ムース1/2   作:残月

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懸念事項は沢山

 

 

 

店の外では地面に倒れながらも乱華に手を伸ばしながら這いつくばる九能兄が居た。乱華は顔を真っ赤にしながら胸元を手で隠していて乱馬とあかねに庇われている。

 

 

「何があったんだ?いや、大概予想は付くけど一応、聞いとくわ」

「九能が後ろから突然、乱華に抱きついて胸を揉みやがったんだ!」

「最低だわ。それで私と乱馬で九能先輩をぶっ飛ばしたのよ」

「び、びっくりして……そ、その……」

 

 

俺が問い掛けると乱馬が事情説明をしながら乱馬が九能兄を踏み、あかねが乱華を抱きしめていた。乱華は驚きと羞恥で思考が回っていないらしい。

 

 

「お、おのれ早乙女乱馬……僕とおさげの女の恋を邪魔するつもりか……」

「明らかに無理矢理迫った阿呆な男の末路にしか見えないぞ。それに兄としては妹が襲われていたら助けるだろ」

 

 

木刀を杖代わりにして立ち上がろうとしている九能兄に乱華の情報を少しだけ伝えると九能兄の顔付きが変わる。

 

 

「兄と妹だと……ま、まさか早乙女乱馬とおさげの女は……」

「そ、双子の兄妹なんだよ。妹の方は体が弱かったから中々外に出られなかったんだが最近は外に出られる様になったんだよ。それで兄の乱馬が通ってる風林館高校の見学にも行ってたって訳だ」

 

 

九能兄は立ち上がると乱馬と乱華を見比べていた。本当に兄妹なのか半信半疑なのだろう。因みに乱馬達には、大まかな設定は伝えてあった。

 

 

「本当の事なのよ九能先輩。時々お兄ちゃんの乱馬の真似をして乱暴な口調になってたけど本当の乱華は気が弱いんだから怖がらせないで」

「そ、そうなのか……いや、大変失礼した」

「あ、えっと……わかって頂ければ……あ、改めて早乙女乱華です」

 

 

俺の他にあかねからの説明も入り、乱華の自己紹介で九能兄も渋々頷いた。そしてコホンと咳払いをすると何処から取り出したのか薔薇の花束を二つ取り出した。

 

 

「ならば早乙女乱華と天道あかね。僕と健全なダブル交際を……」

「「何処が健全だぁー!!」」

 

 

花束を抱えた九能兄は乱馬とあかねからダブルツッコミを食らって宙を舞った。うん、二股を健全とか無理がありすぎる。しかし……こんなに早く外部にバレるとはな……本当なら鏡屋敷に婆さんが調査に行って乱華の安全性を確認してからカバーストーリーを話す予定だったが仕方ない。

 

 

「九能……乱華はつい最近まで中国に居たんだ。そこで弱い体の改善の為に漢方を摂取したり健康の為に拳法を学んだんだ。早乙女親子が中国に来ていただろ?それは修行の為と乱華を迎えに行く為だったんだよ」

「な、なんと……そんな事情があったとは……」

 

 

俺の考えたストーリーに驚き……アッサリと信じた九能兄。コイツって無茶苦茶横暴だったりするけど妙な所で純粋だったりするからな。

 

 

「分かるかい?アンタは生き別れていた双子の兄を仇敵と決め付け襲い、妹を片想いしながら突撃していたって事だ」

「ふっ……どんな困難があろうとも……僕の恋の炎は消える事はなーい!……がはっ!?」

 

 

震えていた九能兄だったが話を聞いた上で乱華に迫ろうとしたので首筋に手刀を落として気絶させた。

 

 

「話を聞けば多少は行動に制限が出るかと思ったが逆効果になったか?寧ろ、燃える恋と認識したらしい」

「けっ……このくらいで九能が大人しくなるとは思わなかったぜ」

 

 

うーむ、多少の身の上話をすれば抑止になるかと思ったけど無駄だったか。

それはそれとして乱馬達を猫飯店に招き入れてから俺は乱華の生き様ストーリーを説明した。

 

 

『早乙女乱馬の双子として産まれた乱華。しかし、生まれ付き身体が弱く長生きが出来ないかも知れないと診察される。そこで父親の早乙女玄馬は中国のとある知恵者の所へ乱華を連れて行く。その知恵者は健康長寿の事に詳しく、漢方や健康法などで肉体改善のエキスパートである事から我が子を預けて帰国。十数年後、手紙でのやり取りで乱華が健康になった事を知った玄馬は乱華を迎えに中国へ。そこで親子兄妹と感動の再会を果たして帰国。帰国後、健康にはなったが念の為、乱華は学校に通わずに自宅療養をしていた』

 

 

と言うのが俺の考えたストーリーだった。ここで細かい村の名前や知恵者の名前を出さない事で出自を曖昧にしようと言うのが俺の作戦だった。

あかねと乱華は「成る程……」と納得していた。乱馬は頭から煙でも出そうな状態になっていた。そんな難しい設定じゃない筈なんだが……

 

 

「それで中国に居た経緯から俺やシャンプーとも知り合いだった。そして俺達は乱馬と乱華が双子だと知ったのは俺達が日本に来てからって所だな。似ているだけでまさか血縁だとは思わなかったって設定だ。乱馬も同様だな。玄馬さんから双子の妹が居た事を後から聞かされたって事で」

「そうする事で僅かな誤解や矛盾を誤魔化すのね……納得したわ」

「え、えーっと……」

「後で私が説明するね、お兄ちゃん」

 

 

全説明を終えるとあかねと乱華は理解した様だが乱馬は頭がこんがらがってるみたいだな。しかし、ナチュラルに『お兄ちゃん』呼びとか既に双子の妹ってのが板に付いてる感じだ。

 

 

「当面はそんな設定で頼むわ。婆さんが鏡屋敷の調査で問題無しなら、乱華はそのまま双子の妹として生きる。問題があり、鏡の中に戻らなきゃならない時は……体調を崩して中国に渡った事にして鏡の中に帰ってもらう事になるな」

「………っ!」

「ムースよ、それはワシが言うべき事じゃろ。わざわざ、お主が憎まれ役をやらんでよい」

 

 

俺の発言に三人の誰かが息を呑む。いや……全員か。俺だって本当は言いたくないけど言わなきゃならない事だ。乱馬なんか殺気が篭った視線になってるし。そんな風に思っていたら婆さんが俺の肩に手を置いていた。

 

 

「お主等も……ムースが好き好んで今の言葉を選んだと思っておるのか?ムースは誰よりも乱華の事を思い、最悪の事態への考えにも至っておるのじゃぞ。ただ乱華を守りたいと思っているだけのお主等と一緒にするでないわい」

「うっ……」

「ごめんなさい……ムース」

「ありがとうございます、ムースさん」

「いや、気にすんな。それ以外にも懸念事項は多いんだし」

 

 

小太刀とか八宝斎の爺さんとか、良牙とか八宝斎の爺さんとか、九能兄とか八宝斎の爺さんとか……ダメだ……色々と考えても一番の懸念事項が八宝斎の爺さんになっていく。

 


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