むりがく   作:kzm

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注)タイトルは仕様です(・ω・)b


校則その7『外syuツzワt樞8櫤T』・4

 

 寮の廊下をゆるいパーマがかかった女子生徒が歩いていた。

 普段は何人かの女子生徒と連れ立って歩いているが、部屋に戻るときはさすがに一人だ。同室の生徒は今は存在しない。

 弥栄彩音。元は黒樹彩人だと言うことを知っているのはおそらく三人だけ。

 

「あら?」

 

 彩音はゆっくりと首を傾げた。

 自分の部屋の入り口に黒髪の少女がむすっとした顔をしながら立っていた。

 

「あら松風さん。ごきげんよう」

「ご、ごきげんよう」

 

 沙羅は口元をひきつらせながらもぎこちなく挨拶を返した。

 

「私に何か?」

 

 沙羅と李亜の部屋はここからだいぶ離れた場所にある。たまたま通りがかったなんて言い訳は通じない。

 

「……わ、私の相方は今夜は別の部屋に行く予定なんだ。だ、だから……」

「だからさびしくて一緒に寝てほしいと?」

「そ、そうだなっ」

「へぇ」

 

 彩音の目がすぅっと細められた。彩音がぐぃっと体を寄せれば、身長の差のせいでどうしても沙羅のほうが見下ろされてしまう。なぜかフェリー失敗後の反省室でネコになったときのことを思い出した。

 

「それは私を誘っている、という認識でよろしいので?」

「構わない、とも……ひっ!」

 

 沙羅は小さく悲鳴をあげた。彩音の指が耳の裏に優しく触れていた。指先はそのままゆっくりと滑り落ちるように沙羅の輪郭をなぞり、やがて制服のシャツのボタンへと……

 

「ダメだダメだやっぱりダメだ、気色悪いわぁーっ!」

 

 彩音の体をいきなり突き飛ばし、沙羅は急いで腕の下から抜け出した。そして彩音はと言うと、いつの間にか背後に近づいていた何者かに腕を一瞬のうちにねじられてしまった。

 

「ごきげんよぉー、黒樹君。じゃなくて弥栄さん」

「痛い痛い痛いです、三塚さん痛いですー、腕が外れちゃいますー」

「大丈夫大丈夫、まだこれくらいじゃ外れないよぉー?」

「お前の学生証はどこにある。ここか? それともここか?」

 

 二対一で優勢になった沙羅は、逃げ腰だった姿も消えて彩音の制服のポケットにゴソゴソと手を突っ込んだ。

 

「あっ、そん、なっ、こんなところで……やんっ」

「ええい、動くなじっとしてろ。でかい胸が邪魔で取りだせんじゃないか」

「……いいから早くしてね。見られたら困るのは僕もなんだから」

 

 李亜に腕をかためられながらも微妙にくねくねと動いている彩音のポケットから学生証が取り出された。

 

「お前に同室の人間はいないようだな。少し部屋を借りるぞ」

 

 二人は彩音を無理矢理引っ張りながら彩音の部屋の中へと飛び込んだ。

 中は沙羅達の部屋とほぼ変わらない内装をしていた。彩音が李亜に拘束されているうちに沙羅は彩音の腕を、あらかじめ用意していたロープで縛り上げた。

 ベッドの上に転がし、同じように脚も縛り上げる。

 

「ふ、二人して私に何をしてくれる気なんですかっ」

「うれしそうな顔するんじゃない、気持ち悪いっ」

「やんっ」

 

 沙羅が軽く踏みにじると、彩音は本当にうれしそうに悲鳴をあげた。

 

「お前に聞きたいことがある」

「あらまぁ」

「お前は一度、男になることができた。その時何があった? どのような方法だ? 真面目にやっていればいつかは希望できると羽虫に聞かされたことはある」

「私なんかに聞かなくてもここで大人しく暮らしていればやがてわかることですよ。それにみかどさんに聞けば縛らなくても素直に教えてくれるんじゃないんですか?」

「みかどには聞く。だがあいつは間抜けすぎるからな、情報は多いほうがいい。聞きたいことは他にもあるぞ」

「答えませんよ。どんなつまらない質問にもです。こんな姿にされても、まともに会話に応じてくれると思ってたんですか? やっぱりバカなんですか? よくどこかの世界を支配できてましたね。ああ、バカすぎて追い出されちゃったんですか」

 

 ピキリ、と沙羅の顔が明らかに引きつった。本気で怒ると笑い顔になるんだな、とそばにいる李亜は他人事のように思った。

 

「バカかどうか本当に確かめてみるか? 正直に口を割らせる術をお前の体に披露してやっても構わんぞ?」

「拷問? 深い傷を負わせたら反省室だって言いませんでした? ……元クラス委員長としてクラスメイトが忘れっぽいのは心配だなぁ」

「傷や痛みなど与えなくても口を割らせる方法はいくらでもある」

 

 指をぽきぽきと鳴らしながら沙羅は彩音の体へと手を伸ばした。

 

 

■□■

 

 

 ――十分後。

 

「……っ、~~っ」

 

 李亜は耳を両手でふさぎながら、ベッドに背を向けていた。

 

「聞こえない聞こえない、僕にはなーんにも聞こえないー」

 

 ひたすらぶつぶつと呟いて李亜は背後の現実から逃避していた。詳しく描写すると危険な光景がそこにあった。

 

「っくくく、どうだ? もっと甚振ってほしいか?」

 

 沙羅は彩音の鎖骨から首筋をつつ、となぞりながら妖しく耳に囁いた。

 

「……お、お願いしましゅ、ごしゅじんしゃまぁ……っ」

 

 服も顔もぐしゃぐしゃに乱れきった彩音は普段の口調さえ忘れ、素直にねだった。

 

「ふふ、どうしてくれようか。お前をかわいがりすぎて私は疲れてしまった。私の質問に答えれば疲れも癒えて褒美を与えることもできるかもしれんが」

「はっ、はぃ……にゃ、にゃんでも答えましゅ……」

「くくく、いい子だ。ならば先程の質問から答えてもらおうか。一度男になれたとき、どんなことがあったんだ?」

「わ、私のときは、あの人形が寮の部屋に現れて、希望を聞きに来ました……。男になりたいと言うと、いつの間にか男の姿で学校の空き教室にいました……あとは初めて来たときと同じでしゅ……」

「なるほど。つまり外からフェリーでやってくる人間は異世界から来たわけではない、と言うことか」

「……ええ、おそらく……そんなこと聞くためだけに私を縛ったんですか? ごほんっ! は、早くこれ、解いてくれませんか。そろそろ夕食ですし」

 

 質問に答えているうちに頭が冷えてきたらしい彩音は怪訝な顔をしながらも沙羅に聞いた。反射的に突っぱねた問いかけではあるが内容自体はたいしたものではない。李亜のほうも「こんなことを聞くためだけにこんなことをしたのかい?」と言わずとも顔に書いてあった。

 

「いや、まだ解放はしない。尋問はついでだ。本番はこれからだ」

「えっ」

「えぇっ!?」

 

 李亜と彩音の二人はほぼ同時に驚いた。

 

「……そ、そんな……これ以上なんて……ハァハァ……!」

 

 まだ触れられていないというのに彩音は荒い息を吐きながらびくびくと震えていた。そんな彩音を見て、沙羅はとても嫌そうな顔をした。

 しかしそれでも彩音のほうに手を伸ばすと、今度は李亜が慌てて駆け寄った。

 

「き、き、君はっ! これ以上何をするつもりなんだ!? さ、さすがに僕もこれ以上は止めさせてもらうよ!? ……その、勇者として!」

「言っただろう、この世界から出るための第一歩だと。まぁ、お前に話せばこの世界を創った奴らに聞かれたかもしれないから詳しくは話してないが。……おっと、何が起きようとも触れるなよ。できるだけ離れてろ。元に戻れなくなるかもしれん」

 

 沙羅は横たわる彩音の前髪をかきあげた。その手にいかがわしいものは感じず、本当に邪魔な物を払うといった仕草だった。

 そしてその額に自分の額をこつんとぶつけた。

 何をしているのだろう、と李亜は純粋に思った。まさかこの場で熱を測るなんてことをするわけもない。

 何をしているかはわからない。だが、“何か”は起きた。

 

「……ん……っ」

 

 びくん、と彩音の体が震えた。

 

「……あ……あぁぁ……」

 

 目を見開き、カタカタと震えているのに沙羅に動じる気配はない。ただ黙って彩音の額に自分の額を重ねているだけだ。いや、よく見れば沙羅のほうもぴくりとも動いていない。まるで気絶でもしているかのようだ。

 やがて、彩音の体がぼんやりとかすみ始めた。まるで反省室に行く直前のようだ。しかし彩音はそのままかき消えることなく、体を中途半端に透かせていた。

 

「…………」

 

 李亜は茫然とその様子を見守った。触れれば元に戻れなくなると言われているせいかもしれない。しかし、そうでなくても触れてはいけない殺気めいた気配は漂っており、李亜は無意識の内に下げていないはずの剣の柄を探った。

 

「……ふー」

 

 急に何事もなかったかのように沙羅は顔を上げた。半透明になりかけていたはずの彩音の体ははっきりと実体を持っていた。こちらは意識を失っているようだが、「うぅん……」と軽い身じろぎをしたところを見ると、もうすぐ目覚めるだろうと思われる。

 

 


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