ムース1/2   作:残月

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対策とその結末

 

 

 

 

電車に揺られる事、三時間。やっとの事で風林町に到着した。車内の視線に耐えながらも駅から出ると、俺は車内でずっと考えていた今後のプランを実行する事にした。

 

 

「さて、シャンプー……此処からは手分けして、乱馬とパンダの情報を集めようか」

「別行動アルか?」

 

 

俺の発言にシャンプーは眉を顰める。うん、急な別行動の提案を怪しんでるね。

 

 

「港で目撃情報を得たのは偶然だったし、町は広いからな。だからこそ手分けして情報収集と思ったんだよ。それと乱馬とパンダの情報を得ても、いきなり襲わない事。戦うのはちゃんと場を整えてからだ」

「情報収集は分かったけど、襲わないのは何故か?」

 

 

シャンプーは情報収集には納得してくれたけど、襲撃しない事に納得いかないみたいだ。だが、襲撃しないのが今回のポイントだ。

 

 

「以前、シャンプーが乱馬に負けたのは武道大会の後で戦ったからだ。疲弊した状態で戦ったから負けてしまったなら、マトモな状態で戦えば勝てる筈だ。でも襲撃だと乱馬も戦おうとせずに逃げるはず。ならば逃げられないように決闘という形で逃げ場を無くす」

「なるほど……なら先ずは居場所を突き止めてからの話という事ネ」

 

 

俺の説明にシャンプーは納得してくれた。

俺が考えたシャンプーが男乱馬に負けない対策。それはシャンプーと女乱馬がもう一度戦い、今度は対等な状態で戦わせたとして、最初の戦いを無しに、又はこれで一勝一敗の引き分けとさせて納得させる事。このどちらかを目指す。そうすればシャンプーは女傑族の掟で女乱馬の命を狙う理由が無くなり、女乱馬は命を狙われる心配がなくなる。更に話をそこで終わらせる為に男乱馬とシャンプーの戦いを防ぎ、シャンプーが男乱馬に惚れる事態を防ぐ事が出来る。

 

かなりこじつけで屁理屈まみれだが屁理屈も理屈だ。後は婆さんや族長を説得出来れば万事解決。その為にもシャンプーと別行動をして、乱馬の方も説得しなければならない。シャンプーが同伴だと説得もしづらいし。

 

少々、不満顔のシャンプーと別れ、俺は電車の中で見えた看板に既に当たりを付けていた。その看板には『格闘ペア・スケート シャルロット杯 争奪戦』と書かれていた。俺の記憶が確かなら、三千院帝、白鳥あずさVS乱馬、あかねの戦いが勃発の後に三千院帝、白鳥あずさVS乱馬、良牙ペアの戦いとなる。その後でシャンプーの乱入と続く。

現在、シャンプーは別行動で別の場所に行かせてるし、襲撃はしないと約束させた。俺はこのスケートの戦いが終わったら控室に出向いて事の経緯の説明と決闘の説得だな。まあ、とりあえずは試合観戦と行くか。俺はスケート会場へと足を踏み入れた。

試合観戦と思ったけど、試合は既に中盤だった。しかも、あの名シーンの部分だった。

 

 

「あかねは俺の許嫁だ!手ェ出したら、ぶっ殺すぞ!」

 

 

乱馬の叫びに、会場は静まり返り、あかねは真っ赤になっている。うーん、大胆だ。普段から、あれくらい素直に言えるのであれば日常的に喧嘩など起きないだろうに……等と思ってる間に試合は進み、選手交替となった。良牙がリンクに乱入し、乱馬、あかねペアから良牙、女乱馬ペアへと交代された。

仲間割れを続け、そのついでに三千院とあずさを倒した良牙と女乱馬だが、今は女乱馬と良牙の戦いになっていた。砕けたスケートリンクの氷の上で殴り合い、氷を砕きと激しい攻防が繰り広げられていたが、二人の戦いを止めようと、あかねが乱入したが足を滑らせて割れたリンクの下の水に落ちて溺れてしまう。そういやカナヅチだったな、あかねって。

さて、試合は終わったし、控え室にお邪魔するか。

 

 

観客席を抜け出して控室に足を運ぶ。控室のプレートに『天道あかね 控室』と書かれていたので、此所で間違いなさそうだ。ノックをしてから扉に手を掛ける。

 

 

「はい、どーぞ」

「失礼します」

「あ、お前は!?」

 

 

入室許可が出たので部屋に入る。そこにはキョトンとした表情で子豚を抱いたあかねと、驚いた表情で女乱馬が俺を指を差していた。

 

 

「久し振りだな、早乙女乱馬」

「女傑族の村でシャンプーと一緒に居た奴……ま、まさかシャンプーも日本に来てるのか!?」

 

 

久し振りに会う女乱馬に挨拶したのだが、女乱馬は怯えた様子でシャンプーの事を問う。どんだけトラウマになってんだよ……と思うと同時に原作以上に怒っていたシャンプーを思い出す。

 

 

「一先ず落ち着け。シャンプーも日本に来ているが俺はお前に提案を持ってきたんだ」

「し、信じられるかよ!散々酷い目に合わされたんだぞ!」

「ちょっと乱馬!話くらい聞きなさいよ!それにシャンプーって誰よ!?」

 

 

怯えた様子で戦闘体勢に入ってる女乱馬に、あかねが仲裁に入る。

 

 

「ごめんなさい、乱馬が。あ、私は天道あかね」

「先程の試合も見させてもらっていた。俺はムースだ」

 

 

自己紹介を済ませた俺とあかね。そして俺は事情を知らないあかねに乱馬が女傑族の村に来た時の話をした。

早乙女親子が村の武道大会の優勝賞品を窃盗した事。

その後、乱馬が忠告を無視してシャンプーと戦い勝ってしまった為に、女傑族の掟で命を狙われている事。

乱馬は中国から日本に逃げ帰ったがシャンプーは俺を伴って日本まで追ってきた事。

説明を聞いていた、あかねは途中から呆れと怒りに顔を歪めていた。

 

 

「全部、乱馬とオジ様が悪いんじゃない……」

「悪かったのは認めるけど命を狙われるなんて思わないだろ!?シャンプーの怒り方は半端じゃなかったし!」

 

 

呆れた様子で乱馬に話し掛けるあかねに乱馬は言い訳をしてるが……彼処まで怯えるとは本当に何をしたんだシャンプー。

 

 

「ま、兎に角……このまま命を狙われるのも嫌だろう?そして俺もシャンプーにそんな事をさせたくないから一つ、提案を持ってきた。さ、どうする乗るか乗らないか?」

「へっ、そんな事を言って騙し討ちする気…だ……ろ」

 

 

俺の提案を信じられない乱馬は俺に暴言を吐こうとしたが、俺は乱馬の顔の隣に先程の船乗り同様に短刀を突き刺した。

 

 

「勘違いするなよ。これはお前の為でもあるが主にシャンプーの為だ。お前が断ると言うならシャンプーの代わりに俺が相手をしてやろうか?」

「上等だ!この早乙女乱馬、逃げも隠れもしないぜ!」

 

 

俺の脅しに乱馬は噛み付いてくるが……いや、お前はシャンプーから逃げも隠れもしてるから日本に来たんだろ。

 

 

「乱馬、アンタが悪いんだから話くらい聞きなさいよ!それとも責任取らないなんて男らしくない事するの!?」

「ほほう、許嫁の方が話が通じるとみえる」

「けっ!」

 

 

あかねに叱られて漸く話を聞く気になったようすの乱馬。やれやれ、やっと話が出来るな。

俺は二人が着替えをするのを控室の外で待つ事にした。一応、逃げられない様に気を配っていたが、逃げられる事もなく素直に出てきた。違ったのは乱馬が女から男に戻っていた事だが。

 

 

「あ、びっくりしたと思うけど、この男の子は……」

「早乙女乱馬……だろ?」

「お前……分かるのか!?」

 

 

あかねが説明をしようとするが俺は男の乱馬を知っていたかの様に話すと二人は驚いた様子だ。そりゃそうか。

 

 

「中国には溺れた者をその姿に変えてしまう呪われた泉の修行場、呪泉郷が存在する。その姿に確信を得たのはさっきの試合を見てたからだがな。一瞬でペアの姿が変われば疑いもするさ」

 

 

本当は原作を知っているから……なんて事は言わず、呪泉郷を知っている事と先程の試合の最中で男の乱馬が一瞬の停電で女乱馬に変わっていたのを観客に紛れて俺も見ていた……という事にした。

 

 

「凄い洞察力……同じ武道家でも、こんなに差が出るのね」

「こんな、とか言うな」

 

 

あかねの尊敬の視線が胸に痛い。図らずも自身の株を無駄に上げてしまった気がする。

 

 

「さて、提案させてもらうが……女傑族では『余所者に負けた場合、相手が女なら殺すべし。相手が男なら夫とすべし』とあるが……」

「それで女乱馬が狙われてるのよね?」

 

 

俺の説明にあかねが口を挟むが俺は首を縦に振ると、乱馬に向き合う。

 

 

「だが、あの場ではシャンプーは武道大会で戦った後で疲弊していて公平な戦いではなかった。そこを利用する」

「どうゆうこったよ?」

 

 

俺の説明に首を傾げる乱馬に俺はポンと肩を叩く。

 

 

「つまり、もう一度、女の状態でシャンプーと戦って欲しい。そして、その上で負けてくれ」

「そっか、それで乱馬が負ければ一勝一敗……ううん。正式な果たし合いで負けたならシャンプーって娘の勝ちだから乱馬は命を狙われなくなる」

「そんなんでシャンプーが納得するのかよ?あの怒りようだと話も聞きそうにないんだが……」

 

 

俺の説明にあかねは理解を示したが乱馬は不安そうだ。シャンプーが怒ってるのは負けた事よりも寧ろ、俺やリンスとの約束を果たせなかった事だと思うが。

 

 

「その辺りは俺が説得する。だから頼む」

「ちょっと、ムース!?」

 

 

俺が深々と頭を下げると、あかねは驚いた様子だった。乱馬も驚いた様で声も出ていない。

 

 

「あなた……そんなにシャンプーって娘の事を思ってるのね」

「掟は掟だが、今回はまだ抜け道がある。そして掟の事とは言っても俺はシャンプーにそんな事をさせたくない」

「わかった……俺や親父が仕出かしちまった事だ。男らしく責任とるぜ!そんなに頭を下げられたのに断るのは男が廃っちまう!」

 

 

俺の誠心誠意の説得が通じて、乱馬とあかねが協力してくれる事に。よかった……これなら前回みたいな事にはならない筈。前回と違って協力者がいるのは大きい。

 

 

「でも……その掟からすると乱馬が本当は男って知ったらシャンプーは男の乱馬に惚れちゃうんじゃ……」

「村で負けた時は女だったし、シャンプーは男の乱馬を知らない。シャンプーを説得する時にそれも織り混ぜて説明して納得してもらおう」

 

 

あかねが何か思い付いた様に話すが、俺はその辺りは最初の戦いの時の性別を優先させると決めていたし、説得の際には、その事を持ち出すつもりだ。

そんな話をしながら天道道場へ到着した。デカぁ……思えば大きな家に道場まであるって凄いよな。

そんな感想を抱きながら、俺は乱馬とあかねに連れられながら天道家の居間にたどり着いた。そこにはシャンプーがコタツに入りながら茶を飲んでいた。乱馬は脱力したが俺はなんとなくこうなってる気がした。なんせ町中でパンダを見付ければビンゴであり、その後を追えば乱馬に辿り着く訳なのだから。原作でも女乱馬に逃げられた後に先に天道道場に居たわけだし。

 

 

「你好」

「に、にーはお」

 

 

シャンプーにトラウマを持つ乱馬はシャンプーの挨拶に怯えながら返した。よく見りゃパンダも部屋の隅に移動してるし。

 

 

「男……」

「お、女じゃなくて残念だったな」

「なるほど、男の乱馬とは初対面な訳か」

 

 

シャンプーが乱馬の胸をペタペタと触る。今は男だから別人と考えたみたいだけど、これから説明しなきゃなと思っていたら子豚から人間に戻った良牙が顔を出してきた。

 

 

「ほう、事情に詳しいじゃないかPちゃん」

「俺にそんな口を利いていいのかな?せっかく掟で来てくれたんだ。女になってやれよ」

 

 

乱馬が良牙に皮肉を込めるが、良牙はバケツに水を溜めた状態で乱馬に水を被せようとしてる。まったく……纏まりかけた話をややこしくするなっての。

 

 

「余計なマネはやめてもらおうか。これは俺達の問題なんだからな」

「はっ……だったら言わせてもらうが一度決まった勝負を再度やらせようなんて片腹痛いぜ。軟弱な考え方だな。お前自身、女傑族の掟から逃げてるんじゃないのか?」

 

 

俺は良牙からバケツを奪い上げると庭の池に水を流す。すると行動を阻まれた良牙が俺に喧嘩を売ってきた。何も事情を知らな……くもないな良牙は。さっきまでPちゃんの状態で話は聞いてた筈だし。思えば良牙ってお人好しである反面、あかねに関する事だと乱馬を陥れようとするシーンが幾つかあった気がする。面倒な事になる前に退場してもらおうか。

 

 

「女傑族、そしてムースを馬鹿にする許さないネ!」

「くっ!?」

「お、おいシャンプー!?」

 

 

俺と良牙の会話で、俺と女傑族が侮辱された事に怒ったシャンプーは良牙に武器を突きつけた。勢いが良かった為に襖や家具を破壊しながらシャンプーは良牙を叩きのめそうとする。

 

 

「待ってシャンプー!その前に、きゃあ!?」

「あかね!ったく……人の家で暴れるな!」

「待て、乱馬!?」

 

 

シャンプーが暴れた事で、こわれた家具の破片があかねに降り注ぎ、それを見た乱馬が暴れているシャンプーの武器を蹴り上げた。嫌な予感がした俺は止めようとしたが間に合わなかった。

そして蹴り上げられた武器は宙を舞い……シャンプーの頭の上に落ちた。そのまま倒れたシャンプーを俺は呆然と見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すべては原作通りに事が進んでしまった。

 


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