「こんなところで話したら、他の子に聞かれてしまうかもしれません。仕方ないですね……場所を変えましょう」
それだけ言うと、彼女は冷泉を一瞥することさえなく、さっさと歩いて行く。
冷泉達がいる防波堤の高さは、おおよそ5メートルはありそうで、港へ降りていく階段が設置されている。
どうやら、加賀はその下り階段を降りて、どこかへ行くつもりらしいことだけは分かった。
すぐに冷泉も後を追う。
加賀は冷泉が後を追って来るのに気づくと振り返りニコリと微笑むと、何の躊躇も無く唐突に……堤防から飛んだ。
思わず冷泉が驚きの声を上げてしまう。
しかし、冷泉の心配は杞憂でしかなかったようで、彼女は音も立てずにふわりと着地する。
そして、早く来なさいよ、といった感じで冷泉を一瞥した。
冷泉がその高さに一瞬躊躇したようなそぶりを見せると、彼女は鼻で笑うような仕草を見せてそのまま歩き出す。
「お、おいちょっと待てよ」
慌てて冷泉も加賀の後を追って飛ぼうとするが、冷静にその高さと自分の、いや人間としての運動能力を勘案し再び躊躇した。
流石に5メートルの高さといえば、歩道橋から道路までの高さくらいはある。そんな高さから飛び降りたら、しかも着地するところがコンクリートである。何の訓練も積んでいない冷泉がそれをやったとしたら、落下中にバランスを崩して着地に失敗するか、上手く着地しても衝撃の吸収に失敗して膝で顎を痛打するくらいの未来しか想像できない。どちらにしても、大怪我間違いなしだ。
女の子の加賀にできるなら、自分にもできないわけがない。そう思って飛んだら、おそらく骨折していたと思われる。
「ちぇっ」
全く艦娘の身体能力ってやつは、どうなってるんだよ!
あまりの身体能力の違いを見せつけられたことにショックを受けるが、そんなことに文句を言っている場合ではない。置いて行かれてしまう。
冷泉は慌てて階段を駆け下りて行く。
息を切らせながら、彼女に追いつくが、加賀は後ろを振り向きもしない。仕方なく、後をついて行く。
どうやら、港の方へと向かっているらしく、次第に係留された艦艇群が見えてきた。
無言のままだと気まずいので、いろいろと話しかけるが全く返事は無かった。ずっと無言のままで彼女は歩いて行く。
港中央には、戦艦金剛、扶桑が並び、その奥にそれら戦艦よりもさらに大きな艦影がある。
それが正規空母加賀だった。
向こうの世界では軍艦を見たことがなかったので、こちらに来たときに見た戦艦金剛や戦艦扶桑の巨大さに驚いたけれど、空母:加賀は彼女たちよりもさらに巨大だった。
圧倒されるような存在感、威圧感だった。
―――けれど、艦娘の方は生意気だけど、なかなか可愛い顔をしているんだよな。
しかし、こんなことを言ったら、冷たい目で睨まれるんだろうな。
妄想に耽る冷泉に構うことなく彼女はどんどんと進んでいき、自艦の前で立ち止まった。
こちらを振り返る。
「提督、この中で話しましょう」
彼女は実にあっさりと言うが、空母加賀は港に係留されているだけで、タラップのようなものはどこにもない。船を這い上がって行けとでも言うのか?
「本当は、こんなのしたくはないのですが、一応、形式とは言え私の司令官ですし、管理者権限を与えます」
なにやらもったいぶって加賀が言うが、許可? 何それ? と冷泉は理解できない。
「パスワードは○×☆□△です。……すでにシステムには登録を完了していますので、提督がこのパスワードを詠唱すれば、中へと転送されますので」
そう言うと、加賀は宙に浮いた。そして、すっと消失する。
管理者権限とか、パスワードなんて戦艦金剛や軽巡洋艦神通に乗船した時にも聞かなかった話だ。そんな言葉、パソコンでしか聞いたことない。
金剛の時はタラップがあったし、おまけに金剛が案内してくれたもんな。神通の時は飛び乗ったし、無理矢理扉を開けて入ったもんな。
だから、仮にそういった手続きがあったとしても、それを行う機会がなかった。
何にしても、見上げるような高さの船体に乗船するには、自力では無理なのは明らかだ。
「パスワードを唱えたらって言ってたな。……○×☆□△、と」
唱え終えた瞬間、
「認証確認」
そんな声がどこからか聞こえた。いや、聞こえたような気がした。
刹那、体が浮かぶような感覚が冷泉の体を包み込む。このままフワフワと浮かび、甲板とかに飛び乗るのかな? そう思った瞬間、加速するような感覚と風景が明滅する。
それが終わった瞬間、落下する。
「うわっ」
突然の変化に思わず声を上げるて藻掻いたが、努力むなしく落下する。
そして、次の瞬間、顔が何か柔らかい物にぶつかったような衝撃と、同時に悲鳴が聞こえた。
柔らかく巨大な何かに顔を押しつけているのが分かったが、視野はそれにより遮られている。両手は床らしいものに触れている。体全体は何かにのしかかっている感じだ。
何となく、自分がどういう状況にあるのかは把握できたが認めたくはなかった。
「すみません、提督。重いのですけど」
予想通り、冷え冷えとした声がごく近くで聞こえた。
冷泉はその巨大な柔らかい何かから顔を上げると、視野が取り戻された。そして最初に飛び込んできたのは加賀の顔だった。
「わっ、す、すまん」
慌てて飛び退く。
予想通り、冷泉は加賀に覆い被さるような体勢になっていて、顔は彼女の胸に埋まるような状態だったわけだ。いわゆるラッキースケベ状態。
「すまん、加賀。わざとじゃないんだ、許してくれ」
と言い訳をする冷泉。
顔が熱くなるのを感じていたが、それどころじゃなかった。柔らかくて気持ちよかった。
加賀は特に取り乱した様子もなく立ち上がると、乱れた着衣を直している。
「気にしていないわ。……ちゃんと説明しておかなかったのがいけなかったのだから」
冷静な口調で話す。特に怒ってはいないようだが、頬は少し赤くなっている。
「そっか」
とりあえずそう言うが、次の言葉が出てこない。手持ち無沙汰で辺りを見回すと、そこは艦橋ではなかった。
それほど広くない部屋であることがわかる。調度品や物は置かれていない殺風景な部屋であることがわかる。5メートル四方程度の広さの部屋だ。
「提督は知らなかったのかしら? 」
「ああ。今まで転送? っていうのかな、なんてされたことなかったし」
「そう。……転送される部屋にいろいろ置いていたら、ぶつかって怪我をしたりするといけないから、何も置いていないの」
「なるほど」
と、冷泉は頷く。
「さて……。ここなら誰にも聞かれる心配が無いから、提督がしつこく聞きたがったことを話せるわね」
「その前に一つ聞いて良いかな」
「何かしら? 」
「それって、誰かに……他の子に聞かれたら困る話なのか? 」
「そうね。……聞かれたくない話であることは間違いないわ」
少し考えるような素振りを見せる加賀。
つまり、加賀の話すことは艦娘全体にも関係する話であるということだ。そして、鎮守府司令官である冷泉にだから、話せる内容だということか。
「了解した。では、教えてくれ。お前がどうして他の艦娘との関わりを避けるのか。そして、戦いを避けるのかを。推論でしかないけれど……原因は横須賀鎮守府での領域解放戦による正規空母赤城の沈没だと俺は思っていたんだが」
現在、自分がどういう風に思っているかを事前に伝える必要があると思い、現在得られた情報のみでの結論を加賀に告げる。
「そうね。確かに……赤城さんの死が私の心に大きなダメージを与えたのは事実よ。確かにそれは今更言うまでもなく、ショックな出来事だわ。何度経験しても親友の死という現実は辛いもの。けれど、私は艦娘である前に正規空母加賀という軍艦。戦いの中で誰かが死を迎えることは必然の事。お互いが相手を殺そうとしている場所に赴くのですからね。敵だけ斃せて、自分たちは誰も死なないなんて虫の良い考えなんて持ってないは。だから、提督のところの子達もそうだけれど、自身の死を含め、それはみんな常に覚悟しているわ」
「何か事情があるとは思っているけど……俺が知っているのは、赤城の轟沈という事実だけだからな。それ以外の事はどういうわけか情報にアクセスできないようになっている。鎮守府提督の権限でもロックされたままだから、その戦いで何があったのかは全く知らないし分からないんだよ。領域は開放されたが、第一艦隊の赤城がその時に犠牲となった。ただその事実があるだけだ。あとは推測だけでしかない。親友を失ったお前が、そのショックから立ち直れていない。そう推論するしかない」
「ふふふ」
加賀が笑った。それは小さな声だった
「何か変な事を言ったか? 」
「いえ、別に意味はないわ。ただ、随分な評価をされているんだなと思っただけです」
彼女は部屋の壁にもたれかかる。
「確かにあの戦いの事は口外を禁じられているし、あの時、その場にいた子達は、誰かに止められなくても絶対に誰にも話さないと思う」
何かを思い出したのか、歯を食いしばるような素振りを見せる艦娘。
「そうね。あの時の領域解放の戦いは、これまで経験した私の戦いの中でも最上位に位置するほどの激戦だった。……横須賀鎮守府の最精鋭だった私達も誰一人無傷の者はいなかったほどの戦い」
話しながら、加賀が右手を動かすと部屋の風景が変わっていく。
真っ白な壁が色を伴い変貌していく。
深く青い海。赤黒く澱んだ空。
それは間違いなく領域の中の風景だった。
そして、冷泉は艦橋にいることが分かった。加賀がいることから、空母加賀の艦橋なのだろう。複数の軍艦が窓から見える。
映像には加賀が二人いる。当然一人は映像の中の加賀。もう一人は本物の加賀。
しかし、それはあまりにリアル過ぎる映像。二人の加賀を比べても、ほとんど違いが見あたらない。
冷泉は立体的に映し出された映像を見回す。
ここは、領域内。
解放はされていない状態。ならば味方以外に当然存在するモノを探して。
そして、そこに、……それは、いた。
漆黒と血のような赤を基調とした不気味な、そして巨大な船体。
その先端は巨大な生物の口のように剥き出しの歯が並び、こちらを噛みつかんばかりに大きくその顎を開いている。そして、その船体両脇に飛行甲板らしきものがある。
艦橋のあるらしき場所には人の姿がホログラム映像のように浮かんでいる。
真っ白な肌に赤い血管が浮いたように見える真っ黒の甲冑をまとった女性。彼女はその長く白い髪を振り乱し、苦悶の表情を浮かべている。瞳はまだ負けを認めてはおらず、挑むような視線をこちらに投げかけているが、体は小刻みに震え、体のあちこちから出血しているように見える。
そう―――。
それは沈みゆく深海棲艦のBOSSだった。
攻撃を受けたため、船体のあちこちが損傷し、黒煙を上げて燃えている。
映像はちょうど戦いが終了したところから始まっているようだ。
「これがボスなのか? 」
「そう」
感情を抑えた口調で隣に立つ加賀が答える。
敵艦隊のBOSSの名前は表示されていないため、分からない。そして、少なくとも冷泉はゲーム内でさえ見たことのない敵だ。
それは怨嗟の呻きを上げながら、ゆっくりと海底へ……本来棲むべき場所へと沈んでいく。
たとえ敵であっても、船が沈んでいく姿は見ていて気分のいい物ではない。
この戦いの激しさは、映像に映る艦娘側の被害状況を見ればよく分かる。
長門、赤城、比叡、霧島、蒼龍という火力重視の強力な陣容で編成された艦隊は全員生存しているようだが、どれもがかなりの損傷を負っているのが遠目にも分かる。
船体のあちこちから煙が上がっているようで、消火作業を行っているらしい。それでも満身創痍ながらも、なんとか航行はできるようだ。
まともに戦えそうなのは赤城と加賀だけだ。
ここで襲われたらかなり危険な状態なのだが、すでに敵を殲滅しているから問題ない。あとは鎮守府へ帰投するだけだから。
そして、深海棲艦の沈没を合図に、空間が、風景が夜が明けるように赤黒い空がゆっくりと変化していく。海も同じく、黒から蒼へと変化していく。
そして、閉ざされた空間がゆっくりと解放されていき、太陽が顔をのぞかせて来る。
穏やかな光が艦隊を照らし出す。
カモメの姿も見える。穏やかな世界が戻ってきたことが実感できる。
まもなく迎えの護衛艦隊がやって来るのだろう。一般海域に深海棲艦がいた場合に潜水艦や駆逐艦がいる場合に備えての艦隊だ。
「全艦、これより帰投する」
と、聞いたことのない声がする。少し低い声だが、よく通る声だ。疲れてはいるようだが、勝利にに安堵しているように聞こえる。
これが横須賀鎮守府司令官の声か……。
この男も戦場に立つのか。
少しではあるが、冷泉は驚き、感心した。
基本、戦闘は艦娘任せで、提督は鎮守府において指揮するというゲームと同じ形態で行っていると聞いていたからだ。自分だけ安全な場所でと思うかもしれないが、領域に入ったことのある冷泉だから分かる。領域内は、常に人間に対して負のダメージを与え続けてくる。普通にいるだけでも不安や恐怖という感情が湧き上がり精神敵にかなりきつい。そして、戦闘は長時間に及ぶため、体が保たないのだ。それでも、戦場に立つということは、彼も冷泉と同じ志を持つということか。
命令を合図に艦隊が転進を始める。
どの艦も、加賀もゆっくりと動き出す。
そして、艦隊が陣形を整え始めた時、異変に気づいた。
正規空母赤城だけが船首を反対方向に向けたまま、未だ動こうとしなかったのだ。
「赤城さん、どうかしたの? 」
映像の中で、異変に気づいた加賀の声がする。それは最初は単なる確認に過ぎなかった。しかし、何度も問いかける声は、次第に大きく切迫感のこもったものとなっていく。
「赤城さん! 」
しかし、それでも赤城は何も答えない。
静かに動きを止めたままだ。
「赤城、どうかしたのか? 」
やがて異変に気づいた横須賀の提督が問いかける声が聞こえる。
それは先ほどまでの落ち着いた声ではなく、少し焦りにも似たものが感じられた。それだけ、異常な事態であるということを彼は認識しているのだろう。
「…が、……ん、に……、て」
うめき声が聞こえた。それは痛みや苦しみに堪えるような声。何かを訴えるような声に聞こえる。しかし、何を伝えたいのかわからない。
「赤城さん、どうしたの? 」
加賀が叫ぶ。
同時に悲鳴のような声が複数聞こえた。
一つは赤城、もう一つは他の艦娘だ。
冷泉は事態が飲み込めないまま、映像の中の加賀を見、そして赤城のあるほうへと視線を向ける。
そして、視界で展開されていく異変に思わず声を上げた。
立ち休んでいる赤城を中心とした海域に、怪異が生じていたのだ。
赤城を中心にどす黒い得体のしれない潮流が、海底より湧き上がってきた思うと、それが正規空母赤城全体を取り込んでいく。そして、その黒いモノが喫水線より艦を上へ上へと這い上がって行く……。
唐突に艦内に警報が鳴り響く!
「どうした、何の警報だ? 」
録画映像の筈なのに、冷泉は問う。
直ぐ側に立つ、本物の加賀は黙り込んだまま、何も答えない。
刹那、無線が入り乱れ出す。
「これは何? 何なの、この反応は!! 何でこんな所に深海棲艦の反応があるの? 」
「嘘? すべて倒したはずでしょう」
「ありえない、こんなのありえない。どこに、どこにいるの」
第一艦隊の艦娘たちが口々に、しかもパニック気味に叫ぶ。
「落ち着け、お前たち。推論で動くな。冷静に入手した情報を分析をするんだ」
混乱する艦娘たちをいなすように、長門の声が響く。
「全艦、警戒態勢。霧島、深海棲艦反応の場所を特定せよ」
「現在分析中。……出ました……え? そんな、嘘」
すぐさま発生源を特定したらしい霧島の声が困惑している。
「どうした? 」
「深海棲艦反応、こ、後方200メートル。反応、更に増大中! 」
霧島がすぐに答える。
「馬鹿な、我々の後方といえば赤城しかいないじゃないか」
長門が呻くように言う。
深海棲艦は、すべて撃破した。領域のBOSSも倒した。そのため、領海という名の結界が解け、現在は本来のおだやかな空と海に戻っている。
赤城を除く第一艦隊は全艦回頭して移動したため、艦隊の後方には赤城しか存在していないはずである。
そして、赤城の周りでは異変がなおも継続中だ。
「赤城さん、答えて。どうしたの、何が起こっているの? お願い」
先ほどから加賀が叫び続けている。
しかし、艦娘赤城からの応答は無い。そして、空母赤城は海底よりわき出たモノに取り込まれていく。
「赤城さん、お願い答えて。お願いだから」
叫ぶ加賀。その姿は痛々しい。
「ウ、ウ……」
唐突に、何か唸るような音声が届く。
「赤城さん? 赤城さんなの? お願い答えて」
飛びつくように加賀が叫ぶ。
「ウ、ウ、ウ、ウウウウウウガガガガガガガ」
言葉にならない音声が艦内に響いてくる。何かを言おうとしているのか。苦しんでいるだけなのか。それすら分からない、それでも、おそらく、それは人の声。そして、赤城の声。
うめき苦しみ、悲鳴を上げる赤城の姿が目に浮かぶようだ。
加賀は何かを叫んでいるが、もはや言葉になっていない。
僅か数百メートルしか離れていない所にいるのに、何もできない状態のまま、時間だけが経過していく。
そして、そんな中で形態を不気味に変化させていく赤城。大気を取り込み海水を取り込み、空母赤城そのものも大きくなっていく。
飛行甲板が左右に広がり、三連の飛行甲板を持つかのような形状へと変化していく。
そして、深海棲艦にありがちな巨大な人型の姿の映像らしきものが浮かび上がってくる。
真っ白な長い長い髪。瞳は燃えるような、そして血のような赤。腕と足の部分にだけは甲冑をまとい、体部分についてはまだ未完成状態の鎧を装着したような姿となっており、全体としては肌の露出がまだ多い状態だ。その露出した真っ白な肌のあちこちには血濡れのような紋様のようなものがある。
しかし、時間と共に鎧に包まれていく。
その姿は、かつての正規空母赤城のものでは無かった。
「た、大変です。りょ、領域が……復活していきます」
霧島が叫ぶ。
確かに外をみると、先ほどまで穏やかだった青い空が、青い海が目に見えて濁り澱んでいく……。
通常海域に戻ったはずの海が空が、おそらくは変貌を遂げていく赤城より立ち昇る波動により浸食されていっているのだ。
世界が再び領域に飲み込まれようとしていたのだった。
それは誰も経験したはずのない異変だった。
「何なの? 赤城さん、一体何が起こっているの? 」
加賀が呻くように言う。何も出来ない自分に失望してか、力なくしゃがみ込んでしまう。
「……全艦隊に指令」
横須賀鎮守府司令官の声が響き渡る。
その声にすがるような視線で顔を上げる加賀。
「全艦、反転。艦隊後方の敵深海棲艦を破壊せよ」