ムース1/2   作:残月

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乱馬と右京の決闘

 

 

 

 

 

乱馬と右京の決闘を前に俺は自室であるノートに目を通していた。これぞ、原作知識を纏めたノート『1/2知識』

俺がムースになった日に覚えてる範囲で原作知識を書き纏めた物だ。実はちょくちょく読み返して対策を取れる様にしていた。パラパラとページを捲っていくと右京の話の辺りに辿り着く。

 

右京の決闘→右京の策略で良牙とあかねのデートに乱馬が乱入→海で惚れ薬の話→ムースとの二度目の戦い→紅つばさ、右京にストーキング。

 

ザッと読み返すと大体の流れはこんな感じだ。まあ、ムースの二度目の戦いは無いだろう。だって、俺は既に日本に住んでいるし、原作と違ってシャンプーと許嫁なんだ。乱馬と戦う理由が無い。

となると気を付けるのは海での惚れ薬の話だな。海か……シャンプーの水着が楽しみだ。

少し、考えが逸れたが話の流れを確認した俺はノートを再度、隠した。このノートが人目に触れないようにちょっとした細工をした机に隠す。順番を守って引き出しを開けないとノートに火が灯り、ノートが燃える様にしてある。このノートがシャンプーや婆さんに見られると大変な事になるからね。バレるよりもボヤ騒ぎを起こして証拠隠滅の方がマシだって事だ。

 

 

そして放課後になり、俺はシャンプーを連れて風林館高校に向かっていた。

 

 

「この間の右京カ、乱馬と決闘をして何するつもりアルか?」

「まだ何も考えてないんだろ。昔の借りを返したいって風には見えたが」

 

 

シャンプーと並んで風林館高校を目指す中、シャンプーは右京の行動に疑問を感じていた。まあ、そりゃそうなんだよな。乱馬に復讐したいならもっと効果的でやりやすいやり方なんかいくらでもある。にも関わらず、右京は自身の手で直接の決着を望んだ。

そこまで考えると俺には一つの答えが出ていた。恐らく、原作でも同様の事が起きていたのではと思う。

 

そんな事を考えている内に風林館高校に到着すると、歓声と何やら美味しそうな匂いがしてきた。おや、これは出遅れたかな?グラウンドまで行ってみると、鉄板を型どった特設リングが設置してあって乱馬と右京が既に戦っていた。右京はゴム入り、焼きそばやボンド入りのお好み焼き生地で乱馬を翻弄し、かんしゃく玉入りの天カスで攻撃していた。

そういや、右京は何処からこのリングを持ってきて設置したんだ?明らかに個人で出来るレベルじゃねーけど。

 

 

「幼馴染みのよしみだ……こんな物騒なリングで叩きのめすのは勘弁してやる!」

「ひえ、うひゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 

リングの事を考えていたら戦いは既に佳境に。乱馬は自身の体に巻き付いていたゴム入り、焼きそばを右京に巻き付けるとリングの外に投げ飛ばした。投げ飛ばした右京を乱馬が後を追い、場外乱闘を始めた。

 

 

「なんたる悲劇!何故、幼馴染みの二人が戦わねばならんのだ!?」

「主にアンタが原因だろ。俺とシャンプーは右京から事情を聞いてるからな?」

 

 

玄馬さんが泣きながら叫ぶが俺は淡々とツッコミを入れた。今回の騒動の90%はこの親父が原因だから。

 

 

「ムースとシャンプーも事情を知ってるの?」

「右京が店を出した時に挨拶に来てな。その時に事情を聞かせて貰った」

「乱馬が女の敵って事を再認識したネ」

 

 

俺とシャンプーの発言に玄馬さんが冷や汗を流し、あかねが小首を傾げた。

 

 

「女の敵って……まさか」

「そ、右京は女の子なんだ」

「そして、そのバカ親父の為に涙を流した悲劇的女」

 

 

俺達は玄馬さんの罪を認識しながら乱馬と右京の後を追った。さて、原作だとプレハブ小屋に落ちた筈だけど……

 

 

「キャァァァァァッ!いややぁぁぁぁっ!」

 

 

右京の悲鳴とパーンと何かを叩く音が鳴り響く。

 

 

「彼処だな」

「乱馬ったら何をしたのかしら」

 

 

プレハブ小屋から聞こえた悲鳴に俺達はプレハブ小屋に入っていく。其処には叩かれ頬を赤くした乱馬と着衣が乱れた右京。うん、見る人が見たら誤解する光景だ。

俺達がプレハブ小屋に入ると玄馬さんが入ってきて乱馬を踏みつけた。

 

 

「乱馬、紹介しよう。お前の許嫁の右京だ」

「初耳だぜ」

 

玄馬さんが右京を指名しながら話すと右京は頬を染めて恥ずかしそうにしていた。うん、これは当たりかな。

乱馬はツッコミを入れながら玄馬さんに蹴りを叩き込んでいた。

 

そして玄馬さんが語り始める。

十年程前に右京親子と出会った際に、右京が乱馬の嫁になりたいと右京の父から話を持ちかけられた玄馬さんは、乱馬には既に許嫁がいると断った。が、持参金代わりに屋台を差し出すと言い始めた右京の親父の一言に右京を貰うと宣言してしまう。天道家との許嫁の約束があった玄馬さんだが、持参金代わりの屋台も捨てがたいと考えた玄馬さんは乱馬に選ばせる事にした。

 

 

『乱馬よ、父の問いに心して答えよ。お好み焼きと右京……どちらが好きだ?』

『うーん……お好み焼き!』

 

「その一言がワシの迷いを絶ちきった」

 

 

渋めに決めた玄馬さんだったが、右京はプレハブ小屋に置いてあった平均台で乱馬と玄馬さんを殴っていた。

 

 

「おのれらはぁぁぁぁっ!」

「落ち着けよ右京。復讐云々は兎も角、お前はまた乱馬と会いたかっただけなんだろ?」

 

 

興奮する右京の肩に手を置いて落ち着かせようと話し掛ける俺に、右京はギギギっと錆びたロボットの様に顔を此方に向けた。

 

 

「な……に、兄さんなに言うてんねん!」

「そうよ!」

「このちゃらんぽらんな親子を叩きのめす理由としては十分だわ!」

「ムース、どういう事カ?」

 

 

顔を真っ赤にする右京に周囲の女の子達は俺に非難の声を上げる。

 

 

「あくまで推測だけど……右京は乱馬を憎みきれてないんだと思う。本当に憎んでいたら窃盗と結婚詐欺で訴える事が可能だ。それをせずに10年も乱馬を探していたのは……右京、本当はただ乱馬に会いたかっただけなんじゃないのか?」

「そ、それは……」

 

 

俺からの指摘にモジモジしながら顔を真っ赤にして、指をツンツンさせながら喋る右京。可愛いな、おい。なんて思っていたらシャンプーに尻をつねられた。振り返ると不機嫌なシャンプーが睨んでいた。

 

 

「こほん。まあ、罪の9割は玄馬さんだろうが残りの一割は何も知らなかった乱馬と自分の事をちゃんと話さなかった右京……って所かな。まあ、あくまで外野の意見だから後は当人で話し合ってくれ。さ、俺達は外に出よう。後、女子一同は玄馬さんをシメといてくれ」

「「オッケー!」」

 

 

俺はパンパンと手を叩いて乱馬のクラスメイトをプレハブ小屋から外に出す。少し乱暴だとは思うが後は当人達で話し合うべきだ。

不満そうにしながらもプレハブ小屋から出ていく生徒達だが、女子達は俺の発言にバットやトンボを手にして玄馬さんに迫る。自業自得だな。直後、プレハブ小屋の外から玄馬さんの悲鳴と打撃音が聞こえてきた。南無。

 

そんな中、あかねは心配そうに物影から様子を伺っていた。プレハブ小屋では乱馬と右京の話し合いが始まっていた。

 

 

「シャンプー、あかねと一緒に居てやってくれ」

「ムースはどうするアルか?」

「ちょっと、気になってる事があってな。すぐに戻るよ」

 

 

シャンプーに呼び止められるが俺はそれだけ答えてその場を離れた。グラウンドから離れた所を走り、散策すると右京と同じ様な服装をした髭面の親父を発見。

 

 

「娘さんが、心配で来たんですか?」

「なんの事や?」

 

 

俺が話しかけると髭面の親父は惚けようとするが、そんな服装で関西弁を話してれば証拠としては十分だろう。

 

 

「いくらなんでも右京一人であんなリングの設置は無理だろう。となると手助けに来てる人物が居る筈。そしてそれは乱馬と右京の事を知ってる人物となれば限られてくるだろう」

「そうか。本当なら、このまま帰るつもりやったんやがな」

 

 

俺の発言に髭面の親父は漸く此方を向いた。そういや、親父の名前って原作でもアニメでも出てこなかった。

 

 

「ワテも早乙女親子には言いたい事は色々あったんやけど娘に全部任せたんや。後は娘次第やろ」

「当人次第って事ですね。あ、玄馬さんの事はシメときますから……って言うか乱馬のクラスメイトにシメられてる筈ですから」

 

 

俺の発言に「後は頼むわ」と髭面の親父はいぶし銀にその場から去って行った。娘の幸せを願う父の背……って感じだ。

 

 

「それに比べて……身から出た錆だな」

 

 

プレハブ小屋に戻ると女子一同にボコボコにされた玄馬さんが気絶していた。さっきの髭面の親父と比べるとあまりの落差にかなり哀れだった。

 

 

「あれ?あかねとシャンプーは?」

 

 

キョロキョロと周囲を見渡してもあかねとシャンプーは疎か、乱馬と右京の姿もなかった。何処に行ったんだろう?

 


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