温泉の間欠泉かと思えば冷水の間欠泉が吹き出る温泉。六人が同時に着地した所為で特大の間欠泉が溢れて俺達全員が吹き飛ばされてしまった。
「シャン……ぶわっ!?」
「にゃにゃーん!」
間欠泉が冷水だった為、俺、シャンプー、らんま、良牙は変身してしまい、足に繋いでいたタオルも解けてしまった。そしてそのままはぐれてしまう。
「冷たい……と同時に重い!」
変身した女の体では全身に仕込んだ暗器が重い、更に水を吸った服が重さを倍増させていた。
「あ、居た!ムース、こっちだ!」
「お、乱馬……良牙もか」
声のした方に振り返ったら乱馬と子豚になった良牙が。乱馬と良牙が向かっている先には湯気が見えた。あの先は温泉っぽいな。
「ふー、やれやれ……」
「助かった……」
「俺等は助かったけどシャンプー達は大丈夫かね……」
男三人湯に浸かりながら助かったと呟きながら俺はシャンプーの行方が心配だった。原作通りなら、この温泉の反対側にシャンプー、あかね、右京も居るのだが本当に居る保証は何処にもない。それどころか何度も原作通りだったと思う事があったが、微妙に違う事態も何度かあった。
「こうして、ゆっくりと湯に浸かっていると今までの戦いが嘘の様だ」
「そうだな。せっかくだし……野暮な戦いの事は忘れてゆっくりとしようじゃないか」
「そう言いながら先に行こうとするなよ、乱馬。それと一人で行ってもパートナーが居ないと意味がないだろ」
良牙が温泉に浸かってリラックスしている所に乱馬が悪魔の誘いをしながら先に行こうとするがペアでゴールを目指さなきゃならないから一人だけ抜け駆けしても意味はないだろうに。
「んじゃどうすんだよ!?それに呪泉郷行きがかかってんだから諦められないんだぞ!」
「体も温まったし、シャンプー……いや、お互いのパートナーを探しに行くしかないだろ」
「確かに……あかねさん達の行方は気になるな。探しに行かねば!」
乱馬の叫びに俺は答え、良牙も同意した。いや、お前のペアはあかねじゃなくて右京だろ。そうツッコミを入れようとしたら上から気配が。
「ムース、見つけたネ!」
「シャン……ふおおっ!?」
声の主はシャンプーだった。なんとシャンプーは裸のまま岩から飛び降りて俺に抱きついてきた。シャンプーは背は低いがスタイルがめちゃくちゃ良い。そして現在はお互いに裸だ。無遠慮にその体を押し付けられ俺は理性が一瞬で彼方に吹き飛び、欲望が湧き上がる。
「ムース……」
「シャン、プー……」
抱き付きながら耳元で囁くシャンプー。俺は思わず抱き返そうと両手が自然と動いていた。
「だ、大胆やなぁ……」
「や、やだ……シャンプーったら……」
「っ……シャンプー。他の人も見てるから、な?それにシャンプーの裸を他の人にこれ以上見せたくないからさ」
「……ぶー」
俺の理性はギリギリの所で保たれた。それというのも岩影から右京とあかねが覗いており、その声が聞こえた事でギリギリで一線を越えずに済んだ。俺は抱き返そうとした両手をシャンプーの両肩に添えてシャンプーと体を離す。その事にシャンプーは不満そうに頬を膨らませていた。
ふー、今のはマジで危なかった。つうか、今のもあかね達の声が聞こえなかったら理性は確実に消し飛んでいた。
「ふー……んじゃ仕切り直しだな」
「ちょっと、乱馬!」
「良牙もなにしてんねん!」
「二人とも向こうを向いてるね」
「「いや、何も……」」
俺がレースは仕切り直しだな、と告げるが乱馬と良牙は俺達から顔どころか背を俺達に見せて、あかねと右京の言葉にも振り返ろうともしなかった。
ああ、裸の女の子が三人。しかも、惚れた女となれば堪らないよね。頑張れ、男の子。俺はさっきの事があったから頭も冷えたのよ。上手い事に。
この後、鎖帷子や鉄下駄の浴衣が用意されていたのでそれを着るしか無く、仕方なく着る事に。
だが、ここでトラブルが発生する。乱馬と良牙は健康的な男の子故のトラブルがまだ継続しており、まだ普通の行動すら難しかったのだ。頭の冷えた俺は着替えを済ませるとシャンプーと共に一気に駆け抜けた。
「やった、独走ネ!」
「こんだけ引き離しておけば乱馬や良牙でも追いつけないだろう。こりゃ貰ったな」
俺とシャンプーはもう勝ちが確定した事を確信していた。他の障害はアッサリと潜り抜け一気にゴールへ……と思った瞬間、ゴゴゴッと地鳴りが。
「なんだ、地震か?」
「ドンドン大きく……あいやー!?」
地鳴りが激しくなっていくと同時に地割れが発生した。こんな展開、原作にあったか!?俺はそう思いながらもシャンプーを庇いながら耐える事に。だが俺達の足下も崩壊し建物も崩れ始めた。俺とシャンプーは地割れに巻き込まれ穴に落ちてしまった。
「よし、これで道がハッキリした!行くぞ、右京!」
「何してんねん!床下に迷い込んだと思ったら次々に破壊しよってからに!」
地割れの隙間から頭を出して見ると良牙と右京の姿が。そうか……良牙が道に迷って床下に到着してから爆砕点穴で地面を掘り進めやがったのか。それで地面を掘り進めた結果、建物の土台も壊して更に地割れを誘発したんだ。めちゃくちゃな事しやがる。
そんな事を思っていたら右京に連れられながら良牙と右京のペアが優勝してしまった。乱馬とあかねは俺とシャンプーと同じ様に地割れに足を取られて足止めを食らって遅れてしまい優勝を逃してしまった。経緯は違うものの概ね原作通りの流れになっちまったな。
「ちくしょー、良牙に負けちまうなんて!」
「あの状態じゃ仕方ないわよ」
「温泉に来たのに土と埃まみれになってしまったネ」
「そうだな……しかし、まあ……これじゃ村おこしは実質不可能だな」
乱馬が悔しそうにしているのをあかねが宥めており、シャンプーは浴衣に付いた土や埃を叩いてる。俺は地割れを起こして地面に出来た大穴や倒壊した建物を見ながらこのレースの本来の目的である村おこしが最早不可能である事を確信していた。しかも、良牙と右京のペアに全国の温泉ご招待券も用意しなければならないのだ。こりゃ廃村になるんじゃないか?
◇◆◇◆
温泉レースから数日後。俺とシャンプー、リンスは天道家を訪れていた。コタツに入りながら話題はレースの事と良牙と右京の行き先の事がメインだった。
「ったく……あの方向音痴が。無茶苦茶な事をしやがって……」
「道に迷ったから道を作るって斬新ですね」
「良牙が道に迷う度に市街地で地中を掘り返されると街のインフラが崩壊するからアイツには今後ちゃんと言い含めないと危なそうだな」
乱馬は良牙に負けた事をまだ気にしておりブツブツと文句を言っていた。リンスは良牙の行動に純粋に驚いていたが俺としては本当に街のインフラが崩壊しないか心配だ。
「アハハ、でも良牙さんは何処の温泉に行ったんでしょうか?」
「そうね、良牙君も凄いご機嫌だったからよっぽど行きたい温泉があったんじゃない?」
「行きたくても目的地に辿り着けるかが問題ネ。右京は行き先は良牙に任せるって言ってたアル」
ミカンを食べながら乱華、あかね、シャンプーが雑談をしているがシャンプーの発言も尤もだな。良牙が行き先の取り決めをしている以上は間違いなく呪泉郷には辿り着けないだろうし。
この数日後に右京が猫飯店に熱海名物のお土産を持ってきた事で俺は予想は間違いなかったと確信した。