しばらくは、加賀に付きまとう日々が続く事となった。
それもかなりしつこいくらいに……。
それは、食堂で、港で、とにかく鎮守府のあちこちで―――。
彼女を見つけ次第、冷泉は、さりげなく、それもあたかも偶然を装って彼女に近づいたのだった。
その時に冷泉が話す事は、横須賀鎮守府にいた頃の領域解放戦の話などではなく、加賀を歓迎会に招待する件だ。
最初は、前に誘った時と同じように、少し冷たい視線を冷泉に浴びせながらも、丁重に断りを入れていた彼女も、あまりにもしつこい誘いに我慢の限界が来たのか、
「さすがに、頭に来ました。もう! 提督しつこいです。何度お断りすれば分かるのかしら? いい加減にしてもらえませんか? 」
「ふふふ。やっと感情を見せてくれたね」
かなりきつい言い方をされているのに、冷泉はまるで堪えていないように、ニヤニヤと笑っている。どちらかといえば、嬉しそうにさえ思える。
「わりと怒ったりしていたんですけれど……それは、伝わりませんでしたか。提督は、結構、……鈍いのですね」
冷泉には通じないと分かっていながら、皮肉を言うしかなかったようだ。とても自分の上司に対して言うような言葉、喋り方ではない。
「いや、せっかく新しい仲間が来てくれたのに、その歓迎会をやらないのはおかしいだろ? それに同じ鎮守府の仲間として懇親を深める必要だってあるし。いろんな弊害はあるかもしれないけれど、やはり、お酒は人間関係の潤滑油になるんだよな。これは本当に」
「ですから、お気持ちだけで結構ですと言ったでしょう。私のために、みなさんの貴重な時間を無駄に使わせるわけにはいきませんから」
「無駄じゃないよ。これは加賀だけのためじゃない。みんなの為でもあるんだよ。みんな加賀と仲良くなりたいんだ。けれどうまくいっていないようだ。何でもいい、とにかく何かきっかけが必要なんだよ。……お前、ここに来てからほとんど誰とも話していないだろ? 」
「私を監視していたのですか? ストーカーにでもなられたのですか」
「そうじゃない。お前は俺の部下だ。新しくやって来た部下が他のみんなと馴染んでいるかは気にして当然だろう? 」
「私は、誰とも問題を起こしていませんけれど。確かに、他の子と馴れ馴れしく話したりはしていませんが、それについて何か問題があるのですか」
宿舎で揉めたことを忘れているのか、そもそも認識していないのか。彼女の表情からは全く読み取れない。
「そうじゃなくてさ、ずっと見てたんだけど……」
「……やはり、監視していたのですかね? 」
感情を抑えたような表情でこちらを見てくる。
その瞳に少し、どきりとするが表情には出さないようにし、
「まあ、ずっと気に掛けていたと思ってくれ。……お前、うちの艦娘の誰とも、絡むことが無かったよね。本当に必要なこと以外は全く話していない。少なくともお前から話しかけることは無かったと思う。せっかくお前に話しかけても素っ気ない対応じゃ、誰とも仲良くなれないだろ。せっかく同じ鎮守府の一員、仲間になったんだから、もっと他の子と打ち解けて欲しいんだよな、俺としては。正規空母のお前に話しかけづらいって子もいると思うから、できればお前のほうからもアクションを起こしてもらえたら、嬉しいんだけれど」
と言って、微笑んでみせる。
「一つ聞いて良いですか? みんなと打ち解けたら、戦いに勝てるのですか? 」
「そりゃ、何事もチームワークが大事だからね。話し合うことでお互いが何を考えているかを知る事ができる。そうすれば戦いにおいても阿吽の呼吸で動けるだろう」
「提督の仰ることも一理あるとは思いますが、それがどの程度、戦いに有利となるかのデータを提示してもらえますか? それが納得できるものでしたら、私も提督のご指示に従わざるを得ませんけれど」
「データなんてないよ」
と、あっさりと認める冷泉。
「具体的なデータや、根拠は無いということですね。あくまで経験に基づく推論ってことかしら。あきれてしまいます。まったく話になりませんね。ならば、私は今のままで行かせてもらいます」
「ちょ、ちょっと……。なあ、なんでみんなと仲良くしようとしないんだよ」
話を打ち切られそうになったので、慌てて声を上げる。
「では、根本的な事を伺います。他の艦娘と仲良くしてもしなくても問題は無いのではありませんか? 仲良くすることにより勝率がどの程度上がるかのデータの提示ができない限りは、提督の仰る事は推論でしかないのですし。あやふやなものの為に無理をするデメリットの方が多いように感じます。そもそも、私たちは深海棲艦を斃せばいいのですから。提督はそれ以上何が必要なのですか……」
どう考えても屁理屈にしか思えないのだが、データを示さなければ加賀は説得できない感じがする。
「それじゃあ寂しすぎるだろ? お前たちは機械じゃないんだから」
「私は、ロマンチストではありませんから。人型にされ、感情らしき物を持っているように見えるかもしれませんが、それはあくまで人間とのコミュニケーションのための手段として与えられた物でしかありません。本体は航空母艦たる船体のほうです。私の本質は、敵を倒すための兵器です。ゆえに勝つために不要となる部分は、切り捨てています」
「お前の考え方はわかったけど、とにかく、舞鶴鎮守府に来たからにはここのルールに従ってもらうぞ。お前はもっと心を開いて、みんなと仲良くするんだ。それから、……とにかく歓迎会に参加しろ。とにかく、それが最優先なんだから」
もはや説得でも何でもない状態になってしまった。
「ふっ。お断りします」
頭に来た冷泉がいろいろとわめいたが、彼女はまるで聞こえないかのように静かに一礼して部屋を去っていった。
次の日。
天気は快晴。
突堤に一人佇み、海を見つめるの加賀を見つけた冷泉は、足音を忍ばせて接近を試みる。物陰に隠れるように、あたかもトカゲのようにこっそりと這うように近づいて行く。
しかし、加賀はすぐに冷泉の存在に気づいたのか、こちらを見る。
冷泉を見るその瞳は、恐ろしく冷たい。
何事も無かったように冷泉は立ち上がると、ズボンの膝の辺りはパンパンとはたく。
「やあ、奇遇だね、加賀。お前、こんなところで何してるの」
驚かそうとしたのに作戦が失敗したため、残念そうに言葉を発する。
「別に何もしていません。ただ、海を見ているだけですが」
そういうと再び遠くを見つめる。その瞳はなんだか寂しそうだ。
「そうかあ、そうだよな。海はいいよなあ。広いし青いし。……深海棲艦がいるかもしれないから無理だけど、こんな天気の良い日なら、泳いだりしたら気持ちいいんだろうな」
「海は特別な感情を抱く場所ではありませんから、わかりません。私は、提督のようなロマンチストではないものですから」
「そっか。ところで、お前、いつも一人でいるよな」
「またその件ですか。提督がどう思われているかは知りませんが、私は一人でいるほうが気が楽なんです。……群れるのは、嫌いです」
「その気持ち、俺も分からなくはないよ。誰だって一人になりたい時ってあるもんな。けどなあ、それがいつもとなると、なんて言うか、寂しくなる時もあるよな。……お前、寂しくないか」
「兵器に【寂しい】とか、そんな感傷的な感情は不要でしょう。元々持ち合わせていませんし、持つ必要の無い物ではありませんか? 」
「俺は、そうは思っていない」
「……そう思うのは、提督のお考えです。私がどうこう言えるような話ではありません」
故に、自分の考えにもいちいち文句を言うなという口ぶりだった。
「なあなあ、ちょと聞いてもいいか? 」
まるで堪えない冷泉は、興味半分で気になっていたことを聞こうと考えた。
「お前さあ、もしかして、まさか横須賀でもそんな調子でいたのか? さすがにそんなことは無いだろう? 」
「あそこでのことは、もう忘れてしまいした。もし知りたいのでしたら、あちらの提督に問い合わせれば良いではありませんか」
その時、一瞬だけではあるが、彼女の表情がものすごく寂しそうに見えた。
「できれば、お前から直接聞きたいんだけど」
実は問い合わせたけれど、あっさりと断られていた。それは内緒にしておかなければならない。
「すみません。何もかも忘れました。……それから、提督。ずっと言おうと思っていたのですが、私の事をお前お前と気安く呼ばないでください。提督はそう呼ぶのが普通なのかもしれませんが、私と提督の間には、そんな風に呼ばれるほどの親しい関係が構築されているわけではないのですから。……はっきり言って不愉快です」
「ふっ……なかなかお前は気が強いな。それはともかく、加賀は横須賀鎮守府の第一艦隊に所属してたんだよな。高雄の話では我が国最強の艦隊なんだろう? さすがにその時は、仲間とコミュニケーションとか取ってたんじゃないのか」
「すみません、提督。忘れたと言ったはずですが。それに、過去の私を知ってどうするおつもりです? 所詮、過去は過去でしかありえませんし、今は今です。私の過去を知ったところで、今の私は何も変わりません。無意味なことだと思いますが……」
「それはそうかもしれないけれど、知りたいんだよ俺は。何故、横須賀鎮守府にいた時のお前と今のお前は変わってしまったのかを」
かつての加賀がどんなだったかは想像もつかないが、少なくともこんなぶっきらぼうで投げやりな態度はしていなかったはずだ。
「そんなこと答えるつもりはありません。そもそも、そんなことを知ったところで、提督に何の利があるのですか」
「あるさ、あるある。大いにある。お前は俺の部下なんだぞ。俺は、部下の事はできる限り知りたいし、知っておきたい。知る必要がある。いや、知らなきゃならない……それじゃダメなのか」
「ただただ、気持ち悪い。その一言です」
吐き捨てるように加賀が呟いた。
「ひどい」
真顔で言われた冷泉は、ショックのあまり思わずそんな言葉が口から出てしまった。加賀みたいな美人の子に、真顔で言われるとここまで精神にダメージを与えるのかと衝撃だった。
少し頭がくらくらする。
「申し訳ないのですが、これ以上、私に構わないでください。あなたが司令官だから、一応お相手していますが、あまりにしつこいと私もそれ相応の対応を取らざるをえません」
どう見ても本気で言っている。
「ほっておけるわけ無いだろう。お前がどう思おうとも、本気で嫌なのかもしれないけれど、お前は俺の部下なんだから。お前にはこの鎮守府で更なる活躍をしてもらいたいと思っているんだから。お前の存在ありきで、俺は今後の鎮守府を行く末を見ているんだ。お前抜きではもはや舞鶴鎮守府は立ちゆかないよ」
「期待されるのは、一応、ありがたいですが……残念ながら、私は提督のお役に立てるようなことは何もできません」
「そんなわけないだろう? お前は、鎮守府唯一の正規空母なんだ。うちの艦隊に不足している航空戦力を補うために、是非とも頑張ってもらいたいんだよ」
「ふん、提督は艦娘を武器としてみていないと仰りましたが、結局、私を武器として見ているじゃないですか。所詮は、他の人間と同じ口先だけの人でしたね。はあ……けれど、それは仕方ありません。まあ当然のことですけれどね」
「お前は武器ではないし、俺もそう思っていないぞ。俺は、お前を大切な仲間として見ているんだ。だからこそ心配するし、嫌がられてもこうやって説得しているんだ。俺だけじゃない、他の艦娘たちもみんな心配している。みんな同じ仲間なんだからな。それと……友を失った悲しみは、みんな分かっている。けれど、いつまでも悲しんでばかりはいられないだろう。俺たちには、なさねばならない事があるのだから。」
「ふふん、どうとでも言えますね。まあ何にせよ、どうでもいいことです。もう全てが終わってしまった事ですから。さて、他に誰もいないことですし、提督には、……いえ、あなたには……ここではっきり言っておいた方が良いようですね。これ以上、しつこくつきまとわれても困りますし、提督も私のために今後の業務に支障を生じるようではいけませんから」
「ん? 一体なんだい」
「それでは、はっきりさせておきますね。残念ですが、私は二度と戦うつもりはありません。もう二度と領域に出るつもりはありませんから」
その衝撃的な一言に言葉を失う。
艦娘とは人類最大の敵、深海棲艦という謎の敵と戦うために生み出された(降臨した)存在である。それが戦いを否定して、この先、一体どうするというのだ。
もちろん、戦いなんてしなくて良いならそれに越したことはない。冷泉だって、本音の所、彼女たちを死地にやることなんてしたくない。しかし、深海棲艦と戦えるのは今の人類には彼女たちしかないのだ。やらなければ人類は対抗するすべがない。じり貧になり、次第に勢力を失い、やがて滅亡するだけだ。
それは認められない。
そして、今は戦時下である。加賀は軍艦である。
議論などするまでもない。
嫌だと言ってやめられる訳がないのだ。軍に関係するものであるから、戦わざるをえない。
それが義務であること。誰でも知っていることだ。
「そんなこと言ったって、認められる訳がないだろう? それが分からない立場じゃないだろう」
「もちろん、そんなこと理解しています」
「じゃあ、どうするつもりなんだ。もう二度と戦えない、戦わないと言ったところで、それが認められる訳がないだろう」
「戦うことのできない艦娘は、艦娘としての存在価値はありません。武器として使えなくなったものは人間にとっては、資材を浪費するだけの不要なガラクタでしかないでしょう? ですから、解体でもなんでしていただいて結構です」
解体処分ということは、その船自体の消滅を意味する。船が消滅すると言うことは、その分身たる人の消滅を意味する。
つまりは、……双方の死を意味する。
解体された艦娘は、普通の女の子に戻ることは決してない。
「な! 」
冷泉は言葉を失った。
「解体されるってことは、死ぬことと同じだぞ。そんなことどうして言うんだ」
「私たちは自ら死ぬことはできません。だから、戦って沈むか、解体されるかしかないのです。艦娘はその本質は軍艦です。だから戦えなくなったものは、生きている価値が無い。戦いの中で沈むことができない。ならば解体処分するしかないでしょう。横須賀の提督は私の事をよく知っているから、解体するという判断ができず、私を放置していました。けれど、あなたなら私とは何の関係も無い人です。決断するのにとりたたて躊躇するような理由は無いでしょう? 」
「俺にお前を殺せと言うのか」
「悪く言えばそうなりますね。どっちにしたって役に立たない大食い空母を鎮守府に置いておくわけには行かないでしょう? どうも横須賀と違い、ここは資材に恵まれているようには見えませんから。解体するのが嫌ならどこかの鎮守府に放逐しますか? けれど戦うことができないこんな空母、どこの鎮守府も引き取ってはくれませんよ。鎮守府の資材の無駄遣い覚悟で、ただ朽ち果てるまで港に私を係留でもしておくつもりですか」
「そんなことできるわけないだろう。どれもこれも、みんな却下だ。お前は俺の部下だなんだ。一度、俺の部下になったからには、もう二度と悲しませるような目には遭わせない。どんなときでも俺が必ずみんなを護るって決めているんだ。どんな理由があっても、死なすような真似なんてできるはずがないだろう」
「ふん、お気の毒さま。だったら、ずっとこのままね」
サイドテールの髪をかき上げて、冷泉を一瞥すると、加賀は去っていこうとする。
「ちょっと待てよ」
慌てて、加賀の腕をつかむ。それは思った以上にか細かった。
「ちょっと、痛い! 離してください」
腕を左右に振って、冷泉の手をふりほどこうとするが、そうはさせない。
「嫌だ。ここでお前を行かすわけにはいかない」
少し力を込めて彼女の腕を掴む。
「離して! 離しなさい」
振りほどけないことに苛立ちを隠さずに、加賀が睨む。その眼光は冷泉をたじろがせるほどのものだが、ここで引き下がるわけにはいかない。頑張って睨み返す。
「なあ、加賀……頼むから本当の事を言ってくれ。どうしてそんなに、頑なに俺たちを拒むんだよ。理由も分からないままで、納得なんてできるわけがない。赤城が戦いの中で沈んだというのは聞いた。お前の親友だったんだってな。それがどれほど悲しむべき事か、俺でも少しは分かる。けれども、戦いを拒否し、自分を解体してくれというまでになってしまう理由が分からないんだ。それを教えてくれるまでは、お前を帰さない」
「……そんなことを聞いても、仕方のない事でしょう」
「友達を無くしたショックは理解できる。本来ならお前達には関係の無い、人間と深海棲艦との戦いに自分の意志と関係なくかり出され、そんな中で沈んだ赤城のことは残念だと思う。悲しいことだと思う。けれど、どうして戦いを拒否し、それどころか死を選ぶとまで言うんだ? 戦争はとても悲しいことだし、その中で誰かを失ってしまうことは辛い。それは分かる。だけど……」
「あなたたち人間に私の気持ちなどわかるはずもありません。しょせん、人間と機械である艦娘は理解し合えるはずがないのですから」
「そんなことはない。今だってこうやって意思疎通を図れているじゃないか。人間も艦娘もメンタリティはそんなに変わらない。悲しければ無くし、嬉しければ笑うだろ」
「そんなこと言われても興味ありません。……結局、提督は何を仰りたいのですか? 私に戦えといいたいのですか」
「お前は横須賀鎮守府では、最強の艦隊の一翼を担っていた存在だったと聞く。そんなお前が戦うことを恐れるはずがない。なのに、もう戦いたくない。それが許されないなら解体でもなんでもしてくれなんていう理由が分からないんだ。お前はそんな弱いはずがない。親友の死をも乗り越える強さがあるはずだ……」
「その場にいなかったあなたに、何が分かるっていうの!! 」
冷泉の言葉を遮るように加賀が叫ぶ。
その顔は怒りにみち、射るような瞳で冷泉を睨む。
冷泉は凄烈なその瞳に驚くとともに、それ以上に美しいと場違いながらも、そう感じた。
「何も知りもしないくせに、偉そうな言葉だけを並べて私を批判しないで! 」
「だから、知らないから、教えろと言ってるんだ。理由も言わずに放っておいてくれと言われて、はいそうですかなんて放っておけるわけがないだろう。何も分からないから、何も知らないから、お前の気持ちが理解できないんだ。だから、ずっと訳を教えてくれと言ってるんだ。お前の気持ちを俺は知りたい。知らなければならない。教えてくれるまで、俺は諦めない」
「冷泉提督、どうやらあなたは、ご自分の部下の事なら何でも理解できる、有能な上司だと自分の事を思っているようね。残念だけど、はっきりと言わせてもらいます。あなたごときに私の気持ちが理解できるはずがないと」
「有能か無能かは、全てを話してからの俺を見て判断しろよ。心を閉ざしたままで、何が分かるっていうんだ。俺だって言わせてもらう。今のままだと、お前はただの構ってちゃんでしかない」
「な! 」
「何の理由も言わず、自分は大切な親友を戦いで失った。だからもう戦えない。自分は不幸で可愛そうな子なんだ。だから放っておいてくれ。いやなら殺せ……か。自分は何も悪くない。可愛そうな子だから、構ってくれか? 責任は取らないが、処分したいならしろ? 正規空母を使えないからって理由で処分できる権限を持つ奴なんていないのを知って、お前は言っているだけにしか聞こえないぞ。俺だって全ては知らない。けれど、お前以外の子だって戦いの中で仲間を失っているんだろ? けれども、みんな悲しみを堪えて戦っているじゃないか。……お前だけが特別じゃない。そんなの、ただの甘えだ。はっきり言ってやるよ、ふざけるなって」
「……」
加賀は黙り込んでしまった。少し、体が震えているように見える。
言ったことが応えたのだろうか?
「たしかに、提督の仰る事ももっともなことです。何も言わずにいるのは確かに卑怯ですね。……あなたにも理由を知ってもらう必要があるかもしれません」
静かに、何かを決意するかのように彼女は答えた。
「私がただの甘えでこんな事を言っているかどうか、話を聞いてから判断してもらいましょうか」
挑むような視線を冷泉に向けてきたのだった。