ムース1/2   作:残月

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ムースと右京

 

 

 

俺が右京が女である事を指摘すると、右京本人もシャンプーも凄い驚いていた。俺も原作を知らなければ同じリアクションだっただろう。

 

 

「兄さん、何で気付いたんや!?大概の人は言わなきゃ気付かへんで!?」

「仕草や動きからかな。何となくだけど男として振る舞おうとする動きが見えたのと……後は体のラインかな。男にしては華奢すぎる……どがっ!?」

 

 

 

俺が右京を女の子と気付いた経緯を説明していたら後頭部を殴られた。振り返るとシャンプーが丸盆で俺を殴っていたのだと分かる。おいおい、ステンレス製のお盆が凹むってどんだけ強く殴ったんだよ。超痛い。

 

 

「それでジロジロ見てたアルか!」

「いや、すまん。つい癖で」

「ムースは暗器使いじゃからな。相手を観察するのが癖なんじゃよ」

 

 

ああ、女の子をジロジロ見てたら、そら怒るわな。婆さんのフォローも入って少し怒りが軟化した様だがまだ納得はしてない感じだ。

 

 

「あ、はは……そうやったんか。でも、ウチは女を捨てた身や。気にせんでええよ」

「女を捨てるにはまだ早いと思うがの」

「そうそう。捨てるなら婆さんくらいの年齢になってか……らぅ!?」

 

 

苦笑いの右京に婆さんが口を出す。俺は口が滑って婆さんの杖に小突かれた。地味に痛い。

 

 

「女一人でこの町に来たのも、何か理由が有るのカ?」

「………復讐や。ウチが女である事を捨てる切っ掛けを作った親子に焼き入れる為や」

「穏やかじゃねーな」

 

 

シャンプーが疑問を口にすると右京は俯きながら答えてくれた。俺は穏やかじゃないと言いつつも事情を覚えてるから何とも言えない。

 

そもそも事の発端は十年以上前に乱馬と右京が出会った頃にまで遡る。乱馬の親父の玄馬は右京の親父から右京を乱馬の嫁にと提案を持ちかけられるが玄馬は一度は拒否するも持参金代わりの屋台に目がくらみ、屋台だけを持ち逃げし、右京は置き去りにした。

 

普通に刑事案件だよな、これ。裁判になったら確実に負ける。恨まれるのも当然だと思うが……だけど、この頃の右京は口では恨んでると言ってはいたものの乱馬を意識してるのがバレバレだった。

 

 

「それで、その親子の所在はわかっておるのか?」

「この町に居るって噂を聞いたんや!それにお父ちゃんから、そいつに許嫁がおって、其処に居候してるちゅー話も聞いとる!」

「この町に居て……許嫁の家に住んでる?」

 

 

話の流れで婆さんが右京の身の上話を聞いていたのだが、この中で右京の復讐の対象の情報が出ると婆さんとシャンプーはハッとした表情になる。うん、そんな奴はこの町に一人しかいないだろう。

 

 

「なんや……婆ちゃん達、なんか知っとるんか?」

「もしかして、乱馬カ?」

「……だろうな」

「あやつしかおるまい」

 

 

右京が怪訝な顔付きで訪ねてくるが俺達は既に確証を得ていた。この町で許嫁の家に居候していて、人に迷惑を掛ける親子。これだけの情報があれば察する事は出来るだろう。そして右京から子供の頃の話と名前を聞くとやはり、早乙女親子の犯行だと判明する。

 

 

「迷惑な親子じゃのう」

「女の敵ネ」

「焼き入れるなら俺達は止める気はないから安心してくれ。その噂の許嫁の家だが……」

 

 

俺達は早乙女親子に同情する気はなかった。そろそろ本気で反省してもらわないとトラブルが目白押しすぎる。

俺は右京に天道道場の住所を教えると右京から感謝された。

 

 

「ほな、おおきに。探すのにもっと時間かかる思てたから助かったわ!」

「今度、妹も一緒にお好み焼き食べに行くよ」

 

 

俺達は右京を見送りに店の外に出ていた。話し込んでしまったが右京も引っ越したばかりでやらなければならない仕事が多いのだ。

 

 

「妹?なんや兄さんの妹なら可愛いんやろうなぁ」

「いや、俺の妹じゃなくてシャンプーの妹なんだ……もっとも」

 

 

右京は俺に妹が居ると勘違いした様だが、リンスは俺の妹じゃなくてシャンプーの妹だと訂正して、俺はシャンプーを引き寄せ肩を抱く。

 

 

「何年かしたら俺の妹にもなるけどな」

「え、あ……ムース…」

「うっひゃぁ……大胆やわぁ」

 

 

俺の発言に一瞬遅れてから顔を赤くしたシャンプーと意味を察して顔を赤くする右京。女の子のテレる顔って可愛いね。

 

 

「あはは……ほな、ご馳走さまぁ~」

 

 

右京はそそくさと猫飯店を後にした。シャンプーはジッと俺を見上げてる。

 

 

「ムース……その……さっきの……」

「ただいま、帰りました!」

「お、おかえりリンス」

 

 

シャンプーが何かを言おうとしたと同時にリンスが帰って来た。俺とシャンプーは向かい合ったままリンスを出迎える形となってしまった。

 

 

「?……どうかされました?」

「いや……さっきまでお客さんが来ててな」

「今度、リンスも一緒にお好み焼き食べに行くネ」

 

 

小首を傾げるリンスに俺とシャンプーは簡単に事情説明をする。くそう、せっかくいい雰囲気になりかけてたのに……

 

 

「ムース……後で話があるネ」

「ん……わかった」

 

 

シャンプーの真面目な表情に俺は思わず頷くが……さっきまで上機嫌だったのが急に真面目な顔付きになったな。何か思うところでもあったのだろうか?

 


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