ムース1/2   作:残月

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大分ご都合主義な展開です。


海の惚れ薬②

惚れ薬を飲んでしまった俺は、目隠しをしたまま旅館の一室で休んでいた。目隠しをしたまま一休みは果たして休みなのだろうかと問いたい所だが、仕方の無い処置だ。何故なら俺が飲んだのが一日玉か一生玉か分からないからだ。故に迂闊に誰かを見ないようにしなくてはならない。

 

今は乱馬達が八宝斎の爺さんを捕まえて、惚れ薬が一日玉か一生玉かをハッキリさせないと俺はこのままなのだ。

因みに今の俺は男に戻り、黒のビキニから半袖のパーカーを着て、七分丈のズボンに着替えた。何故、男に戻ったかと言えば万が一にも女状態で八宝斎の爺さんを見るわけにはいかないからだ。

 

 

「ムース、大丈夫カ?」

「シャンプー……うん、なんか今のところ、問題ないよ」

 

 

襖が開く音が聞こえ、声からシャンプーと判断する。今の状況だと誰が来ても一瞬身構えてしまうわ。

 

 

「あかね達がお爺ちゃん探してるけど隠れてる見たいネ。まだ見つからない」

「そっか……腐っても達人だもんな」

 

 

腐ってもって言うか、腐ってしかないと思うけどな、あの爺さん。

 

 

「ま、今は乱馬達、待ちか……」

 

 

待つしかないってツラいな……こんな時に改めて実感するわ。そんな事を思っていたら頬に手を添えられる感覚。え、何?

 

 

「ムース……私を見るネ」

「え、ちょ、シャンプー!?」

 

 

シャンプーはスルッと目隠しを取るとジッと俺を見つめた。いや、ちょっとそんな事をしたら惚れ薬が!

 

 

「惚れ薬でムースに惚れられても意味はない……でも他の誰かにムースが惚れるくらいなら私ガ……」

「……シャンプー」

 

 

眼鏡が無い俺でもハッキリとシャンプーの顔がわかる位の近距離で見つめ会う俺とシャンプー。やっぱ惚れ薬で得た結果は嫌だと言うシャンプーだが、俺が他の誰かに惚れるよりも、と考えたらしい……そんなにも俺を思ってくれるなんて……凄い嬉しい……って、あれ?

 

 

「……ムース?」

 

 

何も言葉を発しない俺に違和感を感じたシャンプーは不思議そうな顔で俺を見つめているが……俺はシャンプーから離れるとテーブルの上に置いていた眼鏡を取って装着する。すると景色がハッキリと見える様になってからシャンプーを見る。ふむ……なんともない

さっきの乱馬はリンスに対して明らかに『惚れた』って効果が間違いなく出ていた。だったらなんで俺はシャンプーを見ても何も起きないんだ?

俺が惚れ薬が効かなかった事を不思議に思っていると不機嫌オーラMAXのシャンプーが俺を見ていた。良く見れば涙目になっていた。

 

 

「……ムースが他の誰かに惚れる前に私に惚れさせる……本当はあかねと同じで薬抜きでムースに好きって言って欲しかったのに……」

「シャンプー……聞いてくれ」

 

 

何かを決意した表情ではあるものの震えてるシャンプーの両肩を掴み、真っ直ぐ見た。身長差もあるので俺がシャンプーを見下ろし、シャンプーは俺を見上げる形となるのだが……うん、涙目のシャンプーも可愛い……じゃなくて。

 

 

「なんで俺に惚れ薬が効かなかったのか分からないけど……俺は惚れ薬関係無くシャンプーが好……」

「ちょ、ちょっと待つネ、ムース」

 

 

俺の発言にシャンプーは慌てた様子だ。視線も少し泳いでる。

 

 

「効いてないアルか?」

「うん……そうみたい」

 

 

俺の言葉にシャンプーは信じられない、っと言った表情になる。そしてみるみる内に顔が赤くなっていく。

 

 

「なんで……私を見た直後に言わなかったアルか?」

「あー……なんで効かなかったんだろうって考えてた」

 

 

シャンプーはグッと拳を握る。俺は嫌な予感がしつつも口を開いた。

 

 

「その……シャンプーが色々と俺の事を思って行動してくれたのは……凄い嬉しい。でも……ちょっと早まったかな?だから……その……」

「もっと早くに……ムースが惚れ薬が効いてない事を言えば問題無かった筈ネ……」

 

 

ギランと俺を見据えるシャンプーの瞳が鋭さを増し、シャンプーは既に拳を俺に打ち抜くべく放たれていた。

 

 

「ムースのバカァ!!」

「ほぶぁっ!?」

 

 

惚れ薬が効いてないなら、さっさっと言えよとばかりに俺はシャンプーにぶっ飛ばされて宙を舞った。流石に理不尽じゃね?らんまワールドならお馴染みな気もするが。

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 

後から聞いた話だが、どうも俺とシャンプーが惚れ薬の事でドタバタとしている間に乱馬達は原作通りの展開になっていたらしい。あかねは爺さんに惚れ薬を飲まされ、男を見たら惚れてしまう状態になってしまう。

惚れ薬を飲んだままの、あかねは乱馬への意地もあり乱馬から遠ざかろうとしていたらしい。そこへ方向音痴の良牙や九能が現れた。乱馬は、あかねが二人を見ない様にと、あかねを海に突き落とし、二人を叩きのめした。

そして良牙と九能を退散させた乱馬は『変な者を見る前に俺で手を打て』と覚悟を決めた……まではよかったが、あかねは乱馬に溺れさせられた段階で惚れ薬を吐いてしまったらしく、惚れ薬の効果は無かったらしい。つまりは乱馬の一人相撲状態だった。

 

その話を聞いてから俺も惚れ薬を無理にでも吐き出せば良かったと後になって気付く。そう言えば原作でも、あかねは惚れ薬を溺れた拍子に吐き出してたんだっけ。

 

その後、夜になったが、すっかりへそを曲げたシャンプーとあかねは俺達から距離を取ってリンスと手持ち花火を楽しんでいた。

俺と乱馬は変なところで割りを食う形となってしまった。だが、最後に疑問が残る。

 

 

「俺……なんで惚れ薬が効果無かったんだ?」

 

 

そう。俺は一日玉か一生玉か解らないが惚れ薬は飲んでいたのだ。その状態でシャンプーを見たのに何程の効果も無かった。寧ろ拍子抜けした位だってのに。

 

 

「それは……あれじゃない?惚れ薬の定番って奴」

 

 

そんな風に考えていたら、なびきがかき氷を食べながらニヤニヤとシャンプーを見ていた。なんのこっちゃ。

 

 

「既に惚れてる相手に惚れ薬は効かないって奴」

 

 

なびきの一言に納得した俺は気恥ずかしさと……これからシャンプーの機嫌をどう直そうかと頭を悩ませる事となった。


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