ムース1/2   作:残月

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登場!ものまね格闘技④

 

 

 

 

乱馬達の修行を請け負ってから数時間。

 

 

「では、今日は此処までにしましょうか」

「は、腹減った……」

「もう一歩も動けん……」

「なんて、スパルタなんだ……」

 

 

俺が手の埃を叩きながら終わりを告げると乱馬達はその場に座り込んでしまう。

俺がした修行とは兎に角、スパーリングをさせる事だった。疲れたと言おうが怪我をしたと言おうが兎に角、スパーリングをさせ続けた。俺は審判となり戦いを見ていたが、乱馬、良牙、九能兄はひたすら戦い続けたので疲弊しきっている。

 

 

「な、なあスフレ……これで真似っこけんちゃんに勝てるのか?」

「まだ無理でしょうね。これはまだ修行の準備段階です」

「な、これが修行の下準備だと言うのか!?」

 

 

乱馬が地面に寝転がったまま聞いてくるが、これはまだ修行の下地にすぎない。その事を告げると良牙が驚いていた。

 

 

「おのれ……この九能帯刀を謀ったのか!ぐはっ!?」

「少なくとも、このスパーリングには意味があります。それを考えるのも修行の一環です」

 

 

木刀を振り回して迫ってきた九能兄を鉄扇で防いだ後にカウンターで一撃叩き込む。

 

 

「意味がある?この疲れきるまでやったスパーリングにか?」

「意味はあります。スパーリングそのものにも、明日から行う修行にもですよ。さて、本日は此処までにして後は体を休めましょう」

「此処までだと?少し休めばまだ修行を続けるのは可能だ!」

 

 

乱馬が頭を傾げるがこの修行は対真似っこけんちゃんには重要なのだ。良牙は持ち前のタフネスから既に復活しようとしているが、それはダメだ。

 

 

「休むのも修行の一つです。ちゃんと休みなさい。それと本日の修行の〆として課題を出しましょう。アナタ達は何故、真似っこけんちゃんに負けたのか、そして本日の修行の意味を考えなさい。課題の期日は明日の朝、修行を再開するまでの間です」

「修行の……意味……」

「休むのも修行だと言うのか……」

「ふ……この九能帯刀に不可能は無い」

 

 

俺の発言に乱馬、良牙、九能兄はそれぞれコメントを溢す。

 

 

「では、明日の朝にまた来ますので」

「え、一緒じゃないのか?」

 

 

俺がこの場から離れようとすると乱馬が引き留める。

 

 

「乱馬さん。私は一応、レディなのですよ?アナタには乙女心の手解きもした方が良さそうですね」

「ちぇ……からかうなよ」

 

 

乱馬の頭を軽く叩きながら叱咤する。ムースとしてもスフレとしても乱馬の女性への気遣いを指導した方が良いと感じる。

 

 

「では、また明日の朝に来ますから。再見」

 

 

俺がその場を後にすると、背後から何かを言い争う声が聞こえる。

 

 

「そのサラダ俺が貰った!」

「こら、一人で食うな!」

「何をする貴様等!」

 

 

会話から恐らく、九能兄が用意した食事を良牙が乱馬が奪い合っているのだろう。そういや山籠りの最中で喧嘩の原因の一つだったな。

そんな事を思いながら、俺は離れた位置に設置しておいたテントに向かった。万が一にでも乱馬達に正体バレる訳にはいかないからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇side乱馬◆◇

 

 

 

 

真似っこけんちゃんに敗れた俺は山籠りの修行をしていた。俺と同じく、真似っこけんちゃんに敗れた良牙や九能に会って九能の提案で合同合宿となったけど……単なる喧嘩となってしまった。そんな中、以前天道道場に道場破りに来たスフレが俺達を見ていた。

 

スフレは何処で知ったのか俺達が真似っこけんちゃんに負けた事を知っていた。更にスフレは俺たちを鍛えてくれるのだと言う。その提案は俺にとっては嬉しいものだった。俺は真似っこけんちゃんに負けた事も悔しかったがムースに助けられたのも悔しかった。現状、俺の近くに居る同年代の武道家で一番強いのはムースだ。ムースは同年代とは思えないくらいに大人びていて、武道家としても強い。一番身近に居る強く憧れている存在。

 

それに近づく為にスフレの修行を受けたんだけど……何故かひたすら良牙と九能とスパーリングをさせられた。スフレがスパーリングを止める頃には夕方になっていた。スフレが言うにはコレはまだ準備段階で修行ではないと言う。このスパーリングが準備段階って本番はどんだけキツいんだよ!?

 

その後、スフレは明日の朝に来ると告げて帰ろうとしてしまう。引き留めると、女の子なんだから男と一夜を明かす事は出来ないと言われてしまった。言われてから、その通りだと感心させられた。さっきも迂闊にスフレの年齢を聞こうとしてしまい、スフレに殴られたばかりだったのに。

 

去り際にスフレから真似っこけんちゃんに負けた理由や修行の意味を考えろと言われてしまう。俺は真似っこけんちゃんを単なる猿真似野郎と思っていたけど違うのだろうか?このスパーリングの意味は何なんだろうか?

その考えが纏まらない……しかも、その考えを乱す様に九能がフルコース料理を準備して食べようとしていた。更に挑発する様に俺と良牙に余り物の料理を放り投げてくる。キレた俺と良牙は九能の料理を強奪した。この段階で俺はスフレから出された課題をすっかり忘れてしまい、朝を迎えてしまった。

 

 

 

「おはようございます。皆さんには昨日の修行が終わった段階で休めと言った筈ですが……休まなかったんですか?」

「……スミマセン」

「一晩中……喧嘩してました」

「なんの……この九能帯刀、一晩眠っていないなぞハンデにもならん……」

 

 

ニコニコと笑うスフレだが背後には般若が見える。その怒気に俺達はビビりながら頭を下げた。

 

 

「まったく……負けて焦る気持ちも分かりますけど、今は気を落ち着けなさい。焦りや緊張は要らぬ心情を産み、実力が出せなくなりますよ」

 

 

 

溜め息を吐くスフレの姿に以前、ムースから忠告された事を思い出す。『緊張や恐怖は人の実力を半減させるぞ』と言われた事を思い出し、更に俺は真似っこけんちゃんとの戦いを思い出す。

俺は真似っこけんちゃんを舐めきっていたし、互角の戦いに持ち込まれて焦っていた。その結果、俺は火中天津甘栗拳を真似されて敗北した。

 

そうか……俺に足りなかったのはこれなんだ!

 

 

「顔付きが変わりましたね、乱馬さん。本日はアナタ方の修行は取り止めにしようかと思いましたが……お相手しましょう」

「よし……行くぜ、スフレ!」

 

 

スフレが俺の意思を察したかのように構えたので俺はスフレに殴りかかる。するとスフレは俺と同じ動きで拳を合わせてきた。

 

 

「乱馬と同じ動きだ!」

「なかなかやるな」

 

 

良牙と九能が驚くが無理もない。スフレは真似っこけんちゃんみたいに俺の動きを真似て攻撃してきたのだから。

 

 

「俺の動きを……?」

「どうです?真似っこけんちゃん程では無いですが似てるでしょう?」

 

 

拳を繰り出した後に退くと、スフレも離れて構える。その動きは俺に似ていた。

 

 

 

「成る程……そうやって真似っこけんちゃんみたいに戦ってくれるって訳だ!」

「それに対して、どんな回答を見せるか楽しみですね」

 

 

俺が攻めるとスフレはニコニコとしながら俺と同じ動きで攻めてくるスフレに戸惑う。まるで真似っこけんちゃんと戦ってるみたいだ。

そこで違和感に気付く。スフレは俺の動きを真似ていると言うなら俺とスフレは合わせ鏡の状態だ。だったら時おり、隙だらけに見えるのは俺の仕草なのか?

 

俺は試しに左のハイキックを放つとスフレの左腕のガードが下がり、距離を詰めてきた。スフレは距離を詰めてハイキックを封じると右手の突きが来たので咄嗟にガードしたがスフレは俺の動きを真似ている。だったら今、見えている隙は俺の癖なのか?試してみるか……俺はトントンと足の爪先で地面を叩く。そして、攻めようとした瞬間……その隙を狙ってスフレが攻めてくる。その狙いは……ガードの下がった左側。

 

 

「っと!」

「よく……気付きましたね」

 

 

俺はスフレの右のミドルキックを左腕でガードした。ガードすると決めてなかったら確実に食らってたな。スフレからは称賛された。

スフレが言いたかった事はなんとなくわかった。真似っこけんちゃんは俺の隙とか悪い癖も完全に把握していたんだ。俺は相手を舐めきった上に俺の隙や悪い癖を把握していなかった。真似っこけんちゃんはその隙を見逃さなかったんだ。

全ての謎が解けた気分だった。親父の言っていた通りだ。俺は俺に負けていたんだな。

 

 

「乱馬さんはもう大丈夫そうですね。まだ少々、焦りが見えますが」

「焦りって……俺はもう真似っこけんちゃん対策はバッチリだ!焦る事なんて無いぜ!」

 

 

スフレがまだ俺が焦っていると感じている様だが、そんな事はない。俺が焦る理由なんてない筈だ。

 

 

「またまた……早く帰って、あかねさんに会いたいんでしょう?」

「っ!……だ、誰があんな色気の無い女に!」

 

 

スフレから指摘されて俺は顔が熱くなる感覚になる。スフレのニヤニヤした顔により一層顔が熱く感じられた。

 

 

「まあ、このまま送り出しても良いんですが……どうせならコンディションを整えてからの方が良いでしょう。お休みなさい」

「ちょ、待っ……んがっ!?」

 

 

スフレは笑顔で俺に歩み寄ると側面から俺の首筋に一撃を与え、俺の意識は闇に沈んだ。

 

 

 

 

 


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