シャンプーとあかねから掟を覆す方法を聞いた。
その方法とは過去に俺とシャンプーが戦った時の勝負の判定を俺の勝ちにするという事だった。今回の戦いでシャンプーが乱馬に負けたとするなら、あの時の俺とシャンプーの戦いの結果はシャンプーの負けとなる。
そして、その時に俺に負けたシャンプーは俺の仮の嫁/許嫁になっていたとすれば、男の乱馬に負けたのも夫としなくても問題は無くなるし、女の乱馬も元は男だとすれば今後、始末する必要は無くなる……っと。
「……なるほど」
俺はシャンプーから右手の治療を受けながら話を聞いて納得したというか……なんというか……
「ね、これでもう女の乱馬も男の乱馬も狙われずに済むのよ。良かったじゃない乱馬」
「ちぇ……だったら、もっと早くにその結論を出してくれりゃ良かったのによ」
「抗議できる立場か、お前は」
あかねが乱馬に、もうシャンプーに襲われない事や俺とシャンプーの仲を説明して乱馬に良かったと同意を求めていたが、乱馬はもっと早く解決出来ただろうと不満気味だった。が、俺のツッコミに押し黙る。
「よし、これで大丈夫ネ。でも、まだ激しく動かしたら駄目ヨ」
「ありがとう、シャンプー」
手の治療をしていたシャンプーは俺の右手に包帯を巻き終えると笑みを浮かべた。色々と未解決だった事が解決して、ご機嫌だな。
「れ、礼は必要無い……旦那の怪我の手当て……つ、妻の仕事ネ……」
「お、おおう……」
プシュ~と湯気が出そうな位に真っ赤になるシャンプー。可愛いなぁ、おい!
「シャンプーったら、可愛い~」
「可愛らしいわねぇ」
あかねとかすみさんに言われて更に顔を赤くするシャンプー。何、この可愛らしい生き物。
「しかし……良かったのかシャンプー。俺が相手で……その……」
「ムース!お前がいつも私に何か遠慮してたのは分かってる!私が族長の娘だからカ?私を妹としてしか見てないからカ?でも、私は昔から相手はお前と決めていたネ!他は嫌!お前はどうアルか!?」
俺の発言にシャンプーは俺の胸ぐらを掴み上げると、顔を真っ赤にしながら涙目で俺に迫る。それはシャンプーの行動や思いが本気なのだと伝わる。
俺は今まで……この世界に転生してから何処か諦めていたのかも知れない。
『原作だから』『話の流れだから』そんな考えをしていたから『いつかシャンプーは乱馬に惚れる』と考えてシャンプーの事も本気で考えてなかったのかもしれない。そう思うと馬鹿馬鹿しいな。原作の流れに背こうとする反面、何処か諦めていたのだから。
でも、今の思いを否定する気には……もうならない。
「シャンプー……だったら俺から言わせてくれ。掟なんか関係なく俺と一緒になってくれるか?」
「………うん、勿論ネ。旦那様」
俺は胸ぐらを掴み上げていたシャンプーの手を取ると両手で握る。シャンプーは俺の行動と発言に一瞬理解が追い付かなかったのか、キョトンとしたが直ぐに顔を真っ赤にして返事をくれた。
これでいい……原作なんか関係ない。俺は俺の思いでシャンプーを……と俺は此処でハッと気付く。何に気づいたかと言えば、これから族長や婆さんを説得しなければならない事とか原作の流れ的に日本には移住しないのか?等の考えではなかった。
俺が気づいたのは……
「あ、あいやー……」
シャンプーも俺の動きが固まった事で気付いたらしい。冷や汗を流しながら顔を真っ赤にするという合体技を披露している。
何故ならば、同じく頬を染めながら此方を見る乱馬、あかね、かすみさん、玄馬さん、早雲さん。なびきは頬を染めていないもののニヤニヤと興味深そうに此方を見ている。
そう……此処は天道家の居間なのだ。人様の家でプロポーズ染みた台詞を言った俺に先程から告白を連発した挙げ句、既に夫婦感を出してしまったシャンプー。これはもう恥ずかしいとかの次元じゃなかった。
「あ、あいやー!!」
「え、ちょ、シャンプゥゥゥゥゥッ!?」
シャンプーは握られていた手を上手く捌くと、俺の手首を逆に掴み俺を庭の池へと投げ飛ばした。突然の事態に俺は受け身を取る間もなく池へと叩き落とされる。
「あらあら、まあ」
「照れ隠しの仕方が、あかねと同じね」
かすみさんは仕方ないわね、と言った様子で、なびきは煎餅を頬張りながら呆れた様子で……乱馬とあかねで、この光景に慣れてるな天道家の皆さんめ。
この後、俺とシャンプーは今夜は天道家でお世話になる事になった。夜も遅いと言う事と……まあ、シャンプーがまだ落ち着かない様子だったので、あかねに任せる事にしたのだ。
「しっかし、意外だったな。あかねとシャンプーが仲良くなるなんてよ」
「シャンプーの方は嬉しかったんだろう。さっきシャンプーが言ってただろ。『族長の娘だから遠慮したのか?』ってさ。シャンプーは族長の娘って立場だから同年代からも敬語を使われて、年下からは『姉御』って呼ばれて少し距離を置かれてたんだ。俺はいつも一緒に居たけど、同年代でハッキリと『友達』って言ってくれたのは、あかねだけだったからな」
俺は乱馬の部屋でシャンプーはあかねの部屋で一夜を過ごす事になっていた。玄馬さんはパンダに変身してから既に就寝している。何故、寝るときにパンダになったのだろう?
それはさておき、乱馬と寝る前に少し話をしていたのだが当然話題はシャンプーに関する事だった。
「でも、これで色々と片付いたよ。族長や婆さんの説得が大変になるかもだけどな」
「掟に厳しい一族だもんな……シャンプーに命を狙われてる時は気が気じゃなかったぜ……でもよ、あんだけ恥ずかしい事をよく言えたなムース。俺には言えないぜ」
悩みが解決した一方で悩みが発生したが、それは今後の課題だな。あの中国3000年妖怪婆さんをどう説得するか……乱馬はシャンプーに命を狙われてる時を思い出してるのか顔が青ざめてる。と思ったら乱馬は俺を弄ろうとしている。やれやれ、俺を弄るなら覚悟は必要だぞ?
「『あかねは俺の許嫁だ。手を出したらぶっ殺すぞ』だったっけ?」
「な、お、お前……」
俺の言葉に乱馬は顔を赤くし始めながら俺を指差してプルプルと震えてる。
「言ったろ、試合を見たってな。俺の告白が恥ずかしい?お前もよっぽどだと思うがな」
「て、てめぇ!」
ニヤニヤとしていたら乱馬が襲い掛かってきた。先に弄って来たのはお前だろうが!迎え撃とうとしたのだが寝ている時にバタバタとしていたのがイラッと来たのかパンダ状態の玄馬さんにブッ飛ばされた。
ギャグが多いとは言っても流石は乱馬に武術を教えていた人だ。重い一撃で俺と乱馬は沈められ、意識を失った。
良牙の行方は次回です