ムース1/2   作:残月

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ムースの日記とコロン

◯月△日

 

 

ムースになってから数週間。薄々感じてたけど、この村めちゃくちゃ閉鎖的な村だった。

なんせ電気が通ってないんだもん。テレビもなけりゃラジオすら聞けない。文明開化に逆らってるとしか思えない。

オマケに他所の村の人達との交流も殆ど無い。マジでアマゾネスみたいな村だよ、女傑族。

 

 

◯月□日

 

女尊男卑が凄まじい女傑族。普段から女が強く男が弱い立場だ。俺がシャンプーに勝ったと親父が強く主張するのは女傑族の女尊男卑を覆したいからなのではと思う。

シャンプーは女傑族の族長の娘。そのシャンプーに男の俺が勝ったとなれば、実際今の女尊男卑を変える切っ掛け程度にはなれるかもしれない。

 

 

◯月×日

 

シャンプーとはよく遊ぶのだが何故か最終的には勝負に持ち込まれる。頼むからトランプで負けた腹いせに格闘に持ち込むのは止めてくれ。

 

 

△月×日

 

修行しながらもシャンプーと遊ぶ日々が続く。手の掛かる子だけど可愛いし楽しいからいっか。

 

 

△月◇日

 

何故かシャンプーの曾祖母コロンに鍛えられてます。正直、大変だが体は三歳でも中身は高校生だ。乗りきってみせる。

 

 

△月◆日

 

なんか日々の修行がめちゃくちゃキツい。いや、三歳の子供にさせる特訓じゃねーよと叫びたい。

 

 

△月◯日

 

毎日、ボコボコにされてる。体が痛め付けられて筆を持つ手が震えてる。シャンプーの可愛さが癒しとなってきてる段階でヤバいかも。

 

 

△月□日

 

かゆ……うま……

 

 

□月×日

 

修行の最中に気絶していたらしい。コロンの婆さんもやり過ぎたと謝りに来ていた。シャンプーが見舞いに来ていたらしいけど軟弱者と罵られました。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇sideコロン◆◇

 

 

 

どうしたものか……先日、行われた武道大会でシャンプーとムースが引き分けてしまった。本来の予定ではシャンプーが他の者達を圧倒し、優勝するのがワシやコスメの描いておった未来だったんじゃがムースは見事な逆転劇を披露しよった。最後の詰めの甘さが気になるが誰の目から見てもムースの勝ちじゃった。

コスメや他の村の者はシャンプーの勝ちを主張しとるがワシはワックスらが主張するムースの勝ちを支持したい。

 

それと言うのも女傑族の風習を変えねばならんとワシ自身が考えとるからじゃ。

女傑族の掟として『余所者に負けた場合、相手が女なら地の果てまで追い詰めて殺す。男なら夫とすべし』この掟故に近年、女傑族では子供不足に悩まされている。

掟を破り、村の外へ嫁ぐ者も増えてきてしまった。

 

このままではこの村に未来はない。じゃがワシもこの掟を守り、嘗ては族長をしていた身。おいそれと反対意見を出す訳にもいかん。じゃがムースの存在はそれを破る切っ掛けとなりそうじゃとワシは考えた。

ムースがこのまま強くなれば女傑族の悪しき風習を覆せるやもしれん。

 

それに日頃からムースとシャンプーは良く遊んでおる。この話にはうってつけじゃろう。

以前はムースがシャンプーの後を追っている印象じゃったが今はシャンプーがムースの後を追っている様に見える。歳は同じ筈なんじゃが、どうもこうにも最近のムースは年相応には見えんな。

ムースとシャンプーを見ておると歳の離れた兄妹を見ておる気分じゃ。

 

ともあれ……ムースを鍛えてやるとするか。ワックスも決して弱い訳じゃないが師とするには少々頼りない。むしろムースの才覚を伸ばしきれぬやもしれん。ワシ自ら鍛えてやるとしよう。

 

 

 

やり過ぎたと反省しておる。修行を重ねる内にムースの身の丈を越えた修行を課してしまった。その結果、ムースは怪我をしてしまい、今は熱を出して寝込んでおる。

 

ムースは修行中でも弱音は吐くが諦めはせなんだ……更に与えられた試練を持ち前の器用さで解決してしまう。故に三歳の子に課す以上の修行を強いてしまった。

 

修行中に倒れてしまってから過ちに気づきムースを家まで送り届け、ムースの両親に謝罪した。ワシの我儘にムースを巻き込んでしまうとは情けない事をしてしまった。ムースの修行は取り止めじゃな。特にムースが倒れたと聞いた時のシャンプーの泣きそうな顔はもう見たくないからの。

 

そう思っておったのじゃが、ムースの父ワックスはワシに寧ろ頭を下げて修行の継続を申し出た。

 

 

「コロン様。アナタがムースを鍛えてくれるのはムースの為になるでしょう。それこそ最初の内はムースがシャンプーに勝った事に対する腹いせかと邪推しましたが修行をしているムースは楽しそうにしていましたし……何よりも此処で修行を止めてしまうとムースとシャンプー様の仲を崩してしまうやもしれません」

 

 

そう言って視線を眠るムースに向ければ心配そうにムースに寄り添うシャンプーの姿が。『軟弱、弱虫』と言ってはおるがムースの事を心配しているのは表情から明らかじゃった。

 

 

「じゃがのう……」

「無論、今までのような修行ではなくムースの成長に合わせた修行でお願いします。私もムースの成長が楽しみなので」

 

 

今回の原因となったワシは修行の継続を悩んでおったがワックスの申し出を受ける事にした。

一先ずはムースの体が治るのを待って……日々の修行プランの練り直しじゃな。

 

 

「何を寝てるか……早く治さないと愛想尽かすぞ、ムース」

 

 

これ、シャンプー!寝ているムースの頬を引っ張るでない!ワシは不満そうな顔をしているシャンプーを引き剥がすとムースの家を後にした。

 

 

「曾婆ちゃん……ムース、大丈夫アルか?」

「うむ……過労と怪我で熱を出しておるからの。暫くは安静にせねばなるまい」

 

 

家を出た途端に先程の態度から一転。シャンプーは不安そうな表情でワシに問い掛ける。やれやれ、素直になれんのは血筋かの……ワシは自分の若い頃と曾孫に姿を重ねて溜め息を溢した。

ムースとシャンプーの仲を取り持つ方法も考えねばならんな。

 


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