ムース1/2   作:残月

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原作突入

 

 

 

遂に来た武道大会当日。シャンプーは順当に勝ち進んでいる。やはりシャンプーは強いんだよな。

 

 

「ムース兄様、シャンプー姉様が勝ってます!」

「ああ、シャンプーは強いからな」

 

 

俺は乱馬を警戒する為に優勝賞品の近くに腰を下ろして武道大会を見ていた。リンスは俺の膝の上で大会を見て、シャンプーの勝ちをはしゃいでる。

進行状況的に今は準決勝。ならばそろそろ乱馬とパンダとガイドが村に来る筈。

 

 

「ムース兄様。シャンプー姉様が手を振ってます!」

「ご機嫌だな。ほら、手を振り返してやろう」

 

 

試合会場の丸太の上、勝利を収めたシャンプーは俺とリンスに手を振っていた。にこやかな笑顔だ……それは原作で乱馬に向けていた笑顔の様で。

 

 

「へー……武道大会ね」

「武道大会で勝つ、これ大変な名誉ネ」

 

 

そして耳に届いた見知らぬ声。視線を声のした方に向ければ赤髪の女の子とパンダとガイドさんが歩いてきていた。遂に来たか……原作主人公。俺は膝に乗せていたリンスを降ろすと、そちらの方へ歩いていく。

 

 

「あの女、てーしたパワーだな」

「はい、ちょっと待った」

 

 

女乱馬と思わしき人物が優勝賞品のご馳走に手を伸ばそうとしていたので、その手を掴む。

 

 

「な、何すんだよ」

「何をする……はこっちの台詞だ。勝手に食べるな」

 

 

驚いた様子で俺を見ている女乱馬に、俺は少し睨みを聞かせて話す。

 

 

「お前、日本語喋れるのか?」

「色々とあってな……じゃなくて、ここの料理は武道大会で優勝した者が食べる品だ。それを横取りしては駄目だろ」

「この料理は優勝したシャンプー姉様の物です!勝手に食べては泥棒なんです!」

 

 

俺が日本語を普通に話したのに驚いている様だが、怒られてる自覚を持とうな原作主人公。年下のリンスにも叱られて恥ずかしくないのか。

 

 

「え、あ……ごめん。腹減ってたからさ……」

「そっちに村の人達用に振る舞ってる料理があるから食べるなら、そっちを食べろ」

 

 

女乱馬は俺とリンスに怒られて少し怯んだのか、しどろもどろに話す。俺が指で示した先には、武道大会を観戦中に村の人達に振る舞う予定だった料理。今回の事態を防ぐ為に俺が村の人達にお願いして準備をしておいたのだ。

理由としては『武道大会に参加しない者は退屈、暇になるだろうから何か摘まむ物を用意するのはどうだろう?』と。後はこれで女乱馬が優勝賞品を食べずに用意した料理を食べれば問題無しっと。

 

 

「ハーッ!」

「え、うわっ!?」

「どわっ!?」

 

 

突如、俺と女乱馬の間に何かが突き刺さる。それを見ると、突き刺さっていたのはシャンプーが持っていた武器だった。

 

 

「シャ、シャンプー?」

「お、おい……なんか、めちゃくちゃ怒ってねーか?」

 

 

視線を移せば武器を投擲した体勢のまま俺と女乱馬を睨むシャンプーの姿。何故だ、優勝賞品を横取りされた訳じゃないのに凄い怒ってる。

 

 

「私が優勝したのに何を他の娘とデレデレしてるカ」

 

 

シャンプーの怒りの籠った一言にハッとなる。

 

1.俺は今、女乱馬の手を取っていた。

2.優勝賞品を食べるなと注意している間にシャンプーは武道大会で優勝。

3.優勝する瞬間を俺は見ていなかった上に見知らぬ女と喋っている。

 

ヤバい……何やら誤解が発生しやすい状況になっていた。と、兎に角説明しなきゃ……

 

 

「ち、違うんですシャンプー姉様!ムース兄様はこのお姉さんが優勝賞品を勝手に食べようとした事を注意していたんです!」

 

 

俺が説明しようと一歩出ようとしたら一連の流れを見ていたリンスが説明してくれた。ナイスだ、天使ちゃん!

 

 

「そうか……でも、お前のペットが優勝賞品を食べてるネ」

「ほえ?」

「……あ」

 

 

リンスから説明を聞いたシャンプーは納得した様子だが怒りに震えた様子で俺達の背後に指を突き刺す。そこには食べ散らかされた優勝賞品と腹を膨らませたパンダが。

 

 

「何をしとんのじゃ、お前は!」

『だ、だって腹が減ってたから』

 

 

女乱馬はパンダの胸ぐらを掴みながら叫ぶ。パンダはプラカードを出しながら抗議してるが、それは意味の無い抗議だ。

しかし、俺も迂闊だった……女乱馬さえ止めておけば問題ないと思っていたけど、親父の玄馬/パンダの存在を忘れてた。

 

 

「ペットのした事は飼い主の責任。どうしてくれるカ?」

「あ、えと……なんて言ってるんだ?」

 

 

睨みを効かせるシャンプーに女乱馬は俺に話しかけてきた。あ、そっか。今の俺は日本語と中国語の両方を話してるけど女乱馬は中国語が分からないんだった。

 

 

「お客さんが食べてしまった料理は、この娘の物だたヨ。ペットの責任取れと言ってるネ」

「ったく……しょうがねーな」

 

 

俺が悩んでる間にガイドさんが通訳して女乱馬に伝えてしまう。女乱馬は頭を掻きながらシャンプーの前に一歩踏み出そうとした。マズい、この流れは……

 

 

「ちょ、ちょっと待った。この武道大会は女傑族の村の中での武道大会だ。他所の娘を交えるのか?」

「やらせてやれ、ムース。シャンプーにも譲れんものがあるんじゃ」

「そうですよムース兄様」

 

 

どうにか止めようとしたけど、婆さんとリンスに止められた。俺が足止めを食ってる間にシャンプーと女乱馬が戦う事が決まってしまってる。マズい、マズい!止めないと!

 

 

「大丈夫ネ、ムース。しっかり勝って優勝ネ」

 

 

シャンプーは笑みを浮かべてピースを俺に向けている。その笑顔はとても眩しくて……

 

 

「ほら、座って見ましょうムース兄様」

「安心せい、シャンプーなら負けんじゃろ」

 

 

婆さんとリンスは俺を挟んで無理矢理座らせる。流れが原作に向かっている気がするが最近、シャンプーは婆さんに修行をつけて貰ってたから更に強くなってるし……大丈夫だよな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんて思ってた五分前の俺、死にさらせ!

見事に原作通りになっちまった。いや、完全に原作通りじゃなくて女乱馬とシャンプーはほぼ互角の戦いをしていた。原作では女乱馬にアッサリと負けたシャンプーだったが、先程までの戦いは女乱馬とシャンプーはほぼ互角の戦いをしていた。しかし、女乱馬が迫り来るシャンプーの猛攻を避け、懐に入り一撃を与えてシャンプーは武道会場の丸太から落ちてしまい、敗けが確定してしまった。

 

 

「な、なんと……シャンプーが負けてしまうとは……」

「シャンプー姉様が……」

 

 

俺の隣では婆さんとリンスが唖然としていた。そりゃそうだろう。現状、シャンプーは婆さんや一部の大人を除いて女傑族の中でも指折りの実力者。だからこそ、婆さんは女乱馬との戦いを許可したのだが、まさかの結果に驚愕していた。

 

と言うか絶句しているのは俺もだ。負けたシャンプーは女傑族の掟にしたがって『死の接吻』をするのかと思っていたのだが……

 

 

「え、あ、その……痛かったのか!?やり過ぎちまったか!?」

 

 

女乱馬が慌てている。そりゃそうだろう。何故ならば、シャンプーは丸太から落ちて敗けが確定してしまった後に、ペタンと座り込んで呆然としたままポロポロと涙を溢し始めたのだから。

 

 

「なんたる悲劇か……」

「シャンプー姉様……可哀想……」

 

 

シャンプーが泣いている事情を婆さんやリンスは知ってるみたいだけど、俺はそれどころじゃない。俺は走ってシャンプーの下へ駆けつけた。

 

 

「シャンプー!」

「ムース……私、負けてしまったネ。優勝したら……ムースに……お願いを……」

 

 

泣いたまま俺を見つめるシャンプー。そうか……負けた事よりも優勝したのに余所者に負けて優勝が有耶無耶になった事を泣いているのか。でも、村の武道大会で優勝したんだから約束は果たしてるよな。

 

 

「お客さん、逃げないと大変ヨ!?」

「え、でも……」

 

 

ガイドさんが女乱馬に逃げる様に促すが女乱馬はシャンプーが泣いている事に罪悪感を抱いて動こうとしない。シャンプーは涙を拭うと立ち上がり、女乱馬に歩み寄った。あ、ヤバい!

 

 

「ちょ、待ったシャン……」

 

 

俺の制止を振りきってシャンプーは女乱馬に『死の接吻』をしてしまった。『死の接吻』とは女傑族の掟で余所者に負けた場合、相手が女だったら地の果てまで追って殺すという誓い。原作でも女乱馬にシャンプーがした行為だが……

 

 

「…………殺す」

 

 

明らかに原作以上に殺意を抱いてる。話し掛けるのも怖いんですけど!?なんか殺意の波動が形となって現れてるみたい。

そうこうしている間に女乱馬、パンダ、ガイドさんは逃げて行ってしまい、シャンプーは後を追おうとしたが足を止めて俺の方に振り返った。

 

 

「ムース。直ぐに、始末してくるから待ってるヨロシ」

「お、おいシャンプー!?」

 

 

ニッコリと文面と真逆の笑顔を浮かべたシャンプーは女乱馬達を追って走り出してしまった。

防ごうと思った原作は防げなかった。それどころか原作以上の結果になってしまった気がする。

俺は呆然としたまま女乱馬を追うシャンプーの背を見送ってしまっていた。


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