ムース1/2   作:残月

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シャンプーの不満

 

 

 

◆◇sideシャンプー◆◇

 

 

 

私はムースを部屋に呼び出した。最近のムースの行動に少し疑問を感じたから。

 

 

「シャンプー」

「ムース……待ってたネ」

 

 

店の仕込みを終わらせたムースが私の部屋に来る。さっきの私の雰囲気を察してか、ムースの表情は固かった。

 

 

「えっと……シャンプー、話って……」

「さっきの右京や……小太刀の事ネ」

 

 

私が話を切り出すとムースは顔を歪めた。最近の行動に自覚があったのか気まずそうにしていた。

 

 

「私はあかねと乱馬の仲を取り持ちたい……でも、最近のムースは乱馬を狙ってる女の手助けしてる何故アル?」

「そればかりが理由じゃないんだがな……一応、他にも理由はある」

 

 

私が睨むとムースは縮こまって言い訳を始める。

 

 

「まず……小太刀の件だけど、この間、赤こけ壺を返しに行った時に佐助から聞いたんだが……」

 

 

佐助って九能の屋敷に居たお庭番だった筈。そいつに何を聞いたって言うんだろう。

 

 

「小太刀は九能家っていう特殊な環境で育ったせいで男の選び方も特殊だったらしい。聞けば保育園に通っていた時も顔が良い男を同じ保育園の女と取り合って大ケガをさせたらしい。それ以来、男を選ぶ基準も顔が一番だとか。それを考えれば兄も似たような感じだったが」

「それが乱馬と小太刀を仲良くさせた理由アルか?」

 

 

それだけじゃ理由にならないと思っていたが、ムースには他にも理由があったらしく説明が続く。

 

 

「つまり……小太刀は一般常識的な恋愛を知らないって事だ。それを教えてやれば少しはマトモになるかと思ってな。因みにだが、お茶会の時も俺が止めなければ痺れ薬を入れようとしていた」

「一般常識的な恋愛以前の問題アル。そんなのを親はなんで止めないネ」

 

 

小太刀の普通じゃあり得ない行動に私は少し引いた。

 

 

「一般常識的な恋愛は女傑族も人の事は言えないけどな。九能家の父親は十年以上前から仕事で何処か行っているらしくて不在、母親は既に離婚していて居ないそうだ。そんな中で小太刀が見ていたのは兄のみ。それであんな性格になった……と考えられる」

「仕事で十年不在って……」

 

 

私の疑問にムースは悩みながら答えた。どんだけ常識外れな一家アルか。

 

 

「佐助の話じゃ今はハワイに研修に行ってるらしいが……その為に小太刀が物心が付いた頃には父親は家に居なかったそうだ」

「それ、本当に仕事アルか?」

 

 

仕事で十年不在ってだけで相当怪しいと思う。

 

 

「まあ、つまりだ。小太刀はあの家でマトモな方向性の考え方をしないって事だ。マトモな恋愛を学ばせれば乱馬に対する執拗な恋愛姿勢も直るかとおもったんだ」

「つまり……小太刀と乱馬を仲良くさせてるのはそういう理由アルか?それじゃ右京の方はどんな理由ネ?」

 

 

小太刀の方の理由は分かったけど……右京の方はどんな理由か訪ねるとムースは言いづらそうにしていた。

 

 

「その……さ。右京は子供の頃の約束を破られたって言ってただろ?子供の頃の初恋が実らない……って思ったら少し俺達の立場に重なってな」

 

 

ムースの言葉に私はハッとなる。右京の心情を思えば、一緒になれると思っていた人と一緒になれない。それは私が最近感じた、怖い思いだった。私は両思いとなれたが右京は相手方に裏切られて一人取り残されたのだ。それを思うとムースが右京に少し肩入れした気持ちもわかる……だけど……

 

 

「私はあかねと乱馬が一緒になって欲しいアル。あかねは私の恩人で親友ネ」

「ああ……俺も同じ気持ちだ……でも、右京の気持ちもわかるから、ほんの少しだけ背中を押してやった。後は当人達に任せようとは……思ってんだけどなぁ」

 

 

私が思いを吐き出すとムースは困ったように笑って、悩みながら頭を掻いていた。ムースはいつもそうアルな。誰かの為にと悩んで世話を焼いて……思い出したらイラッときた。

 

 

「ムースは……他の女の子の応援ばかりしてるけど、私の事はほったらかしアルか?」

「そんな事……ないようにしたかった。ごめん、最近バタバタしてて構ってやれなかったな」

 

 

そう言うとムースは私に抱きついてきた。むう、誤魔化されてる気がする。でも、最近ムースと一緒の時間が無かったから……そう思った私はムースの背中に手を回す。

 

 

「ムー……」

「シャンプー、ムース。そろそろ開店時間じゃぞ」

 

 

私がムースの名を呼ぼうとすると一階から曾バアちゃんに声を掛けられ私とムースはビクッと体を震わせる。

互いに顔を赤くしながら気まずい雰囲気の中、私たちはソッと離れた。

 

 

「は、はは……開店時間だったな、うん」

「そ、そうアルね。私、少ししたら下に降りるからムースは先に行くヨロシ」

 

 

ギクシャクとしながらムースは私の部屋を出ていく。それと同時に溜め息が溢れた。

なんか……折角、許嫁になったのにバタバタしててムースと一緒の時間が作れないネ。そんな不満を抱えながら私はエプロンを身に纏い、下に降りた。

 

 


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