけ約束しろ。決して間違うな」

 

「―――わかった」

 

いや、わかってません。

ぶっちゃけその場のノリで返しただけです。

まぁ、どうせ深い意味はないだろうし、どうでもいいや。

 

「もしまた入り用ならいつでも訪ねて来い。あと、この地下のことは口外するなよ」

 

「わかっているさ」

 

結局、シュペー卿の言うとおりの展開になり、キュルケさんのほくほく顔を眺めながら帰路についた。

ああ、もう少し観光したかったなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

それに気が付いたのは、思いの外早い時期だった。

『Infinit possibility world』というVRMMOで、俺は職人プレイをしようと意気揚々とキャラ設定をして、遂に始めた。

だが、それが運の尽き。

信じられなかったよ。まさかこの世界がゲームではなく、異世界だったなんてな。

それを知る切っ掛けとなったのは、ログアウトが出来ないということだった。

俺は今時珍しい、説明書をきちんと読むタイプだ。

だからログアウトの仕方も確認していたし、間違えようもなかった。

そもそも、リアルを意識しているとはいえ、ゲームウィンドウも何も表示されないのはおかしいだろう。

だが、そんな疑問もゲーム世界に降り立ったばかりの俺は興奮のあまり気にすることはなかった。

だが、流石にログアウトが出来ない時に気付いた。

俺は青ざめた。動悸も激しくなり、目の焦点も合わず、現実を受け入れられなかった。

最初はゲーム側の不調かと思った。

だが、俺は色々な人にログアウトの仕方を確認した結果、そもそもログアウトとは何か?という返答のみが成果となった。

有り得ない、と必死に問いただせば異常者の目で見られ、俺は周囲から迫害されるようになった。

それを切っ掛けに、俺は旅を始めた。

あの場にいても苦しいだけだということもあったが、現実を認めたくなかったんだろう。

だから、一抹の望みに希望を託し、世界を放浪した。

ゲームの世界ではないという証明と、俺と同じ境遇の同志を探す為に。

 

結局、受け入れるしかなかった。

ここは紛れもなく新たな現実であり、帰る望みなど無いのだと。

納得した後は、意外と簡単に事は運んだ。

俺がこの世界に来た目的である、職人として生きることを人生の糧とする決意をする。

幸いにもゲームシステムであるスキルイメージアウトは使用可能だったため、職人技能と組み合わせてどんな武器でも造ることができた。

だが、それを売ることはしなかった。

スキルイメージアウトの力は、この世界のバランスを崩壊させる。

魔法が圧倒的力を振るっているハルゲキニアで、武器が魔法に追従する能力を持つということは、戦争の火種にしかならない。

現実ではさも当たり前に存在する銃でさえ、ここでは産廃だ。

というよりも、魔法があまりに優遇されている反面、その辺りの技術が発展していない節がある。

時代の流れに従っている結果なのか、魔法に対抗する手段を平民に持たれないよう意図的に工作されているのか、それはわからない。

俺だけしかこの力を持つ者がいないとなれば、もし造った武器の出所がバレれば消されるか利用されるかのどちらかしか未来はないだろう。

俺は職人としての能力振りをしていたため、戦闘能力はさして高くない。

趣味の性質の問題もあり、必殺技とかより武器のイメージの方が出来るというのも拍車を掛けている。

いつこの地下倉庫も明るみに出るかわからない。そう思っていても、造ることは止めなかった。

これこそ生きる糧であり、意味である以上、これを止めるという選択肢はないのだ。

 

この世界で一生を過ごすと決意はしたが、未練は残り続けている。

武器職人としての功績が認められ貴族になり、妻子を設けるようになっても、それでも孤独感は拭えなかった。

本来は存在しない異物であり、俺の意識に対しても言えること。

望郷の念とでも言うのだろうか。

決意という言葉の後ろで燻り続けている未練が、俺の存在を此方側に定着させようとしない。

現実世界以上にこちらで生きた時間の方が長いとしても、決して故郷が反転することはない。

どう足掻いても、俺はこの世界の住人にはなれないのだ。

それを理解した瞬間、俺は再び旅に出た。

自分の造った武器をこさえ、もし同郷の者がこちらにいた場合、出会えるように仕向ける為に。

現実世界にもあり、誰が見ても理解でき、この世界の住人には扱えないようなものとなると、困難を極めた。

結局妥協案として、そこそこ有名であろう漫画の道具を採用した。

二つ揃って初めて意味を為すそれは、切っ掛けとしては少し弱いと感じたが、最早それしか思いつかなかった。

 

それから時を経て、今こうして俺の望みは叶った。

コイツが何者で、ここはゲームの世界じゃないと認識しているかどうかはどうでもよかった。

俺にとっても不可解な話だが、コイツを見た瞬間に自己完結していた。

コイツは絶対に、俺の造った武器を悪いようには使わないと。

同郷の者というよしみで、舞い上がっていた部分もあったのは否定しない。

それでも、コイツとの出会いで俺は初めてこの世界に受け入れられた気がしたのだ。

俺以外にも異物がいた。俺は孤独じゃないのだと、心から理解できた瞬間だった。

だからだろうか。コイツ―――いや、彼になら俺の創ったものを託して良いと思ったのは。

思えば俺がここに訪れたのも、彼の助けになる為ではないか?とさえ思えた。

 

ともかく、俺は彼を全面的にバックアップしようと決めたのだ。

その結果俺が不幸になろうとも、それは運命だったのだと受け入れよう。

幸い妻子は俺の仕事一本で家庭を顧みない性格から、既に離婚済だ。誰にも迷惑はかけない。

………さて、彼のためにまた武器を造るか。

 

 

 

 

 

冷たく湿った石畳の牢獄に独り閉じ込められている土くれのフーケ―――トリステイン魔法学院ではロングビルを名乗り、その本名はマチルダ・オブ・サウスゴータ。

とある大公の家に仕えていた貴族の家系の産まれだったが、とある事情を抱えたことにより取り潰しに会った悲運の女。

その事情を抱えたこと自体に後悔はしていないが、その問題が切っ掛けで貴族に対する不信感が募ることになる。

結果、彼女は貴族のみの盗賊行為を行うようになった。

纏まったお金が必要な理由もあったし、うさを晴らしたいという部分も大きかった。

今までが順調だった中、イレギュラーが現れる。

それが、ヴァルディと名乗るエルフだった。

学園一の落ちこぼれと名高いヴァリエール家の三女が召喚した、出鱈目な力を持つエルフ。

彼女自身、訳あってエルフに対する知識はそこそこあるが、エルフがあんな化け物染みた力を持っているなんて、聞いたことが無い。

だが、そんなことで悩んでいても仕方がないこと。

どうせ一生をこの監獄で過ごすことになるのだ。今更そんなこと考えたところで、何が変わるわけでもない。

残してきた妹同然の存在を脳裏に浮かべ、溜息を吐く。

そうして悲壮感に身をやつしていると、楼の外が騒がしいことを感じ取る。

 

「貴様が『土くれ』だな」

 

眼前に立つ男は、そう当たりをつけて話しかけてくる。

暗がりで顔は見えないが、魔法で変声や変装をしていない限りは間違いなく男だろう。

 

「いきなり不躾ですわね。仮に私がその盗賊だとして、どんな御用なのかしら?」

 

「我らの革命に手を貸してほしい。その力、この場で腐らせてしまうのはあまりにも惜しい」

 

「革命だって?そんな世迷言を言うやつが今時いるなんてね」

 

「それが素か。まぁいい、我らは本気だ。それに、貴様とてこの場で一生を終えたいなど思ってもいないだろう?」

 

「そんなの、当たり前じゃないか。それに、断ったら何されるかわかったもんじゃないしね」

 

「わかっているなら、話は早い」

 

男が魔法で鉄格子を破壊し、そこから出た私に杖を渡す。

なんとも早い信頼の証だこと。―――いや、私の実力を知ったうえでの余裕、か。

口には出さないが、こういうやつは早死にするね。

 

「で、力を貸すのは結構だけど、その組織の名前ぐらい教えてくれてもいいんじゃない?」

 

「いいだろう。別に隠す理由もないしな」

 

その時、男はフッと笑みを浮かべた気がした。

 

「我らが革命を起こす組織の名、それは―――レコン・キスタだ」

 


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