ムース1/2   作:残月

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海の惚れ薬①

 

 

 

なんで……こうなったんだろう。俺はそんな事を思いながら目隠しされた状態で旅館の部屋で一休みしていた。

 

 

 

事の起こりは猫飯店 海の家出張での出来事だった。

女になった俺はシャンプーとリンスのチョイスの黒のビキニを着ていた。嫌だって言ったのに……万が一、男に戻ったらどうすんだよ。その事を話したら、婆さんに目の前が海なんだからバレない様に海に潜れと言われた。

そんな訳で俺は黒のビキニにエプロンのスタイルで海の家で働いていた。シャンプーとリンスには遊びに行くように伝えて俺は仕事が終わってから合流すると伝えておいた。

 

そんな訳で真面目に仕事をしていた俺だが、店に乱馬とあかねと八宝斎の爺さんが来た。あ、もう惚れ薬の腕輪の話になったみたいだ。取り敢えずシャンプーが惚れ薬を飲まないように注意しよう。今までの経験上、予想外の事って起きるからな。

 

等と思ってる間に、乱馬が爺さんの茶飲み友達として婆さんを紹介していた。爺さんは乱馬から『目がパッチリとしたロングヘアーの女』を紹介すると言われてシャンプーだと勘違いしていたらしい。原作通りに進んでいる様だが、この流れは妙に腹立たしかった。

 

 

「大丈夫よ、ムース。流石の乱馬もシャンプーを紹介しようとは考えてなかったみたいだから」

「いくら俺でもそれくらいは考えるっての!」

 

 

腹立たしさを覚えていたら闘気が溢れていたらしい。おっと危ない、危ない。

 

 

「ムース、嫉妬したのだナ?大歓喜!」

「うわっ、ちょっ、シャンプー!?」

 

 

俺が怒った事でシャンプーは自分の為に怒ったのだと感じて俺に抱き着いてきた。お互いに水着なのでダイレクトに感触が伝わってくる。こ、これはヤバい!

 

 

「ムース、鼻の下伸びてるわよ」

「男なら仕方ないだろ。今は女だけど」

 

 

あかねのツッコミに俺はシャンプーを剥がしながら答える。これで反応しなけりゃ、むしろ男じゃねーよ。

 

 

「ま、それはそーと後は年寄りに任せて……」

「若者は退散しましょう」

「待てい!」

 

 

乱馬の言葉をリンスが引き継ぐ。その光景に爺さんが待ったを掛けた。そして手にしていた腕輪をシャンプーに差し出した。それが惚れ薬の腕輪だと判断した俺は爺さんから腕輪を取り上げる。

 

 

「わぁ、綺麗な腕輪ネ!」

「結納の品じゃ。あ、返せ!?」

「どうせ、アンタの事だから盗んだ物だろ」

「ムース、その腕輪をワシに寄越せ!」

 

 

俺が爺さんから腕輪を取り上げると婆さんが慌てた様子で腕輪を催促してきた。これで間違いなさそうだ。

 

 

「何をそんなに慌ててるんだよ、婆さん」

「その腕輪は、かの孔子の母ですら欲しがった中国3000年の秘宝なのじゃ。何故にその爺が持っておるか謎じゃが……ちょっと見せてもらおうか」

 

 

乱馬の疑問に婆さんが答えた。そんな大秘宝とは思ってなかったのか全員が驚いていた。それはそうと中国の秘宝って事は婆さんの家宝じゃないって事か。んじゃ南蛮ミラーの話は後であるな。とりあえず婆さんに腕輪を……

 

 

「腕輪を返すのじゃ~」

「うひぃ!?離れろ、クソ爺……んぎゃ!?」

 

 

婆さんに腕輪を渡そうと思ったら背筋が凍るかと思った。爺さんが俺の背後に回り、胸を揉んでいた。振り向き様に殴ろうかと思ったら振り返ったタイミングで腹部に衝撃が走った。

 

 

「腕輪は返して貰ったぞ!」

「おのれ、妖怪爺め!」

 

 

爺さんは俺を殴り飛ばした上に腕輪を強奪し、煙玉で俺達の視界を奪うとそのまま逃走したらしい。

 

 

「ムース、大丈夫か!?」

「あ、あのクソ爺……」

 

 

乱馬に支えられながら立ち上がるが腹がめっちゃ痛い。

 

 

「曾婆ちゃん、何をそんなに慌ててたアルか?」

「そんなに危ない物なのですか?」

「あの爺が腕輪の秘密に気付いたら、この世は地獄と化すであろう……なんとしても腕輪を奪い返さねばならん!」

 

 

シャンプーとリンスが婆さんに腕輪の事を聞いているが婆さんは震えながら叫ぶ。確かにあの爺さんが惚れ薬に気付いたら洒落にもならん。

婆さんから腕輪に嵌め込まれていた丸薬が実は惚れ薬である事が説明され、爺さんにその事がバレたら確実に悪用される事が予想された。しかし、そんなに昔の惚れ薬が未だに効能が期待できるのだろうか?むしろ、薬を飲んだら腹を壊しそうな気がする。

 

 

「ぎゃはははっ!聞いたぞ、聞いたぞ!シャンプーちゃん、ワシと燃えるような恋をするのじゃ……ぐぇ!?」

「させるかっ!」

「私はもうムースと燃えるような恋をしているネ」

 

 

シャンプーに襲い掛かろうとした爺さんに俺はエルボーを落とし、シャンプーは膝蹴りを叩き込む。即座に爺さんを捕まえようとしたが逃げられてしまった。

 

 

「でも、一つだけ落としていきましたね」

「これが、惚れ薬か……」

 

 

爺さんが落としていった丸薬の一つをリンスが拾い、乱馬がそれを覗き込んでいた。

 

 

「乱馬さん、お一つどうぞ」

「んむっ!?」

「ちょっと、リンスちゃん!?」

 

 

するとリンスは拾った丸薬を乱馬に飲ませ、乱馬はそれを飲んでしまう。その事態にあかねが驚いているとシャンプーが目を光らせた。

 

 

「乱馬、あかねを見るネ」

「え、おいシャンプー!?」

 

 

するとリンスの意図を察したのか、シャンプーは乱馬の頭を掴んであかねの方に向けた。そして、あかねを見た乱馬は目を輝かせた。

 

 

「可愛い」

「え、ちょっと、乱馬?」

 

「可愛い」

「え、な……」

 

「可愛い」

「やだ、待って!」

 

 

乱馬は可愛いを連呼しながら、あかねに迫る。シャンプーとリンスは乱馬が大胆になったのだと思い込んでいる様だ。頬を染めながら二人のやり取りを見ている。でも、乱馬は多分丸薬を飲んでないんだよね。

 

 

「こんなの嫌!こういうのは……薬抜きで言って……」

「なーんちゃって!」

 

 

あかねが顔を真っ赤にしながら何かを言おうとしたタイミングで、乱馬が舌の上に丸薬を乗せたまま笑っていた。実は惚れ薬を飲んでいなかった事が判明し、からかわれていた事がわかった、あかねは頬を染めて涙目になりながら乱馬をパラソルで攻撃し始めた。あかねの最後の呟きは乱馬には聞こえてなかったんだろうな。聞こえてたらこんなに笑っちゃいないだろうし。

 

 

「バーカ、本当にこんなもん飲む訳ねーだ……むぐっ!」

 

 

そしてタイミングが悪い事は続く。乱馬があかねをからかっている最中、パンダ状態の玄馬さんが『遊ぼう』と看板を出しながら乱馬の背を叩いたのだ。その衝撃で乱馬は惚れ薬の丸薬を飲んでしまう。

 

 

「飲んじまった……惚れ薬を飲んじまった!おい、リンスどうしてくれるんだ!?」

「あ、バカ、乱馬!そっちを見たら!」

 

 

俺の制止も虚しく、乱馬はリンスに責任を問い詰めようとリンスに詰め寄った。その行為はリンスを見てしまう訳で……

 

 

「お、俺は……なんで今までこの女の魅力に気付かなかったんだ!」

「ひゃ、ひゃん!乱馬さん!?」

 

 

突如、乱馬に抱き付かれたリンスは顔を真っ赤にしていた。

 

 

「この柔らかな髪に愛らしい外見……俺はもうこの子以外考えられない!」

「乱馬がロリコンに目覚めた……」

「まさかの事態ネ……」

 

 

まさかの事態に俺とシャンプーは呆然としていた。あかねに至っては言葉も出ていなかった。そろそろ止めないとマズいなこれは。

 

 

「さあ、今から結婚式だ!式場に行こう!」

「け、けけけ結婚ですか!?」

「そんな……待って乱馬!」

 

 

乱馬はリンスを抱き抱えて結婚式場に走り去ろうとする。リンスは顔を真っ赤にしながら吃り捲っているが……兄としては許しません。あかねの悲痛な叫びを聞きながら俺はエプロンの中に仕込んでいた暗器を投げ、乱馬の動きを止める。その瞬間、シャンプーがリンスを乱馬から取り返しながら顔面に蹴りを叩き込んだ。

 

 

「乱馬でもリンスは任せられないネ!いくら惚れ薬を飲んだとしても、あかねを裏切るの許さない!」

「棚上げしたセリフなのは兎も角……目は覚めたか乱馬」

「あ、あれ……?俺は何を……」

 

 

時間経過とショックを与えた事により、乱馬は正気に戻ったらしく、周囲をキョロキョロと何が起きたか分からないといった様子だ。

 

 

「フゥー……危うく乱馬が弟になる所だった」

「危なかったネ」

「お、おい……本当に何があったんだ!?」

 

 

俺とシャンプーは汗を拭う仕草を見せると乱馬は慌てた様子で起き上がってきた。

 

 

「ホッホッホッ……今、乱馬が飲んだのは一瞬玉じゃ。だから効果が一瞬じゃったんじゃよ。後は一日玉と一生玉の二つじゃ」

「それぞれで効果が違うのね……」

 

 

状況を笑ってみていた婆さんが説明を始める。あかねは今、乱馬が飲んだのが一瞬玉だったのに安堵していた。

 

 

「後の二つが一日玉と一生玉か……爺さんが使う前に確保しないと……」

「シャンプーちゃん!ワシと恋をするのじゃー!」

 

 

俺が早く二つの惚れ薬を確保しようと呟くと同時に爺さんが飛んできた。既に原作と違う展開だが早めに騒ぎを終わらせる為に捕まえようと思ったら、爺さんはニヤリと悪い笑みを浮かべて……

 

 

「ほぅれ、良いものじゃのう」

「って、やめんか!」

 

 

爺さんは俺の足に抱き付くと、そのまま足を這うように登ってくると俺の尻を撫で回してきた。ゾワリと鳥肌が立つ。

 

 

「隙ありじゃ!」

「え、むぐっ!?」

 

 

俺が爺さんを殴り飛ばそうと拳を振り上げたと同時に、爺さんは俺の目の前に現れると俺の口に二つあった内の丸薬の一つを俺に飲ませた。

 

 

「何を考えて……痛っ!?」

「ムース、見ちゃ駄目ネ!」

 

 

思わず爺さんを見ようとしてしまった俺をシャンプーがタオルで目を覆った。メガネを巻き込んでタオルを巻かれたので超痛い!

 

 

そんな訳で冒頭に戻る。まさか、俺が惚れ薬を飲んでしまうとは……どうしよう、これから。


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