ムース1/2   作:残月

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シャンプーの決意

 

 

◆◇sideシャンプー◆◇

 

 

目が覚めた後に自覚したのは絶望だったアル。後頭部の痛みに私が倒れていた事実。昔、ムースと戦って負けた時と同じ状況。それは即ち、私が目の前の男に負けたと言う事。

 

ムース以外の男に負けた。女傑族の掟で、この男を愛さなければならない。ムースとは一緒に居られない。そう思ったら胸が痛み……涙が出ていた。

 

 

「え、あ、ちょっ……」

「シャ、シャンプー……」

 

 

目の前の男とムースが泣いている私に動揺し、慌てている。私は……私は……

 

 

「シャンプー、こっちに来て!乱馬とムースは此所で待ってて!」

「ふえ?……アイヤー!?」

 

 

ふと気が付けば私は男と一緒に居た女に手を引かれていた。

 

 

「お、おい。あかね!?」

 

 

男の方が女の名を呼んだようだが女は止まらずに私を連れ出す。着いたのは恐らく、女の部屋と思わしき場所。

 

 

「よしっと……」

「なんで……私をあの場所から連れ出したカ?」

 

 

困惑する私を尻目に女は私の手を取った。

 

 

「この後、どうなるにしても一度落ち着いた方が良いかと思ってね」

「落ち着いたって……変わらないネ」

 

 

そう……落ち着いたって何も変わらない。

 

 

「その……掟の事はムースから聞いたわ。でもムースも言ってたけど掟の抜け道を探してたって」

「ムースが……?」

 

 

女に言われてハッとなる。思えばムースは日本に行くと決めた時から妙に考え込んでる事が多かった。まさか、私の為に掟に逆らおうと……そこまで考えてから私は頭を振った。

 

 

「違うネ……ムースは……」

「何が違うの?私はまだ少ししかムースと会って無いけどムースがシャンプーの事を大切に思ってるのは凄く伝わったわよ」

 

 

私が否定すると女はムースの事を語る。確かにムースは私を大切にしてる気がする……でも、それは……

 

 

「違う……ムース、私を女として見てないネ。いつもそう……」

「シャンプー……」

 

 

そう。ムースは私を只の幼馴染みか妹としてしか見ていない。以前は私と一緒にいて優しくて、それは私だけにと……そう思っていた頃にリンスが生まれて、その優しさはリンスにも向けられていた。つまりそれはムースが私を妹として見ていたと言う事。

 

 

「私……ムースにとっては只の妹……それだけネ」

「そうなの?……でも私は羨ましいと思っちゃったかな」

 

 

私の言葉に女は微笑んだ。羨ましいって何カ?

 

 

「私ね……お姉ちゃんばかりでお兄ちゃんは居なかったの。それにムースはシャンプーの事を思ってるじゃない。乱馬は私に優しくないし……」

「ムースは優しさが過ぎるね。それに気を使ってる様で妙な行動とる時もあるネ」

 

 

乱馬とは先程の男か?女的乱馬と同じ名前ネ。

 

 

「それに私の事、貧乳とか寸胴って馬鹿にするし……」

「女として見られてないの私も同じ。一週間の船旅でムース、一度も私に手を出さなかったネ」

 

「それってシャンプーに気を使ってたり、照れてるんじゃないの?ムースって大人の人って感じだし」

「それを言うなら男的乱馬は素直になってないだけに聞こえるネ。意地張って思ってる事と違う事、言ってる風に聞こえるアル」

 

「私達って似てるのかもね」

「男に振り回されてる件じゃ同意ネ」

 

 

気が付けば私達は声を出して笑っていた。立場が違うけど男に悩ませられるのが、とても似ていた。

 

 

「でも……私の場合、事情が違うネ。女傑族の掟で男に負けたら、その男を夫にしなければならないネ」

「アレって負けたと言えるのかしら?良牙君を狙ってシャンプーが暴れた所を乱馬が止めた形になるからマトモな戦いじゃないと思うんだけど」

 

 

女傑族の掟を口にしたけど女には納得がいかないと言われる。たしかに……掟には当たらない気もするけど……

 

 

「だから今回、乱馬に負けたって言うのも違うんじゃない?良くても引き分けとか」

「でも、前に……子供の頃にムースに同じ形で負けたね……だから今回も負け……子供の頃に同じ形でムースに負けた……」

 

 

女の言葉に私は昔を思い出す。そう……あの頃は意地を張って『引き分け』と言ったけど今は『負けた』と言える。

あの時、ムースと戦った結果として私は負けたとなる。つまり、あの頃に私はムースの仮の嫁となっていた事にすれば今回、男的乱馬に負けたとしても女傑族の掟は適応されない。何故なら『余所者に負けた場合、相手が女なら殺すべし。相手が男なら夫とすべし』とあるけど、これは既に夫や許嫁が居る場合は適応されない。

この話なら、私が子供の頃に負けた事を認めて仮の嫁とすれば、男的乱馬の嫁にならずに済む。

 

 

「それにシャンプー、男の乱馬と女の乱馬は同一人物なのよ?」

「え……同一?」

 

 

女の言葉に私は驚く……男的乱馬と女的乱馬が同じ?

 

 

「うん……呪泉郷って所で呪いを浴びてね。水を被ると女になっちゃうの」

「そう言えば前にムースが調べていたネ……」

 

 

ムースは昔から様々な物を調べていた。書物を調べたり曾バアちゃんに聞いたりしてた。でも、もしそれが本当なら全てが上手く行く。

私はムースに以前負けた時に仮の嫁/許嫁になっていたとすれば、男的乱馬に負けたのも夫としなくても問題は無くなるし、女的乱馬も元は男だとすれば今後、始末する必要は無くなる。

 

 

「だから女の乱馬も命を狙う必要は……」

「大歓喜!謝謝!」

 

 

私は女の手を取り、礼を言う。この女から説明を貰って全てが解決した。

 

 

「シャ、シャンプー?」

「全部解決したネ!これで私、自由の身になれる!ムースもきっと喜ぶネ!」

 

 

驚く女に私は先程の考えを全部話した。

女傑族の掟や昔、ムースと戦った時の事の全てを。

 

 

「じゃあ、シャンプーはもう男の乱馬を夫にする必要もないし、女の乱馬を狙う必要も無くなるのね?」

「そうネ。後は私とムースが女傑族の村に帰ってママや曾バアちゃんを説得すれば問題無!」

 

 

私の説明に女は私と喜びを分かち合ってくれた。そして私は其処で気付く。

 

 

「どうしたの……シャンプー?」

「私、お前の名前聞いてなかったネ」

 

 

怪訝な顔になる女に私は思った事を口にした。散々話をしていたのに自己紹介もまだだったネ。

 

 

「そうだったね。私は天道あかね」

「ヨロシクな、あかね」

 

 

今更、改めて交わす自己紹介に互いに笑ってしまった。こんなに笑ったのも久し振りネ。

 

 

「後は下で待ってるムースに伝えるネ」

「そうね。命を狙われる心配も無くなるから乱馬も安心だわ」

 

 

私とあかねは笑いながら部屋を出る。なんか晴々とした気分になってきたネ。

 

 

「あかねもスマなかったな。色々と迷惑掛けたネ」

「いいのよ。私も乱馬の事を愚痴れたし……何よりも、私達はもう友達でしょ?」

 

 

そう言って先に下に降りていく、あかね。友達……あかねの言葉に私の胸が少し暖かくなった気がするネ。今まであんなに真っ直ぐ私に友達と言ったの、あかねが初めてだったヨ。

 

 

「後はムースに私を女と認めさせるネ。いつまでも妹扱い許さない」

「頑張ってシャンプー。私も応援するわ!」

 

 

しかし、そんな決意を新たにした私とあかねが先程の部屋に戻ったら凄い光景が目に飛び込んできたネ。

 

 

 

 

ムースは男的乱馬とさっきのバンダナ巻いた男と戦ってたね。庭にはムースの暗器や砕かれた庭の石などが散乱していた。どうしてこうなったアルか?

 


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