「ほう、真似っ子けんちゃんが、来たか」
「ああ……まだ不完全な真似だったのか、乱馬にも良牙にも真似しきれてなかったけどな」
猫飯店に戻った俺は婆さんに真似っ子けんちゃんの話をした。婆さんも真似っ子けんちゃんの事を知っていたのか、目がギラリと光る。
「しかし、真似っ子けんちゃんに襲われた割には無事の様じゃなムース」
「俺には化けなかったし、乱馬も良牙にも成りきれてなかったからな。多分、これから仕上げに入るんじゃないかな?ま、俺の真似をした所で返り討ちにしてやるけど」
婆さんは俺が無事だった事に疑問を感じた様だが、俺としては真似っ子けんちゃんがまだ完全に乱馬や良牙をコピー出来ていない事に安心を感じていた。あの位なら乱馬や良牙でも返り討ちに出来るだろうし。
「ふむ……お主が言うならそうなんじゃろうな。乱馬や良牙はちと不安じゃが」
「舐めて掛かって、負ける……ってのはアイツ等にはありそうな話だ」
婆さんと俺は一抹の不安を感じながらも乱馬達の武道家の力を信じるしかなかった。実際にアニメじゃ乱馬、良牙、ムース、九能兄が負けてたし。
◇◆◇◆
数日後、出前の帰り道の最中。聞き覚えのある悲鳴が聞こえたので自転車を走らせ、現場に急行した。すると、其処に居たのは二人の乱馬と、あかねだった。ゴミ箱の近くでは黒の子豚が寝っ転がっているが、恐らく戦いに敗れた良牙なのだろう。
「ほう、もう乱馬の動きをコピーしたか」
「あ、ムース!大変なの、乱馬が!」
俺の姿を見た、あかねが駆け寄ってくる。どうどう、落ち着きなさいって。
「分かってるよ、真似っ子けんちゃんだろ?しかし、数日前に見た時よりも真似の精度が上がってるな。正直、どっちが偽者か分からない位だ」
「ちょっと、そんな呑気な話をしてる場合じゃないのよ!」
あかねが俺の発言に慌てるがどうしようもないだろうに。
「手助けしようにも、どっちが本物か分からないんじゃ手助けのしようもないだろ。それに、この戦いは乱馬の為にも成る」
「そんな……」
俺が突き放すような言い方をすると、あかねはショックを受けたようだ。ぐ……少し罪悪感が……
「ムース!手助けは無用だぜ!」
「こんな物真似野郎に負けるもんか!」
「「真似すんなっての!!」」
ステレオで叫ぶ二人の乱馬に少し、頭が痛くなるが戦いは互角の戦いだった。
「でも、どうして互角なの?真似っ子けんちゃんは乱馬の動きを真似ているだけなんでしょ?」
「真似をしてるから互角の勝負なんだよ。真似っ子けんちゃんは乱馬の動きや技を完璧に見抜いてコピーしている。それは真似っ子けんちゃんが乱馬並みの身体能力を持ってるって事だ。それに真似が悪い事だとは思わないしな。そもそも武術の伝承とは模倣から始まるもんだ」
あかねは乱馬と真似っ子けんちゃんが互角の戦いをしている事に驚きを隠せていない。単なる物真似野郎と侮っていた良い証拠だな。
「あかねも最初は早雲さんから武術を学んだ時は動きを真似ていただろ?真似っ子けんちゃんのコピー格闘術はその延長にある物だ。相手の動きと技を完璧に模倣する。それだけでも十分すぎる経験値となる」
「で、でも早乙女のおじ様は真似っ子けんちゃんに敗れた武道家が多いって……互角なら本人は負けない筈だわ!」
あかねは俺と会話しながらも二人の乱馬のどちらが本物か見定めようとしている。
「それがコピー格闘術の恐ろしい所だ。コピーが本物を倒してしまうんだからな」
「へ……言ってくれるなムース……だったら物真似出来ない技ならどうだ!」
「偽者なんかに負けるかよ!」
「「火中天津甘栗拳!!」」
俺の言葉を聞いていた二人の乱馬は一度距離を取ると腰を落として構えた。そして同時に火中天津甘栗拳を放つ。素早い拳が互いの体を打ちのめそうと交差して……片方の乱馬がぶっ飛ばされた。
「ふん……流石に俺の奥義までは真似、出来なかったみてーだな」
「ぐ……うう……」
「……乱馬、きゃあっ!?」
倒れた乱馬に倒した乱馬がドヤ顔をしながら見下ろす。あかねは倒した方の乱馬に歩み寄ろうとした。それと同時に倒した乱馬が、あかねに抱き付いた。
「あかねちゃん、可愛いねぇ!」
「アンタ、偽者の方ね!ひゃあ、何処触ってんのよ!?」
明らかに偽者だと分かる言動をした乱馬(偽)が、あかねに抱き付く。抱き付かれた、あかねは本物の乱馬に抱き付かれたと思って顔を赤くしていた。更に抱き付かれた拍子に触れたくない箇所を触られたのか悲鳴を上げた。
「へへへ、あかねちゃ……ぎゃあっ!?」
「決闘までなら見逃したけど、そこから先は見過ごせないな」
「ムース!」
あかねに抱き付いていた乱馬(偽)の顔面に一撃を与え、あかねから引き剥がす。あかねは助かった安堵からか俺の名を叫んだ。
「あかねは本物の乱馬を診てやってくれ。さっきの火中天津甘栗拳が効いて動けない筈だ」
「う、うん!」
あかねは俺の指示に従って倒れている本物の乱馬の介抱に走る。普段から、それくらい素直に心配してれば可愛げがあるだろうに。
「させるか!」
「これ以上は俺が相手だ。」
真似っ子けんちゃんが乱馬とあかねを追おうとするが俺は右手の指の間にクナイを構えると真似っ子けんちゃんの動きが止まる。
「ちっ……まだお前の動きはコピー出来ていない……だが、お前の首も狙わせてもらうからな!」
「逃げたか……ま、そっちの方が好都合だけどな。あかね、俺が乱馬を連れていくから先に天道道場に戻って手当ての準備と布団を敷いてやってくれ」
「う、うん……乱馬、すぐに戻るからね!」
真似っ子けんちゃんは俺との戦いを避けて逃げてしまう。俺は逃げた真似っ子けんちゃんは追わずに倒れている乱馬に歩み寄る。然り気無く乱馬はあかねに膝枕をされていた。あかねも乱馬の意識が無かったりすると極端に素直だよな。
そんな事を思いながら俺は乱馬を担いで天道道場を目指した。帰る時にPちゃんの姿が無かったから多分、良牙も帰ったのだろう。本来なら真似っ子けんちゃんから、あかねを救うのはPちゃんだったが、俺が助けたから見せ場を失ったな。