Infinite possibility world ~ ver Servant of zero 旧版   作:花極四季

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第十話

前略お袋様。

ただいま僕は、所謂修羅場というものに直面しております。

 

「だから、そんなボロ剣よりこのシュペー卿が手がけたこの剣の方がよっぽどダーリンに似合うわよ!」

 

「ヴァルディのこと、ダーリンなんて呼ぶんじゃないわよ!それに、この剣はヴァルディが自ら目利きして買ったものよ。確かにボロいけど、彼ほどの実力者が間違える訳がないわ」

 

「あーら。あの店主の話だと、この剣は裏手に締まっておいたからダーリンは見ていないらしいじゃない。それなら妥協案でその剣を買うってのも仕方ないんじゃないかしら。それに、貴方持ち金もそこまで無かったんでしょう?遠慮して無難な選択をした可能性だって捨てきれないじゃない。ね?」

 

キュルケさんがそうウィンク混じりに問いかける。

うーん、遠慮していたのは事実だけど、僕はこれで満足しているんだよね。

それに、あのシュペー卿の剣とやら、どうにも胡散臭い。

見た目は確かに最強クラスの武器相当の派手さを誇るけど、そんなものが店に売っているとは到底考えにくい。

 

「キュルケ。その剣を貸してくれ」

 

「ちょっとヴァルディ、まさか受け取る気じゃ―――」

 

「違う。確かめたいことがあるだけだ」

 

キュルケは嬉しそうに剣を渡す。

表示されるステータスは―――うん、予想通りしょぼい。

見た目だけはいっぱしなのは、これが恐らくネタアイテムの類だからだろう。

白サブリガとか竹刀とかサンタ防具とか、色々ネタは尽きない。これもその部類なんだろう。

あの店は、店売りしたアイテムも買えるバザーのようなシステムを採用していたのだろう。

だから、あんなものをキュルケさんは掴まされた。

 

「キュルケ、これは武器としての価値は薄い。耐久値もない」

 

「そ、そんな。嘘よね?」

 

「嘘ではない」

 

「ほら、言ったとおりじゃない!」

 

勝ち誇るルイズさんと、その場にへたり込むキュルケさん。

そりゃあ、ショックだよなー。

とはいえ、この絶望感漂う雰囲気からして、見た目相応の値段をふっかけられた可能性も否めない。

折角僕のためと思って買ってくれたんだ。だったら―――

 

「だが、有り難く受け取ろう」

 

「え?」

 

呆けた様子で見上げるキュルケさん。

 

「武器としての意味を持たないとはいえ、それが君の好意を無碍にする理由にはならない。だから言わせて貰おう―――ありがとう」

 

「だ―――ダーリーン!!」

 

とんでもない爆発力で飛びかかってくるキュルケさん。

豊満な胸の柔らかさがダイレクトに襲いかかる!

そして私は、二度目の気絶をした。

 

 

 

 

 

キュルケに抱きつかれ、微動だにしないヴァルディ。

やはり、彼は優しい。

一方的で押しつけがましい善意すら、余すことなく受け止める。

故に、嫉妬してしまう。

 

「ちょ、離れなさいよっ!それにダーリンって言うのも!」

 

誰にも彼を渡したくない。

今まではなかった、たったひとつだけの誇れるもの。

渡したくない。渡すものか。

自らが闇に墜ちそうになったその時、とても大きな地震が響き渡る。

 

「え、何?」

 

「ゴーレム」

 

先程までずっと口を閉ざしていたタバサが、指を指しそう告げる。

その先には、無骨で荒々しく、そして巨大な土ゴーレムが君臨していた。

 

「何、あれ―――」

 

「恐らく、フーケ」

 

「フーケって、あの土くれの?」

 

土くれのフーケ。

貴族のみを対象とした盗賊で、平民の希望と言われている、所謂義賊という奴だ。

何故そんな奴がここに?確かにここは貴族関係者の集う場所だが―――

 

「って、宝物庫!フーケは宝物庫が目当てなんだわ!」

 

気付くのと同時に、フーケのゴーレムは宝物庫のある部位に重い一撃を叩き込む。

 

「ヴァルディ!」

 

その一言だけで、彼はデルフリンガーを手に疾走する。

一息で5メイルほどの距離を詰め、ゴーレムの足を容易く両断した。

だが、崩れ落ちる瞬間の苦し紛れの一撃が、宝物庫の壁を破壊してしまう。

そこから宝物庫へ飛び乗る人影。

ゴーレムは役目を終えたとばかりに土へと還っていく。

タバサが呼んだシルフィードで私達は宝物庫の中へ侵入する。

そこは荒らされた形跡は僅かに、ただ壁に突き立てられた一枚の紙が存在感を露わにしていた。

そこにはただ一言―――〝破壊の剣飾、確かに頂戴しました〟と書かれていた。

 

 

 

 

 

 

なんかサービスな感触を感じて軽く気絶していたら、いつの間にかでっけー何かが学院を襲っていた。

足を切り落としてはみたけど、どうやら操り主がいたらしくあれはただの土になって消えた。どうりで手応えが軽いと思った。

そしてどうやら、宝物庫の中身が目当てだったらしく、まんまと奪われたということである。

一夜明け、あの場にいた皆が学院長室に集められる。

 

「―――それで、あの場に居た者は」

 

「この三に―――いえ、四人です」

 

この場にいる誰もが僕達に注目する。

僕達を囲むように知らない人達もこの場に立っているけど、誰?

 

「その時の宿直は誰かね?」

 

「はい、私です………」

 

小太りの女性が名乗りを上げる。

 

「シュヴルーズ殿!貴方の職務怠慢が、このような事態を招いたのですよ!」

 

僕達を囲んでいた人の一人がそんなことを言い出した。

それを皮切りに、シュヴルーズへの批判が始まる。

気分が悪いなぁ、この流れも予定調和臭いとはいえ。

そう、この時点であの展開がゲームの流れの一環だと理解していた。

しかもこの大規模な流れ―――これはミッションタイプのクエストだ。

クエストというのは基本的には、お使いを頼むノリのものが多い。

ぶっちゃけ、やる必要はないものばかり。お金とかアイテム欲しさにやるのが普通で、それ以外の意味は無いと言ってもいい。

だが、ミッションというのはやらなきゃ物語の確信には近づけない、物語の根幹を成す流れを呑んだ道筋。

これは逆に物語がメインなので、報酬は二の次として扱われるケースが多いが、謎を追うこともゲームの楽しみ方のひとつなので、重要と言えば重要だ。

 

「よさんか馬鹿者共!これは我ら教員全員が恥ずべき行為であり、シュヴルーズ教諭ばかりを咎めるのは愚の骨頂!」

 

オスマンさんが、老人らしからぬ覇気と共に怒号を発する。

うおー、かっこいい。

作られた格好良さとはいえ、こういうのはたまらんよなぁ。

誰もがオスマンさんの気迫に押し黙る。

 

「しかし、ミス・ロングビルはこのような事態の中どこへ行っているのかのぅ」

 

そして、いきなりいつもの雰囲気に戻る。

この切り替えが出来るなら、僕も男らしさを現実でも出せるんだけど。

そんなことを考えていると、大きな音を立てて戸が開く。

 

「すみませんオールド・オスマン。フーケの件について調べ物をしていました」

 

「ほう、流石儂の秘書。仕事が早いのぅ。して、成果の程は?」

 

「はい、実は―――」

 

ロングビルさんの言葉によれば、

 

1.村外れの森にある廃屋に入っていった黒ローブの男の存在を突き止めた。

 

2.そこは徒歩で半日、馬で四時間程度の距離にあると言う。

 

何とも都合がいい展開だ。

つまり、そこに行けばフーケとやらと会える。

そして、倒せばミッションコンプリート。

なんだけど、どうにも都合が良すぎる気がする。

ゲームだし仕方ない部分はあると思うんだけど、その半日ないしは四時間程度掛かる距離を、散策時間も含めこの時間までに戻ってくるのは無理があるだろjk。

ま、矛盾を突いたところでどうにかなる訳でも無し。大人しく経過を見守ろう。

 

「………では、これよりフーケ捜索及び討伐隊の結成をする!王宮に捜索を命じている間にフーケが逃げる可能性がある以上、これしかあるまいて。さぁ、名誉を、恩賞を、名を上げたい者は杖を掲げよ!」

 

そんな気合いの入った宣言でいい感じに話が纏まる―――と思いきや、誰も志願しない。

周囲の人達はNPCとはいえ、一人ぐらいいてもいいでしょうに。お助けキャラ的な意味で。

あ、お助けキャラだからこそ出張っちゃいけないのか。

んじゃあ、負傷この私めが―――と思った矢先、ルイズさんが杖を手に天を仰ぐ。

 

「ミス・ヴァリエール!君は生徒じゃないか!」

 

「―――誰も杖を掲げないのに、よくもそんなことを言えますね」

 

そう口にするルイズさんは、とても底冷えた表情でNPCを一瞥した。

仕方ないんだよ!そういう流れなんだから、怒るのはいかんよ!

正義感の強いルイズさんからすれば、この大人が尻込みしている状況は見るに堪えないものなんだろう。

でも、ゲームなんだし慣れて貰わないと困る。

 

「―――なら、私も志願しますわ。ヴァリエールには負けられませんもの」

 

そういってキュルケさんが次に杖を掲げる。

うう、あの人を見ていると昨夜のあの感触を思い出していかん。

しかし、これで自分含め三人は確定。この流れなら―――

 

「タバサ、貴方まで―――」

 

「心配」

 

ほらね。

目撃者の中で彼女だけがいかないなんて、色々不自然だもの。

 

「生徒が勇気を振り絞っているというのに、大人のなんと情けないことか。―――まぁ、その部分をごちても始まるまいて」

 

オスマンさんの溜息ひとつ、話の主導権は彼に戻る。

 

「ミス・タバサは若くしてシュヴァリエの称号を持つ騎士。ミス・ツェルプストーはゲルマニアきっての優秀な軍人を排出した家系の娘。ミス・ヴァリエールは―――かのエルフであるヴァルディ殿を召還し、彼自身も類い希なる戦闘能力を保有している。彼女達の力があれば、フーケ討伐も不可能ではないじゃろうて」

 

あれ、なんかルイズさんだけおざなりな、というか説明にすらなっていない。

 

「―――主を勘定に入れないのは、どういう了見かね?」

 

「ひょ!?い、いやそれは―――」

 

「いいの!―――いいの、ヴァルディ」

 

「………主がそういうのならば」

 

下手に話を長引かせるな、ってことかな。

リアルタイムで話が進行しているから、時間が掛かると色々と不便だし、気にしていないといならばこれ以上言う必要はない。

 

「こ、こほん。では最後にミス・ロングビル。すまんが道中の案内と監督を頼んだぞい。」

 

「わかりました」

 

「うむ。では、魔法学院は諸君らの努力と貴族の義務に期待する!!」

 

「「「杖にかけて!!!」」」

 

―――そうして、ミッションが始まった。

 

 

 

 

 

私達はフーケ討伐対の名の下、ミス・ロングビルが掴んだフーケの隠れ家へと向かっている。

学院長室でのやり取りを思い出す。

口先ばかりの大人。自己保身に走る貴族の面汚しばかりがあの場に集まっていた。

いや、あれこそトリステインの縮図なのだ。

魔法の才能にかまけ、扱うべき場面で振るうこともしない。

魔法をただの権力の象徴としてしか見ていないというならば、そんなもの捨ててしまえ。

そうすれば、私が無様だろうが何だろうが拾ってあげるから。

―――でも、そうはいかない。

才能や力は渡したくて渡せるものではない。

始祖ブリミルよ。私はこんな歪を創り出した貴方を信仰できなくなってしまいそうです。

 

「―――主、どうした?」

 

心配そうな視線を向けるヴァルディ。

彼の優しさが私の心の安らぎとなる。

でも、それも長くは続かないだろう。

あの場で志願したはいいものの、私の魔法の腕が未熟以下なのは百も承知。

事実、オールド・オスマンでさえ私を余所にヴァルディを褒めていた。

そのことに静かに憤りを見せたヴァルディには、感謝以上の感情を向けずにはいられない。

でも、彼が怒れば怒るほど自分の未熟さを際だたせるだけ。

どんなに綺麗事を並べても、私が駄目な奴だということに代わりはないのだから。

 

「大丈夫、なんでもないわ」

 

だからせめて、彼の負担にならないよう、出来る限りの笑顔でそう答える。

 

「そうか。援護、期待している」

 

ヴァルディの信頼が、胸の内を容赦なく抉る。

彼は、私に背中を預けてくれている。

その信頼の表れは、経験したことのない程のプレッシャーとなる。

魔法を扱う時の周囲の目なんか、比ではない。

 

「それにしても、破壊の剣飾だっけ?一体どんなものなのかしら」

 

「私もオールド・オスマンに訊いてみたのですが、彼自身も上手く把握していなかったようです。容量は得ませんが、名付けるには相応の意味があるのではないでしょうか」

 

「それもそうね。私だったら、飾りに破壊の力が付与されているなんて知ったらおちおち飾れなくなるけど」

 

そもそもそんなものを飾るな、と心の中で突っ込みを入れる。

 

「―――見て下さい。あれがフーケの隠れ家と思われる場所です」

 

ミス・ロングビルが指さした先には、簡素な造りの小屋が開けた土地にぽつんと建てられていた。

―――何だろう、どこか違和感を拭えない。

あれを見た瞬間、まるで額を僅かに斜めに掛けたかのようなもどかしさを感じた。

 

「あれが、か。フーケとやらは本当に隠れる気があるのか疑わしいな」

 

ヴァルディの呟きに、ハッとする。

そうだ。身を隠すにしてはあんな場所にある小屋は目立ってしょうがない。

間に合わせでそこを使ったにしろ、長時間居座るにはあまりにも不適切。

痕跡を発見できても、フーケ本人がいる確率は限りなくゼロと見ていい。

 

「とにかく、あの中を調べないことには始まりません。ヴァルディさん、どうか先陣を切って確かめてきてくれませんか?」

 

「そうだな。主も構わないか?」

 

「え、ええ。適材適所だもの、異論はないわ」

 

ロングビルの指示で、小屋に向けて歩き出す。

その際私を一瞥し頷いてくれたのは、私を立ててくれたってことなのだろうか。

どこか余裕な立ち居振る舞いで小屋に近付き、中を覗く。

数秒の間を置き、自らを仰ぐような手の動きで私達を呼ぶ。

 

「中には誰もいない」

 

「そのようね。だけど、手がかりのひとつでも探さないと、無駄足になっちゃうわ」

 

キュルケの言葉に皆が頷き、部屋の中の探索を始めようとする。

 

「あ、私は外で見回りをしておきます。フーケがまだこの近くにいる可能性はありますので」

 

そういって小屋から出て行くロングビル。

心配ながらも、早急に済ませれば問題ないと判断し、何も言わずに家捜しをすることに。

 

「あった」

 

タバサの簡潔な呟きの先には、多少装飾させただけの小箱があった。

小箱は鍵がかかっておらず、簡単に開いた。

 

「これが、破壊の剣飾………」

 

それは、何の変哲もない銀製の剣を象った飾りだった。

 

「これが破壊の名を、ねぇ。胡散臭いったらありゃしないわね」

 

溜息混じりのキュルケの感想に、不覚にも同意してしまう。

こんなちっぽけなものが、そんな大層な名を受ける理由。

オールド・オスマンは何を思ってそのような名を授けたのか。

 

「これは………」

 

そんな中、ヴァルディが興味ありげに破壊の剣飾を手に取る。

 

「あら、ダーリン。これに興味がおあり?」

 

「ああ。何というか、見覚えがあるんだが………すまん。思い出せない」

 

ヴァルディが僅かな時間悩み、そう告げる。

彼が知っていると言うことは、これはもしかしてエルフが関係している道具―――?

 

「きゃあああああああ!」

 

瞬間、ロングビルのものと思わしき悲鳴が響く。

小屋から雪崩れ出た先で見たものは、昨夜学院を襲ったゴーレムと全く同じ形のそれだった。

 


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