ムース1/2   作:残月

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和風男溺泉を探せ①

 

 

 

 

 

ある日、猫飯店の休憩時間中に乱馬が店に駆け込んで来た。

 

 

「ムース、頼む!手伝ってくれ!」

「休憩時間中になんの用だ、乱馬」

 

 

何やら慌てた様子の乱馬は何故かボコボコされており、タンコブや擦り傷が目立っていた。

 

 

「取り敢えず傷の手当てだな。それから、何があったかを……」

「それどころじゃねーんだ!これを見てくれ!」

 

 

乱馬はボロ切れの地図を俺に差し出す。地図には和風男溺泉の地図と書かれていた。そーか、和風男溺泉の話か。

 

 

「和風男溺泉の地図か……しかし和風男溺泉を探すのは難航している様だな。そんなにボロボロになるとは」

「これには事情があるんだよ!その地図が示す和風男溺泉の場所が……場所が……」

 

 

俺の疑問に乱馬は言い淀む。いや、事情を知ってるから分からんでもないが。

一応、乱馬から話を聞くと良牙がとある寺から和風男溺泉の地図を貰ったらしく二人で和風男溺泉を探し始めた。だが、地図が示した和風男溺泉の場所は風林館高校の女子更衣室の下に有るのだという。つまり和風男溺泉を探す為には女子更衣室に侵入しなければならないのだが、普段から八宝斎に下着や体操着を盗まれていた女子達が女子更衣室の周囲に罠を仕掛けたらしく、警備態勢が厳しい上に、地図を持ってきて協力体制だった良牙が裏切って、あかねの味方となった。

 

 

「大方、あかねが誤解して都合の良い解釈をした挙げ句、その評価を落としたくない良牙が目先の事に捕らわれて女子更衣室への侵入を拒んでるんだろ?」

「流石、ムースだ。話が早い……って事で手伝ってくれ!」

 

 

原作でも、あかねからの評価を落としたくない良牙が乱馬の評価を落とそうと動いたからな。乱馬は余程、追い詰められてるのか必死に頭を下げてくる。

しかし和風男溺泉か……オチが見えているけど手伝わないのは不自然だよな。

 

 

「和風男溺泉探し手伝ってやろう。ただし、正攻法でだ」

「頼りになるぜ!」

 

 

椅子から立ち上がった俺を乱馬は尊敬の眼差しで見ている気がする。下手に侵入しようとするから駄目なんだ。ならばそれを逆手に取る。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

「おい、ムース……なんでシャンプーを連れてきたんだよ」

「合法的に中に入る為だ」

「事情はムースから聞いたネ。任せるヨロシ」

 

 

俺は出前から帰って来たシャンプーに事情を話して風林館高校へと出向いた。先程の乱馬達の様に女子更衣室へ侵入するのではなく、堂々と入る為に。

 

 

「そっか、シャンプーなら女子更衣室に入っても問題ない!」

「そう、男の俺達が入るから変態扱いされる。ならば、女のシャンプーに任せれば問題は無いって事だ」

 

 

女子更衣室から少し離れた地点の木の上で俺と乱馬はシャンプーからの報告を待っていた。まあ、和風男溺泉が無いのは分かっているが協力しない訳にはいかない。ならば俺達が一番被害が少なくするにはどうするか。それはシャンプーに和風男溺泉が眠る女子更衣室の地下を調べて貰えば、問題は無いって事だ。後はシャンプーが『和風男溺泉は閉鎖しました』って書かれた文章が納められている壺を見付ければ終わりだ。

 

 

「にゃん、うにゃん」

「え……」

「な、な、な……」

 

 

そう、作戦は完璧だった筈。しかし、何事にもイレギュラーは発生する。木の上に居た俺と乱馬だったが、その乱馬に甘える様に野良猫が乱馬にすり寄っていた。突然の事態に乱馬は硬直してる。

 

 

「落ち着け、乱馬!今、猫を……」

「ね、ね、猫ぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

 

パニックになった乱馬は猫を振りほどこうと暴れ始めた。木の上で暴れれば落ちるのは当然。俺と乱馬と猫は纏めて落下した。俺は咄嗟に猫を抱き抱え暗器で猫を地面にそっと下ろす。よし、これで猫は……ぐえっ!?

 

 

「猫が好きぃぃぃぃぃぃぃっ!?」

「落ち着け、乱馬っつ……止まれ!いや、マジで止まって!」

 

 

乱馬はパニックになったまま、俺を抱えて走ってる。その進行方向には女子更衣室が……

 

 

「止まっ……」

「ふぎゃぁぁぁぁぁっ!」

 

 

俺の制止も虚しく、乱馬は女子更衣室へと突撃した。窓を破壊し、中に侵入してしまった。ヤバい……このままでは俺も変態の扱いをされてしまう……

 

 

「ムース、こっちネ!」

「シャンプー!?」

 

 

女子更衣室に突撃したと同時にシャンプーが俺を抱き、外へと連れて出してくれた。乱馬は置き去りだが仕方ない。

 

 

「た、助かった……」

「私が女子更衣室に入る前に突入したからビックリしたね」

 

 

振り返ると乱馬が女子生徒達にボコボコにされていた。南無、お前の犠牲は無駄にはしないぞ乱馬。

 

 

「乱馬がボコボコにされている間に女子更衣室に入って調べちまおう」

「了解ネ」

 

 

図らずも囮にしてしまったが今の内に終わらせちまおう。俺はシャンプーを引き連れて窓からではなく扉から普通に女子更衣室へと入った。流石に先にシャンプーに入ってもらってから俺は後で入る。先に入って女子が居たら洒落にならんからな。

 

 

「曲者!」

「良牙、お前カ」

「よう、恥知らずな裏切り者」

 

 

中には椅子に座って待機していた良牙が椅子を投げてきたが俺は椅子を叩き落とすと良牙と向かい合う。

 

 

「乱馬かと思ったが……お前とはなムース」

「乱馬から聞いたぞ。お前、一人だけ逃げた上に乱馬に罪を被せようとしたんだろ」

 

 

良牙は少し驚いた様子だった。俺は乱馬から話を聞いていたのもそうだが、原作でもこの部分は許せなかった。Pちゃんの姿で女子達の下着裸を見た挙げ句、その罪を乱馬に被せ、自身は正義の味方みたいな振る舞いをしていた辺りが特に。

 

 

「し、しょうがないじゃないか!そうしなければ俺があかねさんに嫌われてしまう!」

「いっそ嫌われてしまえハレンチ豚野郎」

 

 

乱馬とあかねの事を思ってか、辛辣なシャンプーの一言。罪の意識があるのか胸を押さえる良牙。もっと反省しろ。

 

 

「シャンプー、良牙は俺が叩きのめすから和風男溺泉の事を調べてくれ」

「待て、ムース……良牙とは俺が戦う……」

 

 

俺はシャンプーに和風男溺泉の事を調べて貰おうかと思ったけど、扉から乱馬が入ってきた。

 

 

「良く無事だったな乱馬」

「蛇とか蛙のオモチャで撹乱してから来た。それはそうと良牙……よくも」

「乱馬……そんなにしてまで下着が欲しかったの?」

 

 

会話の最中で、追い付いてきたあかねが絶望したかのような表情で乱馬を見詰めていた。

 

 

「乱馬が変態なのは体質だけだと思ってたのに……さよなら」

 

 

あかねは乱馬に下着の束を渡して、シリアスに去ろうとしている。いや、シリアスのベクトルが明らかに間違ってる気がする。

 

 

「待つネ、あかね。乱馬を信じるヨロシ」

「なんでよ!乱馬は下着欲しさに女子更衣室に入ろうとしてたのよ!」

 

 

シャンプーの制止にあかねは目の端に涙を溜めていた。

 

 

「違うっての!この女子更衣室の下に和風男溺泉があるんだよ!」

「和風男溺泉が……?」

 

 

乱馬の叫びにあかねは俺やシャンプーを見る。俺とシャンプーは肯定する様に首を縦に振るう。

 

 

「本当なの?ムースやシャンプーが言うなら本当なのかも……でも……」

「俺の言う事は信じないのにムースとシャンプーは信じるのかよ」

「少なくとも俺は乱馬から和風男溺泉の話を聞いてな。穏便に話を進めようとしたんだが……まあ、トラブルがな」

 

 

あかねは乱馬を信じなかったが俺やシャンプーを信じてくれた。うん、信頼があるね。つーか、普段の事を思えば乱馬を信じても良い筈だが。

 

 

「この間、スフレさんにも言われた……もっと乱馬と仲良くって……」

「乱馬、女の敵めっ!」

 

 

あかねの思考を遮るかの様に良牙が乱馬に襲い掛かっていた。何をしてるか、このタイミングで。大方、このまま話が進んで女子更衣室に自分が侵入した事を隠したいんだろうが対処が甘いな。

 

 

「そもそも、和風男溺泉の地図を持ってきたのはテメェだろうが!」

「黙れ!」

「はい、そこまで」

 

 

喧嘩を始めた乱馬と良牙。俺は縄付きの鉤爪で良牙を縛る。話がややこしくなるから止めろ。グルグル巻きにされた良牙をあかねは驚愕の表情で見ていた。

 

 

「なんで、良牙君が和風男溺泉の地図を……まさか!乱馬の体質を治す為に地図を探してきてくれたのね!」

 

 

自身の正体がPちゃんだとバレたのか?そんな戦慄が走った良牙だったが、あかねの勘違いは未だに続いていた。

 

 

「あかねが鈍くて良かったなー、Pちゃん」

「誰が……Pちゃんだ!爆砕点穴!」

 

 

乱馬の発言に怒った良牙はグルグル巻きで身動きが取れなかったから爆砕点穴で地面を刺した。その直後、地面から間欠泉の様に水が溢れ出てきた。

 

 

「やった、これで男に!」

「女子達は速く外へ!急げ!」

 

 

喜ぶ乱馬だが、今は女子を逃がす方が先決だろ。俺の叫びに女子生徒達は弾かれた石のように女子更衣室から逃げていった。シャンプーやあかねも逃げていったのを見た俺は安堵し……その直後、大量の水に押し出され外に飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇side乱馬◆◇

 

 

 

大量の水に押し出されて俺とムースと良牙は木の上に弾き飛ばされていた。俺達は木の上で座って絶望していた。

 

 

「…………おい、あの地図は本当に和風男溺泉の地図だったんだよな?」

「ぶきぃ」

 

 

俺は良牙が持ってきた和風男溺泉の地図を信じ、ムースにまで頼んで和風男溺泉を探した。苦労したが和風男溺泉を堀当てたと思った……思ったのに。俺とムースは女になって、良牙は豚になっていた。

 

 

「じゃあ、なんで元に戻れないんだよ!なんとか言ってごらん、Pちゃん!ブヒブヒじゃ分からないのよ!」

「落ち着け、乱馬。女言葉になってるぞ」

 

 

俺が良牙を責めているとムースが止めに入る。落ち着けないっての!

 

 

「しかし、和風男溺泉じゃなかったって事はこの地図が偽物だったか……おっと」

「なんだ……壺?」

 

 

すると水に押し出されて来たのか、妙に大きい壷が飛んで来た。ムースはそれを察知していたのか壷を受け止めた。その壷は青い色をして不思議な模様が描かれていた。

 

 

「変わった壷だな……まさかこれに和風男溺泉の在処が!?」

「………こっちだったか」

 

 

俺はこの壷が和風男溺泉の手がかりになるんじゃないかと思った。婆さんに聞けば何か分かるかも知れない。ムースは壺を見て何か呟いたが、今は婆さんの所に行かなくちゃだな!待ってろよ和風男溺泉!絶対に探してやる!

 

 

 


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